4回
2018/12 訪問
通常利用外口コミ
この口コミは試食会・プレオープン・レセプション利用など、通常とは異なるサービス利用による口コミです。
出版記念トークショーで満寿屋商店の新商品をいただきました。
十勝・帯広のソウルフードの一つと言っていい「ますやパン」のベーカリー満寿屋商店が、東京出店を果たしてから丸2年を越えました。
当初は、輸送費の問題などもあって、正直私も半信半疑だったのですが、やはりきちんとした経営理念のある会社は強いですね。
ベーカリーの大激戦区と言っていい都立大学・自由が丘エリアにありながら、東京の顧客のニーズをきちんと捕まえたようで、食べログでもレビュー数60件を越え、評価も3.58点と一つの目安である3.5点超えを果たしています。
この勢いだと来年にはベスト5000入りや百名店入りなども視野に入ってきていると思われ、私も嬉しい限りです。
この日は、そのますやパンを題材にした本「世界に一軒だけのパン屋」の出版記念として、著者であるノンフィクション作家野地秩嘉氏とますや社長とのトークショーが行われ、一聴衆として参加してきました。
野地氏は、最近では、2018年6月に新潮新書から「トヨタ現場の「オヤジ」たち」という本を出していますが、ちょっと前には新潮文庫から「サービスの達人たち」、「サービスの裏方たち」といったベストセラーになったシリーズものも出している方です。
そのトークショーに参加するため、仕事を終えてから会場である「満寿屋商店東京本店」のある都立大学まで出向きました。
トークショーは19時半から。
都立大学駅近くで晩ごはんを済ませて、ちょっと早めの19時20分頃にお店に着いたところ、既にお店の前には人だかりがあります。テレビカメラも入っている模様です。
受付がようやく始まったところと見えて、その列に並び、会費をお支払いして著書とパンをもらい入店します。
トークショーは小1時間程度でしたが、比較的初心者向けのお話しで、十勝そして当店のことをそれなりに承知している私には、内容はやや退屈ではありましたが、改めて当店のこだわりを再認識できました。
また、首都圏で5店舗を目標に店舗拡大を目指しているとの話や何故1号店が都立大学だったのかなどといった初耳の話も聞けて、有意義でした。
もらったパンを持ち帰って翌日の朝食でいただきましたが、以下2点が入っていました。
・ジンギスカンパン
・ロケットパン(仮称)
両方のパンともに「オドゥブレ十勝」というパン生地がベースになっています。
オドゥブレ十勝は、あのシニフィアンシニフィエの志賀シェフの指導も仰ぎながら6年かけて完成させたという労作だそうです。
オドゥブレというのは、フランス語で「小麦の水」ということを意味しており、通常の食パンが小麦の60~70%の水分量なのに対し、オドゥブレ十勝は115%というところが味噌。いわば多加水パンと言うことができます。
いわゆるチャバタがベースになっているのですが、加水率が高いためにクラム内は、チャバタ特有の気泡ではなくて、「膜が厚くギリギリ焼けてる感じ」(社長談)だそうです。小麦は十勝産のキタノカオリ100%です。
ジンギスカンパンは、今回の出版を機に著者の野地氏が考案したパンとのことです。
おいしい温め方という説明書きが店舗されていましたが、私が普段愛用しているレンジを使用することが推奨されています。
すなわち、レンジで30秒温めたのちにオーブントースターで1分間加熱するのがベストと書かれていました。
それを参考にした自己流で、今回は、レンジで30秒チンした後、900Wのオーブンで2分間加熱していただきました。
オドゥブレ十勝の生地の中には、ミンチしたラム肉、玉ねぎを十勝産のジンギスカンのタレで絡めたフィリングが入っています。
甘辛い中にもピリッとしたところが感じられるのは、ジンギスカンならではですね。
東京本店でも市販しているそうです(@250円)。
正直言って、オドゥブレ十勝の美味しさが最大限生かされているかというとちょっと疑問もありましたが、十勝らしさはぎっしりと詰まったパンと言えると思います。なかなか美味しかったです。
他方、ロケットパンの方は、ジンギスカンパンと比べてオドゥブレ十勝の味わいを存分に感じることが出来たと言えます。
細長く焼かれたオドゥブレ十勝の中にイチゴジャムが入っているパンですが、多加水パンならではの引きの強さ、モチモチ感を存分に感じることができました。とても美味しかったです。
ロケットパンは「仮称」となっているように現状は非売品で、今回が初お目見えだったらしいのですが、こちらでも市販されているオドゥブレ十勝(@160円)を購入してジャムを付ければほぼ同じ味わいが感じられるのではないかと思います。
しかしますやパンはやはり素晴らしいです。
常に進化する姿勢を見せているのがその最大の強み。
