2回
2018/01 訪問
大森(おほもり)の 冬(ふゆ)もまだ去(い)ぬ 『まき村』に 湯氣(ゆげ)立昇(たちのぼ)る 煲仔飯(どなべかまめし)
梅酒(むめのさけ)
【八寸(はつすん)】擬(もど)きの【先付(さきづけ)】、助子(すけこ)
【八寸(はつすん)】擬(もど)きの【先付(さきづけ)】、鰊子(かずのこ)+鮏(さけ)鮞(はらゝご)
【八寸(はつすん)】擬(もど)きの【先付(さきづけ)】、車蝦(くるまえび)
【椀(わん)】、鰒子(ふぐしらこ)と唐墨(からすみ)
【向付(むかふづけ)】、鰒(ふぐ)魥(さしみ)
【向付(むかふづけ)】、鰒(ふぐ)のぽん醋(す)
【向付(むかふづけ)】、中鮪(ちゆうばう)差味(さしミ)
【向付(むかふづけ)】、中鮪(ちゆうばう)指身(さしみ)
【焼物(やきもの)】、鰤(ぶり)に菘根(だいこん)
【强殽(しひざかな)?】、笋(たけのこ)+和布(わかめ)
【强殽(しひざかな)?】、笋(たけのこ)+和布(わかめ)
【煮物(にもの)?】、牛肉(うしにく)の擬制犂焼(すきやきもどき)
【飯(めし)】、茶漬(ちやづけ)の眞鯛(たひ)
【飯(めし)】、茶漬(ちやづけ)の眞鯛(たひ)
【飯(めし)】、米飯(こめのいひ)
【飯(めし)】、米飯(こめのいひ)
【飯(めし)】、紫菜(のり)
【飯(めし)】、菹(かうのもの)
【菓子(くわし)】、草莓(いちご)、甜瓜(めろん)など
2018/01/27 更新
2016/02 訪問
姉さそふ いすゞのそばの まき村で 肥えゆくものは わが身なりけり
【2016-02-05追記】:
ありがたき誘(さそ)ひがあり、大約(およそ)八年(やとせ)ぶりの『まき村』。
今(いま)や紅本(あかほん)で★★★。
★★★に眼精(まなこ)眩(くら)みし衆人(もろびと)の、
大舉(こぞ)りて當家(こちら)に押(お)しかくるは迷惑千萬(こまりもの)。
嘗(かつ)ては女夫(めをと)兩個(ふたり)による商賣(あきなひ)と憶(おぼ)えしが、
現今(いま)や、若(わか)き弟子(でし)も二人(ふたり)。
その舉動(ふるまひ)を瞻(み)るに、
躾(しつけ)が行(ゆ)き屆(とゞ)き、清々(すがすが)しき管待(もてなし)ぶり。
櫃臺(かうんた)は檜(ひのき)の一枚板(いちまいゝた)。
横幅(よこはゞ)と厚(あつ)みこそ程々(ほどほど)なれど、
奧行(おくゆき)は三尺餘(さんじやくあまり)。
最佳(とびきり)の梅酒(むめしゆ)に續(つゞ)き、
"牡蠣(かき)と芹(せり)の湯葉蒸(ゆばむ)し"、
"細魚(さより)と菜花(なばな)の梅肉(うめにく)和(あ)へ"、
"甘鯛(あまだひ)の椀(わん)"、
"虎鰒(とらふぐ)"、
"鮪(しび)"、
"鰆(さはら)の蕗(ふき)の薹(たう)燒(や)き"、
"新筍(しんたけのこ)鞘卷(さやまき)蠶豆(そらまめ)の銀餡(ぎんあん)がけ"、
"鰒(ふぐ)の白子(しらこ)"、
"豬角煮(ぶたかくに)"、
"鯛茶漬(たひちやづ)け"、
"水菓子(みづぐわし)"。
と云ふ流(なが)れ。
火入(ひい)れ、鹽梅(あんばい)、香(かをり)、吸地(すひぢ)、彩(いろどり)、
温度(あたゝかさ)、季節感(きせつかん)、、。
一(ひと)つとして我(わ)が好(このみ)に適合(あ)はざるはなし。
前囘(まへ)に同樣(おなじく)、御絞(おしぼ)りも三度(みたび)。
兩個(ふたつ)の目(め)を皿(さら)となし、
重箱(ぢゆうばこ)の隅(すみ)から隅(すみ)まで穿(ほじく)り返(かへ)すも、
