2回
2022/05 訪問
行列の先に広島の“旨い”がある。——ひろしま丸かじり 中ちゃんで味わう鉄板エンターテインメント
広島の中心地、夜になるとどこか妖しく熱気を帯びる飲み屋街。
その奥に、常に客が押し寄せる人気店「ひろしま丸かじり 中ちゃん」がある。
GWともなれば、名だたるお好み焼き店の前はどこも長蛇の列。
ここも例外ではなく、店先には覚悟を試すような行列が伸びていた。
だが、この店に関しては“並ぶ価値がある”。広島の食通の間でそう囁かれる名店だ。
店内は鉄板を囲むカウンターが中心。
ライブ感ある焼きの風景が目前で楽しめるのが魅力で、数卓だけ存在するテーブル席はまさに“幻の席”。
この日も1時間待って、ようやくカウンターへ滑り込むことができた。
目の前の鉄板で、野菜、そば、ウニ、クレソン…さまざまな食材が踊る様子に、食欲とは別のワクワクがこみ上げてくる。
このGW、実は二度訪れた。
惹かれてしまった理由は単純で、どれも圧倒的に美味しかったからだ。
名物「ウニクレソン」は鉄板の上で熱を帯びたウニの香りがふわっと立ち、クレソンのほろ苦さと香ばしいバゲットが一体となる“旨さの三重奏”。
広島の名物として広く知られるが、中ちゃんのそれは特にバランスが良く、必食の一品だ。
お好み焼きは、ぱりっと焼かれた麺とふんわり重なる生地が絶妙。
野菜の甘みも立ち、広島お好み焼きの王道を貫いている。
アスパラバターの太さと瑞々しさも印象的で、鉄板で焼かれる香りだけで酒が飲めるレベル。
さらに意外にも“中華そば”が抜群。
豚骨ベースながら重すぎず、飲み屋の〆というより“一杯のご馳走”。
ドリンクでは、地元で人気の「チー坊サワー」にも挑戦。
やや甘めだが、鉄板の香ばしさと合わせれば不思議とクセになる味わいだ。
行列に並ぶうちに出来上がる高揚感、鉄板を前に感じる臨場感、そして皿に積み重なる“広島の旨いもん”。
中ちゃんは、ただのお好み焼き屋ではない。
訪れた時間ごと丸ごと“美味しい思い出”に変えてくれる場所だ。
広島で本気のお好み焼きを求めるなら、この行列の最後尾に並ぶ覚悟を。
その先には、確かに最高の一枚が待っている。
2025/11/29 更新
【要約】
広島・薬研堀の裏通りにある人気の鉄板酒場「ひろしま丸かじり 中ちゃん」。行列必至の昭和レトロな店内には、大きな鉄板を囲むカウンターと熱気が満ちる。名物はバター香る「ウニクレソン」と「カキバター」、香ばしく焼き上げた「牛こうねのあみ焼き」、そして〆の「お好み焼きスペシャル」。どれも素材の旨みを生かした鉄板料理で、広島の味覚が詰まっている。ドリンクは「チー坊サワー」や芋焼酎ソーダ割など地元色豊か。価格は一品800〜1,500円前後、お好み焼きは1,300円ほど。観光客にも地元客にも愛される、広島の夜を代表する名店。
【本文】
広島の夜、金曜の夕暮れ。路面電車のベルが響く中、薬研堀の裏通りを歩いていると、ふと鼻をくすぐる香ばしいソースの匂い。
レトロな看板の前には、すでに6人ほどの列ができていて、しばらくするとあっという間に10人待ちへと膨れ上がった。
この街の夜を代表する人気店、「ひろしま丸かじり 中ちゃん」に辿り着いた。
1時間程待って暖簾をくぐると、すぐ目の前に広がるのは熱気を帯びた大きな鉄板。
パチパチと油がはじけ、ソースとバターの香りが立ちのぼる。
まるで昭和の屋台をそのまま切り取ったような空気感。
カウンター越しに焼かれる音を聞きながら、思わず席につく前から笑顔になってしまう。
まずはチー坊サワーで喉を潤す。
広島ローカルの乳酸飲料「チチヤス」をベースにしたこのサワーは、優しい甘みとほのかな酸味が心地よく、旅先の空気と相まってどこか懐かしい。
続けて芋焼酎のソーダ割を頼み、鉄板の向こうで焼かれていく食材たちを眺めていると、期待がじわりと高まってくる。
最初に運ばれてきたのは、カキバターのハーフ。
ジュワッと音を立てながらバターの香りが広がり、焼きたての牡蠣はプリッとしてクリーミー。
ひと口で広島の海を感じるほどの濃厚さに思わず頬が緩む。
続いて登場したのは、牛こうねのあみ焼き。脂と赤身のバランスが絶妙で、表面は香ばしく、中はしっとりジューシー。
塩だけのシンプルな味付けが、この肉の旨みを際立たせてくれる。
そしてこの店の名物、ウニクレソン。
鉄板の上でクレソンがしんなりとしてきたところに、たっぷりのウニを投入。
バターと醤油の香ばしい香りが広がる瞬間、周囲の会話が一瞬止まる。
レモンを軽く絞ってバゲットに乗せれば、口の中いっぱいに広がる贅沢な旨み。
クレソンのほろ苦さとウニの甘みが重なり合い、これほど酒が進む料理が他にあるだろうかと思うほどだ。
〆はもちろん、お好み焼きのスペシャル。
生麺を使ったそば入りで、鉄板でカリッと焼き上げられた麺の香ばしさがたまらない。
キャベツの甘みと豚肉のコク、そしてソースの深い味わいが重なり合い、ひと口ごとに「やっぱり広島に来てよかった」と実感する。
鉄板の前で食べるこの一枚こそ、旅の夜のごちそうだ。
気づけば焼酎をおかわりし、いつの間にか店内の笑い声と混ざっていた。
昭和レトロな鉄板の空気、鉄板を囲む人々の表情、そして料理の一皿一皿に込められた広島の心意気。
すべてが温かく、すべてが旨い。
外に出ると、夜風が少しひんやりしていた。
振り返ると、まだ店の前には新しい行列ができている。
鉄板の向こうに灯るオレンジ色の光が、まるで「また来いよ」と語りかけているようだった。
次に広島を訪れたら、またこの鉄板の前で、ウニクレソンを待ちながらチー坊サワーを飲もう。
あの香りと音が恋しくなる夜が、きっとまたやってくる。