①の続きです。
『ノンちゃん雲に乗る』(1955年) 監督:倉田文人
8歳の女の子、田代信子(ノンちゃん)は、ある春の朝、お母さんとお兄ちゃんが自分に黙って出かけたので、悲しくて泣いていた。
木の上からひょうたん池に映る空を覗いているうちに、誤って池に落ちてしまう。気がつくとそこは空の上。雲の上にいる白いひげを生やしたおじいさんが熊手ですくって助けてくれ、ノンちゃんはおじいさんに自分や家族の身の上を打ち明け始める・・・。
戦後を代表する児童文学作家 石井桃子の1951年に出版された同名小説を原作としたファンタジーもの。
ノンちゃんを演じるのは当時伝説的な美少女だった鰐淵晴子で、その母を原節子が演じています。
雲の上に行ったノンちゃんがおじいさんにいろいろ話すところから場面がゆっくりゆっくり進んでいき、最後には谷桃子バレエ団のバレリーナが踊るシーンが登場してきて、時代は違えど自分の子供時代のことを想い出してしまいました(確か小学校の頃初めて観たバレエが谷桃子バレエ団だったかと)。
ノンちゃんの体調を心配する原節子の優しい瞳が印象的でした。
実は『智恵子抄』を観るつもりだったのが、作品に問題があるとかで急遽上映中止となってしまい、こちらを観ることになりましたが、原節子の新しい側面を見れて良かったです。
『東京の恋人』(1952年) 監督:千葉泰樹
銀座にある宝石店「宝山堂」の前で似顔絵描きをするユキ、同じ場所で靴磨きと靴直しをする正太郎、忠吉、大助の3人。
ある日この宝石店へ、黒川という宝石の偽物作りの名人が偽のダイヤを届けたことから、周囲の人々を巻き込みダイヤの真贋をめぐって騒動に・・・。
パンツスタイルで軽妙に動き回る活動的な原節子と彼女の護衛的存在の“三銃士”こと男性3名の同志的な間柄。
偽の宝石作りの名人を三船敏郎、愛人と妻からねだられて指輪を買ったことで騒動に巻き込まれる社長役に森繫久彌他キャスティングも豪華(だから観たかったのですが)。
当時の時代背景や銀座、勝鬨橋も垣間見えて興味深く、都会派のコメディーとして楽しめました。
『女であること』(1958年) 監督:川島雄三
佐山家の主人 貞次は弁護士、夫人 市子は教養深い優雅な女性。結婚して10年、まだ子供がないが、佐山が担当する受刑者の娘 妙子を引取って面倒をみている。
ある日、市子の女学校時代の親友音子の娘さかえが、大阪から市子を頼って家出して来た。さかえは自由奔放で行動的。妙子は内向的な影のある娘で、父に面会に行くほかは、アルバイト学生有田に密かに恋心を抱いている。
市子には結婚前、清野という恋人があったが、ある時、佐山の親友の息子光一から紹介されて何年ぶりかに清野と出逢う。
朝日新聞に連載された川端康成の原作を映画化した作品だそう。
性格が正反対の二人の若い女性から慕われ、以前の恋人が現れたりで、倦怠期だった中年夫妻の間に予想していなかった波風が立ち、周囲の誰からも羨まれていた夫婦の間に実は不穏な空気が流れていたりする心の動揺を、森雅之と原節子が台詞にのせてとても繊細に演じていました。
冒頭、若き美輪明宏が主題歌を歌っていたり、さかえ役の久我美子が原節子にキスするシーンがあったりと話題性もある作品。
香川京子、久我美子、三橋達也、石濱朗と豪華キャストが各々ドラマに絡んできて楽しめました。
『路傍の石』(1960年) 監督:久松静児
明治の末期、由緒ある士族の家に生れながら訴訟にあけくれる父庄吾と、手内職で生計をたてる母おれんの息子 小学6年の愛川吾一。彼は新しくできる中学に入ることを望み、担任の次野先生も頭の良い彼を進学させたがったが、食べていくにもせいいっぱいの生活では彼の進学はとても叶わなかった。
一方同学年の金持の呉服商伊勢屋の息子で、成績の悪い秋太郎が進学するときいて、吾一は腹立たしかった。
卒業すると吾一はすぐに借金のかたに呉服商伊勢屋に丁稚奉公に出ることになり、呼びにくいからと「五助」と名前を変えられ、苦しい毎日をおくるようになる・・・。
山本有三の小説の三度目の映画化で、松竹版で山田五十鈴が演じた母役を原節子が演じた東宝版。
主人公吾一少年が苦難を乗り越えて成長する姿を太田博之が熱演していて思わず涙。。。
恥ずかしながら、こちらもご多分に漏れず原作を読んでいないため新鮮味がありました。
貧しい生活を支えるべく日々内職にいそしみ、息子へ愛情を注ぐ母親の姿はかいがいしく、伊勢屋に奉公に出てからの吾一少年の生活は見ていて辛かったです。
時代を遡った日本の姿を映画を通して観れたことは興味深く、同じ母親役でも『ノンちゃん雲に乗る』とも対比することができました。
父役を森繫久彌、次野先生を三橋達也、吾一を援助しようとする安吉を滝田裕介とこちらも共演人が豪華でした。
今回の特集で計9本原節子の映画を観たわけですが、彼女が演じた役柄を通していろいろな側面を見ることができ満喫できました。
日本映画史における代表的女優さんなので様々な役柄を演じていて当然ではありますが、時代背景もあってか、小津・成瀬監督作品での彼女同様控えめな役柄が多かったように思います。
それでも、彼女が画面に現れただけで(いや、声を発しただけで)ぱっとその場が華やぐように感じたのはきっと私だけではないと思います。
今特集が「原節子をめぐる16人の映画監督」なので、彼女をどのように撮ったか等書くべきなのでしょうが、各監督の他作品をそれほど観ていないこともありここでは個々の作品の感想のみにとどめておきます。
旧作をかなり観たことで、テレビで知った俳優さんたちの若き日を垣間見れたこと、脇役をやっていた俳優さんたちまで着目出来たことはとても楽しかったです。
平日、週末を通じて観客数は落ち着いていて(4、5割)、どの回もやはり年配の男性率がとても高かったです。
約10年前に新文芸坐で追悼上映があった際、整理券まで出て大変な騒ぎになったことがありましたが、今回は落ち着いて鑑賞できて良かったです(もちろん、自分なりの特等席で観ることができました^^)。
又このような機会があったら再び映画館に足を運びたいと思います(彼女の戦前、戦中の作品を特に観てみたいですね・・・!)。