5回
2022/01 訪問
小型店舗のため席のやりくりが難しいが、仕事面での遜色はなし
定期的に訪れたい老舗蕎麦屋は数多いが、コロナ禍のおかげで大分予定が狂ってしまっている。
こちらには最近はサントリーホールのコンサートの前に寄ることが多かったが、外来の演奏家の来日がほとんどない状況では足を運ぶことも少なく、こちらを訪れるチャンスも無かった。
この近くへの用事の帰り、良い機会だと思い寄ってみた。
時刻は16時少し前で、空いていると思いきや多くの席が塞がっており、私の定位置の左手の小上がりも空きがない状況。
久々に真ん中の8人掛けのテーブルの一角を選ぶが、こちらもアクリル板の衝立で仕切られている。
左右の4人掛けの卓も真ん中に衝立が置かれているが、元々奥行きが狭いので、事実上横並びに2人で座ることを限度に使用されている。
メニューを置くスペースも無いので、件の衝立に貼られているのは味気ないがこれも仕方ない。
ビールの小瓶(黒ラベル)で始める。
お通しにはお馴染みの「あさりのしぐれ煮」が付いた。
肴には「生のり」をもらう。
文字通り摘んできたままと言った海苔に、たっぷりの上質なおろし山葵が添えられている。
少しずつ山葵を乗せて醤油にちょこっと浸けて口に運ぶが、磯の香りが芳しく、それに山葵の甘さを含んだ辛さが重なりなかなか良い。
いつものように、菊正を'ぬる燗'でもらう。
客の出入りが頻繁だが、手慣れたお姐さん方の応対ぶりに慌ただしさは感じられない。
暫し穏やかな時間が流れる。
蕎麦では季節ものの「あられ」が気になるが、昔は'時価'の表示も見られたがこの日は3,300円の値付け。
頼んでみたい気もするが、これはいずれ本店で頼むとして久々に「種込天ぷらそば」を選択。
'種込'の所以は通常の天ぷらそばが「かき揚げ」が乗るのに対し、才巻の天ぷらが2本加わる。
運ばれた丼の景色はかき揚げを枕に、二連で揚げられた程良い大きさの巻き海老2本が盛られ、三つ葉が色を添えている。
巻き海老は蕎麦屋らしく少し花を咲かせたしっかりした火通りだが、味が抜けていないのはさすが。
小海老と小柱のかき揚げもつゆに浸っても簡単に崩れることは無く、味が馴染んで実に美味い。
蕎麦は熱いつゆの中でも、きちんと食感を残している。
元々も美味いつゆも天ぷらの胡麻油の味と香りが加わり、さらに奥深い味わいとなる。
定法通りに温蕎麦にも湯桶が添えられるため、これを注いで好みの濃さに調整し、丼を傾けて最後の一滴まで飲み干す。
こちらも3,080円という結構な値段だが、それだけのことは有る完成度の高さを見せている。
期待通りの満足度の高いひと時を過ごせた。
雰囲気はこのご時世で残念なところは有るが、仕事の面では何の遜色も無い。
最近何軒かの老舗で通し営業を止める事態に遭遇したが、こちらは半端な時間帯でも寛げるのはまことに有難い。
これからも癒しを求めて通い続けたい。
「種込天ぷらそば」
ビール小瓶・お通し
「生のり」
山葵醤油で
菊正をぬる燗で
巻き海老の天ぷら
蕎麦を啜る
かき揚げも
温蕎麦にも蕎麦湯が付く
当然こうなる
現在の品書き
酒
季節もの
店内
暮色の光景
2022/01/18 更新
2018/10 訪問
いつまでも在り続けてほしい、愛すべき名店
今回もサントリーホールのコンサート前に立ち寄る。
約一年ぶりである。
時刻は17時半過ぎで、手前の椅子席は7.8割の入り。
しかし奥の小上がりは年配者や体格の良い方にはちょっと窮屈なせいか空いており、私は座り慣れた左手の漆塗りの座卓の前に靴を脱いで上がる。
まずは小瓶のビールでスタート。
お通しにはいつもの「浅利しぐれ煮」。
肴には久々に「玉子焼き」を注文。
