8回
2022/12 訪問
蕎麦は生き物。
【2022ゆく年くる年蕎麦レビュー⑤】
●蕎麦は生き物
毎年楽しみにしている新そばの季節。こちら、こはしは新そばの魅力の引き出し方が素晴らしく、忘れもしない、2019年秋の薄緑で味濃い新そばには、思わず涙しそうになる位に感動したものです。
さて、今年の10月後半にワクワクする気持ちで訪問したところ、新そばですか?と確認するほどの枯淡な摩周新そばでした。その時に女将さんが「11月初旬から清里産の牡丹に変更となります」と答えてくれた。きっと何かしらの理由があるのだろう。
こはしで牡丹の新そばか… 元々牡丹好きな私としては楽しみだ。さあ、その理由を探しに行こうじゃないか!
12月、春のすけで蕎麦を手繰った後に張り切って車で向かいました。
■せいろ(令和4年度清里産牡丹新そば) 900円
前回の蕎麦よりも色合いが出ており期待。鼻を近付けると香りもそれなりに立っている。箸で手繰れば、こはし特有のしっとり滑らかでもっちりとした麺線。軽く噛めば牡丹なりの後から穏やかに響くような味香りが…あるもののやや弱く、新そばの清涼感はほぼ感じない。私としては魅力を感じられず。
蕎麦自体は変わっていないので、職人こはしさんの考え方の変異や路線変更があったか、または今年の実や粉が例年に比べて良くなかったか…
結論…蕎麦は生き物。
年や季節、日によって大なり小なり微細なりの変化あり。手繰り手はそれらを含めて蕎麦に接し楽しみ、感想を持ちたい。
来年度「新そばも、まだ草の実の香りかな」…お馴染みの色紙が飾られる頃までは、牡丹蕎麦の熟成に期待かな。まだまだ期待します。
【流れ星的蕎麦豆知識】
蕎麦は秒単位で変化します。特に繋ぎの無い十割蕎麦はより加速度的。写真撮影はササっとクイックに済ませ、なるべく早めに手繰る(食べる)と、より魅力を感じられますが、自分なりに無理の無いスピードで楽しみたいですね。食べ方は自由だと思います。
2022/12/30 更新
2022/10 訪問
令和4年 摩周産キタワセ 新そば
北海道における蕎麦の名店中の名店であり、新そばにおいてはその魅力の引き出し方や演出に長けている店だと感じている。
一昨年の新そばには感動し、昨年もやはり目を見張るものがあったので、今季も楽しみに開店待ちにて訪問だ。
■せいろ(令和4年新そば)900円
今年の新そばには薄緑の演出は無い。鼻を近付けると香りの主張はあるが青々しさは感じず。
滑らかながら、噛めば軽く押し戻される程良いコシ、しっかり良く繋がった出来栄えの良さは、やはり「こはし」の蕎麦だ。しかし例年感じる新そばの風味と甘さの余韻は、大袈裟に言えば枯淡さを感じるなような平坦なもの。
期待が大きかっただけに残念。今回は摩周産キタワセを使用だったが、11月初旬頃には清里産の牡丹種で打つとの事。
こはし×牡丹種のケミストリーに期待を持ちながら、このレビューを終える。
2022/10/15 更新
2021/10 訪問
風味絶佳
蕎麦喰い達に楽しみな秋の到来…摩周産の新そばです。スターの登場をワクワクしながら待つ気持ちで並びました。定刻、真っ白な暖簾が掛けられ開店、心の中では「おぉ!」と高まる期待と共に一番乗りです。
■せいろ 900円
光に映える淡い緑色、こはしらしい滑らかでもっちりとした麺線は優しくも逞しい弾力。今季の特徴である穏やかな上立ち香を感じつつ手繰り、軽く噛めば噛むほどにフワリフワリと幸せの口中香が姿を現し、クライマックスは大地の生命感のような力強い甘味が余韻長く響き渡ります。
節の太さにまろやかな返しがまったりと馴染みつつ、気品さを失わない中口汁も、新そばの新鮮なる華やかさを優しく受け止めて支えてくれます。
