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『此世をハ と里(り)や お暇尓(に) せん古(こ)う能(の) 煙りと供尓(に) 者(は)ひ 左樣なら』 (十返舎一九)
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酔狂老人卍 (70代以上・男性) 認証済
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1回
夜の点数:4.0
2009/07 訪問
隈(くま)のなき 月と見紛(まが)ふ その天窓(あたま) 立ちて喰らふは 江戸のわざなり
【2009-07-29追記】: 一日(あるひ)、俄(には)かに思(おも)ひたち久(ひさ)しく脚(あしむ)向けざりし儘(まゝ)のこちらに。 商(あきな)ひ始(はじ)めより小半時(こはんとき)なれど、店(みせ)は遙(はる)か彼方(かなた)。 眦(まなじり)結(けつ)し、親(おや)の仇(かたき)とばかりに道(みち)を急(いそ)ぐ。 歡迎、次いで你好を弓手(ゆんで)にやり過(す)ごし、金春向(む)かひが目指(めざ)す仇(かたき)。 「御免(ごめん)くだされ」と云ふが早(はや)いか、扉(とびら)に手(て)をかけ主(あるじ)を睨(にら)む。 驚(おどろ)く勿(なか)れ、店(みせ)の中(なか)は僅(わづ)かに主(あるじ)獨(ひと)り。 圓(まろ)き椅子(いす)竝(なら)びて、嘗(かつ)ての烏森稻荷(からすもりいなり)しみづを思(おも)はす。 氷室(ひむろ)より酒(さけ)を取(と)り、腰(こし)を下(お)ろすは奥(おく)なる端(はじ)の席(せき)。 主(あるじ)、すかさず御絞(おしぼ)り、箸置(はしお)き、利休箸(りきうばし)を目(め)の前(まへ)に。 「一年(ひとゝせ)ぶりより久(ひさ)しき御出(おで)ましなるや」と訝(いぶか)しげに問(と)ふ。 「盛(さか)り場(ば)歩(ある)くも儘(まゝ)ならず、徒(いたづら)に月日(つきひ)を重(かさ)ねけり」。 声(こゑ)かゝるを待(ま)ちてか、主(あるじ)、茹(う)で卵(たまご)のごとき頭(かしら)をこちらに。 山葵(わさび)の皮(かは)を剥(む)き、銅(あかゞね)の卸金(おろしがね)にて輪(わ)を描(ゑが)く。 徐(おもむろ)に氷室(ひむろ)より鮪(しび)のさくを取(と)り出(いだ)し氷(こほり)の上(うへ)に。 電氣(エレキ)仕掛(じか)けの櫃(ひつ)より木(き)の櫃(ひつ)に移(うつ)されしは米(こめ)の飯(いひ)。 頃(ころ)やよし、先(ま)づは鮑(あはび)の肝(きも)を貰(もら)ひて酒(さけ)を煽(あふ)る。 さるほどに、いまや縱(ほしいまゝ)に好(この)みの鮨種(すしだね)貪(むさぼ)り盡(つ)くさんとす。 眞子鰈(まこがれひ)、新子(しんこ)、眞鯵(まあぢ)、平胡麻鯖(ひらごまさば)、障泥(あふり)烏賊(いか)、 鮑(あはび)鹽蒸(しほむ)し、鮪(しび)脂赤身(あぶらあかみ)、車蝦(くるまえび)、 穴子上身(あなごうわみ)、穴子下身(あなごしたみ)、玉子(たまご)燒(や)き。 