〆は白ビールでさようなら。 : ZUM FRANZISKANER

明日は帰国。

ハノーファ、ミュンヘンと経巡ったドイツ研修旅行もこの日で沙汰止み。

ドイツ滞在中、さんざ出入りしたビアホール、ビアレストラント、本日も同様ながら最後だしチョッとだけグレードアップしましょうか、と、言うわけでこちらへ。

バイエルン州ミュンヘン名物ヴァイス・ビア。

その中でもプレミアム感の強い銘柄の名前を店名に掲げている。

入り口からすぐのフロアは典型的ビアハウスの風景であるが、予約したMSSB一行ざんす、と声をかけると奥へ行け、と、案内され、天井吹き抜けの立派なダイニングへ。

まずは白ビール。

小麦50%添加上面発酵なそれはフィルタライズされていないHefe Weißbier。

持ち重りのするビア・タンブラを持ち上げ、口に含む。仄かな酸味と甘味が立ちのぼり、嚥下すると白濁はしているが鈍いところはかけらもなく、喉をスムーズに下り一瞬をおいて、ウヰスキーで言うところのアフタァ・テイストがふっと浮かぶ。

どことなくバナーナの風味、旨し！

旨しビアには、古典的ババリア料理に決めている。

決めているのに理由はない、あったとしても忘れてしまった。

もしあるとすれば、ビアレストラント兼ババリア料理屋なので品書きにはババリア料理しか載ってないから、とは、あまりにも身も蓋もない #冷酷な現実 だから黙っている。

そう思いながら、粤式焼臘飯店の脆皮焼肉（ちょいぺいしぅよっ）そっくりな皮付きスペアリブにかぶりつくと、熱の入れ方が適切なのでカリリとくる皮と皮下脂肪のヂュッとほとばしるのが歯と舌を喜ばせ、噛み締めると強く振られた塩気が猪類特有の「侠なニヲイ」を力技でねじ伏せているさまに目が啓き、ここでさらに白ビールを流し込むとバナーナ・フレイバァが口腔を洗い、又食べたくなり、カリリ、ヂュッ、侠、バナーナ…を繰り返し続けるうち、顎関節がやや疲れてくるが、やめられず、あゝやっぱり南ドイツはイイな、又来るからな、覚えとけ！ と、誰にともなく啖呵を切らない、事もない。

日本にいるときは余り熱心なビール愛好家とは言えない。

と、いうよりも、下面発酵のピルスナータイプには、おおきな違いが見出せない方、否、多少違っても食事の邪魔にならなければ気にしない、 #いんだよ細けえ事は！ とうそぶいている。

レストランや料理屋さんでお好みの銘柄は？ と聞かれると、んー、冷蔵庫の奥に残っていて売れ行きの悪いやつ、一番冷えているだろうからね、とか言ってしまう。

何しろ酒盛りの場でも、え？ 生ビール？ 運ばれてくるまでに時間がかかるだろ、壜で十分、じゃんじゃん持ってきて！ と、口走り、世の食通氏たちからは、鼻を鳴らされたりする。

それならIPA、地ビールの類なら？ という事になるが、醸造設備を見物してみると水も麦芽も機械ですら輸入品という事が多く、

「あんまり地酒っぽくない」

ので、ことさらに珍重する気持ちにもならない。

ところが一旦、ドイツに足を踏み入れるや、ビール、なかんずく白ビール、ヴァイスビア、ヴァイツェンに執着し、品書きにこれを見出すと積極的に注文し、ガブガブ飲み散らかし、必ずお代わりを所望し、食事で腹が一杯なのか、ビールで胃が膨らんでるのかわからないようにして、いい気になっている。

それほどまでに白ビールの香りは気高く、甘味と旨味にあふれ、舌触りは格調を誇り、イナカモンキーキノボリさんなエチゴの民を魅了する。

こちらの店は以前、ワインの輸入商社が御茶ノ水に出店を出していた。

ビアケラーの体裁を取りつつ、出資者の背景から実際にはワインバー、ワインレストランで、シルバーナのフランケンワインのいい奴などを、ん？ ドイツ料理にしては「美味すぎる」んじゃね？ といった出来栄えの御菜とともに提供し、当然、勘定の方も「これ、ビアホールの値段じゃねえな」という水準だった。

高いが美味い、美味いが高い…ありがちなようで、実はあまりない業態で、結構得難い店であったし、店の方はワインを飲ませたがるが、店名を冠した白ビールが（日本においては）個性的かつ出色の出来であったため、これを目当てに好事家の仲間を集め、年に何回か通っていたのだが、流石にこの商い、一般性には欠けたのか、いつのまにやら数年前に静かに消えてしまった。

エドのカタキをミュンヘンで討つ！ ではないが、市内を経巡っているうち、懐かしい看板が目にとまり、おおお、これは白ビールをキコシメさなければならぬ！ と、池波正太郎先生みたいな口ぶりで店に飛び込む。

こんぬつわ。と扉を開くと、日本の店とは異なり、「本店」はまごう事なきビアケラー。

昼時なのでどこも一杯であるが辛うじて一席を確保してもらい、腰を下ろすやヴァイスビア、ビッテ！ と叫ぶ。

と、間髪入れず、ではないが、ソコソコのスピードで500mlのタンブラーが目の前に現れ、こちらも待ってましたとばかりにグイ！ といく。

旨し！

旨しなビールレストランではレーバーケーゼに決めている。

決めているのに理由はない、あったとしても忘れてしまった。

もしあるとすれば、バイエルン特産と言えばシュバイネハクセとヴァイスヴルスト、そして当該御菜というのは、常識であり、社会通念であり、ワールド・ヴァリュー（世界基準©︎副島隆彦）である事いうを待たぬ、のであるが、ハクセは前夜専門店で、白ソーセージはホテルの朝めしで喫食済だから、とは、我がミーハーぶり、伊丹十三的にいうところのミドルクラスぶりを広く開陳するだけだから、黙っている。

そう思いながら白ビールをガブリ！ とやり、うっとりとしながら運ばれてきた皿に目を向けると、日本の洋食屋なら二人ぶん、シンガポールのホッカセンターの屋台なら三人ぶんにあたるのではないか？ と思うほどの量の、立派なやつがドーン！ と身を横たえていて、しかも卵二個の目玉焼きがゼータクにも添えてあり、いやこりゃ参ったネ、と思いつつドイツのポークランチョンミートとでもいうべき肉塊に手をつけてみると、練りが軽く、香辛料の類も控えめなので、ドイツでも他の地や、日本のドイツ料理屋で出てくるそれのようにボヨンボヨンしておらず、誤解を恐れず書いてしまうとさっぱりとしており、ここに半熟の卵黄の風味が加わると、なかなかに調子が上がり、結構なお点前？ で、チョーシこいて白ビールのお代わりをしてしまい、うまいうまいと飲みかつ食らっていると後半、流石に腹が膨れ、ズボンがややキツくなり、情けなくももったいなく、肉の二割強が残ってしまうに至り、南無三しまった、次回は食べ役の若い衆連れて、しっかり完食するからな、覚えとけ！ と、誰にともなく「捨て台詞」を口の中で呟かない、事もない。