嗚呼、美味しい…
やや寡黙で大人しくも、しっかりとした意思のある、風味絶佳の新そばです。
是非目を閉じて噛み締めてみて下さい。噛むほどにジワジワと、爽やかな風が吹き抜ける摩周の蕎麦畑の光景が浮かんでくる事でしょう。
幸せな余韻に長居は不要です。お菓子と蕎麦湯で落ち着けば、スッと席を立ちお会計、女将さんに美味しかった旨とご馳走様の言葉を掛けました。
そしていつも目を惹く色紙の写真を撮らせて欲しいと申し出ると、柔らかな笑顔で快諾してくれました。カシャリ。
……新そばも、まだ草の実の匂ひかな
2021/10/05 更新
2021/05 訪問
突き抜ける存在感。
私が今現在思う、総合力で北海道ナンバーワン蕎麦屋へ定期訪問。蕎麦(料理)・店舗・サービス…その素晴らしさは、もはや言うまでもないだろう。
■アスパラとそら豆天せいろ(冷) 1,800円
■小えびの冷やし天ぷらそば 1,550円
摩周産キタワセを石臼で挽いて手打ちした十割蕎麦は、笊の上から放つオーラも満点。この時期でも味わいのインパクトは強固だ。蕎麦粉の魅力がギュッと詰まったようなモッチリ食感、噛めば程好く戻されるような絶妙なるコシ、汁絡みの良いザラつき、そして粗めの粒子が弾けるかの如く広がる大地の甘味と、負けずに追いついて来る蕎麦の風味の混然一体なる美しいハーモニー。味わい、ルックス、盛り付けを含めて最上級だ。5月でこの味わい…素晴らしい。
汁は蕎麦との親和性に念頭を置いたような控えめ型ながら、上質という言葉も良く似合う。サラリとした口当たりの後にやって来るのは、質の良さと素朴さが交じり合う太く香ばしい出汁、その後はさりげないスッキリとした返しが余韻を纏め上げる。蕎麦の邪魔をしない…それでありながらも個ではしっかり主張しつつ、更には蕎麦の旨味を口中でより昇華させる名パートナー。
あれこれ解説したが、ここの蕎麦の最大の特徴は「理屈無しに旨い事」。静かなる闘志も未だ秘めつつ、背中で語るような余裕もある誉れ高い蕎麦なのだ。とにかく蕎麦…汁よりも。
季節のアスパラやウド、そしてそら豆の天ぷらも滋味深く、瑞々しくもカラリほくほく…実に美味いのだが、蕎麦のクォリティを考えると「もっともっと」を毎度期待してしまう。今回の同行者である彼女が注文した種物も、バランスと質に優れたもので、蕎麦を食べ慣れなくともその美味しさに目を丸くして気付いていたようだった。
唯一言うならば、蕎麦以外の料理の価格が高めなのだが、食べた後はその価格に見合った、いやそれ以上の満足リターンは得られるので、結局それがリピートに繋がるのだ。
もう既に新蕎麦への期待にワクワクする自分が居る。
2021/05/17 更新
2020/06 訪問
圧巻 安定 貫禄。
もはや札幌圏で1位2位を争うようなクォリティと安定感は貫禄の一言。感動した。
気品と色気さえも漂う魅惑の蕎麦と、心のこもった接客、そして上品で居心地の良い空間は、本格派蕎麦屋の中でも頭一つ抜けた存在だ。
自宅で寝ていた二日酔いのHiro’s氏を拉致連行しての昼訪問。多少の待ち時間はあったが、比較的スムーズに席に着けた。
折角の機会なので、旬のメニューを相談の上シェアオーダー。回復気味のHiro’s氏は迎え酒もオーダー。
◯穴子天せいろ 2,200円
◯甘えびのかき揚げせいろ 1,550円
◯こぼう天 600円
◯玄米ごはん 300円
◯日本酒 600円
旬の天ぷらは、2人で食べ易いように盛り付け、かき揚げは半分で揚げてくれた。忙しい店…言わずとも「そうしましょうか?」と提案し、実践してくれる気配りと対応力はは流石だ。