その數(かず)、鮑(あはび)の肝(きも)を除(のぞ)きて十一(とあまりひとつ)で値(あたひ)七みなほん。 一(ひと)つ當(あた)り、およそ、零點五四みなほん乃至(ないし)零點五九みなほん。 去(いぬ)る年(とし)の二月に零點三五みなほん、三月に零點五みなほんと、鰻昇(むなぎのぼ)り。 その勢(いきほひ)止(とゞ)まるところを知(し)らず、已(すで)に嘗(かつ)てのしみづ竝(なみ)。 舎利(しやり)は糖(たう)を用(もち)ゐざれど、粒(つぶ)が立(た)ち舌(した)に滑(なめ)らか。 一度(ひとたび)口(くち)に抛(はふ)り込(こ)むや、自(おの)づと解(ほど)けて米(こめ)の粒(つぶ)に。 名殘(なご)を惜(を)しむかのごとく、米粒(こめつぶ)は暫(しば)し奧齒(おくば)に留(とゞ)まる。 鹽(しほ)と酢(す)は穩(おだ)やかにて、威張(ゐば)ることなく靜(しづ)かに喉(のみど)を過(す)ぐ。 およそ鮨(すし)の良(よ)し惡(あ)しの鍵(かぎ)を握(にぎ)るは舎利(しやり)の出來(でき)と云へり。 こちらのは名(な)にし負(お)ふ店(みせ)と比(くら)べて聊(いさゝ)かの遜色(そんしよく)もなし。 主(あるじ)の鮨(すし)漬(つ)くるさまを眺(なが)むるに、なかなかに巧(たく)みなる手捌(てさば)き。 弓手(ゆんで)拇(おやゆび)の押(お)さへこそ利(き)かねど、「ぽい舎利(しやり)*)」をせず。 眞子鰈(まこがれひ)は香(かをり)に富(と)み、平胡麻(ひらごま)は時季(じき)の眞鯖に迫(せま)る。 鹽(しほ)酢(す)ともにほどよく、薄(うす)く切(き)り附(つ)けたれば舌觸(したざは)り滑(なめ)らか。 眞鯵(まあぢ)は立(た)て鹽(しほ)を施(ほどこ)し、酢(す)にて輕(かろ)く〆たもの。 惜(を)しむらくは、新子(しんこ)の酢(す)が勝(まさ)りて持ち味(あぢ)損(そこ)なはれしこと。 絲に作(つく)りたる障泥(あふり)烏賊(いか)、甘味(あまみ)際立(きはだ)ちて齒(は)にさはやか。 鮑(あはび)の鹽蒸(しほむ)しは小ぶりながらも、かの鶴八のそれに引(ひ)けをとらず。 車蝦(くるまえび)は茹(ゆ)で置(お)きたるを酢(す)に潛(くゞ)らすも味(あぢ)はひはいまひとつ。 津輕沖(つがるおき)で漁(いさ)りし鮪(しび)を冬場(ふゆば)のそれに比(くら)ぶるは愚(おろ)かなり。 穴子(あなご)は脂(あぶら)乘(の)りて味附(あぢつ)けもほどよく、この日(ひ)の白眉(はくび)。 敢(あ)へてこれを炙(あぶ)るは西施(せいし)に要(い)らぬ粧(よそほひ)施(ほどこ)すに似(に)たり。 小骨(こぼね)の舌(した)に觸(さは)ることもなく、瞬(またゝ)く間(ま)に蕩(とろ)け露(つゆ)と消(き)ゆ。 常(つね)の倣(なら)ひで、上身(うはみ)は皮(かは)を表(おもて)、下身(したみ)は裏(うら)に。 玉子(たまご)燒(や)きは前(まへ)とつゆ異(こと)なるところなく、滑(なめ)らかさに乏(とも)し。 芝蝦(しばえび)を擂(す)りて、鹽(しほ)と味醂(みりん)・糖(たう)を加(くは)へたるものとか。 やはり厚燒(あつや)きなれば、山(やま)の芋(いも)加(くは)ふるに如(し)くはなし。 