3回
2022/07 訪問
旬の盛りにこだわる懐石料理
今回は境港の本鮪と大分のイサキ。夏の旬と言えば日本海の黒マグロ。特に鳥取県境港の本鮪が最高。旨味を満遍なく蓄える赤身の上品さは、夏らしさが溢れ出ていて感激する。まさに夏の王様と言える素晴らしい美味しさ。そして大分県豊後水道で一本釣りされたイサキも、あっさりした味わいと絶妙に寝かせた熟成食感が夏の女王。これぞこの店の本領発揮と言える、日本を代表する旬の盛りの競演ではないだろうか。
お任せコースは大将からの盃から始まる。今回は白神山地の水から出した利尻の昆布出汁。身体の芯から涼しくなる気がする大将の心遣いが嬉しい。先付は江戸前のふっこ。大葉と茗荷を合わせ、アライにしているところが夏らしい。
八寸はさっぱりした白瓜の雷干しに、甘みが文句なしのフルーツコーンかき揚げ。伊勢崎産べっこう玉子の鬼灯作りの濃厚さが、考え抜かれた真夏の競演のアクセントになっている。対馬の夏穴子も素晴らしい味わい。天草のハモは皮を胡麻味噌酢とともに。大葉鰯の博多押しもあっさりした美味しさが上品。まさに真夏の祭典、オールスターゲーム。
椀物の前には大将がカンナで削った本枯節を、削りたてで味見させてくれる。京料理店で良く見るパフォーマンスは、この店の大将が元祖。一番出汁の味見も楽しい。椀物は山科の焼き茄子が美味しい。巻き海老と天草ハモの素麺との食感のハーモニーと、理想的な出汁の組合せが贅沢の極み。
向付に続く鉢肴は長良川の天然鮎。時間をかけてじっくり備長炭で火入した天然の鮎は、苦味さえ感じない旨味の塊となっている。強肴は帆立の信田巻きとタコの柔らか煮、冬瓜、甘栗南京、オクラ、フルーツトマトなどの夏野菜を煮物にしている。冷たく冷やした出汁のジュレとのコンビネーションが良い。
食事はスッポンの土鍋炊き込みご飯。たっぷりの芽ネギが効いている。自家製掬い豆腐の赤出汁との相性も良い。沢庵と大葉を刻んだ香の物も、この店のスペシャリテに加えたい美味しさ。桃のパンナコッタに抹茶アイスの最中、葛切り、煎茶まで、飽きることのない真夏のオンパレード。
乾杯のシャンパーニュはブルーノパイアールという凝りようが良い。日本酒は大将の地元神奈川の隆の限定酒が一通り揃っていて驚く。あっさりした先付や八寸には宗玄、締めには令和元年の悦凱陣。旬の本鮪や天然鮎には、隆のこの店オリジナルラベル。さすがの味わいとマリアージュに脱帽。
旬の盛りと日本を代表する産地にこだわる大将の料理は、一皿一皿に考え抜かれた思いがこもっていて、次々に感動を味わえる。京懐石のもてなしの心が伝わる、文句なしに素晴らしい店。和装の似合う女将も甲斐甲斐しい。ミシュランの星を取り続ける大将に、驕りは一切感じられず、居心地の良さは表参道一の店と言えるのではないだろうか。
2022/07/05 更新
2017/12 訪問
表参道のミシュラン和食
本格的な京懐石の流れを汲む、表参道で一番人気の日本料理店。開業翌年から4年連続でミシュランの星を取り続ける大将は、利尻昆布に本枯節を加える丁寧に引いた出汁の味わいを縦横無尽意に操る技巧派。見た目の美しさや愉しい演出も、料理を楽しむと言う本質を知る大将らしさ。和装の女優かモデルのように若く美しい女将の優しい接客とともに、文句なしの素晴らしい店となっている。
