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昼の点数:4.5
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¥8,000~¥9,999 / 1人
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料理・味 4.5
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|サービス -
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|雰囲気 4.0
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|CP -
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|酒・ドリンク -
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[ 料理・味4.5
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| 酒・ドリンク- ]
星のつく そつなく見えし 鮓屋より この主人(あるじ)ほど 數寄者(すきもの)はなし
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2015/01/19 更新
當家(こちら)鮓(すし)の『めくみ』。
加州(かゞ)なれば『小松彌助』が大名(なのおほきなること)、
宛然(あたかも)霹靂(いかづち)が耳(みゝ)を貫(つらぬ)くがごとし。
しかはあれど、味神樣(あぢがみさま)に據(よ)らば、「『めくみ』こそが北陸一(ほくりくいち)」。
吾儕(わなみ)が轎(のりもの)ゝ當家(こちら)に到達(つ)きしは午(むま)の刻(こく)前(まへ)。
暖簾(のれん)はおろか、屋號(やがう)を示す行燈(あんどん)にも明(あ)かりが點(とも)ることなく、
商賣(あきなひ)の氣配(けはひ)漂(たゞよ)ひ來(きた)らず。
唯(たゞ)賈内(なか)より何(なに)やら叩(たゝ)く音(おと)の響(ひゞ)くのみ。
邸(やしき)の普請(ふしん)は見事(みごと)なるものにて、雨樋(あまどひ)は銅葺(あかゞねぶ)き。
玄關(げんくわん)の玻璃戸(がらすど)より賈内(なか)の景状(ありさま) を窺(うかゞ)ふに、
漬(つ)け場(ば)周圍(まはり)は檜(ひのき)と思(おぼ)しき一枚板(いちまいゝた)。
利休箸(りきゆうばし)までうち揃(そろ)ひて、準備萬端(じゆんびばんたん)をさをさ懈(おこた)りなし。
西洋時辰儀(せいやうどけい)にして十二字半(じふにじはん)。
割烹着(かッぱふぎ)姿(すがた)も凛々(りゝ)しき御内儀(おかみ)駐車場(くるまどめ)に來(き)たりて、
店開(みせびら)きとの旨(むね)を吾儕(わなみ)に告(つ)げたり。
慥(たしか)に屋號(やがう)を示(しめ)す行燈(あんどん)にも燈火(あかり)。
亭主(あるじ)が前(まへ)には瑕(きづ)一(ひと)つなき俎(まないた)。
胸(むね)を張(は)りて曰(いは)く、
「木曾檜(きそひのき)にて四日(よッか)に一度(ひとたび)はこれを削(けづ)るが生平(つね)」と。
俗(ぞく)に"かうんた"と號(よびな)す板(いた)は柾目(まさめ)の臺灣檜(たいわんひのき)。
木曾檜(きそひのき)ならねど、これほどの柾目(まさめ)は江戸(えど)にも稀有(まれ)。
職人の魂(たましひ)たる庖丁(はうちやう)の"本燒(ほんやき)"なるは勿論(いふもさら)なり。
隅々まで磨(みが)き込まれたる容(さま)、曇(くも)りなき鏡(かゞみ)に彷彿(さもにた)り。
勿驚(おどろくなかれ)、その中(なか)の一振(ひとふ)りは緑松石(とるこいし)の柄(つか)。
最初(いやさき)に小振(こぶ)りの卸(おろ)し金(がね)をば取出(とりいだ)し、
山葵(わさび)を廻(まは)して、ゆるりとこれを擂(す)り卸(おろ)す。
つぶさにそれを檢(あらた)むれば、鮫皮(さめがは)を髣髴(おもは)す肌理(きめ)と粘り。
寔(まこと)、能(よ)く山葵(わさび)を知(し)る者(もの)ゝ技藝(わざ)なるべし。
