『「正倉院 THE SHOW 感じる。いま、ここにある奇跡」 @上野の森美術館』AI94さんの日記

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日記詳細

2025年9月20日(土)から11月9日(日)まで上野の森美術館で開催中の「正倉院 THE SHOW 感じる。いま、ここにある奇跡」を観に行ってきました。

文武天皇の第一皇子である聖武天皇と皇族以外で初めて皇后となった光明皇后は同じ歳の幼馴染で、16歳の七夕に結ばれました。
その後、飢饉、疫病、反乱が相次ぐ混沌の世を迎えながらも、厚く仏教を敬い、民を愛し、国を想いながら奮闘、ついには東大寺大仏造立という懇願を成し遂げました。
聖武天皇が先立つと、光明皇后はその遺愛の品を東大寺大仏へ奉献しました。
遺愛品の目録「国家珍宝帳」には、聖武天皇が在位中の天皇として初めて出家を果たした証である袈裟、調度品、楽器、遊びの道具、御床(寝台)、ひじおきまでもが記されていました。

入口入ってすぐの通路の両側に、聖武天皇の書「雑集」と光明皇后44歳のときの書「楽毅論(がっきろん)」(王羲之の書いた「楽毅論」を手本にした)があり、聖武天皇が丁寧で繊細な筆跡なのに対し、光明皇后は力強い筆致だったのが興味深かったです。
又、大黄、五色龍歯(ゴシキリュウシ)、冶葛(ヤカツ)、甘草等60種の薬物を献納した際の目録「種々薬帳」が展示されていました。


STAGE 01

《模造 紫地鳳形錦御軾(むらさきじおおとりがたにしきのおんしょく)》は、渋めの黄色地と小豆色で鳳凰の文様が施されたひじおき。

君主座右の格言を鳥毛を使ってあしらわれた《レプリカ 鳥毛篆書屏風(とりげてんしょのびょうぶ)》。聖武天皇はこれを見て己を戒めていたのかもしれない。

宝物660点以上が記され、全長14m以上で全面に「天皇御璽(ぎょじ)」の朱印が捺されている「国家珍宝帳」すべてが見れるよう展示されていて、とても興味深かったです。


STAGE 02

ラピスラズリで飾った帯、紺玉帯を収めていた箱《模造 螺鈿箱》は、黒漆地にヤコウガイで唐花(からはな)文様をあらわし、花芯に下面に彩色した水晶をはめる「伏彩色(ふせざいしき)」の技法が用いられ、箱の内側には華麗な錦が張られている。
唐花模様の螺鈿細工が美しく、内側にまで拘った細かな細工が見事でした。

《模造 螺鈿紫檀五弦琵琶》は正倉院を代表する宝物で、世界で唯一現存している、五弦の琵琶。
撥受(ばちうけ)部分のラクダに乗る人物や背面を埋め尽くす宝相華の文様は見事で、600を超えるヤコウガイとタイマイのパーツが用いられている。
表裏どこから見ても非の打ち所がない美しさで、‘世界で唯一現存している五弦の琵琶’と目にしてどれほどまでに素晴らしいものなのか言葉にならないです。
宝相華の文様のデザインと配置は計算されて(熟考して)施されたに違いなく、ずっと見つめながらうっとりしてしまいました。

752年4月9日大仏開眼会が行われ、1,000人の僧侶が集い、約1万人もの人々が参列し、一つの祈りが国全体の運命を動かした瞬間でした。

弓型の大きなスクリーンに正倉院のストーリー、デジタル宝物、再現模造対象宝物の3つの映像(計17分)が繰り返し映し出されていて圧巻!
ストーリーでは宝物の名品、さらに大仏開眼会、聖武天皇と光明皇后の絆、国家珍宝帳が物語のようにある世界観を持って映し出され、クライマックスでは螺鈿細工で施された宝相華や唐草等の文様に、犀や鹿が立体的に動き出し、夢のような世界を作り出していてそれはそれは美しかったです!
デジタル宝物と再現模造対象宝物では、宝物の名品の細部が美しく蘇り、動き出し、その色鮮やかで見事な映像美は、実物を見ている自分としては、実際の宝物を見たらややがっかりしてしまうかも。。。と思ったほどでした。


STAGE 03

正倉院には14の役柄、計171面もの伎楽面が伝えられていて、その内の一つ《模造 酔胡王面(すいこおうめん)》

アフガニスタン製の紺玉(ラピスラズリ)で飾った革帯《模造 紺玉帯》

腰帯から吊り下げられたガラス製の魚の飾り《模造 瑠璃魚形》と、同じく腰帯から吊り下げられた小型の尺の飾り《模造 瑠璃小尺》

中国からの舶来品で、聖武天皇の儀式用の大刀《金銀鈿荘唐大刀(きんぎんでんかざりのからたち)》は、色ガラス、水晶などの玉をはめ、把(つか)にエイの皮を巻き、鞘に黒漆地に蒔絵で鳥獣、唐草、花実を表現。
蒔絵の文様、ライトブルー、ブルー、オレンジ色の玉をはめ込んだ細工の見事さに感服。

