広東料理っぽくないメニューもしっかり美味しく、雰囲気もいいレストラン : 天外天

ここの情報として知っていたのは、香港理工大学が経営して学生さんがスタッフとして加わっていること、夜景の評判がいいこと、ミシュランプレートを獲得していること、といったあたりです。一人用のセットメニューがあることを知り訪問してみることにしました。予約はオンラインで一週間ほど前、満席の日もちらほらありました。

宿泊している湾仔からこのレストランの最寄り駅の紅磡(ホンハム)駅までは地下鉄でわずか3駅ながら乗り換えが2回必要です。金曜日の夜だからか列車だけではなく駅じゅうが大混雑、金鐘駅ではとても乗り換えできそうになく、フリー切符を持っていたので一つ先の中環駅まで行ってなんとか乗り換えました。この日はデモの予定があったわけでもないようでしたが、尖沙咀あたりで何かイベントでもあったのかもしれません。

この日は紅磡駅近くの1万人ほど収容可能な香港體育館で開催される鄭秀文（サミー・チェン）という香港の歌姫の演唱會（コンサート）の初日（これが地下鉄の混雑の原因ではないようです）、過去に彼女のコンサートに何度も行ったことがあることもあり、この日発売のCDの限量版でも売られていないかと思い、レストランに行く前にコンサート会場に寄りました。残念ながら普通のグッズしか売られてなかったのでさっさと会場を後にしましたが、彼女は30年近いキャリアを誇るベテランなのに今でもファッションリーダー的存在であることもあってか、会場前には若い方が大勢おられました。

さて、会場に向かう人の波に逆らってレストランに向かいます。まだ少し時間があったので近くの市政局百周年記念花園に立ち寄ります。クリスマス前ですとこの公園の周りの建物のイルミネーションが素晴らしいのですが、他の季節でも賑やかで、テラス席が設けられている付近のレストランは大賑わいです。

今回目的のレストランはホテルの28階にあります。エレベーターを降りて予約名を告げるとバーやサロンのようなところを通り抜け、さらに細長いレストランフロアをずんずんと進みます。かなりの席数がありますがどのテーブルも埋まっています。そして通路が広くはないからか賑やかな雰囲気です。一人での予約でしたので景色のいい窓際ではなく、通路を挟んだ少し奥に通されました。とは言え、一段高くなっているのと向きが窓側なのでここでも十分に景色がよく、香港島のビル群をながめることができます。しかも予約時刻が20時でしたので、ちょうどシンフォニーオブライツという毎日行われている高層ビル群に設置されているライトのショーを見ることができました。

さてメニューを眺めてみると一人用のセットメニューは1種類、1,528HK$の「デギュスタシオンセットディナー」に488HK$の4杯ペアリングを付けます。サービス料10%が加算されて日本円では約32,000円となりました。コースの内容は以下のとおりです。

・前菜盛り合わせ（蜂蜜味叉焼、キュウリとホタテ貝柱、パリパリの皮で包んだガチョウ）
・魚の浮き袋入りアーモンドクリームの豚の肺のスープ
・中東の25頭干し鮑煮込み
・辛い味の海老炒め
・和牛入りご飯
・ホワイトチョコクリーム添えマンゴーとパッションフルーツ

まずはシャンパーニュ、印象は普通、でも前菜がとてもよくて、our famous（中国語だと馳名か）と言っていた叉焼への味の染みこみ方がとてもよくて、そういう自負を持つのも納得できました。帆立貝柱は辛さが適切、もう一つの皮に包まれたものも色々入っている具のコリッとした食感と皮のサクッとした食感の対比がいいのです。最初の一皿ですっかり魅了されました。

次のスープは、スープ自体がものすごく奥深いわけではないものの、かなり大きなポーションの魚の浮き袋のネチョっとした食感が最高に素晴らしいです。やあもう大満足、しかし魚の浮き袋はなぜ日本ではマイナーなのでしょうか。

スタッフは入れ替わり立ちかわり、話しかけてきたり（と言ってもわたくしは現地の言葉ができませんので「美味しいか」ぐらいですが）いろいろと世話を焼いたりしてくれます。雰囲気のいい割に賑やかで家族連れなんかもいたりする客層も併せて考えると、もう今はない「滿福樓」の尖沙咀店の雰囲気を思い出します。なんだかほんわかと暖かさを感じます。

そして中東の鮑、この値段のコースですから日本産の鮑でないのは仕方ありません。でも25頭というそれなりの大きさのものをいただけます。食感は、もうほんの少しだけ柔らかいと完璧という感じ、味は透明感があると言いますか、もちろん鮑ですから濃厚な味わいではあるのですが、素直な味というかそういう感じでした。ということで中東産の鮑はなかなかいいなあ、と感じ、干し鮑の料理として味は絶対評価では文句なしに美味しくはあるのですが、翌日に訪問した凄いお店での吉浜産の鮑をいただくとその凄みに圧倒させられたのも事実ではあります。なお、合わせた白ワインは単独でも少しクセがありなかなか美味しく、誤解を恐れずに言えば、発酵させた葡萄ジュースにアルコールを加えた感じ、ただ、今回のペアリングで好みに合ったのはこの1杯だけでしたが。

次は海老の料理、これが到着したあとにかなり残念なことが発生、まあでもここの暖かさを感じる雰囲気でいい気分になっていたのと実害があったわけではないのですのではありますが、この大箱ですから満員のこの時間帯はスタッフの数が相対的に足りなくなっていたのかもしれません。

さて、この海老の料理、食感もよくかなり辛いけれどもバランスよい味付けでかなり美味しいのです。見た目ではただの辛い料理ですが、どこからこの美味しさが来るのでしょうか。

〆のご飯、和牛を食べているなあ、という感じはしませんでしたが、醤油か何かの濃い味がかなり美味ですし、炒め具合も絶妙で好みの料理でした。

デザートはスペシャリテのようで、どのテーブルにも同じものが来ていました。スペシャリテなだけあって、様々な甘さや食感がうまくかみ合って美味しいデザートでした。ペアリングが1杯足りないなと思っていたらここで梅酒が出てきました。ペアリングはタイミング含めどうも好みに合わず、個人的な印象としては頼まなくてもよかったかもしれません。

夜景とオシャレな雰囲気が売りかと思っていたら、むしろ雰囲気はフレンドリーさが売りで、料理は調理技術や味付けに安定感があり、奇をてらっていないながらも広東料理っぽくない料理もきちんと美味しくいただける、ということで、とてもいいレストランであると感じました。人気なのも納得です。またいずれ再訪したいものです。