その昔、多くの美食家から'日本一'と賞された味である。
今ではもっと美味いと思える処はあろうが、私にとっても思い出深い逸品が変わらぬスタイルで提供され続けるのは嬉しい限り。
いつものように酒に「菊正」を'ぬる燗'で一合追加し、この雰囲気に溶け込む。
ちなみにこの小上がりの座敷は、伊丹十三監督の「タンポポ」で、大竹秀治演ずる素封家の老人がおしるこの餅をのどに詰まらせて七転八倒するのを、主人公の宮本信子らが救命するという場面に使われたことでも有名。
そんなことに思いを巡らせながら、暫しの蕎麦前を楽しんだ。
蕎麦は「花まき」を選択。
かけそばに'浪の花'になぞらえた、香り高い海苔を上置きしただけのシンプルな種物で、「玉子とじ」や「おかめ」と並ぶ江戸前伝統の一品である。
本店も含めて「室町砂場」で「花まき」を注文するのは、長年通っているにも関わらず初めてである。
先に薬味の小皿が出されたが、乗っているのは「山葵と葱」で、まずそれを見てオヤッと思う。
さらに運ばれた丼の姿を見て、さらに驚く。
この種物の提供方法は、海苔の香りを閉じ込めるために木蓋を被せ、薬味には葱は香りを阻害するので敢えて付けずに山葵のみを添える、と言うのが江戸前の定法。
現に「並木藪」「まつや」「更科堀井」などでは、このスタイルが踏襲されていたと記憶している。
支店とは言えこれらの老舗と肩を並べる「砂場」の領袖で、「花まき」に木蓋が無く、薬味に葱が付いていたのは意外であった。
尤もこのような伝統手法は、江戸前蕎麦屋ならではの拘りの所産であり、味に及ぼす影響はほとんど無い。
木蓋を開ける際の鰻重の箱を取る瞬間にも似た感激は無いものの、実際の味は馥郁たる海苔の風味が感じられ、蕎麦の舌触りも良好、さらに奥行きのあるつゆの加減も申し分のない完璧な出来栄え。
分量的にも、呑んだ後の〆にはちょうど良い。
温蕎麦にもタイミング良く出される湯桶から蕎麦湯を注ぎ、全てを飲み干して満足感に浸る。
相変わらず飯屋感覚で訪れる客からは、盛りが少ないという不平の声が聞こえる。
こちらに食事目的で寄る場合は、最初から2種類の蕎麦を頼むことをお勧めする。
店の方も心得ており、どちらを先に出すかを客に尋ねた上で、時間差を置いて供される。
私も酒を呑まない子供の頃は、必ず「ざる」と「もり」をひとつずつとか、冷たいものと温蕎麦の両方を注文するのが常であった。
以前はサントリーホールの開演前に慣習的に寄る蕎麦屋には、「巴町砂場」も有った。
しかしながら300年の暖簾を誇る由緒ある老舗も、昨年6月にあっけなく閉店。
こちらはそんなことは決して無いとは思うが、いつまでも変わらぬ味と佇まいを残してほしい、愛すべき名店である。
2018/11/04 更新
2017/10 訪問
かけがえのない味と雰囲気
今回もサントリーホールでのコンサートの前に立ち寄る。
ちなみにこの日の演目は、御年92歳の現役最高齢のピアニスト「メナヘム・プレスラー」のリサイタル。
時刻は5時半過ぎだが、店内は華やいだ空気感に満ちていた。
小上がりの窓側で男女8名のグループが、すでに賑やかに蕎麦屋酒に興じている。
'どちらでもどうぞ'という女将さんの声に、やはり私も靴を脱いで上がり、反対側の襖を背にした卓を選ぶ。
冷たい雨の中を歩いて来たため、今回は「熱燗」を所望。
お通しには定番の「あさり時雨煮」が付いた。
軽めの肴を何かもらおうと「おひたし」について訊けば、小松菜と茸とのことで、これにしてみる。
運ばれた小鉢には、出汁を含ませた青菜としめじ・えのきが盛られ、さらに削りカツオがあしらわれている。
突出した出来では無いが、上品な出汁の加減が好ましい。
コンサートの前なので、早々に蕎麦にする。
