4回
2023/01 訪問
神楽坂のミシュラン星付きフレンチ
火入の技術が天才的なシェフの料理は、オーソドックスかつ選び抜かれた食材と、オーセンティックな中にもオリジナリティ溢れるソースとそのビジュアルに支えられて、他にはないある意味完璧とさえ言って良い絶妙なバランスを備えている。
今回は北海道が誇る白糠の蝦夷鹿。周りだけが見事にこんがりと焼かれ、残りは全て均一にじんわりと火が入っている。食感はまさにレアそのもの。この火入の技術が素晴らしく、右に出るものを知らない。
サルミと言うには赤ワイン、さらに出汁の味わいが効いた鹿肉フォンのソースは、脂を感じないシンタマ、まさにシンシンの中のシンシンらしい赤身を、最大限に引き立てている。これほど美味しく蝦夷鹿を味わう方法があったのかと感激できる。
アミューズは蝦夷鹿ノワールのエクレアとチーズのチュール。いきなりの北海道ジビエに迎えられ、嬉し過ぎる驚き。濃厚な味わいのチーズのチュールだけで、シャンパーニュが1本は飲めてしまう。
冷たいオードブルは真牡蠣。この時期の三陸広田湾産牡蠣の小振りに締まった旨みは、他の産地の追随を許さない。昆布出汁を使ったジュレは海の香り。エシャロットのクレームとの組合せが斬新。軽く火の入ったぷりぷりの真牡蠣とマリアージュ。
温かいオードブルは貝類のパレード。ミル貝、つぶ貝、ホッキ貝と、あたかも寿司店のつまみのようなバリエーションに歓声を上げてしまう。シャルドネとの相性が良い。上から掛けられた黒トリュフの香りが、これでもかと脳内をくすぐる。
ポアソンは和歌山のヒラスズキ。西日本を代表する白身の高級魚は、大きめの塊でじっくり火入され、10日間熟成させた柔らかな身を、頬が落ちるような旨みの塊に変えている。これぞ火入のマジック。
元祖自然派ワインの探究者だったオーナーソムリエも、ミシュランの星を取っただけのことはある品揃えの幅を持っている。天才シェフとこだわりソムリエのフレンチは、今や神楽坂を代表するフレンチと言って差し支えないのではないだろうか。
2023/01/30 更新
2020/08 訪問
神楽坂の気軽なモダンフレンチ
開業して1年、すっかり人気も定着して常連客も多い。全国各地の旬な食材にこだわり、クラシックをベースにオリジナルな工夫を加えたフレンチは、見た目のモダンさと合わせてトータルなバランスが取れた店となっている。プリフィクスのコースはオードブルとヴィアンドを選ぶことができる。季節感満載のコース構成は合わせるワインを含め、何度来ても楽しみな店となっている。
今回のヴィアンドは鹿のシンタマ。山陰、島根の夏鹿が旬。内腿の内側にあるシンタマの中でも、さらに内側となるシンシンの赤身と、全く脂を感じない肌理細やかなサシがあたかもシャトーブリアンのよう。柔らかで満遍ない火入れは、高温でしっかりとしたシェフのこだわりでもある。鹿肉のジュと赤ワインのソースはクラシックな中にも、肉そのものを活かすあっさりさ加減がモダンの象徴。
コースはカボチャのヴィシソワーズと鷄白レバーのマカロンから始まる。オードブルは選べる冷前菜と本日の温前菜。冷たい前菜はセキアジ。軽く熟成したアジで焼き茄子を巻いてバロティーヌ風にしている。柔らかい茄子が火入れにより甘さが増し、アジと杏とともに美しい三重奏を奏でる。温前菜は鰻とフォアグラテリーヌを合わせて揚げ、あたかもバスクの伝統料理のようでもあり、オリジナリティ溢れるイノベーティブのようでもある。
ポアソンは毎日仕入れるお勧めの魚。今回はオウモンハタ。マハタより旨みが強い高級魚。絶妙な軽い熟成感が白身なのに更に旨みを増し、しっかり火入れをするのに驚くほど柔らかいポアレが、シェフの豊富な経験と実力を表していている。ブールブランには贅沢にソーテルヌを使っている。夏野菜にレモンピールのソースが旨みたっぷりの白身を夏の味わいに変えていて素晴らしく美味しい。デセールはスイカにゲランド塩のアイスを合わせる。疲れた夏の胃に優しい。
