美食と美湯・料理自慢のかけ流し温泉旅館(関西編)

美食と美湯・料理自慢のかけ流し温泉旅館(関西編)

日本に数多ある温泉旅館。そんな中、泉質とともにお料理も上質な温泉旅館は限られます。 その双方を兼ね備えた旅館は、その宿泊料金の多寡にかかわらず、実に贅沢な旅館といえます。 西日本を中心に路線バスでの温泉巡りを実践する「バスde温泉」主宰・kurodaが訪れた、関西の良質温泉旅館をまとめてみました。

更新日:2023/01/28 (2018/05/16作成)

6529view

このまとめ記事は食べログレビュアーによる165の口コミを参考にまとめました。

由緒ある古湯と美食文化に恵まれた関西

豊かな歴史、文化に恵まれた近畿地方には、古より湯治客を集めてきた古湯が多数存在し、その中には日本書紀や風土記などの歴史書にも記されるなど、その泉質とともに、由来や言い伝えにも興味深い温泉があります。
また、近畿の温泉は火山活動と無関係な非火山性温泉が多く、兵庫県の有馬、城崎、紀伊半島の白浜、湯の峰、南紀勝浦、十津川など、日本を代表する古湯はすべて非火山性です。非火山性温泉は、成分がマイルドで、いわゆる美人の湯。深いリラックスを得るのに最適な泉質です。

ゑびすや

ゑびすや

 京都府京丹後市網野町にある木津温泉(きつおんせん)は、京都府内でももっとも古い温泉のひとつ。奈良時代の僧侶行基が、しらさぎが傷を癒しているのを見て発見したという伝承から、別名「しらさぎ温泉」とも呼ばれています。
 京都丹後鉄道・夕日ヶ浦木津温泉駅の周辺に数軒の旅館、民宿がある程度の鄙びた温泉地で、海に面していて眺望に優れる夕日ヶ浦温泉と違い、閑静な田園風景が広がっています。

木津温泉(京都府京丹後市網野町)

 たった4軒の旅館しかない木津温泉、そのなかでは最大規模の老舗旅館の「ゑびすや」は、松本清張が長期に投宿し、「Dの複合」を執筆したことで知られています。

ゑびすや

 新館にある大浴場には、アルカリ性単純温泉の澄明なお湯が掛け流されています。湧出温度は42℃、匂いも味も感じられない淡白な浴感だが、アルカリ泉らしいしっとりとした肌触りが感じられます。
 源泉温度が高くないので、冬場の加温は致し方ないが、それ以外の時期は自然の状態の新鮮なお湯を楽しめます。この大浴場には露天もあって、手入れの行き届いた庭園を眺めながらの入浴は格別です。

ゑびすや

 しかし、この旅館の値打ちは旧館にある貸し切り湯の「ごんすけの湯」と「しずかの湯」。「ごんすけの湯」は小さな浴室だが、清らかなタイル貼りの浴槽に、天井にはステンドグラスが配されている。前期昭和のモダンが溢れています。

 湯口からはほぼ適温の清澄で滑らかなお湯が掛け流されているが、熱くなりすぎたときにはもうひとつの湯口から冷泉を足し入れることができます。

ゑびすや

 「しずかの湯」はさらに小さくなっていて、タイル張りやステンドグラスは同様だが、浴槽に浅い部分があって、寝っ転がりながら浸かることができる。これは気持ちいい。

 著名な温泉評論家が「日本一の貸し切り湯」だと評価したのは納得です。

ゑびすや

 ここでの食事は新館のレストランでいただきます。地元の漁港で揚がった魚介を活かした料理の数々を楽しむことができます。

ゑびすや

 松本清張が宿泊したのは1965年の夏のこと、居室の中が資料で雑然となったため、執筆には隣りの「休憩室」を使っていたとのこと。
 この休憩室は現在も「清張の書斎」として保管されています。その窓から見える田園風景と山、そのふもとある小さな神社が、小説に登場する事件のモチーフと言われています。

和亭

和亭 - 風情ある佇まい

 奥伊根温泉は、舟屋で知られる伊根からもう少し北側の集落、津母で古くから旅館を営んでこられた「油屋」が、昭和62年から掘削を開始して、平成6年にようやく湧出したという、比較的新しい温泉です。
 船の収納庫の上に住居を備えた舟屋が建ち並ぶ伊根地区は、重要伝統的建造物群保存地区に選定されているために国内外にも知られた、天橋立と並ぶ京都府北部の主要景勝地。この伊根地区に近いエリアでの温泉湧出は画期的なことでした。

