メリケン大作戦　第二回 －熟成肉の異臭?美臭?真夏のNYで謝肉祭2016－ : Gallaghers STEAKHOUSE

初夏NYは気温はそこそこ高いのだけど、何せ湿度が低いから意外に爽快。前回の、「真夏のNY謝肉祭2015」では、マンハッタンの観光客向け老舗ステーキ屋のもう一方の雄であるSmith & Wollenskyで喰った。ドライ熟成されたプライムビーフをネタとするのは今回のお店と同じだが、決定的に違うのは火入れの仕方。ステーキと言うよりローストビーフ的なマイルド火入れは、今回の表面黒こげ的な標準アメリカンステーキとは真反対であった。と言う訳で、NY老舗ステーキの味バリエーションを知りたければ、両極端ともいえるこの2店を押さえておかれることをお勧めしたい。アメリカが筋金入りの肉食文化ってことを実感できるから。

July 12, 2016

ブロードウェイと西52番通りの角。つまり、ロアーマンハッタン側を向けば目前がタイムズスクエア、アッパーマンハッタン側を向けばセントラルパークが遠望できる、正にマンハッタンの超一等地に位置する老舗のステーキハウス。創業は1927年と世界大恐慌前夜で、歴史の浅いアメリカとしてはかなりの老舗である。超大箱にして、昼でも薄暗いクラシックな佇まいの店内。壁という壁が、この店を訪れた著名人のサイン入り近影額で、隙間なく埋め尽くされている。古きNY的な独特の大衆感を感じさせるお店キャラは、決して高級店じゃなくどちらかといえば観光客が大挙して訪れる観光地レストランと言えるか。グランドセントラル駅のOYSTER BAR & RESTAURANTと並んで、いかにも的なマンハッタン風情を感じたい観光客向けとしては定番だろう。

【Filet Mignon 10oz (medium)】$39.00 (lunch time price, without tax and service)
ここの特徴は、何と言ってもヒッコリーの炭で焼かれた3週間オーバーのドライエイジド米農務省認定プライムビーフ。肉の熟成による旨みアップと、燻製用として知られるヒッコリーの炭で炙られた燻製っぽさを漂わす独特の風味。その極めて濃いギャラカー固有の肉味は、好みに合う合わぬは別としても、頷かずにはおれぬ個性の塊だと思う。肉種は定番のサーロイン、ポーターハウス（Tボーンの一種）にヒレとシンプル。通りに面した、ガラス張りされた定温定湿熟成庫には、これ喰ったらダメちゃうの?とツッコミたくなるような、何だか検視が必要な風体の、黒緑に変色しかけた干からび牛肉ブロックが、累々と並んでいる。これほど強烈な佇まいの熟成肉塊を、誰彼なし通行人に披露するお店の不敵さも大したものだ。一方、この強烈な熟成庫を目の前にして、よだれを禁じ得ず入店できるアナタはかなりの食通だ。

何時もならサーロインをチョイスするところなんだが、気が付けばヒレを喰った記憶がない。よっしゃ、今日はヒレにしてみるかな。店員さんがポーターハウスを進めるのを遮って、ヒレのちっちゃい方（10オンス≒380g）をミディアムで。これで$390。マンハッタンのど真ん中で。やはり肉が安いアメリカなんである。でやって来ました黒こげ肉塊が、ナイフを入れればちょうど良い桜色。表面焦げて中は赤。やはりアメリカステーキはこうでしょう。ってことでガツガツ喰い始める。良く切れるはずのナイフで、ギコギコやりながら切り取る肉片。ヒレにして、この柔らか過ぎず硬過ぎずってのが実にアメリカ。肉を食ってる感がとても高く、日本的なお行儀良さとは無縁の、アメリカならではの肉格闘技っぽさが気持ち良い。のだが、初めて試したヒレはやはり風味が少しばかり薄い。ここのステーキの強烈な風味を堪能したければ、やはりサーロインはポーターハウスである。肉質と熟成効果の関係は、中々奥が深そうである。

【Spinach (steamed)】$12.00 (lunch time price, without tax and service)
何時もなら付け合せはポテト系なんだけど、今日は茹でほうれん草で妙にヘルシー。味わいは日本産に劣らず中々旨いく、アメリカの青物野菜だって捨てたもんじゃない。しかしである。茹でただけのほうれん草が平皿にドバッと積まれて目測で300gオーバー。一体、誰がこれだけ喰うねん。胆石できたらどうすんねん。とツッコミつつも、実はこのノリは好きである。こう言う鷹揚感がアメリカの良い所なんであって、やっぱりメキシコ国境に壁を作ろうなんて、アメリカさんのやる事じゃないのだ、絶対に。

【Summary】
ここのステーキを始めて試されるのなら、やはりヒレじゃなくてサーロインかポーターハウスをお勧めしたい。日本人の想像を絶する、3週間ドライ熟成肉のやり過ぎ感満点の旨みと、燻製感を感じさせる独特の風味が渾然となった、濃厚な味わいと、熟成の果てのグニャリとした食感。ちょっと未だ日本では味わえぬ領域じゃなかろうか。聞くところによれば、彼の地の人でも好き嫌いが分かれるらしいここのステーキは、良くも悪くもアメリカのオーバードーズ感に満ちている。