非(ひ)の打(う)ちどころなし。
これを"完璧(かんぺき)"と云ふ。
就中(わきても)強烈(つよ)く印象(こゝろ)に殘(のこ)るは、
得(え)てして疎(おろそ)かにされがちな添(そ)へ物(もの)ゝ類(たぐひ)。
芹(せり)、生海苔(なまのり)、金時紅蘿蔔(きんときにんじん)、、。
太陽暦(あらたしきこよみ)では二月(にがつ)なれど、
舊暦(むかしのこよみ)では未(いま)だ師走(しはす)の末(すゑ)。
芹(せり)、菘(すゞな)、蘿蔔(すゞしろ)と、
春(はる)の七草(なゝくさ)の三種(みくさ)までもが勢揃(せいぞろ)ひ。
芹(せり)は牡蠣(かき)が顏色(かほいろ)なからしむるほどの馨(かをり)、
生海苔(なまのり)は、正(まさ)にこの時季(じき)、
往古(いにしへ)の大森(おほもり)に通底(つら)なる懐(なつ)かしさ、
金時紅蘿蔔(きんときにんじん)は火入(ひい)れの巧妙(たくみ)さ。
魚(うを)を瞻(み)る限(かぎ)り、
素材(そざい)そのものは最上等(とびきり)とは言(い)ひ難(がた)きもの。
しかはあれど、
それを補(おぎな)ひて餘(あま)りある技藝(わざ)の數々(かずかず)。
「神(かみ)がゝり」とも形容(い)ふべき細魚(さより)の〆工合(しめぐあひ)、
備長炭(びんちやう)による甘鯛(あまだひ)の火入(ひい)れと香氣(かをり)、
幽庵地(いうあんぢ)に蕗(ふき)の薹(たう)を加(くは)へた鰆(さはら)、
こちらの招牌(かんばん)たる、朝〆(あさじめ)の眞鯛(まだひ)、、。
その凄(すご)さを論(あげつら)ふなら、枚舉(かぞふ)るに遑(いとま)あらず。
奢(おご)りを窮(きは)め、至高(このうへなき)食材(もの)を用(つか)ひ、
五萬圓(ごまん)、六萬圓(ろくまん)を請求(と)る鋪(みせ)とは對極(さかしま)。
たゞ、あまりに隙(すき)がなさすぎ、面白味(おもしろみ)には虧(かく) 。
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【照相機】:東京通信工業 索尼(Sony)α7-II 無反光鏡可換鏡頭照相機(みらーれす)
【鏡頭】 :徠茨(Leitz)Super Angulon R 4.0/21 @F5.6
徠茨(Leitz)微距(Macro)Elmarit R 2.8/60 @F2.8
【2008-07-13】:
「近くで味よろしき店に」と駄々(だゞ)捏(こ)ぬる身内の求めにより、豫(かね)て氣に懸(か)ゝりし儘(まゝ)のこちらに、、。晝(ひる)にはまだ間があり、近くの水族館を覗(のぞ)く。數多(あまた)の魚(うを)、あるいは群れをなし、あるいは獨(ひと)り悠然と邊(あた)りを泳ぎ廻る。そのさま、空を飛ぶ鳥に異ならず。
中を一囘りし外に出るや、うだるがごとき暑さ。目の前には鈴ヶ森の刑場跡(あと)。病(やまひ)持ちの身内は眉を顰(しか)め「あなおそろし」と頻(しき)りに呟(つぶや)く。小塚原の鰻屋に足を運ぶ折は何一つ文句言はぬ身内が鈴ヶ森でかくも激しく怯(おび)ゆるは實(げ)に訝(いぶか)しき限り。いすゞ自動車を目指し通りを渡る。
嘗(かつ)ていすゞ自動車の邊(あた)りは大井坂下町と呼ばれ、架臺(シヤシ)剥(む)き出しのいすゞ製トラックが我が物顏で走り囘り、工場ではさまざまな車が拵(こしら)へられてゐたところ。トラックのほか、英吉利(アンゲリア)渡來(わたり)のヒルマンミンクス、「五十鈴(いすゞ)」の屋號に因(ちな)むベレルなど乘用車も。
