2回
2010/10 訪問
【弁天山美家古寿司/浅草】亡きお袋と最後に食べた思い出の江戸前寿司…
2010年12月、お袋が71歳で他界した。そのお袋と最後に外食したのが、ここ弁天山美家古寿司だった。亡き母に捧げる思い出として、その日の様子をブログから転載したい。
[弁天山美家古寿司 Part 1~3]
http://frank23110.blog134.fc2.com/blog-entry-81.html
http://frank23110.blog134.fc2.com/blog-entry-82.html
http://frank23110.blog134.fc2.com/blog-entry-83.html
【Part 1:2010年10月吉日、浅草にて】
11時に浅草到着。
予約した11時半まで、雷門から仲見世、浅草寺へとぶらり散歩。お袋は何十年も前に一度来ただけで、浅草は二度目とのこと。
それにしても、相変わらず人が多い。
特に目立つのが、修学旅行の高校生に、中国人観光客。浅草寺の駐車場にも、はとバスが5台停まっている。これは多いはずだ…
浅草寺でお参りをしたら11時20分になったので、お店へと向かう。
程なく店に到着すると、店先に「只今は予約の方で満席です」との札が。おおっ、カウンターを予約できたのはラッキーだったんだ。
店へと入ると、6人掛けのカウンターに、すでに4人が座っている。
「フランク様ですね。こちらにどうぞ」
ご主人自ら案内してくれ、残りの2席に腰掛ける。
「狭い店で恐縮です。お荷物は、椅子の下にお入れください」
いえいえ。店内はとても清潔で静かだし、くつろぎやすい空間だ。そして、荷物を置いて椅子に座り、他のお客さんに目を向けると…
1人は、いかにもこの店の常連で、食べ歩きが好きそうな雰囲気の方。
「この前、ここに入れなくて残念でしたよ。だから並木藪に行って…」
みたいなことをご主人と話しながら、日本酒をちびちび。美味しそうなつまみを食べている。
あとの3人は、この人たちの会話から分かったのだが、アメリカから来た大学教授ご夫婦と、彼らを案内している日本人。
みなさん、ここのお寿司をとても楽しみにしている様子が伺える。
ともかく、我々もメニューを見ながら、さっそく注文。この店はシンプルなコース制で、量に応じた値段設定となっている。お袋は握り10カンの浅茅、私は握り17カンとのり巻2本の美家古を注文。
おっと、ここで純米酒を忘れちゃいけない。
「こちら、300ccの冷や酒のみとなりますが、よろしいですか?」
はい。本当はぬる燗が良かったですが、冷やでも全然OKです。それにしても、こうしたご主人の細かい心遣いが、本当に心地よい。
カウンター越しに、でっかいおろし金で丹念に山葵をすりおろすご主人。その爽やかな香りが、カウンター越しに漂ってくる。
弁天山美家古寿司は1866(慶応2)年創業だから、145年目を迎えた老舗。五代目のご主人、内田正さんが握る正統派江戸前寿司をいざ堪能!
【Part 2:江戸前の握り寿司を堪能】
「お嫌いなものがありましたら遠慮なくおっしゃってください」
お袋も私も、大丈夫です、と答えると、程なく最初の握りが出される。
「握りは味が付いていますが、お好みで醤油をお付けください」
いわゆる煮きりが塗ってあるので、醤油を付けて食べる必要がない。お袋も、これは食べやすくていいね、と喜んでいたし、実際、醤油を付けて食べなければならない寿司はなかった。
それではここで、私が食べた美家古(みやこ)コースを一気にご紹介。お袋が食べた浅茅(あさじ)に、握り7カンとのり巻が追加されたものだ。
何はともあれ、純米酒を一口。目の前の箸置きはシンプルだが、どこか風格がある。
「お通し」はマグロの血合いをショウガ醤油で煮たもの。いきなり日本酒が進む進む…
「ショウガの酢漬け」は変な甘さがなく、辛みもちょうど良い。これだけでも、日本酒の肴になってしまう…
旨みたっぷりでジューシーな「ヒラメ昆布締め」
コリコリと心地よい歯ごたえが最高の「スミイカ」
いきなり、満面の笑みがこぼれてしまう…
歯ごたえだけでなく、旨みも十分な「タイ」
白身から始めるところはさすが。
ワサビの爽やかな香りが見事にマッチした「アカガイ」
程よい脂が口の中でとろけてしまう「シマアジ」
旨さのオーケストラ「戻りガツオ」
柔らかくて噛み心地の良い「煮ダコ」
絶妙なレア状態で火が通った「ホッキガイ」
このホッキガイの柔らかさと旨さには感動…
出たっ。江戸前の定番「コハダ」
酢でしっかり締めてあり、酢飯との相性もばっちり。
甘くて、旨くて、ほっぺが落ちる「サイマキエビ」
酢の締め加減がちょうど良い「アジ」
こちらも酢締めだが、もっちりした食べ応えが最高の「キス」
火は通っているが、柔らかくてコリコリの「スルメイカ」
おおっ、これが噂の「アナゴの白煮」
沢煮という技法らしいが、臭みが全くなく、脱帽の美味しさ。
「マグロヅケ」と「中トロ」
江戸前のオンパレードに、酒がますます進んでしまう…
寿司屋の定番「タマゴ」
程よい甘さで焼かれており、一口サイズで食べやすい。
コースの最後は「鉄火巻き」と「カンピョウ巻」
ご主人に頼めば、握りに変えてもらうことも可能。
「これで終わりですが、追加がありましたら、遠慮なくどうぞ」
はい。もちろん!