旬の穴子天がかなり美味い!シャープな旨味充分の身はほっこりで薄衣はサクリ、2人で目を丸くした驚き。
かき揚げ天はもう少しエアリーさが欲しかったが、ふうわりとして、具材バリエーションも豊富、甘えびのプリ感と香ばしさがアクセント。
名物ごぼう天は、ダイレクトに揚げているので、しっとりシャキっと、味わいもシンプル。個人的にはごぼうの香ばしさとホクホク感が欲しかった。
その他、野菜も季節感があり、素材が活きた充分な美味しさ。玄米ごはんも炊き上がり良く、ごく淡い返し(醤油)の風味と、ひじき、豆の風味が良いハーモニー。
そして圧巻はやはり蕎麦…
これぞコシと言える、きちんと適正に茹でられた柔らかさがありつつも、しなやかで噛めば押し戻されるような食感。そう、蕎麦は固いのがコシにあらず。
しっかり水洗いでハラリ軽やか、汁に影響を及ぼさないしっかり目の水切りながら、蕎麦同士がくっつかない加減。何よりも風味甘味が、この時期でもしっかりと感じとれるクォリティと技量に脱帽。
汁も枯れ節らしい雑味無く華やかな芳香がありながらも、しっかりとしたボディ感。スッキリ目の本返しが良く馴染んだ秀逸な汁は、こちらの蕎麦との相性抜群。
手繰る後半戦はもう幸せ気分で、おしゃべり上手な相棒を含めて無言状態。
いつ来てもしっかりとしたクォリティを保つ安定感は素晴らしい。
札幌圏でも若手の本格派職人が続々と登場し、我々蕎麦っ喰いにとっても楽しいシーンを迎えているのだが、やはりまたまだベテランの蕎麦が大きな存在として立ちはだかるよう。
圧巻 安定 貫禄
まだまだ輝く時代は続く。
2020/07/02 更新
2019/10 訪問
見せつけられた貫録~爽やかに薫る「新そば」
「美味いっ!そしてすごく香るっ!」心の中で叫んだ。
採光の良い明るい空間では、席を埋めるお客の姿が輝いて見えてくる。そして蕎麦が提供されると、「わあっ!」っと目をキラキラと輝かせて嬉しそう… そんな光景を目の当たりにすると、自然とこちらも笑顔になった。「蕎麦っていいなあ」…こんな事は今までに何回かある程度。
私的蕎麦屋巡り第2章は、期待の若手店を中心に再訪問しているので、この店のような所謂レジェンド店は候補には無かった。しかし、SNSを通じて交流のある蕎麦っ喰いの友人が「こはしの蕎麦、本日は特に最高」との記事をアップ、それを目にしてしまっては行かずにはいられない・・・
■せいろ 900円
摩周産キタワセを石臼で自家製粉し手打ちする十割蕎麦。1~2枚目の画像を見て解るだろうか、緑掛かった新そばの色味が美しい。水切りはしっかりタイト、余計な水の味はしない。そして食感はしっかりと茹でられながらも、弾力系のコシが心地良い。まずはそのまま蕎麦だけを箸でつまんで、ズルズル―っと勢いよく手繰る・・・うわー!風味がスゴイっ!!
汁は鰹出汁を太く甘く効かせ、シャープな醤油感も効かせつつ、上手に融合させた北海道的濃い味。蕎麦を半分から三分の一程度浸けて召し上がれ。
薬味も繊細、蕎麦湯はトロリとした釜湯、定番の蕎麦ぼうろが懐かしい。解説は戻るが、立派な笊に趣のある猪口、薬味や徳利、箸の配置も完璧です。
7年前、鴨そばは素晴らしく感じていたが、冷たいもりには柔らかさを感じてしまい、個人的にはそれほど評価していなかったのだが、今回は明らかに違った。汁にはまだ好みの違いこそあれども、蕎麦はバッチリ。感激した。
女性スタッフ陣のホスピタリティも一所懸命で親切。欠点が見つからない・・・
「新そばも、まだ草の実の、匂ひかな」
お店に飾ってあった額縁の俳句。まさにその通りな「貫録の新そば」・・・参りました。味わうなら今だ!
