5回
2020/12 訪問
【3000レビュー記念】実直なる69年…美味しい蕎麦をご馳走様でした。
東家南19条店が、2021年3月末をもってその69年の歴史に幕を下ろす…
南19条店は、東家総本山である釧路「竹老園」で修行を積み、札幌進出の礎を築いた佐藤孫次郎氏の子にあたる博行氏が52年に現在地で操業、その後は子である公昭氏が2代目として腕を振るう。現在の建物は84年に新築したもので、以来どこにも手を掛けていないとの事。電車通りから見える味わい深い建物は、昭和の良き時代を今も感じさせる。
私と南19条店との出会いは、今から約7年前。当時は「北海道中の著名店全て…まずは札幌市内全ての蕎麦を食べつくしてやる!」と蕎麦に対して挑戦的な姿勢で、とにかく数をこなすべく「5軒ハシゴ」などの食べ方を繰り返していた頃だ。
東家各店に対しても、寿楽以外は「大衆系の良くある蕎麦屋」という認識しか持たず、失礼ながら何も期待せずに暖簾をくぐった。すると物腰柔らかい老いたご主人が迎えてくれたのだが、店内を見渡すと綺麗に整頓され整然とした雰囲気に何かを感じ取った「ここは…」
もりそば…何とも言えない江戸前のオーラを纏った存在感。一口手繰ればその粘りあるコシとザラツキある心地良いのど越しに驚き、汁を口に含めば、出汁感豊かで何より返しが強めのキリリとしたやや辛口の味わいに面食らった。
思えば東家を更に見直すきっかけとなったのがその時であり、今現在私が提唱している「蕎麦屋や蕎麦毎に複数の定規を持ってその魅力を計って欲しい」という概念は、この頃からより具体化したのだと思う。
蕎麦に対して挑戦的だった私はその後、素晴らしき蕎麦や店と出会い、良き蕎麦仲間にも恵まれて…いつしか蕎麦に感謝するようになった。「大好きな蕎麦をもっともっと勉強して、もっともっと楽しみたい。そしてその魅力を皆様に伝えたい」とも思った。蕎麦喰い流れ星としてね…
「実直できちんとした仕事が施された、基本的ながらも技量の光る大衆蕎麦」…これが東家南19条店に思う、私なりの形容詞である。それは蕎麦に散らされた板海苔を見ても解るはずだ。そして暖簾を見て下さい…いつも凛としている。
ある記事でご主人は「学校に通う子供達が大人になって、家族連れで立ち寄ってくれるのが何より嬉しいですね」と語っている。私は昨年の大晦日に訪問したのだが、家族連れや夫婦が蕎麦を手繰り、会計時には「来年もよろしく」と挨拶、厨房はセッセと慌ただしい様子で、古き良き町蕎麦屋の安心感と存在感を目の当たりにしたのだ。外には電車が走り、これぞ山鼻風俗なる光景。
毎年最後の蕎麦は、その歴史に敬意を表して東家の何処かと決めている。特に理由こそないが、昨年、一昨年はここ南19条店だった。今思えば何らかの知らせだったのか…と勝手に思う。
69年間… 良い時もそうでない時もあっただろう。穏やかな日も…荒波をも乗り越えただろう、夫婦二人三脚の大航海は、3月末には堂々と安らぎの港に戻り「引退」という形でピリオドを迎える。
「美味しい蕎麦をご馳走様でした。ホッとする時間をありがとうございました。そして長い間お疲れ様でした」
