『★『 Hear My Train a Comin 』』50オヤジさんの日記

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旅の思い出

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日記詳細

俺は芸術家では無いが、商業デザインを稼業とする者として己が創造性に限界を感じる時が多々ある。
元々、才能の欠片も無い凡人の俺は、幸いにも善きクライアントや善き仕事に恵まれただけでは無く、悪しきクライアントや悪しき仕事にも否応も無く関わり、揉まれに揉まれて経験値だけは積み重ねて来た。
営業・プランニング・デザイン・設計・施工・トラブル処理等のソフトからハードまで、業界の表裏で行われている事柄に見極めがついた俺は、四十代後半に独立した。
幸運にも、独立と同時に大きなプロジェクトが立て続けに舞い込み、必死にこなす年月が過ぎていった。
会社を大きくする気が無い俺は、株式の体裁は整えているが、基本的には個人事業主として業務を凌いで来た。
何も無いトコロからのブランディングは得意分野だけど、膨大な仕事量をやっつけるには個人の力だけでは限界が有る。
幸いにも、これまで培ってきた各デザイン分野のエキスパート達との友好関係が実を結び、業務協力を得る事に成功した。
各々、専門分野に於けるプロフェッショナルな人達だが、その中には創造性の《煌めき》を持つ人も何人かいる。
依頼者である俺の期待を遥かに上回るデザインをいつも上げて来る。
もちろん本人の努力と経験値の賜物とは理解しているが、それだけでは説明がつかない程デザインレベルが異常に高い。
きっと、持って生まれたセンスが俺とは違うんだろうな。
ディレクターの俺的には嬉しい限りだが、クリエイター個人としてジェラシーさえ感じる俺もいる。
そんな鬱鬱たる想いは年を経るごとに俺の心の片隅に澱のように溜まっている…

そんな想いを長年抱えた俺は、出張仕事で広島のとある商業施設にやって来た。
以前はよく来ていたが、広島来たのは随分久しぶり。
新たな物件の打合せをビル側担当者と済ませて館内をリサーチしていたら、以前手掛けた店舗物件に出くわした。
約10年前にデザイン・設計した物販店鋪。
まだ在ったのか…
こういう商業施設の店舗は入れ替わりが激しく
概ね3〜5年で入れ替わる。
10年営業しているのは稀である。
売上が好調なのだろうな。
確かに店舗の客数も結構入っている。
ただ、当時は自信を持ってデザインしたつもりだったが、10年の月日を経て改めて見ると余りの稚拙さに言葉を失う俺…
商業デザインはモノを売る為の意匠であり、10年間売上好調とは言え、この拙さは他にやりようが有ったんじゃ無いのか?
やはり俺はセンス無いのか?
ショックの余り自問自答しながら俺は帰路に着く。
本来なら一泊したい距離だが、あいにく明朝打合せが有るので今回は日帰りとなる。
広島駅に辿り着き、帰りの新幹線を調べれば、何便か指定席は満席だ。
やっと取れた指定席は約2時間後、しからば夕食がてら1人呑みで時間を潰そうか。
広島駅ビルに在る以前よく通った鉄板焼き屋。
目前で焼き上がる海鮮や肉をアテに杯を重ねて列車を待つ俺。
酔いが回ると先程の自問自答が繰り返され、自己嫌悪の沼に嵌り出す。
これではイカンと振り払うように杯を重ね、更に酔いが回った俺の脳内で突如として古いROCKが鳴り響く。

