『魚の話し その2』sama7030さんの日記

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sama7030 (20代後半・女性・海外) 認証済

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 前回の続きです。

 さて、天然と養殖の白身魚の扱いの違いを今回こそは書いてみましょう、あはは。

 昨今アメリカの熟成牛ステーキが日本に紹介されたのを端緒に、魚も寝かした方が美味いというのが流行ってますが、魚を寝かせるのは昔からの和食の基本的な技術です。今更発明された、若しくは考え出された手法ではないのです。

 しかし、今流行りの新し目のお店では何でもかんでも魚を熟成させてはいないだろうか。若しくは何が何でも締めたてが上等と言って提供されてはいないだろうか。そう、養殖と天然では魚の扱い方、食し方が違うのだ。

 まず、養殖、天然の前に活け締めか野締めかがある。諸説あるがここでの定義はこう理解して欲しい。

 活け締め:
 生きている状態の魚を首やエラの部分を切る等して即時に殺し、すぐに血抜きや骨髄神経の除去等を行うこと。締める場所は船上、港、市場、飲食店等どこでも構わないがどこの段階で締めたか分からないと意味が無い。すなわち締めてからどの位経っているか分かる、若しくは推測出来る事が重要。

 野締め;
 どの段階であれ自然死した魚を血抜き等せずそのまま流通させたもの。

 まず経験則で養と天の違いを述べよう。養モノは活け締めしたてが比較的美味い。食感も味もだ。それに比して天モノは締めたては食感が硬く、旨味も少ない。
 養モノは死後硬直が解けると急速に食感は柔らかくなり、鮮度、食味も落ちるのが早い、そして寝かせても美味くならない。対して天モノは硬直が解けても食感は比較的損なわれず、寝かせる事で味が濃厚になる。

 因に今までの研究で天然に比べ養殖は死後硬直の進行が早い事が分かっている。魚は死後硬直が早いと鮮度保持が難しいとされる。その証拠にK値と呼ばれる鮮度指数も養殖の方が早く悪化する傾向がある。なので養殖魚はいかにして死後硬直を遅らせるかがポイントになっていたのだ。その為に養殖では様々な技術が使われるがそれは後述する。
 また締めたての乳酸の量は養殖が高く天然は低い傾向あるので締めたては養殖でも食味は悪くなく、時間が経った時のATPの残留量は天然の方が多いのでイノシン酸が生成され易いとする研究結果もあるのであながち経験則は間違っていないのであろう。

 なので天モノしか置かない、その中でも真っ当な寿司屋が「鮃は今日仕入れたばかりでして」と言った場合喜んではいけないという事だ。そういう店なら鮃は活け物屋という生きた魚を扱う店で目の前で締めたもの若しくは締めたてのものを仕入れる可能性が高いからだ。
 逆に養モノしか無い店でそう言われたら喜んで喰う方が良い。

 断っておくがこの話しは東京の話しであって、上方では天然の鯛でも締めたてが最上とされるらしいのでそれは文化の違いだから話しが違う。何人もの上方の職人と話したが上方では天然であれ白身を寝かす事はまずないと言われた。
 つまり上方では養殖であっても扱いは天然と同じ可能性が高いので外れる確率は低いのかもしれない。

 更に養殖魚の流通も進歩している。例えば、活魚の状態でストレスを与えない方法で市場に輸送し、受けた市場は飲食店が客に提供する時間を確認した上で活け締めの時間を調整する所もあるそうだ。そうすれば養殖でも一番美味い状態で客は喰える。

 という事で養、天の違いは素材を分かっている職人であれば扱いを変えるので現在では全く問題ないと言えよう。
 ただし、養モノを扱う寿司屋でも活け締めを仕入れるとは限らないし、供給元が締めの時間を調整しても職人の勉強不足や大人の事情で日をまたいで提供したり、流行りで熟成させてしまっては元も子もないので結局は通って確かめるしか無い。
 
 そして先述したように養殖もかなり良くなって来ているがこれには科学技術の向上もある事を述べておこう。
 例えば鯛では1980年代から90年代は海面養殖で表皮が陽焼けして黒くなった。これを改善する為に陽が当たらないように生け簀に覆いをかけたり深い所で飼ったりした。更に天然の赤に近づける為にアスタキサンチンという分質を餌に加えた。天然の鯛はアスタキサンチンを含む甲殻類を喰うので綺麗な赤い表皮が出来る。養殖では甲殻類を与えられないので餌にアスタキサンチンを混ぜて綺麗に発色させる。
 これはシャケでも同様で元々白身(同類のニジマスを見れば分かる)のシャケは海に出た後にアスタキサンチンを含む餌を喰う事で身がサーモンピンクになるので、養殖では鯛同様に餌にアスタキサンチンを混ぜないと白身のままなのだ。
 その他にも鮮度を保つ為に死後硬直を遅らせる薬剤を使用する事もあったらしい。

 また、その時代の嗜好に依って食味を変える事が出来るのも養殖の特徴だ。牛の霜降りが珍重されるが如く、魚も脂がのっている方が良いとされる傾向により魚も脂をのせる傾向があったのも確かだ。かつて養鯛の刺身を醤油につけたら醤油に脂が浮いた時にはぞっとしたものだが、アタシと違って世間がそれを求めたのだ。
 近年の畜養と完全養殖の鮪もトロの割合が多く作られているし北欧産の養殖シャケも同様だ。
 需要があるから供給がある、経済の基本原理だ。文化とか本来の素材はどうだったかはそこでは重要視されないのであろう。

 最後に一言、養殖の鰤やシャケを焼いてみよう、魚臭いと思う。しかし、天然物を焼いてみてください。台所は臭くなりませんよ。魚を焼くと台所が臭くなるからやらないと言う方、是非、試してください。

 

 
 
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