奥伊根温泉(京都府与謝郡伊根町)

 油屋別館「和亭」は全11室が掛け流しの露天風呂付客室というちょっと贅沢な旅館。エントランスを入ると広々としたレセプションホール、ロビーとなり、チェックインをすますと、お部屋に案内される までの間、お茶(抹茶)とお菓子のサービスがあります。
 案内された部屋は10帖と7.5帖の二間からなる和室で、窓からは日本海と若狭湾が一望。床の間には天橋立を描いた掛け軸が飾られ、和の趣を感じさせます。

和亭

 縁側の前はこの部屋専用のお庭があり、ベンチに座ってのどかな春の海を眺めることができる…そしてその横にはこの旅館の白眉、丸い陶製の専用露天風呂です。
 昭和62年から掘削を開始して、平成6年にようやく湧出したというお湯が掛け流されていて、澄明で匂いは無いが、僅かながらに味がある。泉質は炭酸水素塩泉で、湧出温度が低いので加温しているようです。
 浸かってみると、少しぬるっとした独特の感触で、これは女性がうれしい「美肌の湯」。泉質自体は歴史ある温泉地にはさすがに及ばないが、一晩中、海を眺めながらの湯浴みが楽しめる…これは心安らぎます。

和亭

 この旅館の3階には共同の大浴場もあり、大き目の内湯とともに海を望む露天風呂が設置されています。こちらも滞在中、昼夜を問わず湯浴みできるが、残念ながら循環式。泉質は部屋のお風呂の方がいい。

和亭 - 夕:蒸物

夕食の時間になると、仲居さんが小さい方の部屋の掘り炬燵に食事の準備をされます。準備が整って呼ばれると、先附と八寸 の器、食前酒の柚子酒が並んでいます。
向附は地魚のお造りを盛り合わせています。メジロ、サワラ、ヒラメなど春の魚の数々。特にサワラの刺身は鮮度が命なので貴重です。脂の乗りがよくて実に旨い。

和亭 - 部屋付き露天

 この旅館、まずロケーションが抜群。温泉も優れ、サービスの女性もにこやかで好感が持てる。なによりもその料理が圧巻です。丹後の恵みを最大限に活かした良質の旅館だと言えます。

奥澤旅館

奥澤旅館

 七釜温泉(しちかまおんせん)は兵庫県北部の新温泉町にある、温泉の発見が1955年という、比較的新しい温泉です。松葉がにで有名な浜坂から少し内陸に入った岸田川畔に、個人経営の旅館が数軒ある程度の鄙びた温泉地です。
 開湯当初からの七釜温泉公衆浴場が老朽建て替えで、2005年に源泉掛け流しの温泉施設「七釜温泉ゆーらく館」となり、これが人気施設となって、やや活況を取り戻しているとのことです。泉質で勝負したのが奏功したようです。

七釜温泉( 兵庫県美方郡新温泉町)

 普通の住宅地と見紛うような鄙びた温泉街のなかに、この「奥澤旅館」がひっそり営業しています。場所が場所だけに冬場はカニ目当てのお客さんで賑わうそうなのだが、シーズンオフの温泉街は閑散としていて実に静かです。

奥澤旅館

 小規模のお宿なので浴室もさほど大きくなく、浴槽もやや小さめだが、浴槽の水面下に湯口があって、そこから静かに新鮮なお湯が注入されています。
 七釜では源泉の温度がちょうどいいので、ほとんどの旅館が加温も加水もない源泉掛け流しだそうで、もちろんここも掛け流し。カーキー色のお湯は匂いも味も希薄ながら、浴槽温度はやや高めで、浸かるとガツンと身に沁みます。
・ナトリウム・カルシウム‐硫酸塩高温泉 50.4度

