『 香港慕情 2 』「混沌の深水埗 ヲタオヤジの発露 」 : 公和荳品廠 本店

《 前回までのあらすじ 》

毎年恒例のオヤジ旅行。
初日早朝に川龍村の《端記茶樓》でRustic飲茶を愉しんだオヤジ共であったが、病み上がりオヤジ2号が
インフルエンザを再発してダウンしてしまう。
初日から暗雲垂れ込めるオヤジ香港旅行の行方は如何に？


香港来てるし50オヤジ。
青息吐息の病み上がりオヤジ2号は、MTRの車内でもグッタリしている。

「おい、大丈夫か？」

「ホテルで休めば大丈夫っス〜。
50オヤジさん逹は、僕に構わず楽しんで来て下さい〜。」

なんか可哀想だな …
当初の予定では、尖沙咀で換金して昼メシ喰うつもりだったけど、まだ腹減ってないしなぁ。
オヤジ2号が離脱すんなら、オヤジ1号との2人旅になるな。

「オヤジ1号は、どっか行きたいトコある？」

「いゃあ、僕は相変わらずノープランだから。」

「なんだよ、またノープランかよ！せっかく香港来てるんだから、どっかあるだろうよ？」

オヤジ1〜2号は、前回のバンコク旅行の時もノープランで来やがった。
俺に全ておまかせオンブにダッコの前科がある。
俺はオマエらの添乗員じゃねーぞ！って思ってたら、

「アッ、子供にオモチャ買ってあげようと思ってるんです。どこかフィギュア売ってるイイトコありますかね？」

「玩具ねぇ… オッ！それなら香港の秋葉原みたいなトコがあるぜ。確か玩具街もあったと思うよ。それにこのMTRの沿線だ。
あと3駅だし。」

「 イイですねーソコ行きましょう！」

「オイ、オヤジ2号。そういうコトで俺逹ゃ先に降りるけど、オマエ1人でホテルまで行ける？」

「大丈夫っス、途中からタクシー乗りますから。楽しんで来てください。」

ってコトでオヤジ2号と別れ、やって来たのは《深水埗》だぜ！
地下から地上に出ると、

「 ウォッ！なんじゃ、この人混みは！」

見渡す限りの人々人！
街全体が満員電車だぜ！
土曜日だからっていうのもあるんだろうけど、
それにしても、この人出は …

最近人気の街である《 深水埗 》
確かに秋葉原やアメ横的な店が、歩道にも溢れビッシリと並ぶ。
だけども店頭の商品は、中古・パチモン・バッタモンが大半を占める。
中には、電動ドリルだけの店や電動丸ノコだけの店なんかがある。
しかも全てがボロの中古品が地面に山積みとなっているぜ。
こんなの誰が買うんやろう…
パーツ取りで買うんだろうか？
溢れるパチモン商品と、ソレに群がる香港人。
なんか街中にオドパワーが渦巻いているのを感じるぜ〜。
カ、カオスな街じゃねーか！

んで、人混みを掻き分け辿り着いた玩具街。
赤い旧正月の飾り付け用品がズラリと並び、一際混雑してる。
だけど、オヤジ1号の欲しいフィギュア系の店なんてあるのかしらん？って思ったら、

「ココ良さそうです！入ってイイですか？」

どーぞ、どーぞ。
好きなだけ見るがいいオヤジ1号よ。
見つけたのはプラモ専門店。
俺も入って一瞥したが、ほぼ日本製プラモが大半を占める小さな店。
コレなら日本でもあるんじゃね？
しかし、オヤジ1号は目を輝かせ物色中。
すぐに見飽きた俺は、外で一服するコトにした。
店外で待つコト10分…20分…30分…
オイオイ、そんな小さな店に何分かかってるんだよ〜？
やっと出て来たオヤジ1号は、大きな荷物を抱えてご満悦な様子。
よ、よかったなオヤジ1号 …

「お待たせしました〜。今、店の人に聞いたんですけど、この先にもう一軒イイ店あるらしいんですよ。
寄ってもイイですか？」

ど、どーぞ…
好きなだけ見るがいいオヤジ1号よ。
んでも、普段コミュニケーション苦手なオマエが、やけに積極的じゃねーか …
んで、100mほど先の件の店に行って見た。
ココも狭いけど、フィギュア系の専門店だな。
ウインドウには、各種フィギュアが飾ってある。
んでも、コレなら日本でもあるんじゃね？
それでも、一段と目を輝かせたオヤジ1号は、足早に店内に吸い込まれて行った。
また時間かかるだろうな …
それなら俺も、お目当ての店の下調べだ。
今回 《深水埗 》で行きたい店の一軒が、この近所にあるんで散策してみた。
歩いて数分、一本裏手の商店街にその店は在った。
店頭に一際客が群がる人気店。
オ〜イイカンジじゃないの〜！
暫く観察して、店内の様子や注文の仕方を把握する。
よしよし、大体分かったぜ。
海外の店って、日本とシステムが異なる場合があるから、時間があれば下調べって大事だよな。
オヤジ1号の買物が終わったら、ココ入ろうかな。
辺りの他の店も見て回り、約30分後に戻ってみると、まだまだ買物中のオヤジ1号。
ギッシリ並んだフィギュアを一つ一つ吟味してるぜ！
いつも寡黙で大人しいオヤジ1号だけど、今日のコイツの眼は尋常じゃない輝きに満ちている。
仕事の時には見せた事ない眼つきだぜ。
暫くして戻って来たオヤジ1号は、またも大きな荷物を抱えている。

