僕がまだ小学生4年生の頃、
夏休みの終業式も終わり、
家に帰ったところ母親が、
”傘を学校に忘れているから取りに行って来い!”とご立腹。
”傘が見つからなければ昼飯は出さない”と追加で言われる。
まさかと思うであろうが似たような事が前にあり、
4食分を抜かれた事が有る・・・・
その時の事が鮮明に思い出され、
すぐに学校へと向かう。
誰も居ない校門を通り、用務員室に行き、
事情を話し校舎に入れてもらい自分のクラスの傘立ての前に行く。
「傘が無い。」いつもなら一本ぐらいは残っている傘は
今日に限って無いのである。
もし余っているのであったら、
自分の黒い傘と似ている傘を借りて行こうかとも考えていた。
しかし事実として傘は一本も無いのである。
飯抜きが決定となり、
その場所から家路に付かなければならないが、
帰る足取りは非常に重い・・・・
家に帰れば飯抜きの上に暴行される・・・
今の時代なら”幼児虐待”になるだろうが、
当時そんな物は存在しない・・・
しつけの一環として片付けられる。
余談ではあるが僕の背中には目立たなくなったとはいえ、
竹の柄のホウキで叩かれた痕が残っている・・・・
母はその竹の柄が割れる程の力で当時の僕を叩いた・・・
今も思う・・・わが子にそれが出来るか?
たとえ”しつけ”の一環でも僕には出来ない・・・
家路に付く為に校門まで来た所、
同級生の女の子に合い、
傘を無くし家に帰る事が気が重いと話した。
女の子は、「じゃ~取り合えずウチにおいでよ。」と言い
僕は女の子の後を付いて行く事にした。
女の子は自分の家の玄関を開け、
「今日はお父さんしか居ないから待ってて!」と言った。
暫く玄関で待っていると女の子のお父さんが現れ、
「話は聞いたから、取り合えず飯でも食って行け」と言われた。
座敷に上がり正座をして、
女の子の入れてくれたカルピスを前に、
この先どうすれば良いのか自分でも判らなく、
何も言わずにガラスに付いた水滴を眺めていた・・・
シ-ンとした静けさの中、
女の子のお父さんが「カツ丼で良いだろ」と言って席を立った。
女の子も僕に気を使って色々と話し掛けてくる。
遠くで「カツ丼三つお願いします」と言う声。
お父さんが戻って来て、
「傘ならウチの傘をあげるから似てるのを持って帰れば良い」
と言ってくれた。
心配事が一つ解決したように思え嬉しかった・・・
そんな話をしているうちに出前のカツ丼が座卓の上に置かれる。
「さぁ、飯にしよう!」と言われカツ丼の蓋を開ける。
この当時カツ丼は高価な物である。
蕎麦屋の中では天丼と同じくらい高価なのである。
ふだんウチで出前を取っても盛りそばしか頼んで貰った事がない。
僕にとっては夢のようなカツ丼・・・・
実はカツ丼を食べたのはこの時が最初、
トンカツ自体もウチで食べる事は無かった。
目前の丼の中はトンカツの上に半熟の卵がかかっており、
トンカツの下にタマネギ・・・
割下が程よく白米に混ざっており、とても美味しく頂いた。
その後、女の子のお父さんに傘を頂き
ウチに帰った・・・が、傘が自分の物ではないことがバレて
夕飯から飯抜きになったのは言うまでも無い。
しかし、あの時のカツ丼の味が、
いまだに忘れられない・・・
と言うより、忘れてはならない味なのである。
その後、“かつ丼”は自分の中で封印し、
小学生だった僕はだんだんと成長して行くのだが・・・
高校を出て2部の専門学校に入ったが給食が無い。
家に帰っても夜遅いから飯は外食。
学校が休みでウチに居る時は、
ご飯とお味噌汁と
ロ-スハム3枚が焼くわけでもなく
(稀にコンビ-フが半缶)
そのまま食卓に出される・・・・
百回に一回ぐらいは違う物も出てきたが・・・・
この食事は結婚する直前まで嫌がらせのように続けられた。
(働くようになってから食費はちゃんと入れていたのに~)
その頃、兄はどうだか見ていなかったが、
弟はちゃんとした食事を与えられていた。
家でのお食事ではなく祖食事に耐えられるわけも無く
そこから外食が多くなってしまったのである。
ここで一応、説明しておくがウチは決して
貧乏ではなかった・・・が、僕に対しては
ウチの親は貧乏を装っていた。
気が付いた時はすでに二十歳になったいた・・・
食べ物にこだわるのは、
幼少時代から結婚する頃までの
親からの差別が原因でもある。
だから、いまだにカツ丼を食べると
昔の事を思い出し切なくてやり切れなくなるので、
外でカツ丼を食べる事は滅多に無い。
それと、ロ-スハムとコンビ-フをおかずに
ご飯を食べる事はまず無い・・・・・
そう言えば、
僕がうなぎの味を知ったのは
親父が、うなぎの皮を残すので
ソレを食卓に出されたのがきっかけだった・・・・
ウチの食事で蒲焼をそのまま出された事はなかったな~
いつも皮しか食わせて貰えなかったな~
食い物の恨みって恐ろしいなぁ・・・
本文はフィクションではありません!
すべて事実です!