握(にぎ)り鮓(ずし)十四(とあまりよつ)に椀(わん)なる"一通(ひとゝほ)り"。
すなはち、眞子鰈(まこがれひ)に始まり、劍先烏賊(けんさきいか)、紫海膽(むらさきうに)、
赤海膽(あかうに)、がすえび、櫻鱒(さくらます)、細魚(さより)、蝦蛄(しやこ)、鳥貝(とりがひ)、
赤西貝(あかにしがひ)、黒鮑(くろあはび)、岩牡蠣、燒穴子、鶏卵燒(たまごや)き。
卷物(まきもの)はなく、粗方(あらかた)地(ぢ)の時季(じき)に適(かな)ふもの。
能登島(のとじま)の眞子鰈(まこがれひ)、能登(のと)のがす蝦(えび)、櫻鱒(さくらます)、
細魚(さより)、蝦蛄(しやこ)、七尾(なゝお)の鳥貝(とりがひ)、赤西貝(あかにしがひ)、
越前(ゑちぜん)黒鮑(くろあはび)、岩牡蠣(いはがき)、穴子(あなご)、これなり。
"旅(たび)のもの"は纔(わづ)かに、肥州(ひしう)劍先烏賊(けんさきいか)、
蝦夷地(えぞち)の紫海膽(むらさきうに)、肥州唐津(ひごからつ)の赤海膽(あかうに)のみ。
吃驚(おどろ)くべきは房州(ばうしう)大原(おほはら)にて漁(すなど)られし、
"また"と號(よびな)す尤(いと)大きなる目高鮑(まだかあはび)の殼(から)。
長徑(さしわたし)大約(およそ)七寸餘(なゝすんあまり)。
これ一つで十六萬(じふろくまん)*)、合(あ)はせて五十萬圓(ごじふまんゑん)とぞ。
これほどの"また"を用(つか)ふは銀座(ぎんざ)の鮓店(すしや)にても稀有(まれ)。
訝(いぶか)りてその理(ことわり)を訊(たづ)ぬれば「築地(つきぢ)よりの仕入れ」とぞ。
何でも東道(あるじ)の修業先(しゆげふさき)は音に聞く江戸(えど)の老舖(しにせ)。
米を湯炊(ゆだ)きし、穴子(あなご)に顕著(きはだ)ちたる特徴(しるし)ありとか。
倩(つらつら)その鮓(すし)を眺(なが)め、徐(おもむろ)にそれを吟味(あぢは)ふに、
寸毫(つゆ)、舎利(しやり)と生薑(はじかみ)に嫌(いや)な甜(あま)みなし。
舎利(しやり)は口に抛(はふ)り込むや瞬(またゝ)く中(うち)に解(ほど)け、
霎時(しばし)奧齒(おくば)に搖蕩(たゆた)ひたる後、吭(のんど)を經て胃の腑(ふ)に、、。
惜(を)しむらくは、聊(いさゝ)か米粒(こめつぶ)に滑(なめ)らかさを缺(か)くこと。
沙糖(さたう)は水氣(みづけ)を保ち滑らかさを與(あた)ふる祕藥(ひめぐすり)。
鮓種(すしだね)の多くは、切附(きりつ)けたるのち、長手(ながて)に切分(きりわ)け、
これを重ね用(もち)ゐること武士(ものゝふ)が纏(まと)ふ鎧(よろひ)のごとし。
眞鯖(まさば)を横(よこ)に切(き)り分(わ)け重(かさ)ぬるに似(に)たりと云へども、
その理由(ことわり)は全(まッた)く別(べつ)。
すなはち、「鮓(すし)の徒(いたづら)に長(なが)きは、
口(くち)に逆(さか)らひ、これを啖(くら)ふに難(かた)ければなり」、となむ。
かゝる鮓種(すしだね)を左掌(ゆんでのたなぞこ)に取り、件(くだん)の山葵(わさび)を載せ、
右(めて)に掴(つか)みたる舎利玉(しやりだま)を加(くは)へ成形(かたちをとゝの)ふ。
唯(たゞ)の一度(ひとたび)だに舎利(しやり)を千切(ちぎ)り捨(す)つることあらで、
巧妙(たくみ)に左(ゆんで)の拇(おやゆび)を操(あやつ)り能(よ)く右(めて)を利(き)かす。
手煆煉(てだれ)とは雲壤(うんじやう)の違(たが)ひなれど、なかなかの手際(てぎは)。
その姿形(すがた)、俗(よ)に云ふ"扇(あふぎ)の地紙形(ぢがみがた)"。
主人(あるじ)、控(ひか)へめながらも、一度(ひとたび)何(なに)かを問(と)ふや、
忽地(たちまち)、語(かた)り始(はじ)めて止(とゞ)まることを知(し)らず。
その容(さま)、宛然(あたかも)長雨(ながあめ)の堰(せき)を切(き)りたるがごとし。
その博識(はくしき)なること、學者(がくしや)の顏色(がんしよく)をなからしむるほど。
食品科學(しよくひんくわがく)、魚類學(ぎよるいがく)、醫學(いがく)、、、。
江戸の老舖(しにせ)にて習得(ならひおぼ)えたる技藝(わざ)に、これらの智慧(ちゑ)を加へ、
更に、この地ならではの良(よ)きところを活かして、足らざるを補(おぎな)ふ。
正に"鬼(をに)ゝ金棒(かなぼう)"と言ふべし。
