2回
2014/07 訪問
祇是未在。
(文月)
49年ぶりに前祭、後祭に分かれて巡行が行われた
今年の祇園祭。
後祭の宵山風情が残る折に再訪です。
多少慣れがあるからか、周りがよく見えます。
開演前の石原劇場。
緊張感が今回は心地良く感じます…。
程なくして主人の石原さんが登場。開演です。
料理に対する感じ方にも余裕が出てきます。
椀の出汁は味の勾配が緩やかで完璧な出来。
鱧、鮎への火入れが見事。
赤の団扇盆に飾られた八寸は鮮やか、賑やか。
唐津・馬渡島の幻の柑橘(ゲンコウ)を使った
柚子、かぼすを思わせる水菓子の爽やかさは
夏の暑さを忘れるかの様。
あっという間に時は流れていきました。
主人と客人が同レベルに並んで
茶懐石の作法にそって季節感を存分に織り込んだ
料理で客人ををもてなす。
益々面白いお店です。
次回の訪問までは購入した本に載っている料理を
頭で反芻しておきましょう。
今回、隣のすごく上品な御夫婦(2人合わせて155歳!)と
いろいろ話をさせて頂いたのですがこのご主人、
実は学生時代に超ヘビロテで聞いていた音楽の
生みの親だったことが後になって発覚!!
サイン欲しかった…。
(皐月)
祇園の八坂神社、円山公園の瓢箪池を
通り抜けてちょっと小高い場所にある
石原仁司さんのお店、未在。
京都でも指折りの名店と言えるでしょう。
お弟子さんから御手拭、香煎を頂き、まず一服。
心を落ち着けていざ入店です。
竿縁天井の造りの店内。
L字のカウンターには明るさを演出する灯明皿。
全員着席して店主の石原さん登場。
石原さん自ら個々の灯明の明るさを調整。
店内照明も含め光の効果を上手に使っています。
場が整ったところで正午の茶事を想定した
表千家流茶懐石の形式に従って料理が供されます
(少なくとも膳出し、初献までの作法を覚えておくと
ちょっと得した気分になれるかも。
石原さん、よーくお客さんを見られています)。
料理はざっと次の様な構成。
膳出し
小丸飯煮えばな、汁、向付
お造り
煮もの椀
焼きもの
箸休め
炊き合わせ
強肴
八寸
湯桶、香の物、飯
生菓子、丸久小山園のお薄
果物
冷菓
ほんのちょっと甘味が強いかなと思う料理もありましたが
全体としては当然ですが素晴らしいとしか言いようのない出来でした。
各料理の事を書くと一大抒情詩になってしまいそうなので
ここで留めておきますが特に光った物を挙げるなら一つは飯。
湯桶の湯の子を含めて三度出されますが
出される個々のタイミングに合わせて
炊かれています。
湯の子はおこげではなく炊いた米の
全表面を焼いたものです。
米は仁多米。
瓢亭の江州米、岩さきの丹波米のご飯然り、
環境の良い地で育った米を良い水で上手に炊くと至極美味いです。
ハッタリや騙しが通用しない料理。
モリモリ頂きました。
もう一つは煮もの椀の出汁。
一口目が分かり易い割には味の「勾配」が緩やか。
最終的にはきっちりまとまとまってきますね。
和食の基本中の基本が他の追随を許さない極め方です。
解釈はいくつかありますが
「未在」とは限りがない、まだ充分ではない、
まだまだであるという意味の禅語。
お店の玄関に掲げられた「未在」は
驕る事なく今よりいい食材を求め、
更なる上質なもてなしをすべく精進する
石原さんの姿勢。
送り出しでお弟子さんが客人の足下を照らす為に持たれる
提灯に書かれた「未在」はまだまだ貴方は「日本」を知らない。
更に己を磨かれよ、という石原さんからのメッセージと
自分は解釈しました。
