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昼の点数:4.8
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¥2,000~¥2,999 / 1人
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料理・味 4.6
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|サービス 4.9
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|雰囲気 4.9
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|CP 4.8
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|酒・ドリンク 4.8
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[ 料理・味4.6
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| サービス4.9
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| 雰囲気4.9
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| CP4.8
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| 酒・ドリンク4.8 ]
カレーが美味いだけの店ではない。
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2025/08/04 更新
9時35分。
駅から少し歩いた商店街の騒めきが落ち着く辺りに、控えめな看板と風のない列があった。
オレはその最後尾に並び、4組8人目。すでに陽は高く、30℃を超えていたと思う。
まるで灼熱の儀式のように、誰ひとりとして列を離れようとはしない。
すると、店の奥からひとりの女性が現れる。涼しい表情で、列の様子を見ながら、声がけもしていた。
奥様だろうか。あの落ち着きは、店をを預かる者のそれだ。
開店まで、まだ1時間以上。
誰も喋らない。スマホをいじりにさえ、疲れる集団。
列というより、沈黙の稽古のようだった。
10時55分、風が吹いた。
オレは並び始めてから80分目、空気が少し揺れたその瞬間、店内からドアが開き、列が一斉に動き出す。
開店の35分前だった。
たぶん、外の気温と、この無言の耐久戦に、店側がひとつの答えを出してくれたのだと思う。
オレの組で、ちょうど一巡目の最後。
オレの2分後に並んだ3人組は、50分後の11時45分にようやく店内へ。
2分と50分。
この店では、時間もまた、煮詰められている。
店内はとてもシンプルだった。
床の色とテーブルの艶が、昔ながらの喫茶店を思わせる。特別な内装はない。
けれどそこには、確かな清潔感と、整った昭和の空気があった。
オーダーは、「和牛ビーフジャワカレー・辛口」。
メニューにはこう書いていた。
“国内産黒毛和牛のほのかな甘さとカレーソースの美味しい辛さです。”
その言葉だけで、スプーンを持つ手がひと呼吸早まる。
惜しかったのは、オレの直前でトッピングの「野菜」が売り切れたこと。辛さは調整できるようだったが、今回は見送った。
メインディッシュを味わう前の静けさのようなものを、壊したくなかった。
店内の壁に掲げられた説明文を、少し読み返す。
そこには、“フォンドボー・ブーケガルニ・グラスドビアン…”と、魔法のような言葉が並んでいた。
「丹念に仕上げました」
その一文だけで、すでに皿の温度が伝わってくる気がした。
薬味として現れたのは、ニンニク醤油の効いた玉ねぎのアチャールと、オレンジ色に透ける福神漬け。
それが、ウエッジウッドの皿に乗って登場する。
ほんの小皿でさえ、ちゃんと場をわきまえている。
そして、カレーが来た。
看板にあった “ENGLISH CURRY AND EUROPEAN STEW” の文字が、ようやく実体を持った瞬間。
粘度のあるソースは、まるでスープとソースの境界線をゆっくり往復しているようで、厚みのあるコクのあとに、スパイスの輪郭が静かに追いかけてくる。
辛口とあったが、体感としては中辛程度。
しかし、このとろみの中では、そのぐらいがちょうどいい。
それ以上辛くしてしまえば、旨味より先に刺激が舌に絡みつき、余韻を濁してしまうかもしれない。
味はもちろん素晴らしかった。
英国紳士のジェントリーな欧風カレーとまとめたくなるような、コンサバティブな一皿だった。
けれどそれ以上に、接客の品格が記憶に残る。
誰かが店を出ていくとき、奥様は丁寧に見送り、テーブルを清め、次の客を静かに迎える。
たとえ店外に長い列ができていようとも、食べ終えた客を急かすような素振りはない。
この静けさの中で食事をすることこそが、「トマト」における最大の贅沢なのだと思う。
店の設備は、ごく普通の喫茶店だ。
でも、接客は高級ホテルのそれに近い。
そう書くと驚かれるかもしれないが、味と価格帯と気遣いのバランスを考えれば、それは過剰でも誇張でもない。
とても、美味しかった。
それだけで終わらせてはならないような時間が、確かにそこにあった。
オレが「ここがNo.1」だと感じた理由は、皿の中だけにはなかった。
味と、風と、沈黙と、タイミングと。
それらすべてが煮詰まって、ようやく完成する“時間のカレー”だった。
※なお、本文中ではリアルな臨場感を伝えるために、時間の経過や店側のご対応についても触れましたが、開店を早めてくださったことなどは、あくまでそのときのご好意によるものでした。
たまたま、よい機会に恵まれたというだけであって、これは私たち客の側が当然にお願いしたり、期待できるものではありません。
今後訪れる方々にも、ぜひその点をご理解のうえ、お店への協力と心配りをお願いできればと思います。
ご年配のご夫婦が丁寧に営まれているお店です。どうかその背景も、ほんの少し心に留めて、訪ねてみてください。