生まれて気が付いた時は次男坊・・・
父親は昭和初期の生まれで、
つまらないところでそれが出る。
常に長男を大事として扱う・・・
別にそれが不満なワケでもなく流されて育っていった。
まだ幼い頃・・・
ある日の夕飯のおかずは”揚げ物”
これは自家製ではなく、近所の肉屋で買って来た物・・・
夕飯と言えば、
他の家では家族団らんなのだろう。
家の夕飯は楽しく会話などする事はなく、
無言で食を進めるのみ。
父親の前には”とんかつ”
母親の前には”カキフライ”
兄の前にも”とんかつ”
私の目の前には”ポテトフライ”4つ。
母親は”とんかつ”が好きではない。
父親は”カキフライ”が嫌いである。
なぜ?私の目の前にあるのは”ポテトフライ”なのだろうか?
幼い私は母親に兄が食べている”とんかつ”をねだった・・・
「こう言う物は、おまえは嫌いでしょ?」
これが母の回答で、
「食べた事がない・・・」と言うと、
母は兄の”とんかつ”の端の部分を取り、
切り口を確かめた上で幼い私の茶碗の上に置いた・・・
「じゃ、食べてみなさいッ!」と怒る母
恐る恐る箸で取り切り口を覗くと、
それは脂身のみの部分・・・
その”とんかつ”をソ-スなどを漬けずに・・・と言うより、
そんな雰囲気ではなかったので、
そのまま口に入れると余り温かくなく脂っぽく旨くない。
「美味しくないです。」と母親に言うと、
父親が口を挟み、
「だったら食べなくて良いッ!」と、
幼い私の目の前にある
ご飯もポテトフライもゴミ箱へ捨ててしまう・・・
当然のようにその日の夕飯はそこで終了。
兄は、と言うと旨そうに”とんかつ”を食べている・・・
端の脂身だけは残して・・・
それに似た様な事を幾度も繰り返して、
その頃より、すこし私が大きくなった頃・・・・弟が生まれる。
弟は末弟という事もあり、
何不自由無く育てられる・・・
ある日の夕飯・・・
相変わらず父親の前にあるのは”とんかつ”
母親の前にあるのは”カキフライ”
兄の目の前にあるのは”とんかつ”
私の目の前に有るのは・・・・
ほんの少し昇格して・・・・”コロッケ”が二枚。
そして弟は”とんかつ”が嫌いなので”メンチカツ”が二枚。
母は買い物に行く時に私に尋ねる・・・
「ポテトとコロッケどっちが良いのッ!」
常時、私に対しては不機嫌な母・・・
私には選択肢が二つしかない・・・
「コロッケ」とだけ伝える・・・
万事がそれで育てられた・・・
幼い私に母が”とんかつ”の端の脂身の部分・・・
あれは確信して与えたのだな・・・
と判った時は私は青年と呼ばれる歳であった。
実家に居た頃に夕飯が旨いと思った事は一度も無く、
もちろん母の手料理が旨いと思った事も無い。
愛情の無い料理に旨い物なんか無い・・・・
この物語はフィクションではなく、
私、本人の幼少期の話です。