東京本店も帯広から派遣された5名の「ますや職人」と呼んでいる従業員が東京に住み込んで働いています。
前記、何故都立大学に出店?ということに対する答えの一つは、このますや職人さんたちを環境のいいところに住まわせたいということもあったそうですからアッパレですね。
私の住まい近くが帯広の方からそういう見られ方をしていることについては純粋に嬉しくもあります。
帯広の店舗では、近隣にある全6店舗分で売れ残ったパンを夜、市街地にある本店に集めて、夜間に営業再開して割引販売する形態を採っており、それが帯広の繁華街で飲んだお父さんたちの家へのお土産として定着しています。
まさにお店と市民とにウインウインの関係を築いているんですね。
東京はまだ1店舗なのでそれができない(1店舗で割引販売すると皆その時間帯をめがけてきてしまうため。)のが頭の痛いところとおっしゃっていましたが、この点についても秘策があるのかもしれないですね。
5店舗展開目標と合わせて、乞うご期待といったところでしょうか。
じんぎすかんパン
じんぎすかんパンの断面
ロケットパン
ロケットパンの断面
じんぎすかんパンのパッケージ
じんぎすかんの製造表示
じんぎすかんパンのおいしい温め方
【参考】今回出版された本
サイン貰いました!
2018/12/20 更新
2017/07 訪問
どんどん進化してます。やっぱりますやのパンは最高!
十勝の誇るますやパン。
昨年11月に当店をオープンして東京初進出を果たしたわけですが、テイクオフはまずまず順調の様子で、食べログ評価もじわじわとアップしています。
もちろん、私は、食べログではなくて、直接の口コミでもかなりの方々にPRしておりますし、その方々からもとてもいい評価をいただいています。
当店の近くに住んでいる方からは、「この近辺のパンでは、これまで柿の木坂キャトルが一番と思っていたが、こっちが上」と何とも心強いお言葉をいただいたりしています。
私もレビューは今回で2回目ですが、実は初レビュー後これが5回目の利用でして、近くに行った時はなるべく立ち寄るようにしています。
それで感じるのは、オープン直後から比べるとますます洗練されてきたのではないかということ。
それも単なる東京ナイズではなく、十勝の良さの発信という面でますます磨きがかかったということです。
その一つとして、十勝の素材の使用割合がどんどん高まり、バリエーションが広がっていることが挙げられます。
帯広にあるますやの各店は、ほぼ十勝産小麦100%だったのに対し、オープン直後の当店は、一部十勝以外の道産小麦を使用していたと思いますが、今は、完全に十勝産100%に切り替えているのが象徴的です。
そして、その原料小麦の品種表示もすべてのパンで行われていますし、小麦以外の原材料についても極力十勝産を使用して、かつその開示姿勢も見事です。
ここまで原材料にこだわり、細部まで情報開示しているベーカリーは東京では他に無いと断言できます。
あまり他店と比較するのもなんですが、食べログの東京のパン部門の評価トップツーと言うべき祖師ヶ谷大蔵の「ラトリエ ドゥ プレジール」、そして三軒茶屋の「シニフィアンシニフィエ」と比べても、原材料の質、そして情報開示面では勝るとも劣らないと思いますし、その両店と比べるとコスパ面でのアドバンテージは明らかです。
高名なブーランジェリーに当店が相対している姿は、何となく、日欧EPAに単純に迎合する派と、それを機に国内農業の地力アップを図りたいという勢力の対峙といった構図にも映ります。
やや話しが脱線した感がありますが、この日は、当店のパンとしては最高価に近い評判のとろ~りチーズパンをお目当てに伺いました。
購入したのは、以下の2点です。
・とろ~りチーズパン@380円×1個
・あすなろクリームパン@180円×1個
合計560円
試食として、ゆめちから食パンを付けてくれたのも嬉しかったです。
持ち帰って、翌日の朝食に供しました。
とろ~りチーズパンは、十勝でも貴重なモールウオッシュラクレットチーズ(十勝・音更町の十勝川温泉に今年2月に完成した国内初のチーズの共同熟成庫(十勝管内のチーズ工房でつくる十勝品質事業協同組合が建設)で熟成されたチーズ)を始め5種類のチーズを使用し、たっぷりとチーズをのせるために2回に分けて焼き込んだものです。小麦は、キタホナミ、キタノカオリ、ホクシン。ホクシンの作付けは基本的にほとんどがキタホナミに転換したものと思っていましたが、その両方を使用してるあたりがまたこだわりです。
そんなこだわりですので、まさにチーズパンの王様と言っていいパンだと思います。
600Wのオーブンで5分間じっくりとリベイクしていただきました。
ずっしり重いパンにはチーズがたっぷりと包まれています。マイルドで旨み抜群のチーズはモールウオッシュの特徴でしょうか。十勝産小麦の風味も加わり、とても美味しいパンに仕上がっています。これは素晴らしい!
