『「イングリッド・バーグマン 演じることは生きること」 @シネマヴェーラ渋谷』AI94さんの日記

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日記詳細

11月1日(土)から14日(金)まで「イングリッド・バーグマン 演じることは生きること」という特集上映があり、以下の作品を観てきました。

『四人の息子』(1941年)
1907年、ニューヨークの株式仲介人アダム・ストダードは、4人の息子の家庭教師エミリー・ガラタンを、はるばるフランスから迎えた。ニューヨークに近い田舎町の邸宅に来たエミリーは若く美しかったが、子供たちに親しまれ、主人夫婦にも信用された。
ところがその秋の恐慌でアダムは破産に瀕し、折しも感謝祭の夜、妻のモリーが病死。エミリーは帰国を余儀なくされるも、戦争特需で復興した一家に戻るが・・・。

バーグマン渡米第二作目。
善良で気丈な家庭教師役のバーグマンはまだ初々しさを残しつつも、光り輝くような魅力に溢れていて、その後の大女優の片鱗が至る所で見られました。
スーザン・ヘイワード演じる次男の妻が一家を壊す悪女で何とも印象的(全く美しく見えないのは役柄のせいでしょうが、彼女の演技力によるものが大かと)。
サイレント期からのスター、ワーナー・バクスターが温厚な一家の主人アダムを好演。


『天国の怒り』(1941年)
英国有数の製鉄所の持ち主モンレル夫人の後継者フィリップはロンドンで大学時代の旧友ワード・アンドリュースに再会し、彼を家に招く。モンレル夫人が秘書として雇った身寄りのないステラという若い女性を一目見るなりフィリップもワードも彼女の美しさに惹かれ、後にフィリップはステラと結婚したのだが・・・。

モンレル夫人邸の階段を下りてくるバーグマンの初登場の瞬間、画面がぱっと明るくなったように感じました(スターとはこういう人のことを言う)。フィリップからの仕打ちによって徐々に苦悩していくステラの心理を彼女はきめ細かく演じていました。
教養、知性に富んではいるが、実は自殺癖と殺人を犯す可能性のあるパラノイア患者であるフィリップをロバート・モンゴメリー、彼の旧友ワードをジョージ・サンダースが演じていて、悪役、敵役が多いサンダースが本作では珍しく包容力のある良い役で、やはり役柄によって素敵に見えますね。
ワードへの嫉妬心から、被害者のステラとワードが加害者にさせられていく経緯が怖いサイコ・スリラー。
モンレル夫人役は『哀愁』のルシル・ワトソン。

7年間の契約を放棄して休暇を取りたかったモンゴメリーに対し(彼が映画について公の場で発言したという別の理由もあったよう)、MGMが彼を懲戒処分にし、給与を削減すると脅してこの映画出演を強要した。それに仕返しするため彼は演技せず無表情でセリフを読むことにしたという興味深い逸話がWikipedia(英語版)に載っていました。


『ジキル博士とハイド氏』(1941年)
ハリー・ジェキル博士は、ロンドンの医学者仲間で俊才として聞こえた若い学徒で、彼の恩師サー・チャールズ・エムリーの娘ビアトリクスとは、愛し合う仲であり、許された婚約の間柄であった。
しかし、エムリーも親友ジョン・ランヤンも、最近ジェキルが異常な熱心さでやっている人間の善と悪の精神分離の研究に関しては唯一ひどく反対していた。
ある夜、友人であったサム・バギンスの死に方に興味をそそったジェキルは、自らが発見、創製した精神分離を促す薬剤を思い切って飲んでみたところ・・・。

何度も映画化されている古典的作品で、ヴィクター・フレミング監督によるMGM作品(フレデリック・マーチ主演のパラマウント版(1931年)の再映画化)。
ジェキル/ハイド役スペンサー・トレーシーの狂気迫る演技がとにかく素晴らしい!(ハイドに変貌するときに施された特殊メイクが彼は気に入らなかったらしく、その辺は演技派で知られる俳優らしいです。)
彼の精神的愛の対象ビアトリクスをラナ・ターナー、その感情不在時の肉体的欲望アイヴィをバーグマンが演じていて、本来よく演じる役柄とは反対の役柄を双方共に好演しています。
まだ出会う前だったとはいえ、トレーシーはキャサリン・ヘプバーンに善悪両方の二人の役柄を演じて欲しかったそう(彼女だったらきっとうまく演じこなせたかも)。
当初はバーグマンがベアトリクス、ターナーがアイヴィでキャスティングされていたが、型にはまった清廉な役柄に飽き飽きしていたバーグマンが監督フレミングに懇願し、スクリーンテスト後に役を入れ替えることになったそう。(上記Wikipedia(英語版)より)


