『名作レビュー再び ②今は無き直ちゃん本店に捧ぐ』いが餅さんの日記

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盛り場徘徊記   

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2013年3月 ・・・・・・・・・・・・・ 

 広島市内でレビュアー仲間4人での飲み。 
先輩格のレビュアー氏より何度か名前を聞いていたものの、広島ではよく見かける中華そば&ちょい飲みの店。 簡単な酒の肴を供してくれる程度の店、くらいに考えておりました。

 んがっ、 しかし! その認識は大いに甘かった。 
このような場所で、今年度の最優秀新人賞の有力候補を発掘できるとは! 参った。( ̄▽ ̄;)

 場所もディープなら店構えもディープ。 ガラス越しに見えるカウンター盛られた魅惑的なツマミの数々!
 
 この手の店で数多くの修羅場を潜り抜けてきた私に標準装備されている特殊な索酒場センサーは、瞬時にこの店に只者ではないオーラを感じとっていたのであった。
 
 一歩店内に足を踏み入れる。 期待に違わぬ濃密なる空間。 
これこそ私が常日頃から酒場に求めて止まぬ格調高き薄汚さではないか!(;゚∀゚;)

 超雑然とした店内であるが、そこには店員、客、カウンター、椅子、料理、酒は勿論のこと、野球選手のサイン、壁に貼られたAV女優のポスターに至るまで無駄なものは一つもなく、全てが混然一体となった「直ちゃん」という小銀河を見事なまでに形成しているのである。
 
 こ、これは! 私を喜ばせる為に松竹が極秘にセットを組んで待っていてくれたのか?(((( ;゚Д゚)))
 そんな考えが頭をよぎる。 んな訳ゃない(笑)

 ネタケースの中にはマリリン・モンローの足よりも美しい豚足。 
これなんぞあまりに立派なので客を笑わせるために合羽橋で特注したオブジェかと本気で思った代物である。

 特殊な保温器の中には広島所縁の名菓バームクーヘンと見間違うようなタコ糸で撒かれた塊のチャーシュー。
 既に三軒目ではあるが、我々が一皿目にこの自家製チャーシューを注文したのは歴史の必然である。
 
 ムムム、客をあざ笑うかのようなふてぶてしい面構えのチャーシューではないか。
日本全国あまた星の数ほどに存在する呑兵衛達の涙腺を直撃するに相違ない雄々しき姿に我々は早くも先制の右ストレートを食らってしまった。
 
 酒場において一皿目の与えるインパクトは極めて重要である。
自分勝手な呑兵衛達はこの一皿目の印象で、この店に長居をするか、早々に切り上げて次店に移るか冷徹な判断を下すのである。 

 故に大衆酒場における一皿目は日本シリーズにおける先発ピッチャーの投じる第一球なんぞよりも遥かに重要な意味を持つのである。

 見た目だけではなく味付けも良い。 いや、このビジュアルで悪かろうはずがない。
心地よい歯ごたえのある肉肉しいチャーシュー。 特製のタレにタプタプ浸かった広島県民のこよなく愛するモヤシとの相性も良し。

 白セン刺しは生ピーマンが添えられてあるところに店主のセンスを感じる。
赤、白、緑の見事なイタリアントリコロールな色彩は、ピザ・マルゲリータなんぞと言うオシャレな食い物ではなく白セン刺しであることにこそ意味があるのだ。

 味付もよい。 特製の酢醤油はポン酢と甘酢の中間のような心地よい酸味と甘味。
豚耳も肉厚。 キャベツの上には天空落としならぬ昔懐かしい瓶マヨのスプーン落とし。 ポテサラのマウンテンぶりも申し分なし。

 これら次から次へと繰り出される必殺技の洗礼に、多感な私の心臓は見事に鷲掴みにされてしまったのは言うまでもない。

 B級、C級の店の中でも一等抜きんでる店は、やはりある種の崇高なる美を伴なった盛り、惜しみなさが重要と改めて認識。

 朽ち果ててしまいそうな提灯、老朽化した店舗とは裏腹に、ほとばしる生命力を感じさせる料理の数々と接客。
 私は完全に打ちのめされてしまったのだ。

 店を後にする際、思わず浮かんだ一句。 

 「直ちゃん哉、嗚呼直ちゃん哉、直ちゃん哉!」  (芭蕉)「安芸の細道より」

 こりゃ再訪確実よ。( ̄▽ ̄;)
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