今回は大将の魚の目利きに改めて感心。向付の青森県産ヒラメの美味しさが感動的ですらあった。素材の目利きは勿論、熟成感とそれにより引き出された旨みが究極のレベル。ただただ美味しいとしか言いようがない。薄造りでありながら噛み応えも十分。ヒラメとは思えぬ出来に無言となってしまう。添えられたビーツ、胡瓜、葱、穂紫蘇、芽葱も、ヒラメの1枚1枚を色々な楽しみ方で味わえるよう厳選されたもの。これ一皿で満足してしまう。
先付は兵庫県産の香箱蟹。そろそろ旬の名残となる香箱を柚子の皮で包んでいる。この柚子の皮が柔らかくて酸味を感じないほどの驚く美味しさ。八寸は百合根に菊菜、なまこにたらこと日本酒が進んでしまう。さっきまでカウンターの目の前の水槽で泳いでいた本モロコが炭火焼になっている。美味しさと愉しさがいっぺんにやって来た感じ。北海道産の白子は堀川牛蒡と合わせる。濃厚な白子とあっさりした牛蒡のコントラストにうきうきする。
鉢肴はこの時期一番美味しい佐渡の寒鰤。じっくり備長炭で火入れした寒鰤は全体がほろっと柔らかく、旨みもたっぷりで嬉しい。穴子は黄身揚げ。浜名湖の鰻はかぶら蒸しと合わせる。盆と正月が同時に来たような食べ比べに笑いが止まらなくなる。油物はイトヨリダイと獅子唐。この白身の柔らかさも素晴らしい。合鴨と九条葱の土鍋炊き込みご飯の後に、水菓子は紫芋や和三盆に加え今回は苺のサンタクロース。京懐石のクリスマスバージョンとは最後まで楽しませてくれる。
乾杯のシャンパーニュはダミアンウーゴのブランドブラン。年間7万本しか造らないレコルタンマニュピュランが特級村の葡萄で造るシャンパーニュ。冬にブランドブランを出す店が多くなったような気がするが、それだけ今まで日本では珍しかった造り手が入ってくるようになった証か。日本酒は大将の故郷、丹沢の隆や石川の玄宗などの吟醸、大吟醸、無濾過生原酒をラインナップ。今回は悦凱陣の赤磐雄町が最高のヒラメとマリアージュする素晴らしい味わいだった。
場所は東京メトロ銀座線、半蔵門線、千代田線の表参道駅。B2出口を出て歩道を渋谷方面に歩いて2本目。青山学院の手前、骨董通り入り口の信号。真新しい紀伊国屋ビルの先を右の路地に入り、さらに2本目の路地に突き当たる左手前、コーナーのビルの地下にある。駅からは徒歩5分の距離。北青山三丁目という青山の中心地。カウンター数席と個室が2室。白木のカウンターが映えるクリアなインテリアが落ち着く。
まだミシュランの星も付かない開業間もない頃から、必ず予約の取り難い人気店になると思われた店。案の定、あっという間にミシュランの星を取り、2度産休で離れた女将も再び復帰して、店は磐石の態勢となっている。ほんの少しだけ価格を改定してからは、素材の目利きもますます絶好調。季節や素材に応じた出汁の味わいは既に円熟の領域に近付き、青山の京懐石と言えばこの店と言うのが当たり前になるのも今や時間の問題と思われる。
お任せコース 15000円
先付 兵庫県産香箱蟹の飯蒸し
網掛け柚子包み
八寸 百合根の梅肉和え
菊菜とアーモンドの白和え
秋田県産なまこ
本モロコの炭火焼 たらこ
椀物 北海道産真鱈の白子 堀川牛蒡
向付 青森県産ヒラメの薄造り
ビーツ 胡瓜 葱 穂紫蘇と芽葱
鉢肴 佐渡の寒鰤
