陶酔さんが投稿した知憩軒(山形/鶴岡)の口コミ詳細

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知憩軒鶴岡/料理旅館、郷土料理

1

  • 夜の点数:4.5

    • ¥8,000~¥9,999 / 1人
      • 料理・味 4.0
      • |サービス 4.0
      • |雰囲気 4.5
      • |CP 5.0
      • |酒・ドリンク 3.5
1回目

2013/10 訪問

  • 夜の点数:4.5

    • [ 料理・味4.0
    • | サービス4.0
    • | 雰囲気4.5
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク3.5
    ¥8,000~¥9,999
    / 1人

大人の懐かしい味

 最近、出汁をたっぷり効かせ、砂糖やみりんをまったく使わない料理を指向していたので、こういう懐かしい味に出会うとほっとする。
 関西料理ではない京料理をベースに(醤油の使い片が違う)、素材のうまみと昆布出汁と塩による引き立ての按配の緊張感の中、美食を求めていた。新鮮な鯛を切ってそのまま出すなんてそんな店にはいきたくもない、なんて具合に某Tさんの影響を受けまくっていた。そういうのって料理じゃない。でも、うまいものはうまいのだが。
 ここの料理の何がそういうものと違うのかって、要するに砂糖を結構使うのである。僕はそういう料理で育ってきたものだから、全体のバランスが取れた味付けや調理がなされているここの料理は懐しい。そういう延長線で地場の白味噌がまたいかにも状態の良い発酵食品らしさにあふれていて目が細くなる。自分でも一時期砂糖による甘さを隠し味にずいぶん使ったものだが、いまはやらない。
 酒も奥羽自慢だったかほどよい辛さでうまみのある料理の邪魔にはならない御燗でいただいた。月山ワインはいただけない。月山のスパークリングはなかなかよいと聞いていたが、甲州はこの地で辛口が珍しい、という以上ではない。その他のワインはお土産ワインの域を出ていない。この宿のお姉さんで選べる範囲では贅沢をいってはいけないのだろう。

 食堂・・・もっと適切な表現があると思うのだが・・・で、お母さんと話をしていると、地域の伝統を守りたいという気持ちがヒシヒシと伝わる。蚕を飼い、絹糸を紡ぎ、機を織り、工夫を凝らして現代的であってもちょっと手触りが異なる服に仕上げている。蔵を使って時々ギャラリー展示をしているようだ。便利な世の中を敢て昔ながらに不自由に暮らしている。

 そして、その生活を維持するために少しばかり料理をして宿を営んでいる。
 離れの二部屋だけを、これぞ粋、という感じの明治の香りが残る茶室と書斎を別室に控え、天上が高いぎゃラリーを寝室にしている。寝室やお風呂などは現代的な清潔さである。TVなどない。といっても現代、ネットがあればTVは関係ないが。
 ともかく静かである。田舎だ。雪が降ると2mも積もり、雪掻きをしないと通りは歩けないそうだ。遠謀からの客は雪がない時で、雪が降ると地元の客がちらほらあるくらいだそうだ。かつて産業といえば農業しかなかった頃、雪に閉じ込められたときの内職が絹織物だったのだ。保存食もその伝統である。
 今も山できのこを取るのだそうだが、ものによっては肝臓障害のある人には負担になるということで、出さなくなったようだ。毒が多少あるきのこも塩漬けで美味しく食べられるようになるのだが、もう自家消費以上にはむずかしいそうだ。近くで取れた野菜中心で、少しばかり魚や鳥もつく。
 ご飯もおいしい。朝の炊き立てはまた格別で蕗味噌と醤油もろ味で3杯食べてしまう。

 一泊3万円にしたら外国人が来るだろう。何もないことに価値があると思えば、値段はあってないようなものだ。実に素朴で特別なことはないもないごく当たり前のおもてなしであり、料理である。それを維持することが現代社会においていかに稀有でありエネルギーと思い入れと心を要することであろうか。こういう生き様にこそ頭が下がる。ヨーロピアンな超高級ホテルに価値があるとしたら、それは欧州文化が凝集しているからであるが、ここは日本の失われつつある文化が守られている。普通は入ることができない土地土地の生活の一端を傍観できる。
 ここに6千円で泊まれる幸福を十分に味わいました。
 再訪したい宿はそうそうないのだが、ここはそういう宿です。
(ちなみに、再訪したい宿はエズのシェーブルドールが筆頭である。あそこの青い地中海を見渡すテラスでドンペリとキャビアをまた食したいものだ)

2013/10/29 更新

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