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焼きあご塩
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焼きアジ醤油
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新潟に来ています。
急遽決まった北陸出張。長くレビュアー稼業をしていても、こんな絶好の機会はそうはありません。
ブックマークしておいたお店を、ルートに沿って書き出し、そのお店以外に何かないか。それぞれの地元のブロガーさんのHPまで入り込んで、何かないか、どこかないか。候補のお店が徐々に増えていきますが、やっぱり一番最初に頭に浮かんだお店、いち井を越えるお店はなかなか出現しませんでした。
いち井については、夥しい数のレビューが世に出てます。いろいろのサイトに、必ず名を連ねる人気店です。行列が注目していたのは、ラーメンそのものも当然ですが、それよりも、レビューに少しずつですが、ついでに書かれたようなお店の雰囲気やお店自体。
並みのラーメン屋とは、何かちょっと違うその雰囲気が気になってしょうがありません。そして、ラーメンへのこだわりというか考え方とお店の空気の作り方が、合い通じるものであるかのような思いが頭の中をぐるぐる回って、これは一度自分のからだで確かめたい。そんな思いにとりつかれていました。現場主義で確認し、他人(ひと)の言葉を信じるな、といつも若いエンジニアに言っていることを、このお店で自分でも実践したい。
往きは上越新幹線を使いますので、いち井に行くには長岡で途中下車しなければなりません。いち井は、長岡から信越線で1駅目の宮内駅から歩いていきます。新幹線との乗り継ぎを調べると、どうにもタイミングが合わず、いち井に行ってしまうと仕事に間に合わなくなります。どうしようか、って2,3日悩みます。まさか、仕事の時間は相手があるので変えられないし。な~んだ、で仕事もいち井もwin-winになる解を見つけました。長岡からタクシーで行けばいい。3km弱です。解を見つけるまでが暗黒の時間でしたが、見つけてしまえば、な~んだこんな簡単なこと。
お店の大きな看板が見えたときは、さすがにうれしかったです。とうとう、いち井まで来てしまったか。成せば成る、ナセルはアラブの大統領、なんて言葉が浮かびます。
到着したのは、お店の開店25分前でした。先客は2人。若い人です。二人の横に座ります。空気は冷たく、風が強いため、コートの襟を立てました。
待っているとどんどん車が入ってきて、行列は10人を超えました。定刻5分前には20人を超えてます。聞きしに勝る行列店です。定刻の2分前に中から店員さんが、営業中と書かれた木の札を持って登場しました。
札を所定の位置に掛けてから、
大変お待たせいたしました。最初のお客様からご案内いたします。そこで、椅子に座って待っていた6人が一斉に立ち上がります。最初の方は、お二人様ですね、と言って二人を誘導して中に入ります。それに続こうと思って一緒に店内に入ろうとしたら、目の前で入り口の戸を閉められました。??、どういうこと?
10秒位して、違う店員さんが戸を開けて出てきました。
次のお客様は、すぐご案内いたしますので、どうぞお掛けになってお待ちください。
??が頭の中を駆け巡ります。こんな経験したことがありません。あの先頭の二人、中で何やってるんだろう。何んで待たなきゃあいけないの?開店でしょ。
2,3分待ちました。とても長く感じました。再び戸が開いて、今度は女性の店員さんが出てきます。
大変お待たせいたしました。お一人様ですね。どうぞ、ご案内します、と言って、行列の前を歩いて先導します。入り口を入ると、いらっしゃいませの合唱に迎えられます。5人以上の声です。入り口すぐに券売機があります。食券を買うように促されます。計画通り、買ったのは、焼きあご塩(800円)+海老わんたん(200円)+味玉(100円)。
オネエサンの先導で正面のカウンター席の一番左の席に誘導され、着席しました。こうやって、新しいお客さんを店内に入れ、席に誘導し、座るまでは次のお客さんを入れないのです。座ってから食券を渡すと、オーダーの内容を確認します。そのとき、別の店員さんが外に出て、次のお客さんを入れる、そんなシステムでした。
座る前に、実はもうすっかり店主の美意識を感じ始めていました。このお店の中の空間。天井がありません。まさに、カフェの作りです。天井を作らずに吹き抜けにして、壁は全部白、上に張り巡らされた太い梁の木はすべて黒に着色されています。高い屋根の内側から電球がぶら下がっていて、そのやり方、その電球の種類は、カフェそのもののやり方です。
お客様は、このようにして招待しなければならない。自分が作るラーメンは、こういう環境、空気の中で食べなければならない。
カウンター席は逆L字型にデザインされ、自分が座らなかったほうの辺の奥が厨房で、店主は先頭の二人分のラーメンを製作中でした。助手は二人。店主が全部一人で作り、助手はメイン配膳担当。自分が座ったほうの辺の目の前は、インテリアの小物をディスプレイする棚になっています。飾ってある小物も計算済みでしょう。昔の風薬、改元の袋。店主が嘗て使ったと思われるクラシックカメラ。そして、見たこともない麒麟麦酒の年代モノ。こういう小物を集めて、お店の中の空気を作っているのですね。
行列が座った右手には昭和30年代と思われるブラウン管の白黒テレビが置いてあります。台には、足が生えていて。ここで、店主の徹底した美意識を垣間見ます。テレビはただ置いてあるのではなく、そのテレビが現役だったころのテレビドラマを映しているんです。唖然としました。すべてのものが、理由があってここにある。その理由は、店主の美意識。その空気の中でいただくラーメンに求めているものは何か。どんなものなのか。もう一刻も早く食べたい!