『カサブランカ』(1942年)
第二次世界大戦下の1941年12月、親ドイツのヴィシー政権の管理下に置かれたフランス領モロッコの都市カサブランカ。ドイツの侵略によるヨーロッパの戦災を逃れた人の多くは、中立国のポルトガル経由でアメリカへの亡命を図ろうとしていた。
そこで酒場「カフェ・アメリカン」を営むアメリカ人リックのもとに、かつてパリで恋に落ちたものの、パリが陥落する前に理由を告げずに突然目の前から姿を消した恋人のイルザが、夫で反ナチス活動家のラズロを伴って現れるが・・・。

第16回アカデミー賞で作品賞、監督賞(マイケル・カーティス)、脚色賞の3部門を受賞した、映画史に残る名作ラブロマンス。

とにかくボガートがクールでダンディで素敵すぎます!(Hollywood Golden Ageを代表するスターの一人として敬愛はしているものの、私的に追いかけるほどではない俳優さんではありますが、もうこの映画での彼は本当にカッコイイし、大好き!)
バーグマン演じるイルザなくしてこの作品は成り立たないだろうと思うほどの圧倒的存在感で美しく、切ないラブ・ストーリーが展開します。
(Wikipedia(英語版)によれば、アン・シェリダン、ヘディ・ラマール、ルイーズ・ライナー、ミシェル・モルガンがイルザ役として候補に挙がっていたそうですが、うーん、この作品にしてこのキャスト、他には考えられません。)

ストーリー中盤「カフェ・アメリカン」で、現地司令官であるドイツ空軍のシュトラッサー少佐以下ドイツ軍士官たちが歌う愛国歌「ラインの守り」に対抗して、ラズロがフランス国家「ラ・マルセイエーズ」をバンドに演奏させ、店内の全ての客たちが起立して合唱するシーンは圧巻!

主演二人の魅力もさることながら、戦時中のカサブランカが舞台という背景、濃密なドラマ展開、珠玉の脚本に加え、ラズロにポール・ヘンリード、ルノー署長にクロード・レインズ、シュトラッサー少佐にコンラート・ファイト、リックのビジネスライバルのフェラーリにシドニー・グリーンストリート、詐欺師ウーガーテにピーター・ローレと個性派の俳優陣が脇役をかためていたのもこの映画を面白くさせていた要因だと思います。(ラストでリックを見逃すルノーがまたイイんですよねー)。

「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」の切ない旋律がパリ時代の思い出の曲としてこの映画を盛り上げてくれていたことは言うまでもないですが、ボガートによる「君の瞳に乾杯(”Here’s looking at you, Kid.”)」他、今聞いてもぐっとくる名セリフが全編に散りばめられています。
今回再鑑賞して、『アズ・タイム・ゴーズ・バイ』の他にもいろいろな曲が効果的に使われていたことを再発見しました。
この曲は1931年のブロードウェイミュージカル”Everybody’s Welcome”のために書かれたもので、音楽担当マックス・スタイナー(『キング・コング』、アステア&ロジャースのミュージカル映画、『風と共に去りぬ』)はこの曲の効果を認めてはいたものの嫌いだったとか。
劇中唄ったサム役ドーリー・ウィルソンは実はドラマーでピアニストではなく、弾いているところは別のピアニストが演じたそうです。

とまぁ、これだけの作品になると興味深いエピソードが山ほど出てきますが、これくらいにしておきます。

映画館ではあまり涙することはない私ですが、映画館だからこその臨場感があったからなのか(今まで3度程見ていますが、すべてテレビでの鑑賞)、中盤から涙が溢れ・・・ときに止まらなくなるほどでした。
ちなみに隣席の女性はラストシーンで号泣していました。。
何度観ていても是非又鑑賞したいと思っていましたが、やはり観て良かったです!!