味わい深い「子持ちシャコ」
ショーケースで見つけて、思わず注文。
白身魚と間違えるような食感の「タイラガイ」
こちらも美味しそうだったので頼んだが、期待通りの味。
全部で握り19カンと、のり巻き2本。いやあ、食べた食べた。
【Part 3:ご主人としばし談笑】
実はこの日、お袋だけでなく、小5の息子も連れてくるはずだった。
しかし、焼き魚は大好物なのに生魚が苦手で、食べられるネタといえば、イクラ、タマゴ、エビだけ、と豪語する息子を連れて行けるはずもない。
興味本位で、そのことを、ご主人に聞いてみると…
「うちはイクラがありませんから、そうすると、エビとタマゴだけです。お出しすることは出来ますが…」と、苦笑しながら答えてくれた。
「子供さんは風味に敏感ですからね。わたしらでも生魚の扱いは難しく、少しでも鮮度が落ちると生臭くなりますから。実際、寿司屋の前を通ると、ぷうんと生臭いことがありますよね。それは扱いがうまくないわけで、うちはそれがない。だから、生魚が食べられないお子さんだとしても、うちのお寿司を1カンずつ、いろいろと試してみて頂きたいですね」
と、とてもきさくに、でも、自信たっぷりにお話しくださった。
実際、店内は清潔だし、魚の生臭さなどこれっぽっちもない。
そういえばご主人は寿司を出すたび、丁寧にネタの説明をしていたが、隣にいたアメリカ人夫婦にも、「ジス・イズ・ボニート」などと、英語で説明をしていた。素晴らしいサービスではないか。
ちなみに、そのご夫婦は、前日の早朝に築地を訪れたとのこと。冷凍マグロがごろごろと写ったデジカメを嬉しそうに見せてくれた。
それを見たご主人。すかさず、マグロのブロックを取り出した。
「これをこうして血合いを切り落として、それをショウガで煮ると、さっきのお通しになるんです。そして、こんな具合にして…」
別のバットを取り出すと、そこには、湯引きして表面がピンク色の、さっきのを半分に切ったくらいのマグロのブロックが、バットの中で、いい具合に醤油に漬かっている。
「これがマグロのヅケで、100年以上前から続いている技法です」
うまそ~っ。そのまま、私にください…と言いたい衝動を抑える。
「これはキロ1万5千円で競り落としたマグロです。5キロあるから、7万円くらい。そして、これが銀座の寿司屋だと、1カン2000円です。でも、ここは浅草ですから。そんな高いと、誰も店に来てくれない。だからマグロはお安くしているので、そればかり食べられると…」
と、わざと困った表情を浮かべながら、笑って話を続ける。
「その代わり、コース制と言うことにして採算を合わせています」
気さくで明るくて、浅草という場所柄にピッタリのご主人。そんなご主人でも、ここならではの悩みがあるらしい。
「最近は英語も日本語も話さない中国や韓国の方が店に来ることが多く、やれ焼き物だとかスープだとか言うんですよ。うちは、寿司だけなので、それを英語で説明するしかないのですが、なかなか大変で…」
日本人だと暖簾や店構えを見れば、ここは本格的な寿司屋だと分かるが、天ぷらや焼き鳥も置いてある、寿司バーだと思うお客さんがいるのだ。
なるほど…
なんやかんやで楽しい時間もあっという間に過ぎ、時計を見ると12時半。予約は2時間だったので、あと1時間あるが、そろそろ潮時だろう。お勘定をしてもらって、店をあとにする。
お袋も私も、とてもいい気分に浸りながら…
弁天山美家古寿司、末永く繁盛してほしい。
