2回
2016/02 訪問
【やっとやっと600軒目】若い大将の供する瑞々しい伝統の味に心惹かれた。
正月以降,なぜか外食では肉をたくさん食べていたような気がする。この日,谷町界隈で会議があり,それが少し早く終わるという予定だったため,是非和食を食べようと思い立ち,以前あまから手帳で紹介されていたこちらの店を予約した。あまから手帳では,コースでなくアラカルトで頼もう,という特集だったが,初めてのお店ということもあり,5000円のコースをお願いしておいた。
当日、会議が終わってからクールダウンするために,谷町4丁目から本町,そこから四つ橋筋へ出て靱公園の横を抜けて、徒歩で30分強の時間をかけてお店を訪問する。白い外壁に「京町堀莉玖」の木札がかかった落ち着いているけど溌剌とした外観。生成りの暖簾をくぐって入店する。すぐに女将が出てこられ,カウンターに案内される。白木のカウンター,その向こうの板場,店全体がとても新しくて清々しい。
カウンターの上には、手書きのその日の料理のお品書きとコースや酒類が既済されたメニューが用意されている。少し長く歩いたので,喉が渇いていたこともあり,メニューの中からビールを注文した。
暫くして,丁寧に注がれたグラスビールが用意される。泡かとてもきめ細やかでクリーミーに立っており,一口頂くと泡のクリーミーさとビールの爽やかさが同時に広がりとても旨い。
ビールを二口程頂いた段階で,コースが始まる。まず先付けは,かます子と菜の花,芽キャベツの黄身酢和え。さっと焙ったかます子に軽くボイルした芽キャベツと菜の花を黄身酢で和えたもの。ほんの少しほぐした唐墨が軽やかなな塩味を添えている。かます子の香ばしさと芽キャベツの甘みそして菜の花の軽やかな苦みがクリーミーな黄身酢でまとまり,春を先取りする軽やかな一品。
向付は,鯛,烏賊,寒鰤,かます焼き霜の造り。藻塩と酢橘、そして醤油が用意される。造りを食べるなら日本酒が飲みたい。そこで,日本酒メニューを眺めると,大好きな黒龍純米吟醸があったのでそれをお願いする。
黒龍がグラスで用意される。口に含んでその香りと味を楽しんだ後,造りを頂く。まずは烏賊。軽く酢橘を搾り,塩で頂く。もっちりとした歯触りと、噛みしめる内に出てくる烏賊の甘みが酢橘によく合う。次に鯛,こちらは塩に山葵を載せて頂く。身はそこそこ活かっているが,旨みがよく引き出されている。これは旨い。食べ終わり黒龍を口に含むと,鯛の旨みが黒龍により皿に増幅されてくる。寒鰤はたっぷりの山葵と目紫蘇,それに醤油で頂く。脂が乗っていて,まったりした旨み。関西人だからか,この時期の寒鰤は鮪より美味しいと感じる。かます焼き霜は,これまた塩と酢橘で頂く。焼き霜の香ばしさと少し濃いめの身の旨みが酢橘や塩で活かされる。酒を飲みながら造りを頂くと,造りの旨み,酒の旨みが互いに引き立ち,至福のひとときを感じる。
煮物椀は,蛤真丈。そこに藪萱草、京人参、大根。あしらいが柚子。椀の蓋を開けると,出汁の馥郁とした香りに柚子の爽やかさがふわっと広がる。しばしうっとりした後,熱々のところを一気に頂く。まずは出汁を一口。淡い中に深みを感じる。蛤真丈は,むっちりした食感に蛤の旨みが凝縮されている。大根や京人参,藪甘草などは単なる彩りだけではなく,それぞれの持つ素材の持ち味が出汁でまとめられており,どれを頂いても旨い。いつも思うが椀が旨いと,この店で食事できてよかったなあ,と感じる。満足いく一品であった。