『汚名』(1946年)
ドイツ出身の父親がナチスのスパイであったとして、世間から非難されていたアリシア・ヒューバーマンは、ある夜デヴリンというアメリカの連邦警察官と知り合った。南米に策動するナチ一味を探る重要な職務にあったデヴリンは、首謀者セバスチャンをよく知っているアリシアを利用する目的で近づいたのだったが、やがて彼女に強く惹かれるようになった。一緒にブラジルに行くことになった二人の愛情は日毎に深まっていくが・・・。

バーグマンとケーリー・グラントの主演俳優のロマンスに、監督ヒッチコックお得意のハラハラする要素を絡ませた大人のラブ・サスペンス。

1度テレビで観ているのですが、かなり前ということもあり、主演二人が素敵で上質のサスペンスだったこと以外あまり記憶に残っておらず、今回再度鑑賞して二人の洗練された魅力もさることながら、緊迫するストーリー展開とヒッチコックの世界に惹き込まれてしまいました。
シーンの終わり際にちょっとした小道具や仕掛けがしこまれていて、その辺がヒッチコックらしく、細かいところまでも見逃せません。
(騙すのか、信頼できるのか、すれすれの役どころはグラントの真骨頂だと以前から私的に思っています。)
『カサブランカ』のクロード・レインズがセバスチャン役で出演。

2分半にも及ぶキスシーンで話題となったことはあまりにも有名。
撮影当時アメリカでは3秒以上のキスシーンは禁止されていて、ヒッチコックは、お喋りをしてはキス、電話をしながらキス…という3秒以内のキスを繰り返すという手法をとって成功させたとWikipediaにありました。


『ストロンボリ』(1949年)
第二次大戦後、ローマの難民収容所に収容されていたカリンは、捕虜のキャンプにいるアントニオというシシリー島出身の漁夫と出会う。
アントニオは激しくカリンを恋したが、カリンの望みは収谷所を出て自由の国アルゼンチンへ行くことだけであった。しかしアルゼンチン行の旅券は下附されず、夢破れたカリンはアントニオとの結婚に同意し、エルオ群島の北端ストロンボリ島で生活することになった・・・。

『無防備都市』と『戦火のかなた』を見て感動したバーグマンがイタリアへ赴き、ロベルト・ロッセリーニ監督が製作した第1作(撮影中二人は恋に落ち、彼女が妊娠、双方の不倫スキャンダルによって彼女はアメリカから追われるかたちとなる)。

島の中央に巨大な火山のある荒れた漁村で、島人たちは貧しく、保守的で他国ものに冷たく、バーグマンは日々疎外感を味わうカリンを演じていました。
火山爆発やマグロ漁のシーンはドキュメンタリーを観ているようなリアリティーがあり、それらを織り交ぜながら、彼女の美しさのみが浮き立っている(ノーメイクなのでは?と思うほどであったとしても)印象で、ややちぐはぐ感がなきにしもあらず。。。(アントニオ役の男性を含めプロの役者ではない島民を使っての撮影だったようなので、その辺の対比を描いたのであれば成功していたと思います)。


『山羊座のもとに』(1949年)
イギリスの流刑地だった19世紀オーストラリア。かつて犯罪者としてこの地へ送られ、一代で財を築きあげた街の有力者フラスキーの元に、一攫千金を狙うイギリス総督の甥チャールズがやって来る。チャールズはフラスキーの妻ヘンリエッタが心を病んでいることを知り、彼女を救おうとするが・・・。

精神を病み、アルコールに溺れるヘンリエッタをバーグマンが繊細な演技できめ細やかに演じていました。
ただ、やや過度にも見えるコスチュームのせいもあって、彼女自身の美しさがあまり活かされていないような気もしました。
劣等感に苦しむ夫フラスキーをジョセフ・コットンが演じ、チャールズ役としてマイケル・ワイルディング(どこかで聞いたことがあると思ったら、彼はエリザベス・テイラーの二番目の夫)が共演。
疑念、嫉妬、憎悪、欲望が渦巻くストーリー中、やや卑屈なイメージのある役柄を演じるコットンにはあまり同情できず。。。だからこそ、誠実な役から犯人役まで演じ分ける彼の芸域の広さを思い知らされる一本でもありました。

それまでのヒッチコック作品のようなスリラー的要素が少なかったことや、バーグマンの不倫スキャンダルの報道により、初公開時は興行も評価も低く、ヒッチコック自身も「失敗作」と否定的な評価をしたことで知られている。