乾杯の泡はコストパフォーマンス重視のハウスシャンパーニュ。セキアジには小布施ワイナリーのシャルドネを合わせる。国産を代表する小布施のシャルドネは冷たくして日本酒感覚。鰻とフォアグラにはコルビエール。南仏とは言え広範なテロワールを持つ赤は、鰻とフォアグラにも合わなくもない。ハタにはヌフデュパフの白。グルナッシュブランとソーテルヌのソースを合わせる裏技が面白い。上品なシンタマにはオーソドックスにマルゴー3級のセカンドワイン。フランスを制覇したような気分になれる。
麹町の名店で肉料理担当シェフとして2つ星昇格を果たした実績が十分に味わえる料理の数々。近所の日本料理で3つ星を維持する有名な大将も絶賛するフレンチにしては、敷居の低い気軽さが良い。コース構成や調理の基本はクラシックをベースに、日本各地の旬の食材や生産者への愛を感じる丁寧な味わいが美味しい。ワインバーやフレンチで成功したオーナーシニアソムリエが合わせるワインは、フランス全土を網羅するような幅の広さ。今や神楽坂の名店の1つと言える店となりつつあるのではないだろうか。
お任せコース 6500円
アミューズ 一口のお楽しみ
南瓜のヴィシソワーズ
鷄白レバーのマカロン
チェダーチーズのチュイル
オードブル 選べる冷前菜
豊後水道産セキアジ
焼き茄子のバロティーヌ
赤オクラ 茗荷
杏のベネグレットソース
オードブル 本日の温前菜
鰻とフォアグラのクロケット
鰻の赤ワイン煮
フォアグラのテリーヌ
バルサミコソース
海藻風味ジャガイモのピュレ
サマートリュフ掛け
ポアソン 本日の鮮魚
オウモンハタのポアレ
ソーテルヌのブールブラン
トマト キュウリ バジル
レモンの皮のソース
ズッキーニ オカワカメ
ヴィアンド 肉料理4種より
鳥取産鹿シンタマ芯芯のロースト
河戸さんが獲った本州鹿
鹿肉と赤ワインのソース
パン
バケット バター
デセール
山県産スイカ ブランマンジュ
パンナコッタ
フランスゲランド産塩のアイス
カフェ
エスプレッソ
ワインペアリング 4500円
NM CHAMPAGNE BRUT
Veuve De Nozac
120mlグラス
2018 CLOS DE CACTEAU
Chardonnay
OBUSE WINERY
90mlグラス
2005 CORBIERES
CHATEAU DE CARAGUILHES
90mlグラス
2018 LIRAC
CHATEAU MONT-REDON
90mlグラス
2013 MARGAUX
BLASON D'ISSAN
90mlグラス
別途消費税
鳥取産鹿シンタマ芯芯のロースト 河戸さんが獲った本州鹿 鹿肉と赤ワインのソース
南瓜のヴィシソワーズ 鷄白レバーのマカロン チェダーチーズのチュイル
南瓜のヴィシソワーズ 鷄白レバーのマカロン チェダーチーズのチュイル
豊後水道産セキアジ 焼き茄子のバロティーヌ 赤オクラ 茗荷 杏のベネグレットソース
豊後水道産セキアジ 焼き茄子のバロティーヌ 赤オクラ 茗荷 杏のベネグレットソース
鰻とフォアグラのクロケット 鰻の赤ワイン煮 フォアグラのテリーヌ バルサミコソース 海藻風味ジャガイモのピュレ サマートリュフ掛け
鰻とフォアグラのクロケット 鰻の赤ワイン煮 フォアグラのテリーヌ バルサミコソース 海藻風味ジャガイモのピュレ サマートリュフ掛け
オウモンハタのポアレ ソーテルヌのブールブラン トマト キュウリ バジル レモンの皮のソース ズッキーニ オカワカメ
オウモンハタのポアレ ソーテルヌのブールブラン トマト キュウリ バジル レモンの皮のソース ズッキーニ オカワカメ
鳥取産鹿シンタマ芯芯のロースト 河戸さんが獲った本州鹿 鹿肉と赤ワインのソース
鳥取産鹿シンタマ芯芯のロースト 河戸さんが獲った本州鹿 鹿肉と赤ワインのソース
バケット バター
山県産スイカ ブランマンジュ パンナコッタ フランスゲランド産塩のアイス