この日(ひ)他所(よそ)に劣(おと)るは、小鰭(こはだ)、車蝦(くるまえび)、玉子(たまご)燒(や)き。 椅子(いす)などを設(しつら)へ妄(みだ)りに値(ね)を騰(あ)ぐるは實(げ)に寂(さび)しきものなり。 これ脚(あし)遠(とほ)のきし所以(ゆゑん)なれど、なほ味(あぢ)に比(くら)べて値(ね)は安(やす)め。 一(ひと)つ一(ひと)つ揚(あ)げ脚(あし)取らば、夥(おびたゞ)しき足(た)らざるところあらん。 さりながらこの地(ち)に在(あ)りては鄙(ひな)にも稀(まれ)な鮨屋(すしや)。 【2008-03-12追記(抜粋)】: 鮃、鮃昆布〆、細魚、春子(かすご)、蛸櫻煮、鮪赤身、鮪中トロ、赤貝、蛤、穴子、車蝦。この日は聊(いさゝ)か高めで鮨十一、酒小一合で値六千圓也。 鮃の切り附け方は思ひのほかに分厚い。白板昆布のせゐか昆布の味強きに過ぎず。三日ほど寢かせたとのことなれど冬場の鮃に及ばず。細魚(さより)には鹽をし酢洗ひしたとの由。春子(かすご)は僅(わづ)かながらも鹽(しほ)は控へめ。この日の白眉は蛸櫻煮。車蝦は生酢で洗ひ朧(おぼろ)を挾む。鮨種は切り附けたる後(のち)、ほどよき温度になるまで俎板に置く。【2008-02-01記(抜粋)】:鮨なるもの、徒(いたづら)に滑らかなる舌ざわりを求むれば砂糖・水氣が増え舎利が粘る。砂糖に頼らず水氣が足りぬと冷めてボソボソに。鹽(しほ)・酢過ぎれば味濃く舌ざわり惡しく、足らざれば味に締まりを缺(か)く。 昆布で〆るもまた同じ。絲引くほどになれば、昆布の味、魚(うを)に勝(まさ)りてその本分を失ふ。卵燒きまた然り。味の濃さと口當たりの滑らかさを求むれば摺(す)り身ばかりが増え、硬く蒲鉾のごとき代物に成り果つ。闇雲(やみくも)に山の芋を増やさばカステラのごとき味はひとなる。麗(うるは)しく、柔らかく、味はひ深く、口に滑らかなる卵燒き、世に稀(まれ)なり。 頃あひ見計りて鮃と鮃の昆布〆を頼む。鮃の昆布〆は他所(よそ)とは異なり白板昆布と思しきもので挾(はさ)む。 小鰭はやゝ小ぶりの半身漬け。舌觸(ざは)り滑らかにして鹽(しほ)の加減、酢の分量は好むところ。あいにく、鯖は、鹽・酢は好みながら、身痩せたる割に切り附けが厚く、〆たところが舌に觸(さは)る。思ふに、鯖は、大ぶりなるを強く〆め、薄く廣く切り附くれば、すなはち、味はひに優れ口に滑らか。 こちらの鮪、蝦夷地は戸井の産。赤味・中トロともほどよく熟(う)れ味はひ深し。車蝦は茹(ゆ)で置き。穴子はその身聊(いさゝ)か痩せ煮詰め薄しと云へど惡しからず。卵燒きの出來は今ひとつ。厚燒きとしては薄く、滑らかさに缺(か)く。主(あるじ)によれば芝蝦のみ摺(す)り込みてこれを拵(こしら)ふると。 鮨種を容れる凾の下には、氷と思(おぼ)しきものが敷き詰められ、冷たからず温(ぬる)すぎぬほどに保たる。水も淨水器を通す。手附きに少しの淀(よど)みもなく捨て舎利もせぬ。左手親指の押さへが甘く、その姿、前と云ひ、横面(つら)と云ひ、名高き親方の鮨に劣る。 鮨十個と酒一合で四千圓とは、一つあたりおほよそ三百五十圓。銀座の半値にも滿たぬ。この日の客は悉(ことごと)く常連らしく和氣藹々。-------------------------------*)餘(あま)れる舎利(しやり)を千切(ちぎ)りて櫃(ひつ)に戻(もど)すを、みなほさまかく號(よびな)したまふ。 「捨(す)て舎利(しやり)」に同じ。