店の造りはこの類(たぐひ)の店としてよくあるもの。見苦しき鐵(くろがね)の犬矢來(いぬやらい)姿を人目に晒(さら)す。午(むま)の刻過ぎに暖簾を潛(くゞ)るや、女將と思(おぼ)しき仲居(なかゐ)立ち現はれ中へと導く。店の壁はあちらもこちらも悉(ことごと)く大理石もどきの板で覆(おほ)はれ何とも無樣(ぶざま)。
訝(いぶか)しく思ひつ六千圓のめしに生麥酒(ビイル)を頼む。ほどなくして仲居(なかゐ)持ち來たりし麥酒(ビイル)に眼(まなこ)を奪(うば)はる。周(まは)りを檢(あらた)むるに、その泡、均(ひと)しく玻璃杯(グラス)の際(きは)のところに止(とゞ)まりて、泡と麥酒(ビイル)汁の割合も一つとして異なるものなし。
堪(たま)りかね先づは一口。その色白(いろじろ)にして口當(あ)たりの滑(なめ)らかなること、肌理(きめ)細かく泡立てたる卵白と異なるところなく、さぞや、腕の立つ職人が注(そゝ)ぎ零(こぼ)したものならむと覺(おぼ)ゆ。疑(うたが)ひの暗(くら)き雲(くも)忽(たちま)ちに晴れ、氣もそゞろ、俄(には)かに心浮き立つ。
先附けは盆に三つの玻璃(ビイドロ)切子(きりこ)が竝(なら)び、各々、蛸とオクラの煮凝り(ジユレ)、唐黍とヅキイニの揚げ物、海膽と生湯葉、が載る。蛸は吸盤を削(そ)ぎ、オクラは粘りの出るまで掻(か)き混ぜ、煮凝(にこゞ)りをあしらふ。僅(わづ)かながら鹽氣(しほけ)勝れりと云へど清々(すがすが)しき味はひ。
先附けであるにもかゝはらず揚げ物は暖(あたゝ)かく、思はず口許(くちもと)が綻(ほころ)ぶ。近頃巷(ちまた)に蔓延(はびこ)る甘き唐黍(もろこしきび)は必ずしも好むところにあらざれど、揚げることで際(きは)立つ甘さに目を瞠(みは)る。鹽(しほ)も天汁(てんつゆ)もあらざるに能(よ)く我が口を悦(よろこ)ばしむ。
椀は蝦眞薯(えびしんじよ)。器は合成樹脂ながら蓋(ふた)を去るや、あくまでも清く澄(す)み渡る汁(しる)に橙色の蝦眞薯が浮き、絲のごとく細く刻まれた鞘豌豆に青柚子が浮く。汁の旨さに魂消(たまげ)、眞薯(しんじよ)の出來に言葉を失なふ。女將に問ひ質(たゞ)すと活けの車蝦を手で擂(す)り潰(つぶ)したものとか。
濫(みだ)りに電氣(エレキテル)仕掛けの機械(からくり)に頼り、小手先の技に走る職人が幅を利かす中、その高き志(こゝろざし)に思はず頭(かうべ)を垂(た)る。この時季の椀なれば鱧(はむ)の葛叩(くづたゝ)きに如(し)くものなしと云へど、鄙(ひな)には稀(まれ)な腕の冴(さ)へ。武州荏原郡大井村の譽(ほまれ)。
造りは手描きと思(おぼ)しき菱形の皿に、鮪(しび)大トロ、赤身、白烏賊、眞子鰈が載る。あしらひは、白髮茗荷、山の芋、穗紫蘇、山葵。鮪(しび)は鮨屋のそれに迫り、なまじの會懐石では目にすることの出來ぬ代物(しろもの)。眞子鰈(まこがれひ)は寢かせたものを削(そ)ぎ切りにしたもので聊(いさゝ)か身に締りを缺(か)く。
煮物碗は賀茂茄子。薄味でほどよき硬さに煮たものに卸(おろ)した蘿蔔(だいこん)と生姜が載り、刻(きざ)み海苔と手で掻(か)いたと思(おぼ)しき鰹節がかゝる。中でも鰹節の姿が眩(まぶ)しく、鰹節削りで掻(か)ゝれたものとも玻璃(ビイドロ)の缺片(かけら)で細く掻(か)ゝれたものとも異なる趣(おもむき)。
