2回
2015/04 訪問
計算し尽くされた味の広がり
再訪。10回目。ランチで。
今回も、「おでかけ」(7800円、サ別)を選択。
それとワインを2杯。
春の蕪。個人的に難しいのではないかと思っていたが、凄かった。
いつもより若干堅めに仕上げられた蕪の奥の方に、その蕪の存在感を知らしめるエグミ。
普通、このエグミが残るのは失敗作にも思えるのだが、じっくり火入れした蕪の旨味がたっぷりと
その周りに存在するため、そのエグミはすっかり和らげられて制圧されている。これはすごい。
あと、ホロホロ鶏の低温調理。流石です。
他店で良く見かける食材も、レフェルだとこんな味に昇華するのかと驚いた。
ただ、今回、春をイメージさせるために全体的に味に淡さや華やかさが施され、
ちょっとやりすぎのような印象もあり。特に、フォアグラのナチュレル。
そういうこともあって、逆にシンプルな蕪の料理が際立った。
■2015年2月-----
再訪。9回目。
前回からおよそ2年空いてしまった。
前回訪問時の印象が諸事情あってあまり良くなかったのが最大の要因なのだが、
久々に訪れてみて、やっぱりレフェルヴェソンスはいい、と思った。
ランチで利用。ディナーコースから数品がセレクトされる「おでかけ」(7800円、サ別)を今回も選択。
この日は、定番のフォアグラのナチュレルが、進化を遂げていて最高に美味しかった。
以前はこのフォアグラのナチュレルは、冷たくそして塩がきつかったが、
これが少し温かくなり、そして塩の代わりに酸味や甘味などがある他の食材と組み合わせるようになり、
これにより新たな味わいを作り出す方向に変化。これが大変素晴らしかった。
また、スペシャリテの蕪も、以前は味付けをいろいろトライしていた感があったが、
どうやらしっくりくるスタイルを確立されたようで、この日は味がバッチシ決まっていた。
そしてそして、やはりメインの鴨のロティ。最高に美味しい。
鴨の質もさることながら、それを活かしきる調理技術が素晴らしいです。
この日は、ワインのセレクトも完璧。すごく良かった。
スタッフはかなり入れ替わり、以前のような尖がり感は若干薄れてしまったが、
手厚いサービスは以前と同様に引き継がれているので安心感がある。
また訪問を再開しようと思う。
■2012年12月-----
再訪。ディナーにて。
料理は変わらず美味しいが、
ワインのセレクトはもうちょっと何とかならないのかと思う。
日本のワインを織り交ぜて面白いものをチョイスしてくれるのだが、
正直言って、日本のワインもここまできたかという面白さはあるけれど、料理に合っていないと思う。
■2012年9月-----
これほどまでに、
素材の味の特質、温度、塩分、酸味、
複数の食材が合わさったときに訪れる変化、時間の経過による変化、
を、きっちりと計算し尽くした料理が他にあっただろうか。
素材の選び方から、皿の上の分量、素材と素材・素材とソースの割合、
素材の調理法、素材の火入れ加減、素材の温度に至るまで、
ありとあらゆる調理方法を駆使して、見事なまでの完成度で一皿一皿がやってくる。
もちろん、きっちりとした「意図」が料理に表現されているので、
頂いていてその「意図」が分かりやすく伝わってくる。
例えば。
他店だと、時折考えることがある。
この皿の上に乗った食材を、どういう組み合わせで、どういう分量で頂いたら最も美味しいのだろうか、と。
この付け合わせを主役の食材とどう組み合わせたら最も美味しいのだろうか、と。
結果、ある一口は美味しかったり、ある一口はイマイチだったり。
そんなブレを感じざるを得ないことが多々ある。
しかし、こちらのお店の料理の驚くべきところは、
その皿の上に乗っている食材は、どう組み合わせても、どのような割合で組み合わせても、
幅広いストライクゾーンの中でいろいろな変化を見せるだけで、決して外さないのだ。
だから、口に入れるたびに新しい味わいがあるし、新しい発見がある。
これは、明らかに「意図」しなければ成しえない味だ。
その最たる例が、フォアグラの料理。
