ハノーファー版ヌキでいっぱい。 : Broyhan Haus

ドイツのWirtshausとかGaststätteとかと言われる日本で言えば居酒屋と食堂の間みたいな店でいっぱいやっていると、年配のご隠居がひとり、カウンタ席でスープを肴にビアを傾けている姿を結構見かける。

ドイツでの主菜ひと皿は滋養そのもの。

たっぷりとしてい、というか有り体に言えば皿からはみ出る程にナミナミとしていて、味わいは大いに結構なのだけれど、胃の腑の容積が限られた、しかもお疲れちゃん世代なヤパニーシュのそれ、にはちと厳しいものがある。

スープも同様で、日本の洋食屋で出てくる勿体ぶってﾁｮｺｯとした浮き身が泳いでいるｹﾁなコンソメなどを想像してはアレで、ちょっとしたどんぶり程もある壺状のスープポットに、具沢山なそれがしっかり入って出てくる。

とはいえその量、前者に比べれば穏当なもので、例えれば日本蕎麦屋さんの「たねもの」くらい。

まだしも、というか大食漢なドイツ人とはいえ、ご年配にはこれくらいが丁度いい、という事なのであろう。

観ているうち、ふむ、これを取り、ビアをガブガブとやってやれば、日の本中高年の晩酌には具合が良さそう、と、ヒラメき、早速真似っこもといインスパイアにこれ努める事にする。

某日、現地の物価調査を言い訳に入った店で、「当店伝統の味」と銘打たれたKartoffelsuppe（じゃがいものスープ）をとり、これも店の名が冠せられたBroyhan Bockを。

ん？　Bockってハイアルコール・ビアじゃなかったかしら、昼間っから？　ま、いいや。

まずは運ばれてきた漆黒のビアをグビりとやり、程よく時間を経たと見える店内を眺め

……あ、俺、ここ来た事あるじゃん、と、気がつき、記録を辿ってみると2016年4月。

へえ、6年も前か。あの頃は世の中の先が見通せなくてやたら焦っていた、おぼこい奴だったよな、ま、当時でも年廻りは充分、おぢさんだったし、いまだに諸々ウロタえているけどさ、はは。と、口の中で呟きながら別珍のごとき滑らかな、しかし飲みごたえは十分なビアを順当に喉に送っているうち、スープの壺がやってくる。

程よい出汁に半ば溶けてしまったじゃがいもが濃密さを出している。ここにニンジンやら薫香がしっかりしたソーセージなどが刻んでたっぷり入っており、更にきちりと効いた塩味が加わり、なるほどうまい。

例えるなら日本でいうクリーム・シチュのトロミを粉ではなく芋の澱粉で出している、といった風情でなんというかマカロニグラタンのヌキでいっぱいやっている「ような気が」して、慌てず騒がず「ゆっくり滑らか、滑らかは速い」と、匙で少なめなひとくち、スープと具をとっては咀嚼し、追いかけるようにビアをグイとやると、なかなかに調子が高い。

ああこういうドイツもアリだねえ、と感じつつ、スープ半ばであらためてボックをもういっぱいとって引き続き「ゆっくり滑らか」とやっていると、天井から降ってくるような、店内の心地よい喧騒とほろ酔いが相まって、いい気にならない、事もない。

尚、具体的な御菜の詳細は、別掲のシャシンないし、シャシンのコメント欄に当たっていただきたい。

世界で唯一まぜないカクテルがボイラーメーカーとその弟子である。

否、これを果たしてカクテルと呼んでいいのかよくわからない。

なにしろナミナミのビールで腹が冷えたところで、強い火酒（スピリッツ、シュナップス）をグイっ！　とやって温めなおし、又、ビールを…或いはその逆、とやる、甚だ乱暴な真似を事を、便宜上そう名付けているだけ、だからである。

食文化的には口中調味という事になるのか？

いや、むしろ胃中調味か？

ま、酒のみにとり、酒の名前などいんだよ細けえ事は！　と決めつけるべき事柄であるから、四の五の考えるより、ひたすら杯を重ねるのが適切であるというのは、道理であり、社会通念であり、ワールド・ヴァリュー（世界基準©副島隆彦）である事、言うをまたぬ。

かくしてみぞれ交じりのハノーファ旧市街を歩き、背筋がぞくぞくしだした頃合いに、周りで最も古そうな、そして居心地のよさそうなビア・ケラーを見出し、扉をひらき、中に入る。

ボイラーメーカーとその弟子はリニア・アクアビットに決めている。

決めているのに理由はない、あったとしても忘れてしまった。

もしあるとすればO・P・アンダーソンがあれば文字通りスウェーデン食わぬはオトコの恥！　とシャレることが出来たのだが、生憎、在庫しておらず、かわりに隣国のノルウェイで間に合わせたから、とは、呼ばわったところで誰にもご理解いただけないから黙っている。

そう思いながら、ハーフ・リッターのピルス・ビアを喉にぶつける様に飲み、追いかけるようにアクアヴィットを放り込んでやると、胃の中がカッ！　と燃え、空腹を感じ、欧風の居酒屋メニュであればまず外すことのないアヒル（合鴨にしちゃ、身が白かった）のコンフィを肴に取ると、油煮の身はほろほろと解れ、外側の皮のこってり、カリリとした風味はさらにビールの進捗を即し、ついでにトロッケンなローシーをパイイツと頼むと、バーデンの白が程よい冷え具合で出てきてさらにメートルが上がり（死語）　オトウサン北ドイツでもいい調子♡　と赤ら顔でニヤニヤしない、事もない。