2回
2016/07 訪問
素敵な食事会
前回は2015年6月の昼に招待されて初めてのトゥラジョア。素材の完璧さと、須本シェフのオリジナリティに衝撃を受けました。1回行けば次の年の予約を取る権利が与えられます。とは言うものの予約を取るのは難しいものです。そうこうしているうちに約1年、今回は常連さんに誘われてディナーに伺う機会に恵まれました。夫婦参加の4家族合同誕生日会でした。
タクシーで行ったわけですが運転手さんが「予約の取れない凄い店ですよね?」と。もうタクシー業界にも知れ渡っているのですね。15分前に到着。前回と同じように店の前で須本シェフが待っておられました。ここからすでに他の高級レストランとは全く違います。シェフ自らがおもてなしをするという、そういうポリシーなんです。サロンレストラン。私たちはシェフのお宅に招かれたお客さんたちなのです。
昼と夜、それぞれ1日一組ずつの貸し切り。シェフとマダム、他に2人ほどのスタッフ。料理の提供がなされると、一品毎にシェフ自らが素材のこと、調理の方法など手短に、しかし詳細に解説をします。その情熱のこもった解説を聞いてから頂くと、驚くべき料理がさらに美味しく、ありがたく感じられるのです。
通常の高級レストランでは、給仕のスタッフが料理の解説をします。それも良いのですが、シェフ自らが語る方がやはり気持ちが伝わります。カウンター式のレストランではシェフ自らが提供して解説しますが、その仕事上簡潔にならざるをえません。トゥラジョアは貸し切りの店であり、私たちはシェフの家に招かれた客。シェフは自分の体験談なども交えながら、友人達と語り合うかのように楽しげに自らの作品を語るのです。
この独特な居心地の良さが、他の高級レストランとは全く異なるところなのです。トゥラジョアを訪れた人が皆ファンになってしまうのは、料理自体の素晴らしさはもちろんのこと、須本シェフとマダムのもてなしが素晴らしいこともその一因なのです。
さてその日のお料理は写真に示した通り、2016年7月のものです。他のレビュアーさんの解説にも書かれていますのでご参照ください。いずれも驚くべき逸品で、とても美味しいのですが、同じものが二度と作られないお店ですのでそれぞれがかけがえのない一皿です(Mのサラダだけは定番)。
1)シャンピニオンのカクテル;濃厚なマッシュルームにキャビア、プラチナ箔を載せて
2)夏大根と蝦夷鮑;でかいアワビ!
3)ピュアホワイトの冷製スープ;収穫する時間にまでこだわった白いトウモロコシ、ジュンサイ
4)真蛸と帆立貝のムース;皿の赤は梅とビーツ
5)鱶鰭のフレンチスタイル;でっかいフカヒレ、それを覆い尽くすトリュフ!、絶品コンソメスープに、お好みでたっぷりのフォアグラペーストを加え
6)伊万里牛の冬瓜風味;柔らかいビーフに雲丹がからまる
7)Mのサラダ;Mというのはマダムのお父上の頭文字。アトリエでドライフルーツを食べながら絵を描くのが彼のお気に入りだったとのこと。それを忘れないというシェフからのオマージュ。たっぷりのドライフルーツを載せて頂く
8)鮎御飯;パンがなく御飯が出る。これもフュージョン料理ならでは
9)メロンのスムージー;メロンの入った小さなメロンパンと共に
10)紅茶;一人ずつ異なる器で
この日は合同誕生日会でもあり、最後にバースデーケーキが2台振る舞われました。またワインは常連さん達が持ちよってくれました。歳の似通った4組の夫婦。この素敵な料理と空間を共有できて、はじめての人たちとも旧知の仲のように語らうことができました。
2016/07/30 更新
名古屋が日本に誇るレストラン「トゥラジョア」。一度でも訪問した人は12月に次の年の予約を入れることができるという店。それでも予約を取るのは困難を極めます。今回も常連さんに誘われて3回目の訪問です。昼食会。今日は10人で、うち5人はわざわざ東京からの参加です。高級食材の数々がオリジナリティ溢れる調理方法で提供されるフュージョン料理。今回はまた驚くべきことにオリジナルのカリフォルニアワインが登場しました。ラベルを付け替えたのではないですよ。お店は1月に休みを取るのですが、そこで毎年カリフォルニアの生産者に8年通い続けた須本シェフがようやく信頼を得て、自らが選別したワインをブレンドすることのできたオリジナルワインです。しかも美味しい。一つのレストランでここまでやるかという驚き。赤はまだまだ熟成させないといけないそうで、今回いただいたのは白です。
いつもながら須本シェフは店の前で全員の予約客を出迎えます。1組限定で個人宅のサロンに招かれたかのようなレストラン。壁には時々に掛け替えられる絵の数々。マダムのお父上自身が画家であり蒐集家でもあったことによる本物の輝きがあります。
テーブルの上には店名が書かれたオリジナルのプラチナ箔の箱の中にメニューとナプキンが入っています。店名の形に造形された金の箸置きと、同じく店名が刻印された箸もオリジナルで、これらは今年になってから作ることができたそうです。先に述べたオリジナルワインなどとともに、一つずつ夢を叶えているといったところでしょうか。
全員が揃ったところでお酒を飲める面々は、まずはシャンパンです。1998年ドラピエのマグナム。19年という熟成期間、さらにはマグナムサイズということで一段と深みのある味と色になっています。
料理は9品のコース。どれもこれもが凝りに凝った料理となっています。大体が西洋料理なのですが、明らかに和食だったり中華だったりする皿もありまさにフュージョンと言えるでしょう。
和牛のリエットでは、春巻きの中心部分にトリュフと卵が入っていてそこで味が変わります。粉末状に加工されたフォアグラは胡麻せんべいに載せて頂きます。
伊勢海老のビスクでは、千葉房総産のプリプリの伊勢海老を、エスプーマした伊勢海老のビスクで頂きます。このように分子料理的技法も数多く取り入れられます。
フレッシュポルチーニだけを30分間ミキサーにかけてから煮詰めて出来上がった濃厚なピュアポルチーニのスープ。そこにポルチーニと、子持ちのみに厳選された烏賊、北海道産の雲丹、自家製カラスミを入れた「小烏賊のオーブン焼き」。これもとても美味しいし驚きました。
松茸の碗蒸しには栗のすり流しを合わせ、蟹を穴子と昆布で巻いたものを鰹出汁のお椀で頂く、これなんかは和食と言って良いでしょうね。
鹿児島産の黒毛和牛に大量のトリュフを載せたもの。和牛でトリュフを巻いて、ランプで熱したコンソメにつけてしゃぶしゃぶで頂きます。このコンソメには和牛とトリュフの味がつくので最後にスプーンで飲み干します。
自家製のドライフルーツをかけて頂く定番のサラダに続いて、厚いフカヒレの乗ったおこげ料理です。デザートは、クリームブリュレを作ってからアイスクリームに加工し直したものや、サツマイモでビスケットを作り見た目をサツマイモに戻したもの、アップルパイの味の羊羹などと、デザートにもオリジナリティが十分に感じられます。
須本シェフは今年も秋頃にフランスからスペインへと渡りムガリッツなどで勉強してくるそう。またこの店も12年目になり、冷蔵庫など主要機器を買い換える計画だとのことで、50代半ばにして未だバイタリティに溢れ向上心を失わない姿勢は、分野は違えど見習いたいと思いました。