ベースとなるフォアグラの美味しさは折り紙つきだが、
それに加えられる岩塩の濃度の違いや、付け合せの野菜たちの違いによって、様々な味の顔を覗かせる。
ディナーは、お任せのコースのみ。
きちんと山場が訪れるような構成、大波小波がある構成。
ビジュアル的にもよく目で楽しめる。
それでいて味を犠牲にしていないところが凄い。
ランチは、ディナーのポーション少なめコースと、幾つかをピックアップしたショートコースが用意され、
ディナー時と同じクオリティで提供されている。かなり格安なので、コストパフォーマンスは抜群にいい。
接客陣の充実度は大変素晴らしく、至れり尽くせり。
ソムリエも、料理にきっちり合わせたワインをセレクトしてくれる。
何も言わないと特に昼は料理に合わせてリーズナブルな価格帯のものが出てくるので、
もし所望であればランク上の価格帯のものをと言えば対応してくれる。
なお、料理は、店名の「レフェルヴェソンス(泡)」にちなんだ泡系のものが多いと思われがちだが、
実際は一部だけであって、殆どはしっかりとストレートな感じ。
例えば、「岩手短角牛サーロインのロティとそのジュ」は、
2011年に私が他店も含めて頂いた全ての料理の中で最も感銘を受けた料理なのだが、
素材の味を力強く感じされるものであった。
岩手の短角牛のロティに、土臭さを感じさせるごぼうのピュレが敷かれており、
一見ミスマッチな印象なのだが、実際に頂いてみると、
ごぼうが却って短角牛の素晴らしさをより際立たせ、
またそこに岩手の生産者の方々の素朴さと繊細さと底力を感じさせる。
そして、ごぼうのピュレは東北の豊かな土壌をイメージさせ、
また赤軸ほうれん草は深く豊かな森をイメージさせ、
陸前高田産の椎茸から溢れ出てくるジュースから熱いハートをイメージさせる。
そんな、素晴らしい一皿であった。
こういう料理を頂くと、ただ繊細だとか、ビジュアル重視だとか、面白い組み合わせだとか、
そういう論評はまったく軽々しいと思えてしまう。
これまで確か7回訪問させて頂いたのだが、これからも訪問させて頂くつもり。
なお、壁側に3名仕様のボックス席があり、一度接待で利用したのだが、大変良かった。
コの字型の真ん中が主賓席。もてなされている感じがハンパないと思う。
2015/04/30 更新
再訪。11回目。
2年ぶり。改装後は初。
以前いらしてたスタッフの方々も殆ど変わり、内装もシックになった。
心機一転。
お店も私も。
ディナー利用。
ディナーコースと、ワインペアリングにて。
結論から言えば、今回も素晴らしかった。
いや、今までより更に素晴らしくなっていた。
以前から素材の旨みの引き出し方や、素材と素材の組み合わせ方が職人技だと感じていた。
ただ、その方向は今回更に進化しているように感じたのだ。
以前は、素材の旨みの本質以外を削ぎ落とし、調理方法により本質的な旨みを昇華させ、
調味料やソースによりそれを上手くまとめるイメージだった。
そこには、シェフはきっとこういう味を出したかったのだろうと
僕自身が想像できるような、計算し尽くされた味の広がりがあった。
しかし今回頂いてみて感じたのは、
確かに、素材の旨みの本質以外を削ぎ落とし、
調理方法により本質的な旨みを昇華させるというベースのところは変わっていないけれども、
調味料やソースや他の素材とを掛け合わせることにより
更に味を昇華させるような広がりがあるというイメージ。
今回は初夏ということもあって爽やかな酸味を意識したコースの流れで一貫しており、
また若くて味も食感も柔らかな食材が手に入るためできるだけその素材を活かしながら、
味の強弱の変化もあり、コースの流れ方がとても綺麗。
以前のディナーコースに感じていた一貫性の無さはきれいに無くなり、
素晴らしいコースに仕上がっていた。
生江シェフはまた新しい境地に達したのではないかと感じた。
今回のコースの内容:
(1)ハロー〜
鳩、伊勢海老、ルバーブと日本酒
(2)アップルパイのように #28〜
毛蟹、茴香、虎杖
(3)ユニゾン〜