正倉院は勅封(天皇の命令によって封印すること)され、江戸時代まで100年以上開かれないこともあったそう。
明治時代からは国に移管され、年に1度点検のため2か月のみ開封が許されています。
天皇の許可(勅許)を受けて開封されるところ、内部の点検の様子、閉封されるまでを収めた映像が流れていました。

正倉院は約9,000件の宝物が納められ、北倉は聖武天皇ゆかりの品々、南倉は東大寺法会や儀式に用いられた品々、中倉はそれ以外の宝物が保管されています。

《模造 銀燻炉》は衣服に香を焚き占める道具で、唐草文と獅子・鳳凰の文様が透かし彫りになっている。
特定の位置でのみ上下に開閉し、内部の火皿は三重の輪が回転することで常にこぼれないような仕組みになっている。
文様と透かし彫りの細かさ、こぼれないように作られたデザイン全てが素晴らしいです。

アルカリ石灰ガラス製の坏に銀製鍍金(ときん)の台脚がついた《レプリカ 瑠璃坏(るりつき)》は、表面に同じガラスで作った環形の飾りが貼りめぐらされている。
実際の宝物の坏を受ける部分(受座)が失われ、明治時代に新しく作られたが、後に本来の受座が発見された。
吸い込まれるような濃いブルーの色がとても綺麗でした。

蘭奢待はその名に「東大寺」を秘めた天下の名香で五味(甘い・辛い・苦い・酸っぱい・しおからい)を兼ね備えた香りとして名高く、かつて足利義政や織田信長、明治天皇ら時の権力者が一部を切り取らせたと伝えられ、現在でもほのかに香りを放っている。
《レプリカ 蘭奢待》は、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」の撮影用に正倉院監修のもと、精密に再現されたもので、信長が切り取る前の状態に作られており、明治天皇の切り取り痕はない。

高砂香料工業株式会社との共同調査で、蘭奢待の「脱落片」を使い成分分析と調香師の嗅覚を組み合わせることで、香りが再現され嗅ぐことができるようになっていました。
香木特有のウッディー調の甘さに酸味も感じるような芳しい香りでした(事前にネットに載っていた説明を読んでいたので、もう少し甘めの香りかと想像していましたが、予想よりややスパイシーな印象でした)。

宝物に施された細工の技法についての詳細な説明と映像があり、その細かい技術の美しさと見事さに感動、非常に興味深く見学しました。

小石丸と一般的な繭、絹糸の展示。
かつて養蚕の主流であったが、糸が細く収穫量が少ないため、昭和の終わり頃にはほとんど飼育されなくなった小石丸という小ぶりで中央に窪みがある繭を、上皇后陛下が伝統を守り伝えたいと飼育の継続を希望され、現在へと受け継がれている。

文様や装飾の図柄をパネルにして組み合わせ裏側から発光するようになった通路があり、色鮮やかでとても素敵でした!


STAGE 04

現代のアーティスト4名によるコラボレーションスペース。

正倉院宝物に使用された文様が施された陶芸作品。

過去に録音された琵琶、尺八、横笛、鉄方響の音色と、それを使って作られた「光」という音楽の視聴。

篠原ともえさんによる「漆胡瓶(しっこへい)」をモチーフに制作されたドレス。
たまたまとあるテレビ番組で事前にこのドレスのことは知っていましたが、瓶から着想を得てドレスに仕立てたその発想力は素晴らしく、今後の彼女の活躍に期待しています。

正倉院をとらえた白黒写真。


今回は今まで私が観に行ったことがあるものとは違って、正倉院宝物の再現模造の展示であり、デジタル技術を駆使した没入型(イマーシブ)の展覧会で、より娯楽性の強いものだったと思います。
東大寺大仏開眼会を巡る物語を軸に、宝物が誕生した背景や人々の祈りに焦点を当てた内容となっていました。

2年前に実際の正倉院展を観に行った際にも感じた聖武天皇、光明皇后の絆の深さ、仏教への畏敬と祈り、当時の人々の熱い想いを感じて、再び胸が熱くなりました。
今回はより色鮮やかに蘇って再現された宝物の再現模造・レプリカを至近距離で見学でき、正倉院と宝物の背景やあらまし、宝物に施されている文様、使われている技法についての詳しい説明や映像を観ることができて非常に有意義でした。
細工の技巧の緻密さと素晴らしさに触れ、文様をパネルにして組み込んだ通路を歩き、大スクリーンでの映像を観て・・・、本当に夢心地の世界でした。

実際の宝物の展示ではないため、フラッシュ無しでの写真撮影、1分以内の動画撮影可能だったのでありがたかったです。

平日開館10分程前に着きましたが、既に数十人(前は見えませんでしたが2、30人くらい?)並んでいて、人気のほどが伺えました。
私語が極端にひどい人はいませんでしたが、おしゃべりしながら観るのが楽しい方々、「あー、きれいねー!」と声を出している女性はやはり見受けられました(本当に感動しているのかしら?とちょっと引いてしまったのは私だけですかね)。
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