品書きを眺めると、以前には無かった「南ばんもり」の文字が目についた。
どんなものかと問えば'鳥南ばんのつけそば版'で、昔から裏メニューとして有ったものを最近になって正式に載せたそうで、面白そうなのでこちらにしてみる。
それほど待つことなく、結構な量の鶏もも肉と長めの短冊切りの葱が煮込まれたつけ汁に、せいろに盛られた「もりそば」が登場。
鶏は癖のない旨味十分で、素材自体も上質なのが判る。
時期的にまだ旬とは言えない葱も吟味されており、その白さに江戸前の粋が感じられる。
これにそばを絡めるように食べ進める。
薬味のおろし山葵は解かずに乗せるように啜れば、味が引き締まった。
湯桶と一緒に空の蕎麦猪口も出してくれたが、私は直接つけ汁の鉢に注ぎ、少しずつ足して味を調整することで味の変化を楽しんだ。
いわゆる「鳥つけそば」に1,400円は高いように思えるが、それだけの満足感は得られた。
本店の凛とした雰囲気も悪くはないが、こちらのこじんまりとした構えとゆかしい接客ぶりも捨てがたい。
きちんと揃えられた靴を履き、預けておいた傘を女将さんから手渡され店を後にする。
雨脚はまだ強かったが、実に気持ちよくコンサート会場へ歩を進めることができた。
2017/10/18 更新
2015/11 訪問
小上がりで楽しむ「蕎麦屋酒」は最高
この日もサントリーホールでのコンサートを控え、その前にちょっと入れておこうと立ち寄る。
今では巨大なビル群に囲まれてしまったが、白熱灯に浮かび上がる、ゆかしい佇まいには心癒される。
5時半を過ぎたくらいの時間帯だが、格子戸に手を掛けるとテーブル席はすでに「蕎麦屋酒」を楽しむ客で満杯状態。
しかし奥の小上がりには客の姿は無く、女将さんに促されて、座り慣れた左手前の黒塗りの座卓の向こう側に腰を下ろす。
コンサート前なので、酒は「ぬる燗」一合のみ。
お通しは定番の「浅蜊」。
杯を静かに運びながら、改めてこの場所が私にとって掛け替えのない空間であることを思う。
お銚子が尽きかけた頃、蕎麦を注文。
今回は久々に「おかめ」にしてみた。
程なく運ばれた丼の景色は、海苔を敷いた上に定法通りの厚めの2枚の蒲鉾の他、細巻き海老・玉子焼き・小粒の椎茸・結び湯葉・青味の三つ葉で、大分デフォルメされているが「おかめ」の顔が模されている。
蕎麦はしっかりとした食感を残し、深みを湛えたつゆの加減も揺るぎない。
室町砂場の仕事がここに凝縮されており、一杯1,400円は決して高くない。
温蕎麦でも添えられる湯桶から蕎麦湯を注ぎ、つゆを余すところなく飲み干す。
時刻は6時20分、満ち足りた気分でコンサート会場に歩を進めた。
(新規に5枚の写真を追加掲載)
≪2014年3月のレビュー≫
昨年11月に耐震工事が完了、それに伴い内外も手直しされたことを耳にしていた。
平日の5時少し前、この近くでの用事を控えて足を運んでみた。
建て替えられたわけでは無いので、外から見る佇まいに大きな変化は無い。
引き戸を開ければ、店内にも相変わらず清廉な雰囲気が漂っている。
さすがにこの時間帯なので、先客は2組だけ。
小上がりも空いていたが、今回はテーブル席を選ぶ。
見渡せば天井が張り直されていたり、壁が塗り直されてはいるが、旧来の建具などは綺麗に磨いてそのまま使われているようだ。
3月とは言え小雪が舞い散るような寒さのため、「菊正」を熱燗でもらう。
お通しは定番の「浅蜊しぐれ煮」。
壁に下がった短冊の文字も変わっていないが、季節ものは紙に書かれて貼られている。
「はしらわさび」なども気になったが、今回は後があるので軽く「筍土佐煮」をもらう。
丁寧に煮含められ、粉鰹が振られて木の芽があしらわれている。
この一鉢に春の息吹を感じつつ、暫しゆるりと過ごす。