あすなろクリームパンは、十勝・清水町で酪農を営む傍ら6次産業化の先駆けとしても名高いあすなろファーミングの牛乳を使用したカスタードクリームをたっぷりサンドしているクリームパンです。小麦は、はるきらり100%。
このパンも持った感じがずっしり重いのは、カスタードクリームがふんだんに包まれているからでしょう。優しい甘味で牛乳の風味の残るカスタードクリームは、さすがあすなろファーミングで、このパンが180円で買えるなら文句無いです。
キタノカオリやユメチカラに押されがちのハルキラリですが、弱点だったタンパク質含有率も栽培方法の工夫でカバーしたと見え、ふっくら感もあって、単独生地でも十分美味しかったです。
そして、試食用のゆめちから食パン。ゆめちからは、パスコが大々的に採用して知名度が上がったと思いますが、私が帯広在住中に北海261号の品種名で色んなイベントで普及を図っていた小麦ですので、特に思い入れが強いです。
この食パンももっちりして、ほのかな甘味もあってとても美味しい。たかが食パンでも当店のこだわりが詰まっていそうです。
ということで、今回も大満足でした。
常に一歩先を目指して進化しているのも当店の素晴らしさ。
次はどんな進歩が見られるのか、とても楽しみです。
とろ~りチーズパン@380円
とろ~りチーズパンの断面
試食用のゆめちから食パン
ゆめちから食パン トースト後
ゆめちから食パンの断面
あすなろクリームパン@180円
あすなろクリームパンの断面
店内
店頭の看板。十勝産小麦100%!!
2017/08/03 更新
2016/12 訪問
待ちに待ったますやパンの東京進出
帯広には平成19年10月から22年3月まで2年半暮らしました。
私の食べログとのご縁も、帯広での生活無しには語れません。帯広での単身赴任生活の潤いとなっていた食べ歩き日記を食べログに転記したのがレビューの始まりでしたので。
その帯広での食生活と切っても切れなかったのがますやパン。
帯広時代には、ますやパンの新たなステージへの展開のきっかけとなった「麦音」の出店にも立ち会うことができましたし、帯広近辺にあるお店も殆どのお店を利用しています。(レビューしているのは一部ですが。例⇒本店)
そのますやパンが東京進出するという話をキャッチしたのが今年に入った頃。それ以来、その日を心待ちにしていましたが、その後、住まい近くの都立大学出店との情報も入り、ますます楽しみが膨らみました。
出張と重なったので、11月29日(火)のグランドオープンには立ち会えませんでしたが、グランドオープンから一週間経たないこの日に早速訪問してみました。
場所は、目黒通りの上り線沿い。都立大学から徒歩5分ほどのところです。
住所が東京都八雲一丁目で、実は私の本籍地とピタリ符号しているのも何かのご縁かと思います。
ますやパンの凄いところは、小麦は全て十勝産を使用しているところ。最近は、東京でも本別・前田農産のキタノカオリなどを使ったパンを売っているお店もチラホラ見られますが、そのほとんどが高級ベーカリー。ますやは、カジュアル価格で十勝の小麦の美味しさが味わえるのが最大の魅力です。
この日は、14時を回った時間帯での訪問。まだオープン間もないこともあってか、店内はかなりの人が入っており、活気があります。
お店の外壁にも十勝産カラマツが使われていますが、店内の壁材も十勝産カラマツ。さらに十勝産タモのテーブルも配置されており、パンだけでなく、十勝感を伝えることに配意しています。