奥澤旅館

 食事は1階の広間に用意されます。カニのシーズン以外は、猛者エビが主役。新鮮なエビをお腹いっぱいいただけます。

奥澤旅館

 この旅館、温泉もいいし料理も絶品。加えてご主人も女将さんも実に親切です。なんだか田舎の親戚の家に来たようなほのぼのとした気分にさ せてくれます。

湯の峯荘

湯の峯荘

 湯の峰温泉は、和歌山県田辺市本宮町にあり、四村川の流れる狭い谷の両岸に十数軒の旅館が軒をならべる、静かな温泉街です。中心部にある「つぼ湯」は日本最古の共同浴場。1800年の歴史があるとされ、1日に7回湯の色が変わると言われています。
 熊野詣の湯垢離(ゆごり)場として、また、小栗判官と照手姫の伝説の舞台として知られる湯の峰温泉。ここはおそらく日本最古の温泉であるとともに、唯一の世界遺産の温泉です。

湯の峰温泉(和歌山県田辺市本宮町)

 湯の峰温泉の温泉街から少し離れた丘の上、ここに鉄筋コンクリートの建物で、湯の峰では最大の旅館、湯の峰荘があり ます。

湯の峯荘

 ここは小さな温泉街にしては旅館の規模が大きい部類なので、内湯も露天湯も広く設えられていて解放感がある。関西で最上級の泉質を誇る湯の峰温泉のこと、加水はあるものの掛け流しなのは当たり前です。

湯の峯荘

 大浴場とは別に貸し切り湯があり、ここでは加水なし、源泉そのままのお湯が満たされています。ここは湯の花もない、濃厚で新鮮なお湯で、湯垢離を実体験できます。
 世界遺産のつぼ湯なら、一日中誰かが浸かっているので、残念なことに劣化を感じてしまうが、ここでは同様の泉質ながら劣化していない絶品です。
 貸し切りなので1回20分と時間制限があるが、空いてる日には他のお客が現れない限り延々浸かることができる。しかし、この濃厚さ、長湯すれば湯あたりする危険があるので、注意して入浴しなければなりません。

湯の峯荘

 ここでの食事は夕食は個室に、朝食は大広間に用意されます。湯の峰の濃厚な温泉水を使った手が込んだ温泉料理の数々を味わえます。

湯の峯荘

階段の踊り場に掲げられている油彩には、この温泉旅館を中心に、湯の峰の温泉街や本宮大社が描かれている。そして道路にはレトロなバスが…
 
車両の色から、このバスはおそらく今は無き吉野熊野観光自動車のバスでしょう。これぞ「バスde温泉」!いつも見惚れてしまいます。

川湯温泉 冨士屋

川湯温泉 冨士屋 - 旅館外観

 川湯温泉は和歌山県田辺市本宮町。熊野川の支流 、大塔川の川べりに中規模・小規模の旅館や共同浴場が軒を連ねています。世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に位置付けられた熊野古道一帯に位置し、熊野本宮大社や、最古の温泉のひとつの湯峰温泉にもほど近いため、熊野観光の拠点にもなっています。

川湯温泉(和歌山県田辺市本宮町)

 「冨士屋」は熊野本宮温泉郷・川湯温泉にある老舗の温泉旅館。ここは川湯温泉随一の伝統と格式を持つ旅館で、それが証拠に、玄関の前にバス停があり、その名称も「ふじや前」。この隣の「かめや前」とともに、老舗旅館たる証左です。

川湯温泉 冨士屋

露天浴場

川湯温泉 冨士屋

 この旅館の特別室、「熊野モダンルーム」は3室、宿泊したのは熊野の竹をふんだんに使用したという「せきれい」のお部屋です。ワンルーム・50㎡ちょっとの空間に、ベッド、洗面、シャワー、トイレが配置され、広いベランダにこの部屋の白眉、部屋付きの露天風呂が備えられています。
 ナトリウム・炭酸水素塩・塩化物泉の自家源泉を持つこの旅館では、男女の大浴場、露天浴場、貸切露天とともに、部屋の露店にも今まさに湧出したばかりの温泉が惜しげもなくかけ流されています。

川湯温泉 冨士屋

 川湯温泉は河原を掘ると温泉がポコポコと湧いてくるという、西日本では関西ではおそらくここだけの珍しい温泉。エメラルド色の大塔川に子どもたちや、最近急増してきた欧米系の外国人、そして野生のカモまで仲良く水遊びを楽しんでいる。その嬌声を聞きながら、こちらは静かに湯浴みを楽しみます。