さてお次に控(ひか)へしは鯛茶漬け。眞鯛の削(そ)ぎ切りに胡麻のたれがかゝり、香の物は胡瓜の糠漬けに蘿蔔(だいこん)と柴漬け。漬け方から盛り附けに至るまで一つとして手を拔きたるところなし。眞鯛もまた身に締りなし。米の飯(いひ)が無闇矢鱈(むやみやたら)に旨く、胡麻だれの鯛もろとも粗方(あらかた)胃の腑に。
すんでのところで思ひとゞまり、殘りの飯(いひ)に土瓶(どびん)の出汁(だし)を注(そゝ)ぐや、鯛(たひ)は忽(たちま)ち身を捩(よぢ)り悶(もだ)へ苦しむ。そのさま、この世のものとも思はれず。かくなる上は慌(あは)てゝ掻(か)き込むほか術(すべ)なし。手にした箸を操(あやつ)り、一息(ひといき)にこれを味はひ盡(つ)くす。
鯛の身は出汁(だし)を注(そゝ)ぎたる後(のち)もなほ、瑞々(みづみづ)しさを保つ。空(から)の碗に出汁(だし)を注(そゝ)ぎて再(ふたゝ)びこれを味はふに、昆布、鰹に勝(まさ)りて舌に踊り、喉(のみど)に纏(まと)はる。鯛の身そのものはあさみに分ありと云へど、出汁(だし)の味、遥(はる)か他(ほか)に秀(ひい)づ。
水菓子は玻璃(ビイドロ)の器に時季の果物をあしらひアングレエズ・ソオスをかけたもの。芒果(まんご)、櫻坊、西瓜、グレエプフルウツ、甜瓜(めろん)。芒果(まんご)は名にし負ふ日向(ひむか)の産ながら、五分角のもの一つばかりで味詳(つまび)らかならず。西瓜は徑七分の丸き塊(かたまり)に刳(く)り拔かれ、一つとして種の殘るものなし。
先附けから水菓子に至るまで手拔きのけはひなく、味附けも輕く細(こま)やか。さりながら薄きに過ぎるものはなく、どれもこれも口に合ふ。南蠻渡來(わたり)の蔬菜少なからずと云へど、拵(こしら)へ方に奇を衒(てら)ひたるところなく、水菓子を除かば、悉(ことごと)く、本朝にて古(いにしへ)より受け繼がれし技(わざ)。
惜しむらくは鮑、鮎、鱧(はむ)など時季の品なきこと。値(ね)の安き獻立選びたるが心殘り。窓際の翁(おきな)・老女(おみな)の四人卓には、これら時季の品が次々に運ばれ、傍(かたは)らに坐る我等には眼の毒、將(まさ)に涎(よだれ)も垂(た)れんばかり。何でも、古くからの店の顏なじみにて、夜の一萬圓の獻立とか。
お絞りは三度(みたび)供されると云ふに、茶は焙じ茶のみ。主(あるじ)は如何にも旨きもの喰はす面構(つらがま)へで、眼(まなこ)輝きに滿つ。名刺や暖簾のまき村の字は確かなる手ながら、名刺の地圖に「いすゞ」が「いすづ」と誤り刷(す)らるは、首捻(ひね)るばかり。偏(ひとへ)に本朝文化の衰(おとろ)へをあらはす。
掃愁帚(さけ)
片口(かたくち)
牡蠣(かき)と芹(せり)の湯葉蒸(ゆばむし)
細魚(さより)と菜花(なばな)の梅肉煮凝(うめにくじゆれ)
【椀】、甘鯛(あまだひ)
【椀】、香茹(しいたけ)
【椀】、鈴菜(すゞな、めかぶ)
鰒(ふぐ)
鰒(ふぐ)の皮(かは)
卸(おろ)しぽん醋(す)
鮪(しび)腹身(はらみ)
鮪(しび)赤身(あかみ)
新海苔(しんのり)
鰆(さはら)蕗薹(ふきのたう)地(ぢ)焼(やき)、蕗薹(ふきのたう)
鰆(さはら)蕗薹(ふきのたう)地(ぢ)焼(やき)、丹波黒豆(たんばぐろ)
鞘卷(さやまき)、新筍(しんたけのこ)、蚕豆(そらまめ)の銀餡(ぎんあん)
鞘卷(さやまき)
木(き)の芽(め)、新筍(しんたけのこ)、蚕豆(そらまめ)
虎鰒(とらふぐ)白子(しらこ)
卸(おろ)しぽん醋(す)
豬 (ぶた)角煮(かくに)
