『 香港慕情 3 』「 重慶大厦の対印度人戦 」 : Swagat Indian Restaurant

《前回までのあらすじ》
毎年恒例のオヤジ旅行で、香港に来ているオヤジども。
インフルエンザにかかったオヤジ2号が離脱して、
混沌の街《深水埗》にやって来たオヤジ1号と50オヤジ。
思わぬオヤジ1号のパチモンヲタの発揚と《深水埗》のオドパワーに晒され、激しく戸惑う50オヤジ。
オヤジ共が次に向かうのは、果たして何処の街なのであろうか…


イェーイ！香港来ている50オヤジ。
ようやく買物終えたオヤジ1号と向かうのは、尖沙咀の《重慶大廈》だ。
《深夜特急》や《恋する惑星》の舞台になった香港のアイコン的なビル。
上層階に密集する安いゲストハウスは、世界中のバックパッカーが集まることで有名だ。
かつては殺人や暴行事件が多発して《魔窟》などと恐れられていた。
治安が改善された現在でも、その雰囲気を色濃く残すトコらしい。
奥の階段には、時折血溜まりがあるんだってさ…

（んでも、最初に香港来たウン十年前にも換金に来たことあるんだけどね。そん時は、やたら印度人いたけど
危険なトコとは露知らず … ）

そんなチョイヤバなトコに向かう目的は、換金とカレーだぜ！
1〜2階は印度人街が形成され、換金店とカレー屋が並んでる。
換金レートが高いし、本格カレーも評判だ。
2年程前、俺を置いて香港旅行に来た奥方と娘1号。
友人の香港人に連れられ、ココのカレーを食べた二人から（めちゃくちゃ旨かった！）との状況報告が有ったんよ。
今回の香港旅行が決まった際、（重慶大厦のカレーは必ず攻略せよ！）と奥方大佐殿より発令されたぜ！
併せて、（印度人客引ゲリラには充分注意せよ！）との訓令も頂いた。
ネット情報でも、印度人による熾烈な客引戦が多発してる状況が示され、相当な戦いが予測された。

尖沙咀のメインストリートに面した一等地に在る《重慶大廈》の前に立つオヤジ達。
一見、まともなテナントビルに見えるが、入口付近には印度人共がトグロを巻くように屯ろしている。

「 むう、アイツらか …
いいかオヤジ1号、アイツらが話し掛けて来ても目を合わせたり、返事したらダメだぜ。相当シツコイらしいからな。」

「マ、マジっすか … 」

対客引き戦に備え闘気を高めるオヤジ達。
意を決した50オヤジとオヤジ1号は、《重慶大廈》に足を踏み入れたぜ！

（ よ〜し！どっからでもかかって来んかい！印度人共！）

胡乱な視線を送る印度人共の脇をズンズンと進み、目指すは2階に通じる正面階段だ。
（ 正式には1階はGフロアだから、2階が1階表示だよ。）
入口より換金店が並ぶけど、1階より2階の方がレートが高く、奥方指定のカレー屋も2階に在る。

（ アレ？印度人かかって来ないじゃん？）

さては、俺達の気迫に押されたか？
もしくは、余りにラフな俺達の格好を見て取り、カモと看做されなかったのかな？
ちと拍子抜けしたぜ。
ホッとしたのも束の間、2階に上がると更に薄暗い空間が広がる。
外光が入らず、昼間なのに夜の裏通りみたいだぜ。
その暗い通路の其処彼処に、印度人共が何をするでも無く屯ろしている。

（ うわぁ、なんかヤバイんじゃね … ）

なんて思ってたら、階段正面の椅子で待ち受ける印度人と一瞬目が合ってしまった …
その隙を見逃さず、一気に立ち上がり間合いを詰める印度人。

「◉△◇★✖️◾️〜！」

広東語でも英語でもない言葉で捲し立てる。
コレはヒンディー語か？

（ チィッ！俺としたことが油断した！）

「△▼◯÷◆✖️✖️〜？」

俺の動揺を見て取った印度人は、ここぞとばかりに詰め寄って来る！

「◯◉◎◆△〜！」

ガン無視決め込み、速足で歩く俺達に喰らいつく印度人。
なかなか振り切れないぜ！
意を決した俺は声を荒げる。

「 ＮＯＯＯＯ〜！」

俺の大声にビックリした印度人は、漸く引き下がったぜ。
しかし、あの立ち合いといい、電車道の押っつけといい、なかなかどうして侮れぬヤツ …

あらためて薄暗い2階を見渡すと、カレー屋・携帯屋・換金店の他、なにやら得体が知れない店が並んでいる。
しかも、営業してるかも怪しい店がほとんどだ。
狭い通路には、印度人共が屯ろしたりメシ喰ってたりしてる。
東洋人なんて俺達だけじゃない？
てか、ココは印度の下町か〜？
ちと怪しくて、1人で来るには勇気がいるけど、こういうの結構スキだな〜。
んで、やっと目指す換金店で換金したら、空港より全然高い換金率だった。

「よ〜し、次はカレーだ！」

って換金店を出たら、

「◉△◇★✖️◾️〜！」

件の印度人が満面の笑みで待っていた …
こ、コイツ！何という執念深さ！
余りの厚顔振りに、どうしてくれようと思っていたら、

「△▼◯÷◆✖️ SWAGAT？」

って聞こえた！
エッ？《SWAGAT》って、奥方指定のカレー屋じゃん！
よく見りゃ、手元には《SWAGAT》のメニュー持ってるし。
なんだよ、アンタ《SWAGAT》の客引きかよ？
早よ言えよな〜。
《SWAGAT》の客引きは、手を取らんばかりに
更に薄暗い通路へオヤジ共を引き込もうとする。
なんか、俺達大丈夫かしらん？
って不安になったが、すぐに《SWAGAT》の看板が見えてきた。
なんだよ、さっきの階段のすぐ側じゃん。