蕎麦は温蕎麦が欲しくなり「月見」を選ぶ。
運ばれた丼の景色は、まず夜の闇を表す海苔を一枚置き、その上に卵を割り入れ、熱いかけつゆを注いで少し火の通った白身を群雲に見立てる伝統の手法。
さながら「朧月夜」の風情を愛でながら、蕎麦を啜る。
濃い目のつゆも、蕎麦の食感も揺るぎない。
温蕎麦にも「湯桶」が添えられるのが江戸前の定法。
注がれた蕎麦湯は白湯に近いものだが、これが正統的なスタイル。
濁りやとろみが濃い蕎麦湯を出すなど、こまめに茹で湯を取り換えることを手間を怠る、だらしのない蕎麦職人として戒められたもの。
蕎麦湯にまで味や香りを求め、別仕立てのものが本物などと宣う、昨今の「蕎麦オタク」には判らないであろう。
≪2012年6月のレビュー≫
昨日に続き、今宵もサントリーホールでのコンサート。
眠くならない程度に少量のアルコールを入れておくことは気分を高湯させ、それには蕎麦屋がもってこいである。
きのうはコンサートの充実感に比べれば蕎麦屋の満足度がいまいちであったため、本日は間違いの無い処を選んだ。
5時半という時刻のため、まだ店内は閑散としている。
多少時間に余裕が有るので、勧められるままに靴を脱いで‘小上がり’の壁を背にした座布団に腰を下ろす。
注文は「菊正」を‘冷や’で1合。
お通しは丁寧な仕事の「空豆」が2粒。
肴には定番の「鳥わさ」と「玉子焼」を選ぶ。
何れも期待を裏切らない出来栄えと美味さに、つい顔がほころぶ。
竹の簾越しに吹き込む初夏の風が心地良い。
蕎麦はこの時期に関わらず、敢えて「かけ」にする。
以前に「本店」で注文したことはあるが、こちらでは初めて。
写真でもお分かりのように、こちらの「かけ」はつゆはたっぷりと張られておらず、温かい「ぶっかけ」といった趣。
これはその昔、蕎麦が屋台でも商われていた頃、片手で丼を持って手繰るに適したスタイルの名残である。
「砂場」という蕎麦屋の発祥は大坂で、江戸時代の初めに関東に下って来たことは確からしいが、現在のように上方と江戸の食文化が違いを見せるのは江戸時代も後期のこと。
醤油味の濃い江戸前の味が確立されるのもこれ以降で、その中で命脈を保ち続けてきた「砂場」は元は関西でも、れっきとした江戸前の蕎麦屋であることが、この濃いめの「かけつゆ」が物語っている。
「かけ」には葱と山葵が乗った薬味皿を2枚付けるのがここの流儀。
お姐さんは‘かけには薬味が多い方が良いでしょう’と言うが、これも熱によって失われやすい山葵の香りや辛味を少しずつ加えさせようという、客への気遣いが生んだ所産と受け取りたい。
残ったつゆに自然体のさらりとした蕎麦湯を注いで、口福感に浸る。
実に気持ちの良いひと時を過ごさせてくれたことに感謝の気持ちを抱きつつ、店を後にした。
≪2010年11月のレビュー≫
元「置き屋」であったという内外の雰囲気は風情がある。
しかし場所柄、観光客や芸能人、政治家などの雑多な客層がこの小さな店に殺到する有様に、最近は足が遠のいていた。
半端な時間でも立て込むことがあるため‘どうかな’と、平日の3時半ごろ寄ってみた。
運良く先客は2人だけ。5.6回は通っているが、これだけ静かなのは珍しい。
いつものように「菊正」を燗で。お通しは「あさり時雨煮」。
「肴」には今回は手が空いてそうなので、‘20分かかります’と但し書きのある「茶わんむし」を初めて注文。
ゆっくりと杯を運ぶうちに「茶わんむし」が登場。
蓋を開けてみて、まず「卵地」に醤油色が濃いことが目を引いた。一般には卵の色合いをきれいに出したいため、醤油は控えめに使うもの。こちらでは明らかに「そばつゆ」を加えて味も色も濃いめに仕立てた、蕎麦屋ならではの仕事である。