入口の様子
この日は予約でいっぱい
話し上手で人柄の良いご主人
純米酒
どこか風格がある箸置き
お通し(マグロの血合いをショウガ醤油で煮たもの)
ショウガの酢漬け
ヒラメ昆布締め/スミイカ
タイ/スミイカ
アカガイ
シマアジ
戻りガツオ
煮ダコ/ホッキガイ
コハダ
サイマキエビ
アジ
キス
スルメイカ
アナゴの白煮
マグロヅケ/中トロ
タマゴ
鉄火巻き/カンピョウ巻
子持ちシャコ
タイラガイ
2022/12/21 更新
訪問日:6月30日(日) 16:00〜17:30
前回、今は亡きお袋と訪れて以来、14年ぶりの弁天山美家古寿司。当時は5代目親方の内田正さんが心を込めて握ってくれたお寿司を美味しく頂いたが、今回はご常連さんから「だいちゃん」の愛称で親しまれている6代目の山下大輔さんが握ってくれたお寿司を堪能。頂いたのは、電話での予約時に女将の中川晶子さんが推してくれた「晶コース」
店に入り、カウンター席に腰を下ろすと、店内には先客がお二人。6代目によれば、何十年も前から毎週日曜日に来られているご夫婦なのだとか。その奥様のトークが絶妙に面白く、独り呑みの肴に最適…っと閑話休題。
6代目と共に付け場に立つ、笑顔で人当たりの良いお弟子さんに燗酒を注文。まずはオススメの京の春が、お通しのマグロの生姜煮と一緒に供される。そしてコース料理の始まり始まり〜♪(笑)
1品目は自家製海苔の佃煮まぐろ添え。この佃煮は自家製で味付けは控えめ。海苔の風味とおろしわさびが相まって、マグロの旨さを際立てる。燗酒との相性もバッチリ。
2品目は平貝の磯辺焼き。細かく刻まれた山椒の葉の醤油煮をトッピングして美味しく頂く。平貝のコリコリした食感とほんのりした磯の香り。それを風味抜群の海苔が包み込み…
3品目はヌタ。新鮮な赤貝の紐と甘みのあるイカ、そしてワカメとネギを辛子酢味噌で頂く満足感。燗酒が進んでなくなってしまい、今度はひこ孫を注文。ちなみにこちらのお酒は正味1合なので減りが遅くて嬉しくて…
最後の4品目はお造り。この日は脂たっぷりのカツオ。脂のしつこさを辛子醤油が洗い流して、カツオの旨さが十分に味わえる。食べるのが早いためか、あっと言う間に料理が終わり、コースメニューもお寿司の部へ。
こちらの酢飯を改めて頂いたが、酢はほとんど感じず、ご飯に近い自然な味わい。だがネタに応じて酸味の効いた煮切りを使うなど、酢飯を補うようなアクセントが付けられている…はさておき。ネタごとにあれこれ言うのも野暮なので、どれも個性的で江戸前の味わいを堪能できたのは間違いない…と総じて言ってしまうが、鯛と平目昆布締め、蒸し鮑と赤貝、北寄貝と小肌、才巻海老と鯵、イカと煮穴子白焼き、玉子とマグロ醤油漬け…計12カンの握り寿司を美味しく頂く。そしてシメの海苔巻。とにかくこちらの海苔は風味が抜群で、それがめっちゃ濃い味付けの干瓢巻きと、しっかり酢が効いた鉄火巻きに良く合い、追加で注文した大関の燗酒と合うことこの上なく…
日曜日の夕方、お客は3名のみ。途中から顔を出された5代目の元気なお姿も拝見できたし、先ほどのご常連さんだけでなく、6代目のフレンドリーな接客や会話を楽しみながら、伝統の江戸前寿司を頂くと言う幸福感をタップリ味わうことができた。
「14年と言わず、またいらして下さいね」
6代目の優しい笑顔と言葉に見送られながら、和やかな気持ちでお店をあとに。兎にも角にも、どうもご馳走様でした!