パンは数か所に分散して並べられていますが、やはり目に止まったのがすべてのパンの値札に使用されている小麦の種類が明記されていること。
これは凄いことです。東京のベーカリーではまずあり得ません。
しかも、食パン、バゲット、菓子パンと例外無しです。そして、そのすべてが十勝産小麦なんです。
この日見かけたのは、やはり秋播きの強力小麦「キタノカオリ」が多いですが、春播きの「ハルキラリ」という品種も使われていました。
首都圏でも色んなベーカリーを訪れていますが、ここまで十勝産小麦にこだわっているお店はありません。
値段も、一部に高めの設定のパンがありますが、カジュアル系のパンも多く品揃えされています。
ますやパンは、一時、空輸で八重洲のフーディストに出品していた時期もあり、その時は、輸送コストがオンされて、十勝価格の5割増しくらいで売られていましたが、店内に焼成工房を備えることで、そのボトルネックもクリアしています(ただし、一部は帯広からの輸送商品も有り。)。
この日購入したパンは以下の3点
・木の実と自家製酵母(ハーフ)@300円×1個=300円
・チャバタチーズ@250円×1個=250円
・アンドーナツ@150円×1個=150円
合計700円
持ち帰って、翌日の朝食でいただきました。
木の実と自家製酵母は、帯広時代は「木の実の天然酵母」という名前で売られていましたが、ますやパンの数あるラインナップの中でも最も好きなパンです。帯広居住時代は、住まいから一番近かった帯広駅構内のトラントランますやで良く購入したものですが、欠品のことも多く、入手に苦労したパンでもありました。幸い、麦音が出来てからは苦労せずに手に入るようになりましたけどね。
この商品は、帯広のボヌールますやで製造されたパンのようで、その旨製造表示に書かれていました。
レンジで20秒チンした後、600Wのオーブンで4分間加熱していただきました。
たっぷり過ぎるくらいに入ったナッツ類の風味がとても豊か。似たようなパンは他のお店でも見かけますが、これほどふんだんにナッツが入っているパンはそうそうないと思います。帯広から輸送するだけのことはありますが、その分、やはり価格は帯広価格と比べると高めの設定ですね。
チャバタチーズは、キタノカオリ使用の生地に十勝産ナチュラルチーズとパルメザンチーズをたっぷり挟んだチャバタです。モッチリ感はキタノカオリ由来だと思いますが、チャバタへの適性も高いのですね。とても美味しかったです。
アンドーナツもキタノカオリ使用。十勝小豆の産地十勝で炊いた餡を詰め込んだアンドーナツです。十勝小豆とキタノカオリのハーモニーは、十勝の大地のハーモニーそのもの。なかなか他店では食べられないアンドーナツです。
久しぶりにいただいたますやのパンでしたが、これを東京で食べられる日が来るとは感慨もひとしおです。
全量東京で焼成しているわけでは無さそうで、まだ課題も色々とあるかとは思いますが、まずはますやが東京進出したことを素直に喜びたいと思います。
「十勝産小麦生産者の努力と農業の価値を伝える」というコンセプトにも大いに共感するところがありますし。
東京で更に発展されることを願って止みません。
木の実と自家製酵母(ハーフ)@300円
木の実と自家製酵母(ハーフ)
木の実と自家製酵母(ハーフ) 断面
チャバタチーズ@250円
チャバタチーズの断面
アンドーナツ@150円
アンドーナツの断面
売行き良好。欠品も多し。
菓子パンもオール十勝産小麦使用
白スパサンド健在!