ーーー終わりに―ーーー
2010年春の食べログデビュー、正確に言うと3000レビューは少し超えています。東家さんへ敬意を表するレビューに、節目記念レビューという「私ごと」を交える事は恐縮するし迷いもしましたが、又と無いタイミングであり、私自身の蕎麦喰い論も見つめ直したく、そうさせて頂きました事をお許しください…。ちなみに5年ほど前、天丼セットとかしわ蕎麦を頂いた時が一番美味しかった…しかし何故かレビューも、撮ったはずの画像も無くなっているのが残念です。私のオススメは、存在感ある朱色セイロで提供される「ざるそば」そして「天ざる」「親子・天とじ」ですね。
2021/02/14 更新
2020/12 訪問
ゆく年くる年 〜蕎麦は色々、味わいも色々。
ここ数年、歳の〆蕎麦は、北海道が全国に誇る老舗屋号「東家」の何処かにしている。令和二年は大晦日、そして二年連続にて「19条店」への訪問となった。何故ならば、こちらの蕎麦が好きだし、ご主人の雰囲気も好きだからだ。
暖簾をくぐる。ピークタイムを過ぎた時間ながら、驚きの満席だ。流石は大晦日、老若男女が蕎麦を笑顔で手繰り、会計時には「良いお年を」の挨拶が飛び交う…いいなあ!これだよこれ。ホッとする安心感、蕎麦屋の魅力はそこにもあるんだ。
ほう、蕎麦屋が一番輝くであろう大晦日の今日は、ご主人と手伝いの職人さん2名に花番2名と万全の体制だな。
「天ざる」1,400円… キリッと冷や〆され、喉越しスルリ、噛み締めて甘い、東家らしい蕎麦。ここは出来栄えも良し。ん?汁は天ぷら兼用のせいかサラリ甘めの別設定だな。
おっと!海老天が美味い!キュッと詰まった立派なエビ、軽やかな衣…いいわあ。
嗚呼、今日の出来栄えなら、角セイロと猪口で手繰りたい…じゃあ「もり一枚追加で下さい!」そう、今日は2,000円も惜しくない。フフフ、大晦日は大盤振る舞いだ!
うん、もり汁(つゆ)はグッと濃いめ、多少角張るが、出汁と返しのバランス良く、東家としては強い味わい。スルスルーっと一気に手繰る。
ふうーっ、満足満足、幸せ気分。今年は良い年だったなあ。
最後に持論をひとつ。
蕎麦は色々。本格派、大衆派等々… TPOに合わせて服を着替えるように、蕎麦も色々着替えて楽しんで欲しい。
そして複数の定規を忘れずに。蕎麦のタイプに応じて物差しを替えて評価してみると、もっともっと蕎麦が好きになります。
来年はどんな蕎麦に出会えるだろう。
来年は蕎麦を通じて、どんな出会いがあるだろう。
嗚呼、蕎麦が好きで良かった。
以上、蕎麦は友達、流れ星でした。
ごきげんよう!また来年!see you!
2021/01/02 更新
2019/12 訪問
ゆく年くる年 ~平成は行き、令和来る。
毎年お店で頂く「蕎麦納め」は、深い意味こそ無いのだが、北海道におけるその歴史に敬意を払い、東家各店の何処かに決めている。メニューは海老天そば。今年は親父さんの真面目な仕事ぶりが好きな「南19条店」だ。
ガラガラー。あ、いらっしゃいませ!どうぞ・・・
天ぷらそばは海老天ですか?