安穏芋 蕪の煎餅 蓮酢
強肴 穴子の黄身揚げ
菊芋の茹で蒸し 大根の葉
止肴 かぶら蒸し 浜名湖の鰻
油物 イトヨリダイと獅子唐の唐揚げ
食事 合鴨と九条葱の土鍋炊き込みご飯
香の物 赤出汁
水菓子 紫芋のプリン
キャラメルのアイスクリーム
和三盆のカステラ リンゴ
苺のサンタクロース
お薄
NM CHAMPAGNE BRUT Blanc de Blancs
DAMIEN HUGOT 1700円/120mlグラス
隆 山田錦 純米大吟醸 無濾過生原酒
川西屋酒造店 神奈川県 1800円/1合徳利
宗玄 純米吟醸 無濾過生原酒
玄宗酒造 石川県 1600円/1合徳利
悦凱陣 純米吟醸 赤磐雄町 無濾過生原酒
丸尾酒造 香川県 2000円/1合徳利
奥播磨 29号 袋絞り 無濾過生原酒
下村酒造店 兵庫県 1400円/1合徳利
別途消費税
青森県産ヒラメの薄造り ビーツ 胡瓜 葱 穂紫蘇と芽葱
兵庫県産香箱蟹の飯蒸し 網掛け柚子包み
百合根の梅肉和え 菊菜とアーモンドの白和え 秋田県産なまこ 本モロコの炭火焼 たらこ
百合根の梅肉和え
菊菜とアーモンドの白和え
秋田県産なまこ
本モロコの炭火焼
たらこ
北海道産真鱈の白子 堀川牛蒡
青森県産ヒラメの薄造り ビーツ 胡瓜 葱 穂紫蘇と芽葱
佐渡の寒鰤 安穏芋 蕪の煎餅 蓮酢
佐渡の寒鰤 安穏芋 蕪の煎餅 蓮酢
穴子の黄身揚げ 菊芋の茹で蒸し 大根の葉
かぶら蒸し 浜名湖の鰻
イトヨリダイと獅子唐の唐揚げ
合鴨と九条葱の土鍋炊き込みご飯 香の物 赤出汁
合鴨と九条葱の土鍋炊き込みご飯 香の物 赤出汁
紫芋のプリン キャラメルのアイスクリーム 和三盆のカステラ リンゴ 苺のサンタクロース
お薄
エントランスサイン
2017/12/31 更新
2014/07 訪問
表参道に気鋭の日本料理店
昨年の夏に開業したばかり、洒落た日本料理で人気の店。若き大将はミシュランの星が付く新宿の茶懐石、六本木の料亭、麻布十番の割烹で腕を磨いた。美人若女将との素敵なコンビネーションにも癒される。京風の食材や味付けに、オーソドックスな会席料理の構成が抜群の安定感を醸している。出汁を大切にする日本料理の基本に忠実な皿の数々に、出身地である神奈川の日本酒を合わせる。白ワインや鴨肉を使うセンスも素晴らしい。土鍋炊込みご飯まで、じっくりと日本酒三昧に身を任せることができる店。
今回は巻海老の油〆めが秀逸だった。もともと海老でありながら脂の乗りが良い鹿児島県産の巻海老を、油で〆ることで海老の全身に柔らかい仄かな甘みを閉じ込めている。さっぱりと旨みだけを感じる境港の小豆ハタとの組み合わせも素晴らしい。小豆ハタは食事の土鍋炊き込みご飯では、香ばしい焼き上がりで炊き込まれる。この脂の乗りと造りの軽快なコントラストも感動的ですらある。造りに添えられた、胡瓜の花、葉、小さな実が可愛らしい。
青梅の蜜煮の甘さも、白ワインのジュレであっさりと仕上げられ、日本酒の伴に丁度良い。6種類のつまみが少しづつ乗る八寸も、これだけで暫くは日本酒が楽しめる。さっぱりとしたうるかや雷干しと、香ばしい鱧寿司や玉蜀黍との組合せも流石と思わせる。出汁の効いた穴子と冬瓜の椀物にも、焼き穴子の香ばしさでうっとりとする。香りと出汁の料理はまさに日本の伝統の心。本当に美味しく楽しい。カマスの火入れも完璧。これでもかと言う香ばしさと、白身の万遍ない柔らかさに隙はない。