2019/10/05 更新
2011/05 訪問
絶品!鴨ねぎそば~蕎麦・店舗・接客のバランスがとれた優良店。
一軒家改装系のおしゃれ蕎麦屋が増えてきているが、ここ「こはし」は、その利点を最大限活かしきっている店と言えるだろう。
隠れた立地の穴場的要素、見る者〜こだわる者を満足させるような美しい店舗・什器類、そしてアットホームと洗練の中間をいくような「蕎麦屋らしさ」もある接客・・・そしてこの規模だからこそ可能であろう商品・食材へのこだわり・・・ 唯一、一人客向けの席が無い(大きな卓はあるが)事が残念。
今月は2回ほど訪問。初訪時は基本であろう「もり」を頂く・・・基本に忠実な感じで、粗挽き粉も幾分ブレンドされたような蕎麦は見た目も美しい。コシ・風味・のど越しともに充分。つゆはやや醤油が主張し「限りなくスッキリ目の中濃」と言ったところだろうか・・・
しかし出汁・かえし、そして旨みも充分。大変満足出来る内容ではあったが、蕎麦全体としては「卒なくまとまり過ぎてやや個性感に欠ける印象」。
薬味に関しても充分繊細であり、ここの蕎麦とのバランスがとれていると感じた。繊細な更科等にはより細い葱、太めの田舎にはやや粗切りの葱・・といったように、多種多様な蕎麦には多種多様な薬味の組み合わせがある。この「薬味」も店主の「こだわり要素」の一部でもあると思う。
二度目の訪問時には「かつろさん」のレビューを参考に「鴨ねぎそば」を頂いた。「鴨ねぎそば」と言うネーミングが個性的で良い感じ・・しかし1,580円と価格は強気設定・・。
しかしこの「鴨ねぎそば」・・・実に旨い!!温かいつゆでも蕎麦のコシはギリギリ保たれており、鴨肉は柔らかく、脂身に施さた丁寧な包丁仕事にもこだわりとセンスを感じた。
私が気に入ったのは何といってもつゆ。鰹出汁感は主張し過ぎない感じで、昆布出汁由来の旨みはじっくり。このような優しい感じのつゆは、人気蕎麦店においても結構ありそうな味わいなのだが、私自身としては、いつもそれにやや物足りなさを感じていた。しかしここのつゆは「うるさく感じない程度の限界まで主張する「かえし」と、じんわりとした「出汁」とのバランス感が絶妙で、鴨の旨味もバランス良く引き出されており・・・かつろさん同様、私も最後の一滴まで美味しくつゆを飲み干した。
基本に忠実な正統派・・・という感じの鴨ねぎそばだが、鴨肉・葱に「焼き」は加えられていないので香ばしさには欠ける印象も。しかしこの手法も、きっと店主のこだわりであろうし、ここ「こはし」の蕎麦には焼かない葱のほうが、むしろ合っているとも感じた。
比較対象する訳では無いが、大好きな蕎麦屋「いずみ食堂」のかも蕎麦が「カリスマ性抜群のアイドル」とするならば、ここ「こはし」の鴨ねぎそばは「洗練された演技派女優」とでも言ったところだろうか。都会派です(笑)
総合的にも大人気に充分頷ける、私的「望・再訪店」だ。現時点での個人的オススメはやはり「鴨ねぎそば」なのだが、同じく評判の良い天ぷら類も気になるところ。次回訪問時には「ゴボウ天」とセイロのセットを試してみたい。
2012/04/27 更新
今年も草の実の匂いに吸い寄せられるトンボのように飛んできた私は「秋の新そば喰い」。こはしはどの店よりも新そばらしさの振れ幅・上り幅が大きいから楽しみだ。
今年も摩周産のキタワセから。但し今年は猛暑で蕎麦の生育状況も芳しく無いようなので心配でもある。
■せいろ 950円
色味大人しくも色気あり、香り上々、味わい控えめ。但し適度にザラつき、しっとりしっかり繋がった、軽く噛めば優しく押し戻されるような上品なコシの麺線は流石こはし…そのクォリティは何物にも代え難い。そして繊細でムッチリとした旨味出汁に、縁取りあるまったりとしたコクの返しが融合した辛口寄りのつゆも実に旨し。
満足な手繰りとなりつつも、今年もこはしらしい新そば感は残念ながら無かった。香りとしては昨年度よりも良かったが、やはり4年前、2019年度の新そばのあの衝撃は忘れられない。
女将さんに聞けば今年も昨年同様、11月頃から清里産牡丹種にチェンジする予定だそう。
また熟成期に訪れよう…
心に響く好きな句…
新そばも、まだ草の実の匂ひかな