お店と客人が互いに切磋琢磨して
極上の時間をすごしましょう、と言う事でしょう。
懐石としての当たり前の事を再認識させられました。
「食」の域を超えて更に高い次元を目指すお店。
今まで蓄えてきた日本の食文化に対する知識は勿論、
陶芸や能楽までに及ぶ日本芸術に対する知識を
総動員して挑む事で初めてここの凄さ、面白さが
理解できるのだと思います。
圧倒的なクオリティと世界観を持つにもかかわらず
このお店は祇是未在(ただこれみざい)。
本当に楽しめるのは次回の訪問時でしょう。
必ず伺います。
なお、来年から料金が¥5,000アップするそうですよ。
2014/07/31 更新
久しぶりの未在。
祇園の交差点から歩いて八坂神社を抜けて円山公園を通って
お店へ
(いくつかアクセス方法があるけどこのパターンが特に好み)。
ここから未在流のもてなしが始まっていますね。
メンツが揃ったところで石原さんからのご挨拶。
いつもの表千家式茶懐石料理の作法に遵って
向付(柿なます)、汁(くわい餅、芥子の白味噌仕立て)、ご飯
から。
鯛 剣先烏賊 烏賊の耳の胡麻和え 鰤
鰤すなずり 皮を焼き霜
3種の鮪 鮪皮
(未在白銀扇 斗瓶囲い雫酒 精米歩合35% 京都)
海老しんじょう 花びら雑煮
黒毛和牛炙り ニホンミツバチと実山椒のソース
海鼠おろし和え 海鼠腸 子持ち昆布 唐津太閤牛蒡蒲焼
(黒龍 つるかめ 兵庫県産山田錦 精米歩合40% 黒龍酒造 福井)
若竹小椀
八寸
姫くわい揚げ 高知銀不老豆ゼリー寄せ 猪肉とナッツの最中
穴子煮こごり 田作り 千枚漬け寿司
海老 玉子 生姜酢の物 からすみ大根
丸大根炊き合わせ 赤地鶏つくね 東坡豆腐 金時人参
(幡随院長兵衛 特別純米
(スペック不明 企画:株式会社幡随院長兵衛(佐賀)
製造:満寿一酒造(静岡)))
松葉蟹 蟹味噌 土佐酢ジュレ 黄身酢
クエ 葉大蒜 梅肉 高等葱 菊菜
生からすみ 紅くるり大根
焦がし湯 飯 水菜 香の物
蕎麦饅頭 酒粕 水晶文旦
お薄
3種の苺
果物の吹寄せ
りんごのシャーベット
300種類を越える食材を8人のお弟子さん(現在は7人)で
仕込みをされるという事は単純に一人が割烹のコースの仕込みを
こなす仕事量。
量の多さがよく言われるけど美味い物をたくさん食べてもらいたいという
石原さんのお母様の石原さんへの思いを料理に
移していたのではないかと。
料理のもてなしに加え、月で替わる店内の装飾も訪問客への
もてなし。
石原さんから直接それぞれの作品の説明、これを飾った思いを聞くことで
更に充実度が増します。
ただ食べて帰るのはもったいないですよ。
最後は石原さんが外へ出られてご挨拶。
お弟子さんに足元を提灯で灯されて送られるまでもてなしが続きます。
料理だけでなく空間、環境も使ってゲストをもてなす未在。
軽井沢のフォリオリーナ・デッラ・ポルタ・フォルトゥーナの小林さんも
非日常を愉しんでもらいたいという事で同じ様なもてなし方をされていますね。
石原さんが10年強患っている職業病でいつまで続くか分からないと
言われていましたが少しでも長く続けられるよう、
ご自愛していただきたいです。
ところで今回カウンター奥に飾られたのは鷹の置物。
何でだろうと思ったらカウンター背面の床の間には
富士の掛け軸。
なるほど、1月ならではの飾りなのですが
茄子は何処?
「茄子は…なぃっす(「ぃ」はごく小さめに)。」
石原さんのダジャレを聞けた、ミラクルなひと時でした。