「オ〜沢山買ったな。ほんじゃ、一休みしようか。」

んで向かったのは、先程リサーチした《 公和荳品廠 》！
以前香港来た時、豆腐花にハマった50オヤジ。
今回久々に喰うなら、コノ店だ！って決めていた。
ネットで豆腐花を検索すると必ず出てくる人気の老舗店。
店頭に各種豆腐類が並ぶ販売コーナーは、買物客で一杯だ。
その後の狭いテーブル席も満席状態。
待ってる客もいるけど、順番なんて無い早い者勝ちのイス取りゲームみたいだぜ。
回転早いから、席が空いたら速攻座るぞ！
手近な席が空いたんで、滑り込みセーフ！
同じ席狙ってたオバチャンに舌打ちされたけどね…
んで、注文したのは《荳花》と《荳漿》だ。
（熱）と（冷）が有るんだけど、この日は汗ばむ位の陽気なんで（冷）にしたよ。
小振りなプラ丼に揺蕩う象牙色の《荳花》がやって来た！
（ 赤ロゴが中々カワイイ！このプラ丼欲しいな〜。）
滑らかな《荳花》を早速チュルリン！と口にする。

ウォッ！なんちゅう瑞々しい食感！
なんちゅう儚い甘さ！
コレは超絶ウマイ！
卓上の黄色いトウキビ砂糖もかけてみる。
更に素朴な甘味が増してイイカンジ〜。

《荳漿》もいってみる。
コ、コレは〜！
冷たく儚い甘さの豆乳が、滑らかな喉越しで一直線に胃まで滑り降りる。
なんだよ！なんだよ！なんなんだよ〜？
豆乳ってアチコチで飲んだけど、こんな味わい初めてだぜ〜。
コレなら、2ℓくらい一気飲みできそうだな。
スゲ〜なコレ …

《荳花》と《荳漿》に大満足なオヤジども。
一息ついたところで、話題はオヤジ1号の買物話し。

「ところで、ナニ買ったの？」

「《ドラえもん》とか、《ガンダム》なんかのフィギュアですね〜。子供がスキなんですよ〜。」

「んでも、そんなの日本にもあるじゃん。」

「いやいや、日本にもあるんですけど、製作してる下請工場は東南アジアが多いんです。
その下請けが、内緒でパチモン作って流通してる日本に無いレアなのがあるんですよ〜。ほら、コレ見てくださいよ〜！」

買ったフィギュアの包装を解きながら、一気に捲したてるオヤジ1号。
その双眸に、また尋常じゃない輝きが増すのを50オヤジは確かに見た！
コイツ、ヲタだな …
前々からヲタ気質だとは思っていたが、コレ程とは …

「オマエよ〜、子供の土産なんて言ってたけど、ホントはオマエが欲しかったんだろ？」

「えっ、わかっちゃいました？」

一瞬ドギマギしたオヤジ1号だけど、素直に白状したぜ。

「オマエ、いくら50男だからって、今日びヲタは恥じゃないぞ。もっと胸張っていけよ。」

「ありがとうございます。前から言おう言おうと思ってたんですが、なかなか切り出せなくて …
僕はパチモンフィギュアが大好きなんです〜！」

カミングアウトしたオヤジ1号の双眸は、なんだか晴れ晴れとしているぞ。
よかったなオヤジ1号よ。

「そんで買物は満足かな？そろそろ尖沙咀で換金して昼メシ喰おうか？」

「いや、実は今日本で流行っているシステム手帳のパチモンが香港で売ってると思うんです。ドコか心当たりありますか？」

えっ、タブレット全盛の今時、そんなの流行ってたの？
しかも、敢えてそのパチモンって、やっぱコイツ病気じゃね？

「それじゃ、コノ近くに《西九龍中心》別名ドラゴンセンターっていうテナントビルが在るらしいから行ってみる？」

「 イイですねーソコ行きましょう！」

カミングアウトしたオヤジ1号。
晴れてパチモンヲタとして歩む足取りは、最早迷いは見られない。
それに呼応するが如く、混沌の街《深水埗》に渦巻くオドパワーも一段と強さを増したようだ。


後記
この後ドラゴンセンターに行ったオヤジども。
ローコスト・パチモン・バッタモンのオンパレードのテナントビルで、更なるオドパワーが渦巻くカオスの中心地だったぜ〜！
目指すパチモンシステム手帳も見つかってよかったけど、やっぱ店頭でオヤジ1号の出待ち60分の50オヤジだったよ…

後記2
件の《荳花》昔ながらの伝統製法で作られているんだけど、豆乳を凝固させるのに石膏粉（食用）を使用している。
そのせいか、食後口蓋に僅かに粉っぽさが残る。
最初の口当りが超絶ウマイから、俺的には気になるっちゃ、気になるかな …