山県産スイカ ブランマンジュ パンナコッタ フランスゲランド産塩のアイス
エスプレッソ
インテリア ダイニング
2020/08/29 更新
2019/09 訪問
神楽坂に気軽なモダンフレンチ
神楽坂フレンチのニューカマー。シェフはかつて麹町にあったミシュラン星付き店の肉料理担当シェフ。その時に2つ星への昇格を果たした実力派。六本木のシャンパーニュレストランでスーシェフを勤めた後、この店のシェフとなっている。日本の旬の食材を活かしたお任せコースのコストパフォーマンスは驚異的。食材への思い入れ、日本らしさを追い求めたオリジナリティ、丁寧な調理と食材を盛り立てる感性に素晴らしい才能を感じる。
今回のヴィアンドは秋鹿。夏から秋に向けて木の実を蓄え始めた赤身のシンタマは、火入れの均一な柔らかさと相まって素晴らしい旨みを内に閉じ込めている。秋鹿のジュのソースも出しゃばらずに肉そのものを引き立て、完璧な秋の味覚。山芋やアスパラなどの無農薬にこだわった国産野菜も丁寧な火入れが美味しい。
コースのスタートはヴィシソワーズから。バターナッツ南瓜の甘さとパルメザンチーズの塩気が絶妙なバランス。アミューズからシャンパーニュが止まらなくなる。冷たいオードブルは脂の乗った気仙沼の戻りガツオ。燻製にした香りが素晴らしい。カツオのたたきのフレンチバージョン。日本酒が飲みたくなるタイミングで、ワインペアリングに日本酒が出てくるところも驚く。見事なマリアージュ。
温かいオードブルは北海道産タラの白子。海老をパウダーにして揚げている。甲殻類の香りを纏う白子。表面のカリッとした食感に対する白子の滑らかさと濃厚さ。フレンチでこんなに美味しい白子を食べたことがない。アサリ、ジャガイモのブランダードソースも白子に合っている。ポアソンは愛媛県産の真ダラ。魚とフォンドボーのソースも白身魚とぴったり。
乾杯のシャンパーニュはヴーヴドノザック。ピノムニエ主体で力強い泡が夏の終わりらしい。ニッチな造り手を探し出して好感。カツオには日本酒。長野県小布施でブルゴーニュワインのように醸すという小布施ワイナリーの生酛造り。白子にはブルゴーニュのシャルドネ、真ハタにはコートデュローヌの白、秋鹿にブルゴーニュピノノワール。美しいほどの構成は繊細なオーナーソムリエの為せる技。
オーナーソムリエは神楽坂のビストロで名を馳せた後、福岡で2店舗目を成功させ、この店が3店舗目の展開となる。素晴らしい才能を持つシェフとのコンビネーションは、間違いなく神楽坂の名店に仲間入りすることになるだろう。最近の料理雑誌では、神楽坂でミシュランの3つ星を持つ日本料理店の大将が、この店を自分が気に入った店としてベタ褒めしている。予約が取れなくなるのも時間の問題と思われる。
お任せコース 6500円
アミューズ 一口のお楽しみ
バターナッツ南瓜のヴィシソワーズ
パルメザンチーズのチュイル
冷たいオードブル 宮城県気仙沼産戻りガツオ
燻製して軽く炙ったカルパッチョ
水茄子のコンポート ザクロ
タルタルのソース
温かいオードブル 北海道産タラの白子
海老のパウダー揚げ アサリのジュ
タラとジャガイモのブランダードソース
トランペット茸 平茸 花弁茸のフリカッセ
ポアソン 愛媛県産真ハタのポワレ
ヒュメドポアソンとフォンドボーのソース
レモンの香り
ヴィアンド 鳥取県産本州鹿シンタマのロースト
鹿のジュと赤ワインのソース
人参とコリアンダーのピュレ
山芋 グリーンアスパラガス
デセール バスク風チーズケーキ
巨峰のコンポート クレームダンジュ
柑橘のジュレ 赤紫蘇のパウダー
パン バケットスライス バター
カフェ エスプレッソダブル
ワインペアリング 4500円
NM CHAMPAGNE BRUT
Veuve De Nozac
GILBERT GAILLARD 120mlグラス
2018 Riz a Sake Naturrel 生酛