はい、海老天です。
それにしても親父さん、歳をとったな・・・静かな店内、ジュワーっと天ぷらを揚げる音が心地よく響き、期待がより高まっていく。
■天ぷらそば 900円
やや小ぶりの海老天とピーマンの天ぷらが乗る蕎麦。天ぷらは衣がフワリしっかりと付いたタイプで、いわゆる花が咲くタイプでは無いので熱い汁にも干渉しない・・・これは好みでは無かった。
熱い汁はしっかりとした出汁と、若干甘めな返しとのバランスが秀逸で、啜ればジワリと舌に広がり、喉元を過ぎれば胃袋に温かく響くよう。そして東家特有の白っぽさがありながらも適度にザラついた蕎麦が、熱い汁にもギリギリ負けず、汁との混然一体感を醸し出す。ボリュームもしっかりとしている。
途中、海老天を齧りその滋味に目を細める。そのスタイルこそ好みでは無かったが、やはり蕎麦って美味しい。
令和元年・・・
今年も沢山の蕎麦と仲間に出会えました。
来年はどんな蕎麦と仲間に出会えるだろう。
蕎麦が好きで良かった。
皆様良いお年を・・・
2019/12/31 更新
2014/11 訪問
東家が見せた本気
「東家が見せた本気」・・等と書くと、たかだか単なる蕎麦好きが生意気な!とも思われそうだが、私は今回それをハッキリと感じたので、そうタイトル表現させて頂いた。
北海道における蕎麦文化の草分け的存在の同暖簾には、正直なところ「町蕎麦屋」としての定規で測ったとしても、総本山竹老園 東家総本店を含めて、あまり良い印象を持ってはいなかった。唯一、札幌市円山エリアの東家寿楽には、それなりの好感と意気込みを感じてはいたのだが・・・
「東家南19条店」
詳しい系譜は割愛するが、暖簾わけの店であり、カウンターは無くテーブル席のみ、15坪ほどの店内は、古くからの営業でありながらも整然としている。入り口の暖簾と行灯を見れば、店に対する「思い入れ」と「プライド」が感じられるのではないだろうか。しかし雰囲気は「町の大衆蕎麦屋」。そしてどこかに感じる「江戸の老舗町蕎麦」の雰囲気は錯覚だろうか・・・
「もりそば」600円
正方形の蒸籠、伝統の古き良き「町蕎麦スタイル」。一見ありがちな蕎麦に見えたが・・・
キリリと冷たく〆られて提供される蕎麦は、白くて透明感のある美しさ。適度なザラリ感でつゆと良く絡む、喉越しの良い蕎麦だ。コシも間延びすること無く弾力系のコシが穏やかで、きちんと茹でられていた。水切り具合も蕎麦の性質を考慮すれば適正だと思われる。
つゆは本返し(醤油)の熟成感と、やや強めで前面に出た出汁が良く馴染み、東家の系列としては若干濃い目。薬味は大衆チックではあったが、店に似合っており及第点、蕎麦湯は潔く透明な釜湯だった。
意外性があっただけに、評価もやや興奮気味ではあるのだが、この店の蕎麦と放つオーラ(雰囲気)は、江戸(東京)の老舗大衆店に通ずるものがあるように思う。私には「東家さんの本気」をおおいに感じた。
実は今回の訪問、マイレビュアー諸氏の高評価に、期待感と半信半疑な想いを持った上でのものだったのだが、結果として大満足。出来れば御礼とお詫びを申し上げたい。そして、その興奮が本物なのかを見極めるために再度訪問し、やはり「もり」、そして「種物(出来れば天ぷら蕎麦)」を味わって、再度レビューしてみたい。但し、この評価はあくまでも「町の大衆蕎麦」としての評価なので、そのあたりにはご理解頂きたい。
2014/12/04 更新
いよいよ今月末をもって69年の歴史に幕を閉じる「東家南19条店」 一度は行っておきたいと言う友を引き連れ最終訪問です。私自身もどうしても食べておきたいメニューがあったので…。
平日のお昼時、閉店を知ってのお客が多いのか普段からなのかは分からないが、次から次へとお客が訪れて満席、待ちが発生する程の盛況ぶりだ。
結論から… やはりこのご主人は仕事が綺麗。天ざるも親子そばも、細かい部分で美しい。
■親子そば 900円
黄身と白身のコントラストとトロトロ加減が絶妙。ワクワクするようなルックスがお見事!但し、蕎麦喰い流れ星、最後までキビシイ事を言わせてもらえば、汁が少し濁っていた事だけは心残り・・・これは汁が少し温かった事が原因だろう。
優しい味わいでありながらも、きちんと主張ある味わいは東家クォリティ。熱い種物は蕎麦がどうしても負けてしまうが、十分に満足出来る親子そば。
私は親子そばもかなりの軒数を経験しているが、クォリティはひいき目無しに上位です。海老天を夢中で美味しそうに食べていた友も満足だったよう。