次の焼き物は,太刀魚。酒盗と卵黄身のソース。ソースの上には,焼き鱈子をほぐしたものが振りかけられており,そこに薑甘酢が添えてある。焼きたてはもちろんであるが、皿まで蒸し器で暖められて供される。その心遣いに感動する。淡泊な太刀魚の身に,酒盗の濃厚な旨みが纏わり付く。でも,決して酒盗の旨みが勝つのではなく,あくまでも太刀魚の旨みが活かされた味わい。素直に旨い。酒にもよく合う。
ここで,日本酒がなくなったので,伯楽星純米吟醸をお願いする。同じタイミングで,八寸が供される。
八寸は, 鯛の子,若牛蒡,鰯山椒煮,もずく酢,嫁菜と赤蒟蒻の胡麻和え,利休麩と蕨の胡桃和えの6品。鯛の子は,ほっこり甘く品よく炊かれており,顔が綻ぶ。若牛蒡は土の香りと根菜特有の甘みが活かされたもの。もずく酢は,爽やかでもずくのシャッキリ感が口の中を洗い流してくれる感じがする。嫁菜と赤蒟蒻の胡麻和えは.胡麻の風味と蒟蒻の歯触りが楽しい。利休麩と蕨の胡桃和えは,蕨のほろ苦さが来たるべき春を感じさせ、利休麩のもちもち感に驚かされる。鰯山椒煮は,甘辛く香りよく,酒にも御飯にもよく合うと思う。ちびりちびり酒を飲みながら,これらの料理を頂くのはとてもいい。
八寸を食べ終わったのを見計らい。蒸し物が供される。金目鯛と胡麻豆腐の湯葉葛餡。焼き目を入れた金目鯛に霰をまぶして揚げた胡麻豆腐,筍,豌豆を湯葉餡で纏めた一品。これまた,出汁と柚子の香りが立ち昇り,鼻腔を擽る。まずは,金目鯛を頂く。下味を付けて焼いてあるそれは、口に入れた途端に、金目鯛の品のいい脂の乗った旨みが広がる。金目鯛の旨さが本当によくわかる。また,揚げた胡麻豆腐も出汁に絡んでとても香ばしい。筍も旨い。加えて湯葉餡の出汁加減がとてもいい。これまた美味しい一品であった。
油物は、穴子,牡蠣磯辺揚げ,薩摩藷,こごみ,蓮根の天麩羅五種。塩と天汁が用意される。穴子は程よく脂が乗りまったりとした旨みが素晴らしい。薩摩芋は優しい甘さ。蓮根はさっくりとした歯触りが心地よい。こごみも塩で頂くと香ばしい風味が口の中に広がる。そして牡蠣磯辺揚げは,噛んだ瞬間に磯の香りとものすごく濃厚な牡蠣の旨みが口一杯に弾けだす。こんなに旨みの塊のような物はあまり頂いたことがない。驚きを禁じ得ない。何とも言えず旨い。酒にもよく合う。残りの酒をここで飲み切ってしまう。
飯物は,鮎の白魚とうるいの粥。それに胡瓜と壬生菜の漬け物と昆布。粥は,鮎の白魚から出た柔らかないい出汁が米に浸み込み,そこにうるみの滑りが加わって,するすると胃の腑に落ちていく。熱々をふうふうしながら頂く。身体に優しい旨さ。
粥を食べ終わったところで,水菓子が供される。林檎羊羹と苺の赤ワインソースかけ。シナモンを少し利かせたリンゴの羊羹は少し甘めだが,赤ワインソースの心地よい酸味と調和が取れて,とてもいい。苺もリンゴの羊羹に負けない甘みを供えている。何より赤ワインソースが素晴らしい。こんなに美味しい水菓子は頂いたことがあっただろうか。
水菓子を食べ終わると,胡麻のちんすこうと玉露が用意される。玉露を頂くと,体中に満足感が染み渡った。
一番お手軽なコースであったが,料理は,どれも満足した。出汁の加減や素材の活かし方,どれをとっても若い大将の瑞々しい感性が活かされつつも,伝統に裏打ちされた技術を大切にしている感じがした。また,日本酒の種類も多くよいものが厳選されて用意されていた。日本酒好きにはとても喜ばしい。加えて,日本酒と共に用意された水や御飯とともに出されるほうじ茶等,脇となるものもとても美味しく頂けた。