角煮(かくに)に馬鈴薯餡(じやがたらあん)
鯛茶漬(たひちやづけ)の眞鯛(まだひ)
有明(ありあけ)の海苔(のり)
米飯(こめのいひ)
香(かう)の物(もの)
鯛茶漬(たひちやづけ)
御焦(おこ)げ
草莓牛奶布甸(いちごみるくぷでいんぐ)
蜜柑煮凝(みかんぜり)
器類(うつはのたぐひ)
櫃臺(かうんた)周(まは)り
櫃臺(かうんた)周(まは)り
御絞(おしぼ)り
櫡(はし)と箸置(はしおき)
胡蝶蘭(こてふらん)
2016/02/09 更新
產土(うぶすな)よりほど近(ちか)き大森海岸(おほもりのうみべ)。
かつて、海水浴(みづあみ)、沙魚釣(はぜつ)りに戲(たはふれ)し海(うみ)。
近邊(あたり)に紫菜(のり)を天日乾燥(ひにほ)すさま、
今(いま)なほ、瞼(まぶた)に燒附(やきつ)きて離(はな)れず。
小人(それがし)、
紅本(あかほん)の★附(ほしつき)、
"食(た)べログ"四點超(よんてんごえ)の肆(みせ)を忌避(さ)くるが常態(つね)。
當家(こちら)★★★(みつぼし)なれど、據(よんどころ)なき事情(わけ)あり。
梅酒(むめのさけ)にて咽喉(のみど)を潤(うるほ)すや、
舌先三寸(したさきさんずん)輕薄(あさはか)に、
怪(あやし)しげなる言舌(ごんぜつ)秋毫(つゆ)停止(とゞ)まる兆(きざ)しなし。
かくて、膳(ぜん)の内容(なかみ)は不正確(つまびらかならず)。
東道(あるじ)、牧村親方(まきむらおやかた)、
漫(みだり)に華美虚飾(こけをおどすかざり)に逃走(にげわし)ることなく、
季(とき)に適(かな)ふ上質素材(よきもの)を巧妙(たくみ)に用(つか)ひこなし、
惜(を)しげもなく保持(も)てる技藝(わざ)を發揮(ふるふ)。
饗應(もてなし)を含(ふく)め、
獅子奮迅(しゝふんじん)・八面六臂(はちめんろつぴ)の働(はたら)き。
その容(さま)、阿修羅(あしゆら)を髣髴(おもは)せ、
千手觀音(せんじゆくわんのん)かと錯覺(あやまつ)。
唐突(やぶからスティック)の"八寸(はつすん)"。
いや、これは"先附(さきづけ)"歟(か)?
電光石火(はかなきほどにすばや)く湯引(ゆびき)せし車蝦(くるまえび)、
"活(いけ)"とも"茹上(ゆであ)げ"とも異(こと)なる食感(はごたへ・したざはり)。
倩(つらつら)"椀(わん)"の吸地(すひぢ)を窺(うかゞ)ふに、
纔(わづ)かに鰹脯(かつを)が嬴(か)ちながらも、突出(とびぬく)るわけでもなし。
敢(あ)へて血合(ちあひ)混(ま)ぜたる鰹脯(かつをぶし)とのこと。
昆布(こぶ)は蝦夷地(えぞち)の眞昆布(まこんぶ)。
吸口(すひくち)は黄柚(きゆ)、端(つま)姫菘(ひめかぶら)で、
椀種(わんだね)が鰒子(ふぐのしらこ)に唐墨(からすみ)、
と云ふ構成(くみたて)。
小人(それがし)選擇(えら)むは、味覺(した)に慣(な)れたる椀(わん)。
"向附(むかふづけ)"の中鮪差味(ちゆうばうさしミ)、
"燒物(やきもの)"の鰤(ぶり)、"煮物(にもの)?"の牛肉(うしのしゝ):
いづれも良質(よきもの)なれど、半點(いさゝか)膩(あぶら)が强烈(つよめ)。
就中(わきても)、A五(えいご)の"牛肉(うしのしゝ)"には辟易(たぢろぐ)。
一噛(ひとか)みする毎(ごと)に、
膏(あぶら)浮騰(ほとばし)りて、舌(した)と臼齒(おくば)に亂舞(まひをどる)。
若者(わかもの)ならいざ知(し)らず、