2010/01/15 更新
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【2009-07-29追記】:
一日(あるひ)、俄(には)かに思(おも)ひたち久(ひさ)しく脚(あしむ)向けざりし儘(まゝ)のこちらに。
商(あきな)ひ始(はじ)めより小半時(こはんとき)なれど、店(みせ)は遙(はる)か彼方(かなた)。
眦(まなじり)結(けつ)し、親(おや)の仇(かたき)とばかりに道(みち)を急(いそ)ぐ。
歡迎、次いで你好を弓手(ゆんで)にやり過(す)ごし、金春向(む)かひが目指(めざ)す仇(かたき)。
「御免(ごめん)くだされ」と云ふが早(はや)いか、扉(とびら)に手(て)をかけ主(あるじ)を睨(にら)む。
驚(おどろ)く勿(なか)れ、店(みせ)の中(なか)は僅(わづ)かに主(あるじ)獨(ひと)り。
圓(まろ)き椅子(いす)竝(なら)びて、嘗(かつ)ての烏森稻荷(からすもりいなり)しみづを思(おも)はす。
氷室(ひむろ)より酒(さけ)を取(と)り、腰(こし)を下(お)ろすは奥(おく)なる端(はじ)の席(せき)。
主(あるじ)、すかさず御絞(おしぼ)り、箸置(はしお)き、利休箸(りきうばし)を目(め)の前(まへ)に。
「一年(ひとゝせ)ぶりより久(ひさ)しき御出(おで)ましなるや」と訝(いぶか)しげに問(と)ふ。
「盛(さか)り場(ば)歩(ある)くも儘(まゝ)ならず、徒(いたづら)に月日(つきひ)を重(かさ)ねけり」。
声(こゑ)かゝるを待(ま)ちてか、主(あるじ)、茹(う)で卵(たまご)のごとき頭(かしら)をこちらに。
山葵(わさび)の皮(かは)を剥(む)き、銅(あかゞね)の卸金(おろしがね)にて輪(わ)を描(ゑが)く。
徐(おもむろ)に氷室(ひむろ)より鮪(しび)のさくを取(と)り出(いだ)し氷(こほり)の上(うへ)に。
電氣(エレキ)仕掛(じか)けの櫃(ひつ)より木(き)の櫃(ひつ)に移(うつ)されしは米(こめ)の飯(いひ)。
頃(ころ)やよし、先(ま)づは鮑(あはび)の肝(きも)を貰(もら)ひて酒(さけ)を煽(あふ)る。
さるほどに、いまや縱(ほしいまゝ)に好(この)みの鮨種(すしだね)貪(むさぼ)り盡(つ)くさんとす。
眞子鰈(まこがれひ)、新子(しんこ)、眞鯵(まあぢ)、平胡麻鯖(ひらごまさば)、
障泥(あふり)烏賊(いか)、 鮑(あはび)鹽蒸(しほむ)し、鮪(しび)脂赤身(あぶらあかみ)、
車蝦(くるまえび)、 穴子上身(あなごうわみ)、穴子下身(あなごしたみ)、玉子(たまご)燒(や)き。
その數(かず)、鮑(あはび)の肝(きも)を除(のぞ)きて十一(とあまりひとつ)で値(あたひ)七みなほん。
一(ひと)つ當(あた)り、およそ、零點五四みなほん乃至(ないし)零點五九みなほん。
去(いぬ)る年(とし)の二月に零點三五みなほん、三月に零點五みなほんと、鰻昇(むなぎのぼ)り。