大将だけでなく焼き場の美しい女性や女将,若い給仕の女性,男性店員の方々が,銘々一生懸命に仕事をされており,清々しく感じた。給仕のタイミングも適切で心地よく食事を楽しむことができた。それにお料理の内容に比してお勘定も驚くほど安かった。
店外まで見送ってくださった若い大将の旨い料理と心意気,また店の方全員で醸し出される素敵な心配り,そして旨い日本酒を味わいに,是非近いうちに訪れたいと思う。いい店に出会えたと思う。
2016/02/27 更新
三月末のことだが、祝い事かあって、家族でこちらのお店に伺うこととした。今回で3回目の来訪。一万円のコースを予約した。
今回は初めての個室。ゆったりと食事と会話を楽しみたいから。落ち着いた雰囲気。
まずは飲み物を注文する。私は、遊穂純米吟醸原酒うすにごり。後の者は、ビールや梅酒水割り、葡萄ジュースなど、好きなものを注文する。
まず運ばれてきた先付は、グリーンアスパラ、スナップえんどうとヤングコーン。胡麻のソースがこれらの野菜にうまく絡み、清々しくて、香り高い。この時期のこれらの野菜は、本当に旨味がしっかりとしている。
次が向付。桜鯛、サヨリ、平貝、みる貝、中とろ鮪の五種。お祝いごとということで、桜鯛を用意してくださったとのこと。少し小ぶりの鯛だったからか、やや旨味が少なくものの、彩りよく、華やかな気持ちになる。他の造りはいずれも食べ頃のものが供されており、いずれも旨い。酒が進む。ここで、冩楽純米吟醸を頂く。
次が、煮物椀。金目鯛と蕨、春菜、しめじに柚子のあしらい。蓋をあけると、ふうわりと広がる優しい香り。熱々を頂く。金目鯛が本当に旨い。出汁加減も秀逸。
やはり和食の華である。
焼物は、甘鯛菜花味噌。唐墨を彩りにしており、美しい。菜花味噌の少しのほろ苦さが、甘鯛の身の甘さを引き立てており、旨い。皆で顔を見合わせる。
続いて八寸。蛍烏賊、若牛蒡、鶏、蕗、分葱のぬた、帆立の酒粕白和えなど。どれも楽しい一品。春を感じるものばかり。酒をちびりちびりやりながら、一つ一つの料理を味わう。
次は若竹煮。筍と若布に鮑が寄せられている。筍の少しだけアクを残しているその風味と食感、柔らかく炊き上げられた鮑、そして優しい若布の食感がすばらしいお出汁で一つに纏め上げられて、これまた秀逸な味わいのお料理。ここで篠峯純米を頂き、次のお料理を待つ。
ここで、留めに鹿肉のステーキが供される。原木椎茸が添えられている。肉を口に入れ噛み締めると、しっとりと肉汁が広がり、野趣溢れる旨味が口の中を支配する。粒胡椒のアクセントも心地よい。ここしばらくの間で頂頂き鹿肉の中で一番の旨さである。もう少し食べたいなと思いつつ、あっという間に全部食べてしまった。
飯物は、土鍋で炊かれた鯛と筍の炊き込みご飯御飯。そして、大蜆の赤出汁に香の物。炊き込みご飯は、筍の風味と鯛の旨味が米一粒一粒までに行き渡り、非常に旨い。子供らは何度もお代わりしていた。また、蜆の赤出汁も旨い。身までしっかり頂ける。濃厚な貝の旨味が広がる。無論、香の物もいい。
最後の水菓子は、苺のムースと蕨餅、ずんだのソースがかかっている。苺の爽やかさとずんだのソースの風味が上手く調和して、絶品の一品である。子供らも絶賛していた。
どの料理も驚きや感動があり、これぞ割烹で頂く和食と感じた。また、いわゆるコストパフォーマンスも非常に良かった。
大将を初め、店員の方の給仕も的確であり、心地よい。店内は清潔で、張り詰めた空気感も感じられる一方で、個室の中は柔らかな雰囲気であった。家族全員が満足した。これからも度々訪れて、旨い料理と旨い酒をいただきたいと思う。