原題は、オーストラリアを二分する南回帰線に因むと同時に、山羊座のヤギが「肉欲」の象徴であることにも因んでいるそう。
バーグマンはヒッチコック独特の長回し演出について、後に「11分間もカメラは私を追い回し、最初から最後まで喋りっぱなしだった。まるで悪夢だった」と打ち明けていたとのこと(Wikipediaより)。


『イタリア旅行』(1954年)
イギリス出身の夫婦アレックスとキャサリン・ジョイスは、亡き叔父ホーマーから相続したナポリ近郊の別荘を売却するため、車でイタリアへ向かった。仕事中毒で、無愛想で皮肉屋のアレックスにとって、この旅は休暇のつもりだった。一方、キャサリンは繊細な心を持ち、今は亡き友人の詩人チャールズ・ルーイントンとの切ない思い出を呼び起こした。
ナポリに到着から数日後、互いの誤解、抑えきれない怒り、そして嫉妬により、夫婦の関係は悪化していく・・・。

カイエ・デュ・シネマが選ぶ映画史上のベストテン入りした、ヌーヴェルヴァーグの原石的傑作とされている。
「男と女と一台の車とカメラがあれば映画ができる」ことを学んだゴダールが、『勝手にしやがれ』を撮ったことは有名。
ロッセリーニがバーグマン(当時彼の妻)を起用した5作品中の1本で、夫役にジョージ・サンダース。
バーグマンとサンダースは今特集の『天国の怒り』で共演していますが、共に芸達者な二人の演技に支えられ、ロッセリーニの即興的演出が冴えた一本。

劇中ナポリ、ポンペイ、カプリの景勝が映し出され、イタリアらしい空気感が漂う反面、夫婦二人に入っていく亀裂がとげとげしい口調の台詞や態度で表現されていきます。
南イタリアを舞台にした映画となるとどうしても『旅愁』を想起してしまう私ですが、扱った題材やストーリー、制作された年代、国、監督が違うと、画面を通して見えてくる世界がこうも違ってくることが興味深かったです。


アカデミー賞に7回ノミネート、3回受賞(主演女優賞2回、助演女優賞1回)し、ヒッチコック、ロッセリーニ、ベルイマンのミューズとしても知られるバーグマンは、スウェーデン出身で、それまでのハリウッド女優と一線を画すメイクに頼らないナチュラルな美貌と演技力でアメリカ映画に「北欧からの瑞々しい息吹」を吹き込みました。
大輪の花を思わせる圧倒的美しさ、溢れ出る気品と知性、そして色気、大柄な体格とは相反するほどに細やかで卓越たる演技力・・・彼女の魅力について語ったらまだまだ書けそうですが、ハリウッドだけでなく、ヨーロッパ映画にも多数出演した文字通り大女優の一人と言えるでしょう。

母が一番好きな女優だったことから私も気づいたときにはファンになっていたくらいなので、今特集を知ったときからとても楽しみにしていました。
今上映作品15本中3分の1以上は既に観ていますが、その他にも代表作と言われる作品をいくつも挙げられるほど印象的な作品が多いのは本当に凄いというほか言いようがありません。
再度観たいものと初見の作品の中から絞りに絞り込んでの鑑賞でしたが、今回は、ロッセリーニと組んだ、彼女の前半生の作品までを特集していたので、初期作品とロッセリーニ監督作品を観る機会を得られたのはとても有意義でした。
(ロッセリーニ監督作品すべて観たらコンプリートできたのですが、スケジュールの都合で泣く泣く。。。)。

『山羊座のもとに』は近年まで劇場未公開だったこともあり興味があった作品でしたが、ヒッチコック特有のサスペンスタッチがあまり感じられないコスチューム劇で、上映時間も117分と長めだったこともあって凡庸に感じてしまいました(再度観てみる必要ありです)。
ロッセリーニ監督作品『ストロンボリ』と『イタリア旅行』はハリウッド映画とは全く違った切り口で見せてくれた映画として興味深かったです。

もう少し混むものかと予想していたのですが、今はDVDや配信で観れるせいもあってか、『カサブランカ』の回以外、観客数は通常と同じくらいで落ち着いていました。
(私が観た『カサブランカ』の回は週末午後一の上映だったこともあるかもしれません。)
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