1回
2012/03 訪問
"ぬなは"なく うき世の民に 受くるかな さんだの牛に 山獨活の汁
胡桃(くるみ)
黒豆(くろまめ)
あしらひの葉(は)
甘酒(あまざけ)
椀(わん)
つくり
つくり、鮃(ひらめ)
三田牛(さんだうし)陶板炙(たうばんやき)の牛酪(ばた)
三田牛(さんだうし)陶板炙(たうばんやき)の未醤(みそ)
三田牛(さんだうし)陶板炙(たうばんやき)
只顧(ひたすら)炙(あぶ)る
獨活(うど)にあしらひの椿(つばき)
獨活(うど)
菜蔬(あをもの)ゝ揚物(あげもの)
菜蔬(あをもの)ゝ揚物(あげもの)
抹茶鹽(まッちャじほ)
吸物椀(すひものわん)
椀(わん)の中身(なかみ)
香(かう)の物(もの)
獨活皮(うどかは)の金平(きんぴら)
香(かう)の物(もの)
香(かう)の物(もの)
三田牛(さんだうし)土鍋飯(となべめし)
三田牛(さんだうし)土鍋飯(となべめし)
三田牛(さんだうし)土鍋飯(となべめし)、焦(こ)げ
水菓子(みづぐわし)の苺(いちご)
蓴菜餅(ぬなはもち)
暖簾(のれん)
雛人形(ひなにんぎやう) 【ピンボケ御免】
2012/03/26 更新
"蓴菜(ぬなは、ジュンツァイ)"。
これを好(この)みて啖(くら)ふは本朝(わがくに)と唐山(もろこし)。
震旦(もろこし)では、纔(わづ)かに、呉地方(ごのち)江蘇省(かうそしやう)太湖(たいこ)、
肖山(せうざん)の湘湖(しやうこ)、杭州(かうしう)西湖(せいこ)に産(さん)するのみと云ふ。
西湖(せいこ)三潭印月(さんたんいんげつ)のものは夙(つと)に高名(なだか)く、
"西湖蓴菜湯(シーフージュンツァイタン)"は、杭州(かうしう)を代表(だいへう)する名菜(めいさい)。
僕(やつかれ)もまた二十年前(はたとせまへ)の夏(なつ)、
西湖畔(せいこほとり)なる『樓外樓』などにて啖(くら)ひたる前例(ためし)あり。
古(ふる)きこと故(ゆゑ)仔細(こまかなるところ)は審(つばら)ならねど、
扶桑(わがくに)のものよりも大(おほ)きく、金華火腿(きんくわはむ)出汁(だし)の湯(しる)となす。
http://www.asahi-net.or.jp/~py7a-hrm/yakibuta/zhejang/hanzh14.htm
http://www.togenkyo.net/modules/food/143.html
中華(もろこし)では、郷里(さと)の喰(く)ひ物(もの)、
すなはち、菰(まこも)、蓴羹(ぬなはじる)、鱸膾(うをのなます)への郷愁(おもひ)止(や)まず、
役人(やくにん)を辭(や)めて駕(かご)に乘(の)りて歸(かへ)る者(もの)すらありとか。
"蓴鱸之思"、"千里蓴羹"なる成語(せいご)として今(いま)に傳(つた)はる。
日本(ひのもと)ではこれを"ぬなは"と呼(よ)ぶ。
"大言海(だいげんかい)"に據(よ)らば、"滑之葉(ぬるのは)"、"滑繩(ぬなは)"の意(こゝろ)ならんかと。
當家(こちら)の屋號(やがう)"ぬなわや"は、勿論(いふまでもなく)これに因(ちな)む。
洛(みやこ)で名高(なだか)き料理屋(れうりや)舉(こぞ)りて用(つか)ふと云ふ當家(こちら)の蓴(ぬなは)。
いう子女史(ねえさん)の畫像(がざう)では甚(いと)鮮(あざ)やかなる翡翠色(ひすいゝろ)。
萌(も)え出(いづ)る若艸(わかくさ)、手弱女(たをやめ)の指(ゆび)に煌(きらめ)く翠玉(えめらるど)。
なんでも、同(おな)じ"ぬなわや"の"蓴(ぬなは)"でも、
京師(みやこ)で供(いだ)す頃(ころ)には色(いろ)褪(あ)せ元の姿形(すがた)を留(とゞ)めずと、、。
さもありなん。
蓴(ぬなは)ばかりか、蓼(たで)も、山葵(わさび)も、
時(とき)を經(ふ)るごとにその鮮(あざ)やかなる色(いろ)を失(うしな)ふが尋常(つね)。
小野小町(おのゝこまち)も老(お)いれば醜(みにく)き姥(うば)となる。
生憎(あやにく)此度(こだみ)は"獨活盡(うどづ)くし"の膳(ぜん)。
先附(さきづけ)に始(はじ)まり、高名(なだか)き"三田牛(さんだうし)"を堪能(あぢは)ひ、
別室(べつしつ)での"蓴餠(ぬなはもち)"に終(を)はる至福(しふく)の一時(ひとゝき)。
獨活(うど)は樣々(さまざま)に用(つか)はれ、千變萬化(せんぺんばんくわ)。
鶏(とり)が啼(な)く東(あづま)の地(ち)では精進揚(しやうじんあげ)、
もしくは茹(ゆ)でたるを酢味噌(すみそ)で戴(いたゞ)くが往古(いにしへ)よりの風習(ならひ)。
當家(こちら)では、擂(す)りて團子(だんご)となし、あるいは附醤油(つけじやうゆ)にこれを含(ふく)ませ、
あるいは獨活(うど)の皮(かは)を剥(む)きて梅肉(うめ)にて味(あぢ)はふ。
獨活(うど)の旨(うま)さもさることながら、驚(おどろ)くべきは出汁(だし)の巧妙(たくみ)さ。
およそ出汁(だし)なるものは芝居(しばゐ)の黒衣(くろご)。
出汁(だし)も過(す)ぎれば素材(そざい)の特性(もちあぢ)を損(そこ)なふ。
以爲(おも)ふに、素材(そざい)を活(い)かすも殺(ころ)すも出汁(だし)次第(しだい)。
良(よ)き素材(そざい)には淡(あは)く、
惡(あ)しき素材(そざい)・味(あぢ)なき素材(そざい)には強(つよ)くがよい。
潮汁(うしほじる)、眞薯(しんじよ)、葛叩き(くづたゝき)と、未醤椀(みそわん)でも大差(おほきなるたがひ)。
蕎麥(そば)には蕎麥(そば)の、饂飩(うんどん)には饂飩(うんどん)の出汁(だし)あり。
一(ひと)つとして外(はづ)れなき中(なか)、
就中(わきても)印象深(おもひでぶか)きは"三田牛(さんだうし)の土鍋飯(どなべめし)"。
我(われ)を忘(わす)れ、辭(ことば)を失(うしな)ひ、只顧(ひたすら)これを貪(むさぼ)り啖(くら)ふ。
最後(いやはて)にお焦(こ)げを堪能(あぢは)ひ、霎時(しばし)夢心持(ゆめごゝち)。
管待(もてなし)に擔當(あた)るは、手傳(てつだ)ひの姥(おみな)。
當家(こちら)の女將(おかみ)は專(もつぱ)ら烹調(にたき)に大童(おほわらは)とか。
類稀(たぐひまれ)なる調度(てうど)・器(うつは)の類(たぐひ)は、
悉(ことごと)く舊家(ふるきうち)に代々(だいだい)傳(つた)はると思(おぼ)しきもの。