およそ5分後に配膳されました。撮影許可をいただきます。目の前のオブジェやテレビの撮影もしたいのですが、って思い切ってお願いし快くいいですよの答えが。さあ、テンション高くいただきますよ。
また何と言う美しいラーメンなんでしょう。繊細な色使いで決めてきましたね。スープは泡だっています。これ、豚骨由来なんでしょうか。にごり系のスープです。おお、久しぶりの枕木めんま。水菜の葉。きくらげ。干し桜海老。白髭葱。トッピングの海老わんたんと味玉。そして、見えてませんが、チャーシュー。表面の脂メインの層をレンゲを差し込んで揺らすと、下からもう少し白っぽい色のスープが現れました。これは豚骨スープの特徴です。
なにはともあれ、スープですよ。れんげをスープに差し込んで、いただきます。ふ~む。うまいなあ。これが焼きあごの味なのか。上品な魚だしスープですが、コクがぐっと来ます。さらっとしていながら、ぐっと迫ってくるコクは知っているのでは豚骨以外に思い当たりません。塩の塩梅が結構主張してくるほどの沖縄焼き塩が多めに配分されていることを感じます。角張っては来ないものの、丸くても塩のエネルギーを感じます。やっぱり存在感あるし、出来がいい。
豚骨と焼きあごとそれに、干し貝柱とか丸鶏とか昆布なんかもあやしく。疑惑は尽きない深みのあるスープにあがっています。しばらくラーメンを食べていないこともあって、もううれしくて、おいしくて、涙がでそうになって困ります。年取って涙もろくなってます。ちくしょう、ものすごく、うめえじゃないか。目がうるうるしないよう、強気の発言をトライ。
麺は中細のややうねりがある麺で、不思議な透明感があります。食べてみると、弾力があってとってもうまい麺で、これも、この舞台ではこの麺でなければすべては完成しない、といった重要なロールプレイを担った麺であるはずです。最近こしの強さを標榜する麺が増えているような気がしていましたが、ここの麺はこしの強さよりも歯を押し返してくるような弾力のほうを強く感じます。いい麺です。うまい。
チャーシューの肉感と柔らかさのバランスもいいし、味玉の味がうまかったし、きくらげの食感がいい。このきくらげは、決めるまで相当選んでいるはずです。めんまの醍醐味も久しぶりでした。というように、脇を固める役者もすべて店主の哲学に応えたクオリティで、おどろくばかりです。
店内へのお客さんの呼び入れ。店内のデザイン。インテリア。カウンター席と2名ずつのテーブルボックス席。ラーメンは小分けでしか作らず。すぐ配膳できるように、配膳係りで2名。お客さん誘導、着席後に次のお客さんの招待を即開始できるよう、ホール案内サービス係りに2名。そうやって、アトモスウエアーとソフトウエアーをオンリーワンに固定して、空気をつくる。そして、主役のラーメン。
ここで役作りが出来ないのは、客だけ。最低限しているのは、グループを3人以上のロットにはしない。2人ずつしか座れないようにして、3人でも分断して座らせる。そのことは店外に掲示され、客の事前承知を促している。大勢で食べるときの異常なテンション、声高は空気に合わない。知らない間に店内に入ると、リラックスと期待感が溢れて店主の望む俳優に変化させられている。
このすべてが、いち井マジック。
満足な時間を満喫し席を立ちました。帰り際に厨房で調理中の店主を見ると、きっちりこちらを見て、会釈される。どこまでもこだわりを崩さない。
やっぱり、このお店を選び、ここまで来た甲斐がありました。そういうことだったんだ。先行レビューで読み取れなかった事実が、ここで分かりました。疑問が氷解しました。さて、夢から覚めて、仕事に向かいます。
次の日起こったいち井での出来事を書いていったら、14000文字になってしまいました。お時間のある方は、続きは下記で。