この口コミは、Mr.noone specialさんが訪問した当時の主観的なご意見・ご感想です。
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夜の点数:4.2
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¥5,000~¥5,999 / 1人
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料理・味 4.0
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|サービス 4.0
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|雰囲気 4.0
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|CP 4.5
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|酒・ドリンク 3.0
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[ 料理・味4.0
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| サービス4.0
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| 雰囲気4.0
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| CP4.5
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| 酒・ドリンク3.0 ]
これは鯉ではない・・・と思わせる清冽な味わい
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2013/06/27 更新
近江八幡から大垣へ、そして養老鉄道に乗り換えて多度へ向かう。上げ馬神事で知られる多度だが、私にとってはなんといっても大黒屋である。そもそもは池波正太郎のエッセイで「あまりにうまくて二日連続で通った。」と書かれていたのを見て、ものは試しと訪問したのがかれこれ7年前。清冽きわまりない鯉の身の旨さに瞠目して、いつか家人も連れてきたいとの宿願が今回叶うことになった。
駅から行くとやがて豪壮な建物が見えてくる。なにしろ江戸時代から続く店だけに星霜を経たもののみが発する風格がある。障子には「鯉料理 大黒屋」と大書されていて、その自信の程がうかがえる。これを少し過ぎたところに門があって、ここをくぐると玄関がある。こちらは美しい庭を囲うように回廊と個室が配されていて、ゆったりと景色を眺めながら鯉を思う存分堪能できるようになっている。また、鹿おどしが時折響いて、風雅な感興を盛りたててくれる。
いささか暑くて喉が渇いていたのでビールを流し込むと、続々と料理が運び込まれる。先付は手前から鯉肉のつみれ揚げ、麩、ほほ肉の煮付。ほほ肉のしっとりとした歯応えが期待を高める。さっくりと揚がったうろこの唐揚はビールに好適で、アマダイの松笠揚げに勝るとも劣らない逸品。皮と春雨の甘酢和えは皮のぷるんとした食感が秀逸。鯉だけでなくこれまた桑名の名物あさりの酢味噌和えなどを、季節の青もみじをあしらって。涼やかな景色で心が和む。
名物鯉こくのこっくりした味わいに頷いていると洗いが運ばれてくる。凡百の鯉であれば臭味を殺す為に酢味噌で食べるのだが、こちらの鯉は清らかな湧き水に2ヶ月ほど放して身質をぐっと引き締めて泥臭さを抜くので醤油で食べる。これが活け締めした真鯛の刺身に匹敵するこりこりとした歯応えと尊い香気をたたえていてすこぶる旨い。
この後出されたサービスの「腹肉のつけ焼」が悶絶ものだった。脂の乗り切った腹の肉に甘辛いタレと胡椒をまぶして供されたのだが、骨ごとしゃぶってむさぼってしまった。これはもはや「肉」といっても差し支えない荒々しさがあって、手羽先のようでもあり、スペアリブのようでもあった。
これに引き締まった身質の真価が発揮された煮付、ふっくらした食感が身上の塩焼が出される。ここまで鯉だらけだがまったく飽くことなく、むしろ「もっと鯉を!」という衝動が身体から湧き上がってくる始末。この2品でご飯と赤出汁を食べ、さらに水菓子をいただいてようやく鯉の宴は終焉。残ったのは驚嘆のみ、である。特に初めての家人は驚きもひとしおで、給仕の方に熱っぽく語って大いに喜ばせていた。
江戸時代からの老舗の美しい庭に面する個室で、名代の鯉料理をたっぷりと味わってコースのお代は・・・お一人様4,600円。ここまで磨きぬかれた調理を味わえることを考えれば、至極安いと言って良い。(同じような雰囲気である京都の平野屋で似たようなことをすれば2万はするだろう。)食に造詣のある方ならば、遠くても足を運ぶべき名店だと思う。店の存在を教えてくれた池波先生に御礼申し上げたい。