その勢(いきほひ)止(とゞ)まるところを知(し)らず、已(すで)に嘗(かつ)てのしみづ竝(なみ)。
舎利(しやり)は糖(たう)を用(もち)ゐざれど、粒(つぶ)が立(た)ち舌(した)に滑(なめ)らか。
一度(ひとたび)口(くち)に抛(はふ)り込(こ)むや、自(おの)づと解(ほど)けて米(こめ)の粒(つぶ)に。
名殘(なご)を惜(を)しむかのごとく、米粒(こめつぶ)は暫(しば)し奧齒(おくば)に留(とゞ)まる。
鹽(しほ)と酢(す)は穩(おだ)やかにて、威張(ゐば)ることなく靜(しづ)かに喉(のみど)を過(す)ぐ。
およそ鮨(すし)の良(よ)し惡(あ)しの鍵(かぎ)を握(にぎ)るは舎利(しやり)の出來(でき)と云へり。
こちらのは名(な)にし負(お)ふ店(みせ)と比(くら)べて聊(いさゝ)かの遜色(そんしよく)もなし。
主(あるじ)の鮨(すし)漬(つ)くるさまを眺(なが)むるに、なかなかに巧(たく)みなる手捌(てさば)き。
弓手(ゆんで)拇(おやゆび)の押(お)さへこそ利(き)かねど、「ぽい舎利(しやり)*)」をせず。
眞子鰈(まこがれひ)は香(かをり)に富(と)み、平胡麻(ひらごま)は時季(じき)の眞鯖に迫(せま)る。
鹽(しほ)酢(す)ともにほどよく、薄(うす)く切(き)り附(つ)けたれば舌觸(したざは)り滑(なめ)らか。
眞鯵(まあぢ)は立(た)て鹽(しほ)を施(ほどこ)し、酢(す)にて輕(かろ)く〆たもの。
惜(を)しむらくは、新子(しんこ)の酢(す)が勝(まさ)りて持ち味(あぢ)損(そこ)なはれしこと。
絲に作(つく)りたる障泥(あふり)烏賊(いか)、甘味(あまみ)際立(きはだ)ちて齒(は)にさはやか。
鮑(あはび)の鹽蒸(しほむ)しは小ぶりながらも、かの鶴八のそれに引(ひ)けをとらず。
車蝦(くるまえび)は茹(ゆ)で置(お)きたるを酢(す)に潛(くゞ)らすも味(あぢ)はひはいまひとつ。
津輕沖(つがるおき)で漁(いさ)りし鮪(しび)を冬場(ふゆば)のそれに比(くら)ぶるは愚(おろ)かなり。
穴子(あなご)は脂(あぶら)乘(の)りて味附(あぢつ)けもほどよく、この日(ひ)の白眉(はくび)。
敢(あ)へてこれを炙(あぶ)るは西施(せいし)に要(い)らぬ粧(よそほひ)施(ほどこ)すに似(に)たり。
小骨(こぼね)の舌(した)に觸(さは)ることもなく、瞬(またゝ)く間(ま)に蕩(とろ)け露(つゆ)と消(き)ゆ。
常(つね)の倣(なら)ひで、上身(うはみ)は皮(かは)を表(おもて)、下身(したみ)は裏(うら)に。
玉子(たまご)燒(や)きは前(まへ)とつゆ異(こと)なるところなく、滑(なめ)らかさに乏(とも)し。
芝蝦(しばえび)を擂(す)りて、鹽(しほ)と味醂(みりん)・糖(たう)を加(くは)へたるものとか。
やはり厚燒(あつや)きなれば、山(やま)の芋(いも)加(くは)ふるに如(し)くはなし。
この日(ひ)他所(よそ)に劣(おと)るは、小鰭(こはだ)、車蝦(くるまえび)、玉子(たまご)燒(や)き。
椅子(いす)などを設(しつら)へ妄(みだ)りに値(ね)を騰(あ)ぐるは實(げ)に寂(さび)しきものなり。
これ脚(あし)遠(とほ)のきし所以(ゆゑん)なれど、なほ味(あぢ)に比(くら)べて値(ね)は安(やす)め。