川湯温泉 冨士屋 - 個室

 食事は専用の個室に用意されます。老舗旅館の矜持が感じられる地元の食材を活かした手作り感のある料理の数々が楽しめます。

川湯温泉 冨士屋 - せきれい

 この旅館の極上の温泉と、洗練されたお料理、そしてさりげないサービス。ここでは日本が世界に誇るべき温泉文化を味わうことができると思います。

しらさぎ

しらさぎ - 外観

 椿温泉は小規模の温泉旅館が数軒あるだけで、歓楽街らしきものが一切存在しないひっそりとした温泉ながら、紀州藩の地誌『紀伊続風土記』(天保10年)に名湯として紹介されているぐらいの歴史を持つ名泉です。
 バブル期には巨大なリゾートマンションが次々と建設されるなど、投機の対象とされて一時的に賑わいもしたが、今はその片鱗も見せていません。

椿温泉(和歌山県西牟婁郡白浜町)

 白浜駅前から明光バス・日置行きに乗車し、海沿いを走ること20分足らず。椿温泉BSの目の前にある旅館です。
 昭和29年開業のこの旅館は、鉄筋4階建・平成2年築の本館と木造2階建の別館に加え、湯治専用棟を新設するなど、お湯の質にこだわるお宿。2食付いて一万円を切る値段も魅力です。
 案内された部屋は3階の和室で、洗面、トイレの付いた6畳間。コンパクトにまとまっています。窓からは巨大リゾートマンションに邪魔されながらも太平洋が望めるオーシャンビュー!

しらさぎ

 お風呂は4階にある男湯と女湯に分かれる展望大浴場。浴場の扉を開けるとほんのり硫黄臭が漂ってくる。この匂いだけでも興奮してきます。
 大浴槽には加温された温泉が掛け流されています。僅かに湯の花が見られる澄明なお湯で、浸かってみると、椿温泉特有のぬるぬるっとしたアルカリ性らしい感覚。単純硫黄泉の柔らかい肌触りがいいですね。
 湧出温度が低いため加温はされているが、この特徴的な肌触りがなんとも心地よい。

しらさぎ

 一角にはふたつの小さい源泉浴槽があり、ここには非加温の源泉が満たされ、それぞれ日替わりのハーブが浮かべられています。
 加温浴槽で充分体を温めてから源泉浴槽に浸かると、程よくクールダウンされて気持ちいい。源泉だけにぬるぬる感が強調され、僅かに気泡も付着します。ハーブは赤紫蘇とミカンです。

しらさぎ - 夕食

 食事は2階の食堂でいただきます。アルミ鍋は温泉鍋。野菜、豆腐とともに白身魚がたっぷりと。ポン酢でいただきます。
 もちろん魚も旨いが、アルカリ性の温泉水なので豆腐がまろやかに感じます。

しらさぎ - 部屋

部屋は洗面、トイレの付いた6畳間。コンパクトにまとまっています。窓からは巨大リゾートマンションに邪魔されながらも太平洋が望めるオーシャンビュー!
2食付いて一万円を切る値段も魅力です。

もみじや旅館

もみじや旅館

 和歌山県東牟婁郡太地町。ここは昔から捕鯨で全国的に知られた町であり、日本の古式捕鯨発祥の地といわれています。この町の大部分が熊野灘に突き出た二股の崎に位置しており、主要な街や公共施設が海沿いに、紀勢線の駅が根元部分に位置しています。

夏山温泉(和歌山県東牟婁郡太地町)

 この太地町の北方にして、那智勝浦町南部の湯川湾の砂浜に当たる場所に、ここだけ太地町となる飛び地の夏山地区があり、ここに豊富な湯量を誇る夏山温泉の一軒宿、「もみじや旅館」が佇んでいます。
 対岸には太地町立くじらの博物館や大規模な旅館が直ぐ近くに見える。なるほど、三方を山に囲まれたこの集落、峠越えをして湯川や勝浦に出るより、舟で直ぐ対岸の太地に向かう方が自然なんですね。

もみじや旅館

 この旅館を初めて訪れた時は立ち寄り湯で。その時はお年を召したご主人が、少々バツ悪そうにまだお湯を張っていないとおっしゃる。それでもすごいことに、15分ほど待てば掛け流しが再生するとのこと。これぞ豊富な湯量が成せる技です。

