『『霊のまにまに』』50オヤジさんの日記

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50オヤジの霊的小噺を一席

50オヤジは霊的体験を何回かしたコトがあるが、亡くなった父親はUFOや霊なんて一切否定していた現実主義者だった。そんな父親だが、大腸癌を患い切除手術を受けた翌日に電話を掛けて来た。

 親父よー手術明けに電話なんてしててイイのかよ?大人しく寝てろよー。

「コレが大人しく寝てる場合か!いいか今すぐ俺の一眼レフ持って来てくれ!」

って言うなりガチャ切りの父親…
ナンのコトかワカランけど、なんだか逼迫した様子に心配になり、実家に寄り父親のゴツイ一眼レフを持って入院先の慈恵医大に駆け付けた。
息せき切って父親の個室病室の前に立つと、ドアの向こうから何やら華やいだ笑い声がする。
何事かってドアを開ければ、若い看護婦数人に囲まれた父親が満面の笑みでお喋りしてた。
何やってんの親父…

「アッお邪魔してまーす。お父様のお話が面白くてつい長居してしまって、引き揚げますのでごゆっくり。」

なんだよ親父モテモテじゃねーか!家では真面目一辺倒な父親の別な一面を垣間見て戸惑う俺に

「おっカメラ持ってきたな。実はな、とうとう見たんだよ。」

見たってナニを?

「霊だよ。」

な、ナニ真顔で言ってんだよ~?普段からそーいうの否定してただろー!

「昨夜、手術の麻酔が切れて朦朧と目が覚めた時、壁一面に絵が描いてあったんだよ。
 それが凄く上手いデッサンでな、感心して見つめていたらまた麻酔の影響で寝てしまったんだ。
 それで朝目覚めたら絵は消えていたのさ。」

そんなの麻酔の幻覚作用じゃないの?

「俺も最初はそう思ったけど、今朝さっきの看護婦達に何気なく話したら『エッ見たんですか?』なんて言うんだよ。
 どうやら、時々この病室では幽霊騒ぎが有ったみたいだな。
なんでも、数年前この病室に入院してた絵描きの先生が、亡くなる前に壁一面に木炭で絵を描いたそうだ。
 その後、当然塗り替えられたんだけど、時々見える人が出るらしい。俺もその一人ってわけだ。」

ま、マジか~!

「ほら、その壁だよ。」

恐る恐る振り向けば、そこには明るい午後の日差しを浴びた何の変哲もない白い壁が在るだけだった。
ところで、一眼レフ何に使うのさ?

「それは当然霊の撮影だよ。是非とももう一度見たいしな。出来れば今度のサークルの個展に出品したいね。
 霊の写真なんて入賞間違いないだろ?」

そ、ソレかい!

当時、仕事引退して隠居生活を送っていた父親は市の写真サークルや日本画教室に通っていた。
もともと写真好きであり、凝り性な性格の父親は撮影機材もアレコレ揃えてどっぷり嵌っていた。
その後も、こういうアングルで撮りたいから三脚が必要だとか、高感度フィルムが必要だから
もう一度家行って持ってこいだの色々注文がウルサイ凝り性な父親。

はいはい、分かりましたよ。取ってくりゃイイんでしょ。
幸い術後の経過も良好みたいだし、快方に向かってるらしいけど、あんま夢中になって無理すんなよ~。
それじゃ、実家行って必要な機材取って来るわ。

実家に向かう道すがら、近所の桜並木でフッと桜を見上げ

いゃあ、手術前は弱気になってて心配したけど、元気出て来たみたいで良かった良かった。
まさに幽霊様様だな…

散り始めた桜の下で50オヤジは小さく安堵の溜息を漏らすのであった。 
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