うねるような奔放なブルースリフ
こ、これは正しく《 Hear My Train a Comin》
ジミヘンじゃないか…

『ヘイ、ブローしけた顔してるじゃねーか。』

突如俺の脳内に実体化したサイケな服を纏い、フェンダーストラトキャスターを抱えた痩躯な黒人。
その口元に咥えたジョイントからは紫の煙を辺りに漂わす。

「ジ、ジミ…?」

『そうだ俺様だ。オマエの呼ぶ声が聞こえたもんで、天国からジミ・ヘンドリックス様がワザワザお出ましってワケさ。』

「エッ俺が召喚したってか?」

『ハハ〜そのとおりだぜ〜ブロー。
悩みゴトが有るなら言ってみな、俺様が聞いてやるぜ。』


「な、なら聞いてくれ。俺はアンタみたいに才能あふれる《煌めき》が欲しいんだよ!」

『《煌めき》が欲しいってか。
ハハッこいつはお笑いだぜ〜。
《煌めき》なんて一朝一夕には手に入らないぜ〜。』

「でも、アンタのギタープレイの《煌めき》は伝説じゃん!あのクラプトンやベックでさえもアンタにゃ敵わないって言ってただろ?」

『ハハ〜ヤツらがナニ言ったかは知らねーけど、俺様だって最初から《煌めき》が有ったワケじゃないぜ。
兵隊なって海外で苦労して、帰国してからも芽が出ずにリトルリチャードみたいな古臭いオッサンのバックバンドやりながら《煌めき》を得る為に己れを練り込んでたのよ。
ようやくイギリスに渡り成功したけど、活躍したのは正味4年間だけどな…』


「オーバードースだっけ…」

『そうさ、ナニゴトもやり過ぎは良くないってコトよ〜。
あの時代《煌めき》を得るにはヤクやハッパの力が必要な時もあったのさ。
オマエも気をつけなよ。』


「俺は酒の方がイイけどな。」

『なんにしろ《煌めき》なんて簡単には手に入らない。
ある日突然に天から降って来るワケじゃない。
この曲《 Hear My Train a Comin》だって、色んなバージョンがあるの知ってるだろ?
俺様を持ってしても、苦しんで苦しんで試行錯誤の果てに漸く辿り着く境地ってなもんよ。
要はオマエの在り方次第。
苦しんだ先に在るのが《煌めき》なのさ。』


「んでも俺はもうすぐ高齢者。
そんなに時間は残されてないんだよ…」

『ハハ〜ッ眠たいコト言ってんじゃねーよ。
生きてるだけでもありがてーじゃねーか。
俺様みたいにあの世に行ったワケじゃねーだろ。
オマエも残りの人生で苦しんで苦しみぬけば、やがて《煌めき》はやって来るのさ。


「やっぱ努力しなきゃ始まらないってコトね…
OKジミ、俺も残りの人生精一杯踠いてみるよ。」

『ハハッその調子だぜ〜せいぜい頑張んなよブロー。
おっと、こんな時間かよ。
そろそろ天国のジャムセッションが始まるぜ。
最近来たジェフベックと約束してたの忘れるトコだったぜ。
オマエの乗る列車もそろそろ着くんじゃねーか?』

「そのジャムセッションも楽しそうだな。
それじゃ俺も帰るとするか。
ジミ、今夜アンタに会えて嬉しかったよ。
ありがとうな。」

『ハハッまたなブロー。』

ジミヘンは霞のように消えていく。
店を出て新幹線のホームに向かう俺。
その脳内では未だに《 Hear My Train a Comin》が鳴り響く。


聞こえる俺の列車がやって来る
聞こえる俺の…
俺の列車がやって来る

そう俺は駅で待っている
俺の列車を待ってる
あの列車を待ってるんだ
俺を連れて行け
何処か連れて行ってくれ
そう この孤独な街から
孤独な街から

がっかりだぜ
お前は俺を愛しちゃいないんだよ
がっかりだぜ皆が俺を貶める

目頭が熱くなる
涙で俺の瞳は熱くなる
ずっと奥深く
俺の魂の奥深く
心の奥深くで涙が熱い

そうさ、がっかりだぜ
お前は俺を愛しちゃいないんだよ

そう、聞こえる俺の列車がやって来る
聞こえる俺の列車がやって来る

聞こえる俺の…
俺の列車がやって来る


ところで、俺の《煌めき》を乗せた列車はいつやって来る?

https://www.youtube.com/watch?v=EX5phFmbrU8&pp=ygUXaGVhciBteSB0cmFpbiBhIGNvbWluJyA%3D
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