もみじや旅館

 後年、ここで宿泊した際には、最初からお湯が掛け流されていました。3~4人が入ればいっぱいいっぱいの浴槽のこと。一人が入るといきなり大量のお湯が溢れ出て、津波となってプラスチックの洗面器を弄びます。
 浴室は狭いが、細かいタイル張りになっていて上質なレトロ感があります。お湯は澄明で少しだけぬめりが感じられる。もちろん飲むことができて少し甘い。そして芳しい硫黄臭 が充満している…これは極上!
・単純硫化水素泉 41度

もみじや旅館 - 鯨などのお造り

ここの食事は、夕食は別部屋で、朝食は1階の食堂でいただくことになります。太地と勝浦の両漁港に挟まれたこの地のこと、新鮮な魚と、貴重な鯨の刺身が絶品です。

もみじや旅館 - 朝食の食堂

この旅館、旅館というよりは、ちょっと大きい目の民宿というか、保養所というか…仕事を忘れ、ひっそり独りで長期滞在したいようなお宿です。

十津川上湯温泉旅館 神湯荘

十津川上湯温泉旅館 神湯荘 - エントランス

 十津川村には、十津川温泉、湯泉地温泉、上湯温泉と、それぞれ泉質の異なる3ヶ所の温泉があり、そのどれもが源泉掛け流しの極上温泉です。
 上湯温泉は、十津川の支流、上湯川を遡ったところの渓流の畔にある秘湯感あふれる温泉です。

上湯温泉(奈良県吉野郡十津川村)

 この神湯荘は「日本秘湯を守る会」の提灯を誇らしげにぶら下げた一軒宿。秘境の十津川村の中でも、秘湯中の秘湯です。
 案内された部屋は「栂の間」で、8畳ほどの広さの部屋にはあらかじめ布団が敷かれています。窓から果無山脈が望めるこの部屋は、リニューアルされて日が浅いようで、部屋のトイレには最新式のウォシュレットが備えられています。これは現代人には必須です。

十津川上湯温泉旅館 神湯荘

 内湯は本館とは別の棟となっていて、浴室部分が多角形になった特殊な構造。浅めの浴槽に澄明のお湯がこんこんと掛け流されていて、お湯には白い湯の花が多く舞っています。浴槽が浅いので、自然と寝湯になってしまう…
 泉質はナトリウム-炭酸水素塩泉(重曹泉)で、源泉温度85度。やや硫黄臭はあるが、舐めてみると意外にも無味。しかしこの浴感が特徴的で、ツルツルした肌触りが実にいい。湧出温度が高いので夏場は加水しているようだが、今は真冬なので100%の源泉です。

十津川上湯温泉旅館 神湯荘

 源泉をタンクに貯めて配湯しているようで、屋外の露天風呂も泉質は同じ。しかし自然との一体感が味わえるので雰囲気は露天の方がいいですね。頭が冷たい風に晒されているので、のぼせることもありません。

十津川上湯温泉旅館 神湯荘

 白眉は川縁にある大露天風呂です。こちらは十津川村をはじめ、紀伊半島に多大な被害をもたらした平成23年の台風の後に築かれたもので、こちらは日帰り入浴も可能。宿泊者はタグを腕に着けておけば料金が要りません。
 泉質はこちらも旅館のお湯と同じだが、源泉のすぐ近くにあるのでフレッシュな浴感が楽しめます。これほどの広さの露天浴槽にもかかわらず、真冬でも適温を保てるのは、湧出温度とともに豊富な湧出量が成せる業です。

十津川上湯温泉旅館 神湯荘 - 夕食:牡丹鍋

 夕食のメインは猪肉の牡丹鍋です。カセットコンロに乗せられた土鍋には、牡丹鍋の名にふさわしく猪肉が美しく盛られています。
 他の具材や豆腐、ネギ、水菜、くずきりなど。濃厚な味噌仕立てになっています。

十津川上湯温泉旅館 神湯荘 - 朝食:温泉粥

 朝食では、アマゴの甘露煮は柔らかく煮抜かれていて、頭から尾鰭まで全部食べられます。汲み上げ豆腐は固形燃料で温め、柚子の利いたポン酢でいただきます。
 温泉卵とともに温泉粥も用意されています。上湯温泉独特の硫黄臭のあるお粥はクセになる味わいです。