築地なれば、津々浦々(つゝうらうら)より選(よ)りすぐりの素材(よきもの)が揃ふ。
高き價格(ね)に惹(ひ)かるゝこと、水の高(たか)きより低(ひく)きに流(なが)るゝに同じ。
さりながら、よき鯛(たひ)・海鰻(はむ)の京坂(けいはん)に集(あつ)まるに似(に)て、
鳥貝(とりがひ)は、加賀(かゞ)→京坂(けいはん)→東都(えど)の順(じゆん)とぞ。
江戸では鳥貝(とりがひ)よりも寧(むし)ろ赤貝(あかゞひ)を珍重(おもん)ず。
築地にても"七尾(なゝを)の鳥貝(とりがひ)"は遍(あまね)く知らるゝところなれど、
丹後(たんご)"舞鶴(まひづる)"ほどのものはなし。
この日の鳥貝(とりがひ)は舞鶴(まひづる)に聊(いさゝ)かも引けを取(と)らぬもの。
これよりも更(さら)に大(おほ)きなる八十匁(はちじふもんめ)に及(およ)ぶものすらありとか。
走(はし)りの蝦蛄(しやこ)また然(しか)り。
江戸(えど)でも北陸(ほくりく)の蝦蛄(しやこ)は夙(つと)に名高(なだか)し。
勿驚(おどろくなかれ)、當家(こちら)の蝦蛄(しやこ)は地(ぢ)のものゝ茹(ゆ)で置(お)き。
そもそも、蝦蛄(しやこ)を用(つか)ふに兩(ふた)つの流儀(やりかた)あり。
一つは、濱(はま)にて茹上(ゆであ)げたるを仕入(しい)れ漬込(つけこ)みとせしもの。
今一つは、活(い)けの蝦蛄(しやこ)を茹上(ゆであ)げ暖(あたゝ)かきうちに握るもの。
濱茹(はまゆ)でのものは、身も萎(しを)れ、甜(あま)みを失ふが通常(つね)。
ところがこの蝦蛄(しやこ):
柔らかく、身は肥(こ)え、豊潤(ゆたか)なる甘味(あまみ)すら伴(ともな)ふ。
"茹(ゆ)で置(お)き"てなほ"茹(ゆ)で上(あ)げ"に勝(まさ)るは、
實(げ)に、主人(あるじ)が力量(ちから)と工夫(くふう)の賜物(たまもの) 。
足(あし)の速(はや)き"がす蝦(えび)"も敢(あ)へてこれを寢(ね)かす。
牡丹蝦(ぼたんえび)など深海(ふかきうみ)に棲(す)む蝦(えび)は、
死ゝて後(のち)自(みづか)ら粘(ねば)り氣を生(しやう)じ、みかけの甜(あまみ)を増す。
これ宛然(あたかも)、水團粉(かたくりこ)を塗す震旦(もろこし)の祕技(ひめわざ)に似たり。
〆て寢(ね)かせ、旨味(うまみ)をばこゝを極限(かぎり)と引出(ひきいだ)す技藝(わざ)は、
ほかの鮓種(すしだね)とて同(おな)じこと。
身(み)を活(い)かしつ、熟成(うら)して旨味(うまみ)を引出(ひきいだ)す奧義(あうぎ)を窮(きは)め、
もはや鮓(すし)にかゝはる諸學(しよがく)にして無所不通(つふじざるところなし)。
修業先(しゆげふさき)に學(まな)びて、なほ、妄(みだ)りに眞似(ま)ぬるを嫌ふ。
江戸で"蒸鮑(むしあはび)"と號(よびな)すは酒煮(さかに)ゝて、蒸すものにあらず。
彼(かれ)は旨味(うまみ)の煮汁(にじる)に逃(に)ぐるを懼(おそ)れ、これを蒸す。
魚(うを)蒸(む)すは唐(もろこし)の獨擅場(ひとりぶたい)なれど、主人(あるじ)もまたそれを識る。
鮑(あはび)ばかりか、鶏卵燒(たまごや)きや穴子(あなご)も、
修業先(しゆげふさき)とは異(こと)なる手法(やりかた)。
鶏卵燒(たまごや)きは聊(いさゝ)か燒が甘(あま)く、甜(あま)みも纔(わづ)かに稀薄(うすめ)。
時季(じき)惡(あ)しく、燒穴子(やきあなご)は陳腐(とるにたら)ぬ貨物(しろもの)。
此度(こだみ)の旅(たび)にて三度(みたび)堪能(あぢは)ひしが櫻鱒(さくらます)。
一(ひと)つは當家(こちら)の"醤油漬(しやうゆづ)け握(にぎ)り"。
今一(いまひと)つは"鍋仕立(なべじた)て"、殘(のこ)る一(ひと)つが燒物(やきもの)。
僕(やつかれ)が味覺(した)に最(もッと)も合ふが、ほかならぬ"醤油漬(しやうゆづ)け"。
鮨下駄(すしげた)は漆職人(うるしゝよくにん)たる父(てゝ)の手になる山中塗(やまなかぬり)。
以爲(おも)ふに、鮓(すし)の映(は)ゆるは黒漆(くろうるし)。
設(しつら)へ、技藝(わざ)、素材(ねた)、いづれをとりても眼を睜(みは)るばかり。
味神樣(あぢがみさま)襃(ほ)むるも諾(うべ)なるかな。
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*)相知(なじみ)の鮓屋(すしや)の説(はなし)ではありえぬ價格(ね)と云ふ。