「具」は色鮮やかな車海老はじめ、鶏腿肉、蒲鉾、椎茸、さらにトッピングに小柱までと盛り沢山。
まさに「室町砂場」の味が凝縮された一品で、大満足の出来栄え。
〆は「もり」一枚。「蕎麦」の出来も「つゆ」の加減も揺るぎ無い。
ナチュラルな「蕎麦湯」で仕上げて、暫し余韻を楽しむ。
味の方は本店とほとんど変わりは無いが、客への目配りは動線が短い分、こちらの方が勝っている。
純粋に「蕎麦屋酒」を楽しむには、客層が安定している室町の本店の方をお勧めするが、今回のような時間が過ごせるならばこちらの評価もおのずと高くなる。
「おかめ」(2015/11)
私の定位置にて(2015/11)
そばを手繰る(2015/11)
自家製の玉子焼きも重要なファクター(2015/11)
湯桶も粋(2015/11)
「燗酒」・お通しの「浅蜊」
「筍土佐煮」
「月見そば」
「月見」を手繰る
温蕎麦のつゆにも蕎麦湯を注ぐ
壁に掛かった品書き
変わらぬ佇まい
「お酒」「お通し」など
「鳥わさ」
「鳥わさ」アップ、海苔も上質
「玉子焼」
たっぷりの「染めおろし」を添えて
「かけ」
「かけ」 薬味と共に
「蕎麦湯」を注ぐ
2015/11/14 更新
毎年この時期にサントリーホールで催される「ピティナ・ピアノコンペティション 特級ファイナル」に向かう。
若手ピアニストの登竜門の一つで、歴代の優勝者には世界的に活躍している人も多い由緒あるコンテストであり、今年も大いに楽しみである。
その前に久々に通称'赤坂砂場'のこちらに寄って見る。
時刻は15時を少し回った頃で、インバウンドの皆さんで一杯だったら止めようと思ったが、店内は3割くらいの入りで思いのほか静か。
テーブル席も空いていたが、私の定席である小上がり左手前の座卓の前に靴を脱いで上がる。
常連と思われる方が、向かいの卓で一杯やっている。
いつものように「黒ラベルの小瓶」で始める。
お通しの「あさり」も相変わらず良い味。
肴には「わさびかまぼこ」と「玉子焼きのハーフ」。
蒲鉾は小田原の上物で、一口にカットして立体的に盛られる独特のスタイル。
摺りたての本山葵と共に生海苔(今回はアオサ海苔)が添えられるのも昔から。
プリッとした歯ごたえで、噛み締めると味が深い。
玉子焼きは江戸前蕎麦屋の王道の仕事。
そばつゆを加えて焼き上げる、江戸っ子好みのはっきりした味付けが特徴。
染めおろしが味を引き立てる。
酒は「冷や」1合。
室町の本店でも最近は「冷酒」を置くようになったが、こちらでは「菊正宗」のひと色を熱燗~冷や(常温)で客が指定する、昔ながらのスタイルを貫いている。
私も蕎麦屋酒の楽しさを覚えた大学生の頃から、都心の老舗では酒の注文はこれが身についている。
もう少し飲みたいところだが、後に演奏会を控えているのでこのくらいで蕎麦に移る。
今回はシンプルに「もり」1枚。
蕎麦の仕上がりもつゆの味わいも、間然するところのない仕事。
特につゆの円やかな味わいは感涙もので、これを口に含みながらあと酒が1合飲めそう。
蕎麦の盛りもこのくらいが丁度良く、喉越しを楽しみながらスルスルと啜る。
〆は釜湯のままの衒いのない蕎麦湯。
適量を注いでつゆの旨味を存分に楽しむ。
時間帯を選んだせいか、思いのほかゆっくり出来た。
帰り際に女将さんに伺ったら、インバウンドの姿が見えないのは珍しいとのこと。
いずれにせよ、私にとっては大事な蕎麦屋であり続けることは間違いない。
ちなみに、この店の前の通りは現在でも「日大三高通り」と呼ばれている。
店を出て斜め右方向に見える鹿島建設のビルが建っている所が、昔の日大三高の場所。
今年の甲子園で準優勝となったあの学校が、かつて赤坂に在ったことなど今では知る人も少ないであろう。