『カレー南蛮について考えてみた件』sama7030さんの日記

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sama7030 (20代後半・女性・海外) 認証済

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 今日はカレー南蛮について考えてみようかな、なんてね。ま、お暇な方はお付き合いくださいまし。

  カレー南蛮の発祥を調べると必ず出て来る早稲田の店は自分ちだと言いますし、中目の店は大阪でやったら売れたので東京に持って来たと言いますね。しかし、どちらも「カレーうどん」を始めたという事で「カレー南蛮」じゃあない。
 くどいようですが「カレー南蛮」と言ったら「東京の蕎麦屋」では台は蕎麦が定法。東京の人は「カレー南蛮うどん」とは言わない方が多いと思う。(本当は「言わない」と言い切りたいが異論反論、あはは)

 では何故「カレー南蛮」は蕎麦なのか、これもまた諸説あって「カレー南蛮の素」を製造販売している会社は「明治後半に四谷の蕎麦屋が鴨南蛮とカレーを合わせた」と説明してます。アタシが下町の古い蕎麦屋でよく聞いた説はカレーが流行ってきて色々試した結果「かけにカレーを合わせてみたら美味かった」というのを多く聞きました。
 しかし後者ではかけなんで南蛮がねぇじゃねえか、という事になっちまう。蕎麦屋で南蛮とは「長葱」を指すのが普通ですので鴨南から来たってのは説得力ありますね。しかしこれでは蕎麦である必然性を説明出来ない。

 結論から言うと明治の蕎麦屋ではうどんという選択は少なかったのではないでしょうかね。それを考えていくのに蕎麦屋の流れを。
 江戸時代の蕎麦屋(慳貪、辻売り、固定店)ではうどんも売られていたらしい事が文献(守貞謾稿など)にみられますが、江戸後期から明治にかけて蕎麦切り、蕎麦屋が庶民の間で流行り様々な理由で江戸っ子の「粋」という考え方に蕎麦が合致したと言うのが考えられますな。
 江戸時代、武家や公家は蕎麦を下賤と見なしていたので蕎麦は町人のものであったようです。そこで、職人が仕事の上がりに酒を呑んで蕎麦を一杯やってさっと去る、蕎麦屋の奥座敷は逢い引きの場となり「艶っぽい話し」が粋に通じた、蕎麦を細く長く切るのは難しくそれをさりげなく出来る職人は粋な人だと、等々色々な事から家で喰ううどんと違い外で職人が打つ蕎麦を喰うのが粋になっていったんじゃあないでしょうか。

 それが明治になると更に拍車がかかったと思われます。
 その証拠に夏目漱石は「吾輩は猫である」の中で迷亭に「うどんは馬子の喰うもんだ」と言わせたり、ある家で所謂「蕎麦は数本すくってつゆに三分の一だけ浸けてかまずに喰うもんだ」と昨今の似非通人の間でまことしやかに言われる蘊蓄を披露させてます。
 既にこの頃の蕎麦好きは「蕎麦>うどん」の構図を確立させていたのではないでしょうか。

 と言う事でカレー南蛮が始められた頃の東京の蕎麦屋では種物の台は蕎麦が定法になってたんで当然鴨南もかけも蕎麦、だからカレー南蛮も台は蕎麦。

 しかしやはり南蛮が入ってないといけないのでアタシはかけよりも鴨南からの派生説に軍配を上げます。
 では何故鴨南から現在の形になったか、現在ではカレー南蛮の具は「鶏と長葱」と「豚と玉葱」の二大流派がありますが、これも流れを追って行くと何となく分かる。  

 まず鴨が高いので安い鶏を使うようになるんですね。そこで明治期からやっている店、例えば神田まつやなどは今でも「鶏と長葱」を使います。これは明治大正期から続く古い店に多いやり方です。
 次に昭和期、特に戦後に創業した店なんかでは「豚と玉葱」が多い。これは一説に依るとその頃洋食のカレーライスが広まるんですね、世間に、その所為ではないかと。戦前、カレーライスはハイカラでそこそこ高いもんでしたが、軍隊食で採用され兵隊も食べるようになり、戦後除隊した兵隊が各地で作るようになる。焼き餃子が広まったのと同じ図式ですな。
 そしてカレーライスは家庭の味、町の食堂の味として広まります。そこでは当然の如く材料に豚肉と玉葱を使うんです、カレーライスですから。
 そこへ大衆食堂の台頭が重なります。蕎麦うどん、洋食も何もかも出す大衆食堂。そうなりますってえと、蕎麦と飯でカレーの具が別なのは面倒くさい。するってぇと一般に広まってるカレーライスが有利になる、何故って?普通はカレー南蛮より先にカレーライスに馴染みますよね。「アタシはカレーライスよりカレー南蛮の方が先に馴染みになりました」ってぇ人は少ないでしょ。そこでカレー南蛮の具も豚と玉葱でやっちゃえと。
 そうしますと、勿論何の問題も無い。それどころか豚の脂がカレー汁によく合うし玉葱も火が通って甘く美味くなる。こりゃカレー南蛮も豚と玉葱だね。とこうなったとアタシは考えております。

 と、このように現在のカレー南蛮は二大派閥に別れて行った、でも台は蕎麦だよというのが本日のまとめでございます。
 
 さて、皆さんもちょいと古めの蕎麦屋では是非蕎麦でカレー南蛮を試してくださいまし。
 古いつっても一茶庵を始めその系譜の翁(現達磨)の流れなんかに代表される気取った店や、他所の町のやり方の蕎麦屋では駄目ですからご承知を。
 

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