外観
2017/01/09 更新
1月上旬に、親しくさせていただいている北海道・十勝のレビュアー様から満寿屋商店の東京撤退の情報を聞きました。
数日前の十勝の地元紙に報道されていたとのことで、まだその記事の残骸があったため、確認したところ、自由が丘店を1月11日に閉店し、東京本店たる当店も2月末をもって閉店するとのこと。
特に自由が丘店は、2020年6月25日にオープンしてまだ半年ちょっとしか経っていなかったため、ちょっと信じ難い気持ちになりました。
新聞記事では、新型コロナの影響で売り上げが激減したことが主因である旨書かれていましたが、一般的にはテイクアウト主体のベーカリーはコロナの影響を飲食店ほど強くは受けないはずなので、この記事には大いに疑問を感じ、ひょっとしたらこれは表向きの理由なのかもしれない、みたいな"疑惑"も頭を掠めました。
それでも、帯広に住んでいた時代から本気で待ち焦がれていた満寿屋商店の東京進出が2016年11月に現実のものとなり、そして僅か5年足らずで撤退となったのは、私の食べログとの付き合いの中でも極めて大きな出来事です。
閉店まで2週間となったこの日、利用し納めということで訪問しましたので、前記の"疑惑"にも触れつつ締め括りレビューをしてみたいと思います。
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満寿屋商店と私の出会いは、今から遡ること13年4か月前の2007年10月のことです。
帯広に赴任した私は、早速、地元の方などから飲食店等の情報を色々と仕入れたのですが、その中で十勝のソウルフードたる"ますやのパン"の話しを聞くことになります。
しかし、それですぐにますやのパンに飛びついたわけではなく、本格的にますやのパンへの思い入れが強まったのは、2009年5月に帯広の稲田町というところにオープンした「麦音」という店舗を知ってからです。
敷地内に小麦畑も整備した麦音は、製造するパンの原料小麦は十勝産100%。ここまで小麦産地にこだわったベーカリーは私も記憶に無く、後にノンフィクション作家の野地秩嘉氏によって「世界に一軒だけのパン屋」(2018年11月、小学館)として紹介されることになり、また、カンブリア宮殿でも取り上げられることになります。
麦音のパンは、美味しいのはもちろん、とてもリーズナブル。
コーヒーサービスもあって、まさに地産地消ベーカリーのお手本のような存在として、ある種の感動も覚えました。
それで、こんなベーカリーが東京にあったら大ヒットするんじゃないか?という思いも、自然と頭をもたげたんですよね。
そして、その思いが現実のものとなったのが、前述の通り2016年11月のことです(=当店のオープン)。
大喜びの私は早速当店を訪問し、おお!これぞ紛れも無いますやのパン!と大満足し、高評価のレビューもアップしました。
ところが、その評価がリピートを重ねるたびに微妙に変化していくことをこの時の私は知る由もありません。
その変化を私が意識し始めたのは、東京2号店としてオープンした国立店(十勝ファーマーズベーカリームギオト)を訪れた際でした。
ますやパンと言えば、出会いの時から「名より実をとる」イメージが強く、有名企業にしては本社はアパートを改造したようなボロ屋だったのもその思いを後押ししてくれました。
本社に金をかける会社はうまくいかないということは、名古屋勤務の時に、とある企業の社長さんから聞いて、それを実地で学習していましたので。
パンについても、見てくれよりも中身を大切にするパン屋さんとの思いが強かったです。
ところが、国立の十勝ファーマーズベーカリームギオトのお店作りを見ていると、その店名とは裏腹に、どうも私の思いとは真逆の、見てくれやつまらない宣伝を大切にしているような空気が感じられたんですね。
時あたかも当時のNHKの朝ドラが十勝を舞台にした「なつぞら」(主演:広瀬すず)で、それを宣伝材料としたことも本質的で無い部分に力を入れているという意味でマイナスの作用をしているように感じました。
このため、国立店のレビューではやや厳しい指摘もさせてもらいました。
ところが、残念ながら、時が経つにつれ、この風潮が次第に東京本店にも及び始めるのを感じることになります。
例えば、従前は、全てのパンの原料小麦粉の小麦の種類が表記されていたのですが、商品アピールに力点を置く方が消費者受けすると考えたのか、小麦粉の表記が消えて、私にとってはどうでも良い内容と感じる商品説明に置き換わってしまったこともありますし、新商品として投入されるパンなどは、都民向けというのか、帯広では考えられない高価格だったこともマイナスイメージになりました。
既存商品の値上げもあったと記憶しています。
特に、小麦表記の取り止めは、別の理由があったのかもしれませんが(この点は謎)、私には極めてネガディブに映りました。
そして、自由が丘店もオープン直後に訪れたのですが、益々そんな傾向が強まるのを感じ、「ますや、これではいけないぞ!」と声を上げたくなり、自由が丘店のレビューではそのことを触れつつ、評価も厳しめになっていったんですね。
