『「高峰秀子生誕100年プロジェクト ファイナル」 @新文芸坐』AI94さんの日記

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ネットニュースで3月20日(木)~30日(日)に「高峰秀子生誕100年プロジェクト ファイナル」という特集上映の情報を得て、その中で一番気になった『浮雲』を観に行ってきました。

『浮雲』(1955年) 監督:成瀬巳喜男
戦時中の1943年、農林省のタイピストとして仏印(現ベトナム)へ渡ったゆき子は、同地で農林省技師の富岡に会う。当初は富岡に否定的な感情を抱いていたゆき子だが、やがて富岡に妻が居ることを知りつつ2人は関係を結ぶ。
終戦を迎え、妻・邦子と離婚すると言って富岡は先に帰国し、ゆき子は後を追って東京の富岡の家を訪れるが、彼は妻とは別れていなかった・・・。

原作・林芙美子、脚本・水木洋子という不世出の作家2人の大作で、監督の成瀬と主演の高峰秀子にとっても生涯の代表作となった。
若き日の岡本喜八がチーフ助監督を務めており、撮影、美術、音楽などで「成瀬組」の名スタッフが勢揃いした作品。
かの小津安二郎をもってして、「俺にできないシャシンは溝口の『祇園の姉妹』と成瀬の『浮雲』だけだ」と語ったそう。

仏印に渡り富岡と恋に落ち、紆余曲折あった末、体調を崩していく主人公ゆき子を仏印時代と帰国後の変化、その時代に流れて生きていく様を高峰秀子が見事に演じていました。
背景も環境も現代とは違い、女性の地位が確立されていなかった当時、男性に頼って生きていくことしかなく(できずに)彷徨う女性の惨さ、寂しさは何ともやるせないです。

外地で妻子ある身でありながらもゆき子と関係を持ち、帰国後ゆき子と結婚するでもなく、旅先で出会った女性とも関係を結んでしまう富岡という男性・・・社会的地位があった頃から戦後失業して落ちぶれた姿まで、いとも器用に女性の間を浮遊する男性像を森雅之が巧みに演じていました。
こんな優柔不断でクズな男を演じてもどこか魅力的に見えてしまうのは、それが森雅之という俳優から滲み出る魅力としか言いようがありません。(それもそのはず、彼自身かなりの浮気者だったという話です。)
『安城家の舞踏會』、『白痴』そして『浮雲』と、いずれも全く違った役どころですが、どんな役を演じてもそつなく演じ分けてしまうのはただただすごいの一言です。
成瀬、高峰の代表作であるだけでなく、森にとっても代表作の一つと言えると思います。

高峰秀子は原節子、高峰三枝子のような大輪の花を思い浮かべるような女優ではない(失礼!)けれど、庶民的な明るさとくったくのない笑顔、凛とした美しさと芯の強さを持ち合わせた素晴らしい演技派女優であることを今作を観てとても感じました。彼女くらいの身長だとどの男優と共演しても、どの役柄を演じてもぴたりとはまる元来の素質があったことも感じます。
だからこそ、日本を代表する大女優になったのではないかと今更ながら実感しました(リアルタイムで観ていない世代は皆そうやって再認識するのではないかと)。

白い(白黒映画なので実際の色は不明ですが)ワンピースを着て登場する仏印でのゆき子は清楚でとても綺麗でした!そして、戦後苦しい状況下で生き抜いていくゆき子は退廃感ある色気があってとても魅力的でした。

週末でしたが周知の作品(つまり上映されている回数も多い?)だからなのか、観客数は少なく年齢層は高めで、男性が多かったです。

女優としてだけではなく、文筆家としても数々のエッセイを書いて評価が高かったそうで、会場には彼女著書の本がたくさん並んでいました(この点に関しては初めて知りました)。

ちょうど10年程前、原節子さんの追悼上映を行っていたのがこちらで、最終日は整理券が配られるほどの激混みで大変なことになったのですが、今回はオンラインでチケット購入可能になっていました。
(自分のスケジュールが分かっていさえすれば先に予約できるので助かります。)


実は今年初めに横浜のとあるミニシアターで本数はもっと多かったですが同様の特集上映があったものの、場所とスケジュールの関係で見送っていたので、今回ちょうど観れて本当に良かったです!
(『安城家の舞踏會』から注目している森雅之が出演している作品だから是非観てみたいと思ったわけですが、やはりこういうのはタイミングがあるので一期一会です。同じく森雅之共演の『女が階段を上る時』も実は観たかったのですが、スケジュール的に難しくパスしました。)

4月1日(火)~11日(金)に「特集・溝口健二 反射する魂たち」を特集上映するようですが、こちらはスケジュールが合わないのでパスすることに(そうそうなかなか全てを観ることはできませんよね。。。)。


3月22日(土)~4月11日(金)シネマヴェーラ渋谷で「初めての成瀬、永遠の成瀬」を特集上映しているので、高峰秀子、成瀬巳喜男ファンには堪らないだろうなぁと想像します(スケジュール調整が大変かも 苦笑)。
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