一(ひと)つ一(ひと)つ揚(あ)げ脚(あし)取らば、夥(おびたゞ)しき足(た)らざるところあらん。
さりながらこの地(ち)に在(あ)りては鄙(ひな)にも稀(まれ)な鮨屋(すしや)。
【2008-03-12追記(抜粋)】:
鮃、鮃昆布〆、細魚、春子(かすご)、蛸櫻煮、鮪赤身、鮪中トロ、赤貝、蛤、穴子、車蝦。この日は聊(いさゝ)か高めで鮨十一、酒小一合で値六千圓也。
鮃の切り附け方は思ひのほかに分厚い。白板昆布のせゐか昆布の味強きに過ぎず。三日ほど寢かせたとのことなれど冬場の鮃に及ばず。細魚(さより)には鹽をし酢洗ひしたとの由。
春子(かすご)は僅(わづ)かながらも鹽(しほ)は控へめ。この日の白眉は蛸櫻煮。車蝦は生酢で洗ひ朧(おぼろ)を挾む。鮨種は切り附けたる後(のち)、ほどよき温度になるまで俎板に置く。
【2008-02-01記(抜粋)】:
鮨なるもの、徒(いたづら)に滑らかなる舌ざわりを求むれば砂糖・水氣が増え舎利が粘る。砂糖に頼らず水氣が足りぬと冷めてボソボソに。鹽(しほ)・酢過ぎれば味濃く舌ざわり惡しく、足らざれば味に締まりを缺(か)く。 昆布で〆るもまた同じ。絲引くほどになれば、昆布の味、魚(うを)に勝(まさ)りてその本分を失ふ。
卵燒きまた然り。味の濃さと口當たりの滑らかさを求むれば摺(す)り身ばかりが増え、硬く蒲鉾のごとき代物に成り果つ。闇雲(やみくも)に山の芋を増やさばカステラのごとき味はひとなる。麗(うるは)しく、柔らかく、味はひ深く、口に滑らかなる卵燒き、世に稀(まれ)なり。
頃あひ見計りて鮃と鮃の昆布〆を頼む。鮃の昆布〆は他所(よそ)とは異なり白板昆布と思しきもので挾(はさ)む。
小鰭はやゝ小ぶりの半身漬け。舌觸(ざは)り滑らかにして鹽(しほ)の加減、酢の分量は好むところ。あいにく、鯖は、鹽・酢は好みながら、身痩せたる割に切り附けが厚く、〆たところが舌に觸(さは)る。思ふに、鯖は、大ぶりなるを強く〆め、薄く廣く切り附くれば、すなはち、味はひに優れ口に滑らか。
こちらの鮪、蝦夷地は戸井の産。赤味・中トロともほどよく熟(う)れ味はひ深し。車蝦は茹(ゆ)で置き。穴子はその身聊(いさゝ)か痩せ煮詰め薄しと云へど惡しからず。卵燒きの出來は今ひとつ。厚燒きとしては薄く、滑らかさに缺(か)く。主(あるじ)によれば芝蝦のみ摺(す)り込みてこれを拵(こしら)ふると。
鮨種を容れる凾の下には、氷と思(おぼ)しきものが敷き詰められ、冷たからず温(ぬる)すぎぬほどに保たる。水も淨水器を通す。
手附きに少しの淀(よど)みもなく捨て舎利もせぬ。左手親指の押さへが甘く、その姿、前と云ひ、横面(つら)と云ひ、名高き親方の鮨に劣る。
鮨十個と酒一合で四千圓とは、一つあたりおほよそ三百五十圓。銀座の半値にも滿たぬ。この日の客は悉(ことごと)く常連らしく和氣藹々。
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*)餘(あま)れる舎利(しやり)を千切(ちぎ)りて櫃(ひつ)に戻(もど)すを、みなほさまかく號(よびな)したまふ。
「捨(す)て舎利(しやり)」に同じ。