NAGANO OBUSE 信濃国 旧上高井
Sogga pere et Fils 120mlグラス
2016 BOURGOGNE CHARDONNAY
Clos SAINT-GERMAIN
DOMAINE DE ROCHEBIN 120mlグラス
2016 Per El Cotes du Rhone
DOMAINE SALADIN 120mlグラス
2015 Bourgogne PINOT NOIR
JUSTIN GIRARDIN 120mlグラス
別途消費税
鳥取県産本州鹿シンタマのロースト 鹿のジュと赤ワインのソース 人参とコリアンダーのピュレ 山芋 グリーンアスパラガス
バターナッツ南瓜のヴィシソワーズ パルメザンチーズのチュイル
宮城県気仙沼産戻りガツオ 燻製して軽く炙ったカルパッチョ
北海道産タラの白子 海老のパウダー揚げ アサリのジュ タラとジャガイモのブランダードソース トランペット茸 平茸 花弁茸のフリカッセ
愛媛県産真ハタのポワレ ヒュメドポアソンとフォンドボーのソース レモンの香り
鳥取県産本州鹿シンタマのロースト 鹿のジュと赤ワインのソース 人参とコリアンダーのピュレ 山芋 グリーンアスパラガス
鳥取県産本州鹿シンタマのロースト 鹿のジュと赤ワインのソース 人参とコリアンダーのピュレ 山芋 グリーンアスパラガス
バスク風チーズケーキ 巨峰のコンポート クレームダンジュ 柑橘のジュレ 赤紫蘇のパウダー
インテリア テーブル席
カウンターセッティング
エントランスサイン
エントランス
2019/09/29 更新
火入れの技術と食材の目利きが素晴らしいフレンチ。かつてスーシェフを務めたレストランを、ミシュラン2つ星に昇格させた時の肉料理担当シェフだった腕が、この店のシェフとなって存分に活かされている。
メインは鴨のロースト。和歌山県産紀州鴨の濃厚な味わいが、軽快なソースに引き立てられている。今回の紀州鴨は4kgという大型。胸肉を塊で低温火入れしていて、丁寧な仕上がりが嬉しい。鴨肉のジュのソースが、まったく主張しない完璧さ。ボリウムたっぷりでも完食してしまう。
アミューズは3種類。猪のリエットがシャンパーニュを進める。青さ海苔とベーコンには、白魚を乗せている。パルメザンチーズのチュイルも楽しい。
冷たいオードブルは、ブルターニュ産仔牛のタルタル。焼き苺とドライトマトを合わせ、さらにキャビアがたっぷり。乳飲み仔牛のあっさりした味わいに、苺とトマト味がシンクロしてくる。美味し過ぎる。
温かいオードブルはオマール海老。佐賀産ホワイトアスパラと椎茸、ホタテのファルシに、黒トリュフがたっぷり。ソースヴァンジョーヌとオマールのマリアージュも文句の付けようがない。
瀬戸内海産真鯛のポアレには、オマールのソースが使われている。百合根と百合根の泡のカプチーノ仕立てに、蕾菜とグリンピースが添えられて、しっかりと火入れされた真鯛とのバランスが抜群。
和歌山産紀州鴨のローストに続いて、デセールはパイナップルマリネとシャルトリューズジュレのパルフェ。パッションフルーツのムースと黒糖のチュイル添え。最後まで手抜きのない徹底したこだわりの皿。エスプレッソダブルにプチフール。バナナとキャラメルのチョコレートやレモンのクレームも美味しい。
かつてヴァンナチュールにこだわったオーナーソムリエも、ミシュラン店らしいワインセレクトの幅の広さが素晴らしい。伝統的作りのシャンパーニュから、ヴァンジョーヌ、ボルドーの白に続き、鴨にはブルゴーニュフィッサンとピノノワールも充実。グランメゾンのワインセレクトとなっている。
食材の選択としっかりした火入れ、食材を引き立てる軽快なソースと、あるべきフレンチの姿を肩の力を抜いて実現する店。料理に合わせるワインの数々も完成された流れとなっている。神楽坂で今や人気ナンバーワンのフレンチは、まだまだ進化の途中であり、これからも楽しみで仕方のない店となっている。