日本的に見ると、なんだかチープなファサードだけど、中に入れば落ち着いた雰囲気じゃん。
ちと安心したぜ。
客引きからバトンタッチされた女性店員に案内されて席に着く。
昼も遅い時間だから、客は俺達だけだぜ。
暫くすると、先程の客引きが注文取りに来た。
なんだ、アンタ店員だったの？
よくよく見れば、こざっぱりした服装とサーファーカットが似合う恰幅の良い中年オヤジ。
アンタ、もしかして店長か〜？
コレはコレは、大変失礼しました。
英語表記のメニューから、奥方お勧めを幾つかオーダーしたぜ。

● ビール&パパド
ココは、やっぱ印度ビールじゃない？
歩き回って汗かいたオヤジ共の喉を冷たい《 KINGFISHER 》が潤すぜ！
クゥ〜ッ！ウメェ〜！
ほんで、突き出しのパパドも滅茶苦茶ウマイ！
今まで、パパドなんかウマイと思ったコト無いんだけど、ココのは香辛料が効いて香ばしい。
緑のタレとの相性がイイカンジ〜。
パリポリと手が止まらない。

● チキンティッカ
鉄板の上でジュウジュウいわしてまんがな〜！
早速齧り付くと …
オイオイ、なんだよコノ味わいと食感は〜？
滅茶苦茶ジューシーでウマイじゃねーか！
コレは、鶏がイイのか？調理がイイのか？
多分両方イイんだろうな …
日本で喰ったチキンティッカって、パサついたのが多かったけど、そういうもんだと思ってた。
コレは全くの別物、こりゃあビールが進むぜ！
ちょっと店長、《 KINGFISHER 》もう二本ばかり持ってきてや〜！

● カレー三種
・海老カレー
店長に「海老カレー食いたいねん！」って、言ったら持って来た。
だから、正式名はワカラン …
カレーというよりも、海老野菜炒めのカレー味てなカンジ。
んでも、結構辛くてウンマイぜ〜。
忽ち汗が吹き出して来る。

・バターチキン
最近あちこちでカレー食べて気付いたんだけど、
旨いカレーって、大抵いい色してるんだよな。
ココのカレーもいい色してまんがな〜。
味わいマイルドだけど、深〜い味わい。
んでも、後から辛さがジワリと来るぜ！
おいおい、コレって超ウマイんじゃね？

・グリーンカレー
所謂ほうれん草とカッテージチーズのカレー。
コレも、奥行きのある旨さを感じる。
只者じゃない味わいだぜ！

ココのカレーって、味の構成は日本と変わらないと錯覚しがちだけど、旨味の深さが全然違う。
なんだコノ味わいの奥行きは〜？
出汁の取り方が違うのかしらん？


● チーズナンとインディアンライス
最近思うところがあり、カレー喰う時ゃ、長年親しんだナンよりも「チャパティかライスを喰うぞ！」って、
妙な志しを掲げた俺だけど、早くもナンに逆戻り。
んでも（ チーズナンが超ウマイから、必ず喰うべし！）って、奥方大佐殿からの厳命には逆らえない …
チーズナンは初めてだな。
食べやすいようにカットされたナンは、確かにチーズの旨そうな香りがする。
カレーを乗っけ、野菜やティッカを巻き巻きしてガブリといけば、確かにコレはイイカンジじゃねーか！
ウマイ！ウマイ！と食い進んだら、アッという間に無くなっちゃった。
しからば、次は米食うぞ！
店長、ライスちょうだい。って注文したら、

（ White Rice とIndian Riceどっちやねん？）

的なコト言ってきたよ。
どう違うかワカランけど、それじゃIndian Rice
いってみる？
んで出て来たんは、炊き込みご飯みたいなヤツ。これはプラオか？サフランライスか？
早速、各種カレーをマゼマゼしたら、コレは来てますね〜！
粘り気が無いインディカ米は、カレーに浸ってハラリと解れる。
皿の上で、各種カレーとイイカンジに混じり合い超ウマイ！
オヤジ共は、アッと言う間に完食したぜ。

コレは俺達ちとシアワセかも〜！って満ち足りた気分に浸っていたら、

「お父ちゃん！チャイ忘れてるって〜！」

娘1号の声が聞こえたような …
オット、いけねー！
ココのチャイ、滅茶苦茶ウマイって娘1号が言ってたな。

● チャイ
オォ〜！確かにウマイ！
シナモンが強く香るチャイは、茶葉とミルクの風味が絶妙なバランスじゃん！
娘1号よ、ありがとうな。
お父さんは、遠い異国の地からオマエに愛を送るぜ〜。

いゃあ、ウマかったな〜！
やっぱ、日本のカレーとは比べ物にならないな。
んでも、まだまだ他の階にも凄いカレー屋が何軒か有るらしい。
対印度人戦にも自信が付いたコトだし、次回来た時ゃ違うカレー屋探さなきゃいけないな〜。
な〜んて思いながら《重慶大廈》を出た途端、新たな印度人共に取り囲まれてしまった。

「シャッチョー、ニセモノトケイカイマショー！」

香港尖沙咀の遅い昼下がり。
浅黒い肌に只ならぬ目ヂカラで迫り来る印度人の群れの中、途方に暮れたオヤジ達は只々立ち尽くすしかなかった …