古稀(こき)近(ちか)き翁(おきな)には過酷(つら)きもの有之(これあり)。
おしなめて、
魚(うを)の處置(てあ)てに限定(かぎ)るなら、
今(いま)をときめく若手鮓職人(わかてすしゝよくにん)が贏(まさ)る。
創意工夫(あらたなるこゝろみ)もまた然(しか)り。
早春(はるのはじめ)の笋(たけのこ)と和布(わかめ)の邂逅(であひ):
「素材(そざい)と般若湯(さけ)由來(よりきた)る甜(あまみ)」。
若布(わかめ)の嫩(いとやはらか)なる縁由(ことのよし)、
「偏(ひとへ)に筍(たけのこ)の作用(はたらき)に因(よ)る」とのこと。
僕(やつかれ)、
若布(わかめ)は適度(ほどよ)き齒觝觸(はあたり)あるを嗜(この)む。
しかはあれど、調味(あぢつけ)に一(ひと)つとして誤(あやま)りなく、
實言(まこと)、佳味(よきあぢはひ)。
中鮪差身(こぶりのしびさしミ)は、切附(きりつけ)厚(あつ)く冷(つめ)ため。
端(つま)の紫菜(のり)も"スサビノリ"。
やはり、"アサクサノリ"に比較(くら)べ、口解(くちど)けに劣(おと)る。
他方(かたや)、和布(わかめ)は蕩(とろ)けんばかり。
幼(いとけな)き砌(みぎり)以來(よりこのかた)、
小人(それがし)が味覺(した)は、
品川~大森(このあたり)の"アサクサノリ"による"淺草海苔(あさくさのり)"、
阿波鳴門(あはなると)の"灰干和布(はいぼしわかめ)"に馴化(なれしたしむ)。
この日(ひ)に限(かぎ)るなら、
椀(わん)の吸地(すひぢ)と唐墨(からすみ)は嗜好(このみ)と隔(へだゝ)り。
牛肉(うしのしゝ)、魥(さしミ)、紫菜(のり)、和布(わかめ)は、
「北(きた)と南(みなみ)」、「東(ひがし)と西(にし)」ほどに眞逆(まさかしま)。
されど、遉(さすが)は、招牌(かんばん)がはりの"鯛茶漬(たひちやづけ)":
その儘(まゝ)餐(くら)ひて吉(よし)、
溏油(だし)をかけて"茶漬(ちやづけ)"と化(な)すもまた吉(よし)。
草莓(いちご)と甜瓜(あまきうり)の菓子(くわし)も美物(よきあぢ)。
因(ちな)みに、當日(このひ)の菜譜(こんだて)は如下(つぎのとほり):
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【食前酒(のどへのうるほひ)】:
・梅酒(むめのさけ)
【八寸(はつすん)】擬(もど)きの【先附(さきづけ)】:
・助子(すけこ)
・鰊子(かずのこ)+鮏(さけ)鮞(はらゝご)
・車蝦(くるまえび)
【椀(わん)】:
・鰒子(ふぐしらこ)と唐墨(からすみ)
【向附(むかふづけ)】:
・鰒(ふぐ)差味(さしミ)
・中鮪(ちゆうばう)魥(さしみ)
【燒物(やきもの)】:
・鰤(ぶり)+蘿蔔(すゞしろ)
【强殽(しひざかな)?】
・笋(たけのこ)+和布(わかめ)
【煮物(にもの)?】:
・牛肉(うしにく)の擬制犂炙(すきやきもどき)
【飯(めし)】:
・米飯(こめのいひ)
・菹(かうのもの)
・茶漬(ちやづけ)の眞鯛(たひ)
【菓子(くわし)】:
・草莓(いちご)+甜瓜(あまきうり)
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【照相機】:東京通信工業 索尼(Sony)α7 II 無反光鏡可換鏡頭照相機(みらーれす)
【鏡頭】 :東蔡(Carl Zeiss Jena)MC Pancolar 1.8/50 @F2.4