この日は朝から雨で、5時開店と同時に入店するも、客足はいまいち。
お目当ては、自家製カラスミだ。酒粕につけてあって、しっとり、もっちり。
4切れで1000円。時期が早く、高値で困ると親方は嘆く。
客が何回か入れ替わったあと、9時過ぎに若いカップルが入店してきた。
テレビの放映(「和風総本家」)をみてやってきたという。
酒と刺身とかつまんで、いよいよ握り鮨になったとき、親方が輪島塗の鮨盛台に
乗せた鮨やガリを、男性の方が鷲づかみにして、自分の皿に盛りなおした。
私も横で見ていて、ずいぶんぞんざいな扱いをする奴だなと思った。
そしたら親方が、「ガリをそんな風に扱うんじゃねえよ、こっっちは全力で自家製の
ガリを作っているんだ。うちのシンガリは200円だけど、スーパーで買ってきた品物とは
ものが違うんだ。」とえらい剣幕で怒りだした。本当に怒っていた。
若者は単に鮨の食べ方をしらなかっただけだし、たかがガリだ。
しかし、精魂かけて作った食べ物(鮨)がそんな風に扱われると、親方は我慢ならない
という。
叱られた若者は、素直に謝っていたが、ガリの扱いでこんなに怒られる鮨屋はほかには
いないだろう。
ここの親方は以前は、一人前○万円也のお店を仕切っていたが、今は下町の
立飲み居酒屋(鮨屋とは名乗らない)を一人で切り盛りしている。
別にむずかしい作法はないわけで、庶民的値段でうまい鮨を出すが、許せないものは許せない
という、昔堅気の鮨職人の気質を見た。
そのあと、調理場から出てきた親方は、若者に
「こんなこと言われないとわからないからな。これからは、あなたは鮨を食う時に恥をかかなくて
すむから」と優しく声をかけた。
・・・・・・とてもいい場面に遭遇してしまった。
「海鮮立ち飲み処 太陽」という下町のお店での出来事でした。