そんなことが色々とあった後での東京撤退情報だったので、もちろんびっくりはしたのですが、心のどこかで「やはり」という思いがあったのも事実です。
前記地元紙の報道にあった新型コロナの影響で売上激減という撤退理由について、"疑惑"という表現を使いましたが、私は新型コロナ禍はあくまで表向きの理由で、実のところは東京での戦略をはき違えたところにこそ、本質的な撤退原因が隠されているものと感じています。
今後は、再び帯広に経営資源を集中して立て直しを図ると聞いていますが、是非、東京進出の失敗を冷静に分析したうえで本来のますやの姿を1日も早く取り戻してもらいたいと思います。
思いの総括が長くなりましたが、最後の利用となるこの日は、午前中に当店を訪れ、思いを込めてパンを購入することにしました。
この日購入したパンは次の通りです。
・八千代牧場のウインナーフランス@270円
・ベビーパン@150円
・あん食パン@360円
・輝くメロンパン@190円
合計970円
持ち帰って、翌日の朝食に供しました。
八千代牧場のウインナーフランスは、レンジで20秒チンした後、600Wのオーブンで4分間加熱していただきました。
八千代牧場は、帯広市の八千代エリアに広がる公共育成牧場で、畜産加工品も手掛けています。
さすが、畜産の本場十勝で磨かれたウインナーですから美味しさは間違いありません。
ウインナーの塩っ気と小麦由来の旨みのあるフランスパンとの相性も良く、ブラックペッパーのアクセントも効いてとても美味しいパンに仕上がっています。
ただ、サイズが小さく、ペロッと食べられちゃいましたので、これで270円は高く感じる人がいてもおかしくないですね。
ベビーパンは、1200Wのオーブンで2分間トーストしました。
ちょっと焦がしちゃいましたが、マーガリンを塗っていただきました。
シンプルなパンですが、こういうパンでこそますやのパンのレベルの高さが良く分かります。ソフトなパンで、ほんのりした甘みもあり、とても美味しいです。
是非、原料小麦も知りたいところですよね。
あん食パンは、キューブサイズをさらにハーフにカットしたものです。
これは、例外的に原料小麦が明記されており、ゆめちから100%の食パンで、これにあんを巻き込んだものです。
900Wのオーブンで2分間軽くトーストしてマーガリンをつけていただきました。
さすがの美味しさでしたが、@360円というのは強気過ぎると感じます。
恐らく高級食パン専門店を意識したものと思いますが、これもますやらしくないと感じました。
輝くメロンパンは、見た目鮮やかな黄金色をしたメロンパンです。
カリッとした皮とふんわりした生地が好対照で美味しいのですが、メロンパンでも十勝産小麦で作るとこんなに違うのかということを知ってもらうためのアピールが必要ではないでしょうか。
値段もメロンパンにしては高いのですから。
そんなことで、パンの美味しさは今回も揺るぎなかったのですが、やはり割高感があるのは否めず、十勝のベーカリーとしてのパフォーマンスが東京出店当初と比べて落ちてしまっている感を禁じ得ませんね。
『東京では高級なパンが高く売られているので、これに近づけた方が売れるのでは?』
もし、そういう考え方があったのだとしたら、全く間違った考えだったと思います。
野地さんの著書によれば、ここまでの発展過程では、「シニフィアン シニフィエ」の志賀勝さんあたりと親交が深まっていたようで、それはそれで悪いことではないのですが、そのことがますやらしくない方向に経営の舵が切り替わった遠因だったとすれば、その舵を切り戻せなかったのは、経営の責任ということなのかもしれません。
何より、東京の消費者に十勝のものは高いなんて先入観を植え付けてしまったとしたら、これは単にますやの失敗だけでなく、地域のイメージダウンにもつながりますので、この点は残念だったかなと。
ますやは、あくまでますやらしく、愚直にオール十勝産の小麦で作ったパンの美味しさをお客さんに知ってもらうという点だけに狙いを絞った商売を東京でやってみて欲しかったですし、それが東京の消費者に受け入れられないのであれば諦めればいいだけのことだったと私は思います。
"かもめはかもめ"と言えば、帯広の生んだ天才・中島みゆきが作詞作曲した名曲ですが、その歌詞にもあるように、かもめはあくまでかもめであって、立派なかもめにはなれるけれど、孔雀や鳩にはなれないのですよね。
いずれにせよ、冷静に見れば、ますやの東京進出は失敗に終わったと見るべきなのでしょう。
ただ、今後、"地方の時代"というのは益々加速していくと思いますので、地方の企業には、ますやの失敗も他山の石として、引き続き多様な発展の道を探っていってもらいたいと思いますし、ますやの失敗は、その面からも他の企業にはいいケーススタディになったものと思います。
ますやも、再び地元に軸足を置くと聞きますので、十勝の価値の発信にこれからも尽力されることを願って止みません。