『自分にとって最高の音楽体験』くいしんぼうヤマゲンさんの日記

2010年11月22日投稿

昨日21日川崎ミューザでマリス・ヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の
マーラー交響曲3番を聴きました。90分を超える大曲です。
今回この曲をライヴで初めて聴きました。
しかしこの演奏は今まで自分が聴いてきたオーケストラ演奏で最高の体験
それどころか最高の音楽体験といえるものでした。

マリス・ヤンソンスは自分が一番好きな指揮者です。最近は彼のもう一つの
オーケストラであるバイエルン放送響を交互に率いて毎年来日しています。
そして数々の名演に接してきました。もちろんコンセルトヘボウの演奏も
素晴らしいものばかりでしたが、自分はどちらかというとバイエルンとの演奏が
好みでした。もちろんどちらもヨーロッパのトップオーケストラです。絶対値はむしろ
コンセルトヘボウの評価が高いでしょう。
しかし自分はバイエルンとの演奏がヤンソンスの個性と合い、何度聴いてよりも飽きない
ところが好きです。（食べログで自分はほめ言葉に「飽きない」を使います。）

しかし昨日聴いたマーラーはそれは素晴らしかった。3番というマーラーの交響曲の
中では自然への賛歌ともいえる明るい部分を持つ曲の性格（終楽章は個人的に
勝手にハンス・ロットへのオマージュとブルックナーへの尊敬と感じてます。）が
ヤンソンスの誠実なしかし妥協のない曲への取り組みさらにオーケストラの高い機能性に
裏付けられた温かみそして深みのある美しさともあいまって本当に素晴らしい演奏でした。
もちろんラーソンの独唱と合唱もとても良いものでした。

今回ヤンソンスとコンセルトヘボウの真の凄さを感じました。
本日サントリーホールでもこのコンビでこの曲が演奏されます。
昨日・本日この演奏にライヴで接した聴衆は本当に忘れられない体験に
なるのではないでしょうか。

ヤンソンスを初めて聴いたのは今から33年前1977年でした。
鹿児島の高校生だった自分は、当時ソ連のトップオーケストラだった、レニングラード・
フィルを聴けるということで、貯金をはたき１万円のＳ席チケットを買い行ったのでした。
てっきり当時活躍していたマリスの父アルヴィト・ヤンソンスの指揮と思いこんでました。
しかし登場したのはまだ３０代前半のマリスだったのです。

曲はショスタコービッチとドヴォルザークの9番「新世界より」交響曲でした。
感想は正直がっかりでした。マリスは懸命に指揮棒を振るのですが、
力みかえり音は硬くきていてつらくなりました。1万円払ったのは何だったのかと
田舎の高校生は悲しい思いをしたのですが。
でも今振り返ると彼の音楽への取り組む姿勢は変わっていないのですが、それが
結果に結びつかなかったのでしょう。

その後彼の指揮に接したのは19年経った1996年のオスロ響のサントリーホールでの
公演でした。その時の見違えるようなみずみずしい響き、特にブラームスの1番交響曲の
誠実な演奏は素晴らしいものでした。これをきっかけに彼のファンになりました。
その後ピッバーグ響そしてコンセルトヘボウ、バイエルンと聴くたびに彼が指揮者として
素晴らしくなっていくのに接してきたのでした。

今は最高の指揮者の一人となったマリスですが、平坦な道ではありませんでした。
評価を高めたオスロ響の指揮者の時は亡命を恐れたソ連当局により家族はソ連に
残さねばなりませんでしたし、ソ連が傾き経済的苦しくなった1986年レニングラードとの
来日した時はテミルカーノフと共にこの名門オケで全国30カ所近くどさ回り公演も
強いられたのです。（このときテミルカーノフ指揮の公演を福岡で聴いたはずですが、
記憶にありません。テミルカーノフも素晴らしい指揮者。ボルチモア響やレニングラードが
ロシアとなり改称したサンクトペテルブルグ・フィルとの名演に接しています）

以上のマリス・ヤンソンスの歩みと音楽に対する姿勢は自分が高く評価している
シェフや主人にも通じるものを感じます。
ですからどのような名料理人でも最初から最高の技量を発揮したわけではありませんし、
（もちろんだめな料理からお金をとる理由にはなりませんが。）
きつい環境でも好きな仕事だからこそ苦労を糧にして、高い評価のレストランのシェフに
なるのでしょう。もちろん本人努力だけでなく周りの支え、客との交流、そして運も
かかわっているのかもしれませんが。

ヤンソンスは一時体調が芳しくなく（心臓に持病があります）、日本に来る前の
ヨーロッパのコンセルトヘボウの指揮をキャンセルしたらしいです。
それでももっと体に負担がかかるはずの日本にやってきて至高の演奏をしてくれた。
感謝しかありません。きっと日本の聴衆を愛しているからでしょう。
これも良いレストランはシェフや主人が客を大切にもてなしていることに通じるでしょう。

これからも体を大切にして日本に来てほしい。来年バイエルンと素晴らしい演奏を
聴けることを信じ楽しみにしております。

ありがとうヤンソンス！