田花館

田花館

 「十津川温泉」は、十津川温泉、湯泉地温泉、上湯温泉から成る十津川温泉郷の中核で、十津川村のやや南部、二津野ダム湖畔の平谷集落に10軒足らずの旅館・民宿と村営の入浴施設などが点在する実に静かな温泉街です。
 源泉の発見こそ元禄年間という古湯ではあるが、1974年、二津野ダムの完成によって集落が 移転した際に、現在の平谷地区まで源泉を引湯することに成功。これによって温泉街が形成されました。

十津川温泉(奈良県吉野郡十津川村)

 この「田花館」は創業が明治42年と、十津川温泉では最も老舗の旅館です。玄関を入るとすぐに階段となり、2階に上がったところに帳場がある、ちょっと変わった構造の旅館です。
 客室は2階と3階に置かれていて、窓からは湖畔の建物越しにエメラルドブルーに輝く二津野湖が眺められます。

田花館

温泉は2階にあり、内湯には十津川温泉独特のやや白濁した柔らかいお湯が掛け流されています。鼻腔をくすぐるアロマがアルファー波を発生させ、柔らかな浴感は心を鎮める。泉質は極上です。

田花館

この旅館にも貸切の露天風呂もあります。周囲は壁に囲まれていて景色は全く楽しめないが、 天井がないので確かに露天には違いない。こんな申し訳程度の露天ではあるが、こちらに注がれているお湯のほうがなんだか濃厚なような気がします。

田花館 - アマゴのから揚げ

温泉もさることながら、ご主人自ら釣ってきた鮎料理も極上。冬場は牡丹鍋もいいですね。これぞ日本のジビエです。

田花館 - かけ流し温泉

十津川温泉は湯量が豊富な高温泉なので、すべての旅館が完全放流の掛け流しを達成しています。ただ、熱い源泉を冷ますのにはどこの旅館も苦労しているようで、この旅館では、温泉を送るパイプに湧き水のシャワーを浴びせて温度を下げ、濃厚な湯を楽しめる様になっています。

やど湯の里

やど湯の里

 湯泉地温泉は十津川村のほぼ中央に位置し、1581年に佐久間信盛が訪れたといわれている古い歴史を持つごく小さい温泉です。十津川村役場から国道168号の旧道を十津川に沿って上流に向かうと、川沿いの崖っぷちに身を寄せ合うように数軒の旅館と共同浴場があるだけの、実に静かな温泉街です。

湯泉地温泉(奈良県吉野郡十津川村)

 温泉街のさらに上流に、1軒だけひっそりと佇んでいる吉野建ての建物が「やど湯の里」です。吉野建てとは、平地が少ない吉野山に適した建築様式で、道路から見ると2階建に見えても、実は3階建ての2階部分という、山の斜面に合わせた建築様式です。
 案内された部屋は「太郎」の間。この旅館唯一の二間続きの角部屋です。眼前には十津川の清流がサラサラ流れています。

やど湯の里

ここのお風呂は玄関から1階下のところ、ここが本当の1階の上流寄りのところにあります。内湯はいささか古びた感じではあるが、滔滔と満ちているお湯は、紛う事なく今まさに地中から湧き出てきた源泉です。澄明で無味だが硫化水素臭はかなりある。湯温が熱いので少しばかり加水しているが、ガツンと来る濃厚なお湯です。

やど湯の里

露天は噂に違わぬ絶景です。こちらは少し温めなので長く入っていられます。こちらも濃厚だが、湯の花が目立ちますね。今物の温泉たる証左です。この日は時折大雨が降るような天候ではあるが、雨に打たれ、霧に包まれながら極上の湯に浸かる …これこそが自然と一体になったような感覚を味わえる貴重な体験です。
・単純硫黄泉 50.7度

やど湯の里

この旅館の夕食はお部屋でいただきます。清流の十津川ではやはり鮎が旨い。それとともに、飾り包丁が見事です。

やど湯の里

驚いたのは湯上りにひと皮めくれたように肌がスベスベになったこと。今まで数多くの温泉に入ってきたが、ここのピーリング効果は一頭秀でてます。十津川の清流の音に包まれて湯に浸かる至極。本当に癒されます。

※本記事は、2023/01/28に更新されています。内容、金額、メニュー等が現在と異なる場合がありますので、訪問の際は必ず事前に電話等でご確認ください。

ページの先頭へ