上り鰹と春菊、白味噌、グレープフルーツと生姜、しょっつるのツメ
(4)定点〜
蕪とパセリ、キントアハム、ブリオッシュ
(5)市井の山居〜
あいなめの乳清ポシェと山菜たち、山椒ラヴィゴット、マッシュルーム&ブラックオリーブ
(6)マイグレーション〜
とうもろこしの冷たいスープと発酵乳、モーレネグロ
(7)おばあちゃんの味〜
ちいさな茶碗蒸し、栄螺、二十日大根の糠漬け
(8)森のむこうに/狩りの記憶〜
夏鹿のロティとムール貝、茗荷、茄子、大葉、青梅
(9)西と東と〜
チーズたち あるいは お野菜たち
(10)陽だまりの縁側〜
”ビワ・マンジェ”と甘酒のムース、抹茶ケック、品川萩の花のアイス
(11)木陰の涼~
メロン、ヨーグルト、アカシアの花
(12)ミニャルディーズ & お薄
これらの中で特に素晴らしかったのは、(5)のあいなめ料理、(10)のデセール、(4)定番の蕪料理。
(5)のあいなめの料理は、あいなめを予め乳清で茹でることにより柔らかい食感になり、
あいなめ特有の魚臭さが抜け、独特な酸味が付加される。
これが、滋味溢れる山菜と素晴らしく合うのだ。
山菜はその種類や部位によって滋味が異なるから、一口一口味が微妙に異なり、
更にそこにソースや山椒などの味が加わり素晴らしいセッションに。
これまでレフェルヴェソンスで頂いてきた料理の中でも1位2位を競うような料理だ。
(10)のデセールは、ビワ特有の甘みと微かな酸味と、甘酒の発酵系の酸味と、
アイスクリームの甘みと仄かな苦味とが、寄り添いながら新たな甘みや酸味を作り上げていく。
このデセールは、凄いよ。こんなデセールを出すフレンチレストランが他にあるだろうか。
(4)定番の蕪料理も、以前と比べて更にパワーアップ。
初夏の蕪は、若々しく元気一杯。
辛味が綺麗に甘みに変化し、蕪の水分をたっぷりと含んでパツンパツン。
口の中に蕪の甘みが元気良く広がる。
また、その他の料理も素晴らしかった。
(1)アミューズブッシュは、えんどう豆の泡が、鳩のジュレや伊勢海老を上手く包み込む。
また、一口ごとに違った味わいが楽しめる。
最初にこれが出ることで、自分の味覚がいきなり活性化する。
(2)定番のパイは、今回は毛蟹、茴香(ういきょう)、虎杖(いたどり)。
この、茴香(ういきょう)、虎杖(いたどり)の2つの山菜が素晴らしい働き。
この時期ならではの、滋味溢れる味わい。
(3)上り鰹の料理。鰹の刺身が単なる鰹の刺身に終わらず、また、
春菊や白味噌などと合わさっているにもかかわらず和食にならず、
綺麗なフレンチとして仕上げられていることに驚く。
上り鰹の特有の酸味が、他の酸味と合わせることで変化。とても上手い。
(7)ちいさな茶碗蒸しは、コースの中では小休止的な位置づけではあるが、
この出汁の旨味で自分の味覚が綺麗にリセットされて、原点に戻る感じ。
次の肉料理に向けて、自分の味覚の準備が整う。
(8)夏鹿のロティは、肉汁をたっぷりと含み、また柔らかく、素晴らしい味わい。
鹿って、大抵は身が硬くなって、ときとして繊維質が口の中に残りパサパサになってしまうが、
この夏鹿のロティは全然そんなことなくて、瑞々しさがある。
これに合わせる茗荷、茄子、大葉、青梅は、完全に和の食材だけれども、
鹿肉と合っており、鹿肉の滋味をもう一段上の滋味に引き上げてくれる。
これも素晴らしい一皿だった。
(9)チーズの盛り合わせも、チーズの状態がとても良く、4つそれぞれの個性も光る。
ペアリングで出していただいたワインのセレクトも素晴らしく、
特に(5)のあいなめの料理で出して頂いたワインは料理とのバランスが素晴らしかった。
振り返ってみて。
今回のディナーは、過去最高のフレンチディナー。
料理だけではここまで感じなかったし、ワインだけでもここまで感じることはないだろう。
また、ワインをペアリングにしていなければ、ここまで感じることもなかっただろう。
料理の個性とワインの個性とがペアとなり丁度ぴったり寄り添うことで、
お互いの個性が花開き、活きる。
マリアージュとはこういうことを言うのだろう。