日本酒は大将の出身である神奈川県の隆がメイン。この時期の限定品から、無濾過生原酒、吟醸、大吟醸を取り揃えている。その他にも東北から北陸、西日本まで、大将の好みで広範囲なセレクション。メニューにない本日のお勧めもいくつか用意されていて、大将や女将との日本酒談義も楽しい。
場所は北青山3丁目。東京メトロ銀座線、半蔵門線、千代田線の表参道駅。B2出口を出て歩道を渋谷方面に歩いて2本目。青山学院の手前、骨董通り入り口の信号。真新しい紀伊国屋ビルの先を右の路地に入り、さらに2本目の路地に突き当たる左手前、コーナーのビルの地下に在る。白木のカウンターが映えるクリアなインテリアが落ち着く。
日本料理を極めるような修業を積んだ大将の料理は、出汁と香りを大切にすると言う基本に忠実で安定感抜群。どの料理も季節感を感じられて美味しい。料理同様、季節感と生原酒に拘った日本酒のセレクトも充分楽しめる。何より、大将と女将の人柄が素晴らしい。カウンターでの会話は、どんな客でもあたかも昔から知っていたような寛いだ空間を作り出している。若く美人でありながら全く奢りを感じない控えめなこの女将がいる限り、スタッフ総勢7人を率いる若き大将の料理は、まだまだ美味しく進化し続けるものと思わせられる。
≪今回の料理≫
お任せコース 12000円 別途消費税
先付 青梅の白ワイン蜜煮 白ワインのジュレ
八寸 鮎のうるか 白瓜の雷干し キスの風干し 新蓮根の小豆煮 鱧寿司 玉蜀黍
椀物 対馬の焼き穴子 冬瓜
向付 境港産小豆ハタの造り 鹿児島県産巻海老の油〆め 花胡瓜 胡瓜の葉と小さな実
鉢肴 大分県産カマスの焼物 木の芽酢
強肴 白ダツと小柱の煮物 東京都産の湯葉掛け
止肴 フルーツトマトの擂り流し 秋田県産新蓴菜
肉料理 鴨肉と加茂茄子田楽
食事 小豆ハタの土鍋炊込みご飯 香の物
止椀 茗荷の味噌汁
水菓子 マンゴープリンと黄粉のアイスクリーム キウイの葛切り
≪今回の日本酒≫
悦凱陣 純米吟醸 無濾過生原酒 阿州 山田錦 丸尾酒造 香川県 1600円/1合徳利
隆 純米大吟醸 播州 山田錦 川西屋酒造店 神奈川県 1800円/1合徳利
隆 純米吟醸 足柄若水 無濾過生原酒 川西屋酒造店 神奈川県 1000円/1合徳利
宗玄 純米大吟醸 宗玄酒造 石川県 1600円/1合徳利
宗玄 八反錦ひやおろし 無濾過生原酒 宗玄酒造 石川県 1000円/1合徳利
奥播磨 29号袋絞り 無濾過生原酒 下村酒造店 兵庫県 1400円/1合徳利
別途消費税
向付 境港産小豆ハタの造り 鹿児島県産巻海老の油〆め 花胡瓜 胡瓜の葉と小さな実
先付 青梅の白ワイン蜜煮 白ワインのジュレ
八寸 鮎のうるか 白瓜の雷干し キスの風干し 新蓮根の小豆煮 鱧寿司 玉蜀黍
鉢肴 大分県産カマスの焼物 木の芽酢
2014/07/02 更新
開業翌年からミシュランの星を8年連続で取り続ける、京懐石の流れを汲む東京日本料理の名店。枕崎の本枯節と利尻昆布の合わせ出汁が理想的な味わいで、旬の盛りにこだわる日本を代表する食材のパフォーマンスを、最大限に引き出す大将の技が素晴らしい。
2022/07/05 更新