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熊本で昼。前から行きたかった店に来る。
「洋食の店橋本」という名前で、アーケード商店街に面したビルの2階とある。ところが店へのアプローチがちょっと独特。便利な場所なのに隠れ家みたいな不思議な場所にワクワク期待が高まっていく。
入り口を入るとカウンター。中に厨房。奥に向かって広くなり、適度な間隔でテーブルクロスをまとったテーブルが置かれてる。
カウンターならご用意できますと言われて案内された席はカウンターの真ん中の席。目の前に火口があって仕事のすべてが見て取れる。厨房自体が小さくて隠すものなく素材の切りつけから仕込み、調理に仕上げまでが流れるように目の前で行われていくのに、もうウットリです。
熟練のシェフもマダムも気さくでとても話し好き。前菜は野菜だけにいたしましょうか…、それともパテを召し上がれます?ってシェフに聞かれてパテもと答える。
豚肉とフォアグラを固めて仕上げた分厚いパテ。見るとフォアグラと豚肉の間に見事な牛たんがある。「おっ」と小さく声をあげたら「サービスしちゃいました」ってニッコリ応える。
パテの下に白い花房のようなのがあり、カリフラワーがと思って食べるとサクサク固くて酸っぱい。なんとこれが晩白柚。しかも路地もの、若いもの。最初は乾いて散らかって噛むとジューシー。香りもおいしい。グリーンアスパラガスの甘みにエンダイブの軽い渋みに食欲湧かせ、プチトマトかと思ってものがニンジングラッセと知って仕事の見事を感じる。
旨味豊かでカレーの風味が独特のスープの浮身が南関あげ。とても単純なスープです…、って出されたサラダに茹でたシャキシャキの豆もやし。遊び心と期待を裏切る素材使いにメインの料理へのおいしい予感が膨らんでいく。
メインはビーフカツカレーをお願いしました。
牛ヒレ肉を分厚く切り分けパン粉をはたいて表面だけをカリッと焼く。
焼いたフライパンのままコンベクションに入れて芯まで熱を通して仕上げたモノ。
大きなお皿の真ん中にご飯をほんのひとつかみ、貼り付けそれを土台にカツをそっと置く。
焦げたパン粉の色や香りがおいしくて、喉がなります。
カレーは土鍋でグツグツしながらやってくる。
バターライスをたっぷり別に用意して、カツレツを置いた大皿に取り分けながらどうぞと、なかなか素敵な趣向。
まずはカツをひと切れ食べる。
サクッとパン粉が壊れてスッとナイフが入る。その断面はきれいなロゼ色。そのまま食べると塩がしっかりほどこされていて肉の旨味や甘みが引き立つ。パン粉がカサカサ、奥歯をくすぐりあっという間に崩れて消える。パン粉で包んで焼き上げたステーキみたいな見事な味わい。
カレーは甘い。飴色玉ねぎの甘さが自然で、そこにスパイス、チャツネや刻んだ福神漬けを入れて仕上げているんだという。オニオングラタンスープのチーズの代わりにカレースパイスを入れて仕上げたような味わい。
サラサラしていて、強い旨味と甘みにハフハフ食べてると途端に体が熱くなり汗が頭の天辺からじんわり滲んで顔が汗だく。冷たいおしぼりで汗を拭きふき一口、そしてまたひと口と味わっていく。
ビーフカツにちょっとカレーをまとわすも、カツの塩味、パン粉の風味がゆるぎないのにびっくりします。上等なビーフカツをおかずに食べるカレーは乙でしかも贅沢。
デザートにもらったババロアにはブランデーがほんの少々。エスプレッソの粉が風味をそえる大人のお菓子。お腹の汗が収まるおゴチソウ。
それにしてもいい店です。日本中にある洋食店の中でもトップクラスのおいしさで、なによりお店の人たちのすがすがしいほどの働きとサービス精神はなかなか他にみないもの。また来てみましょう…、オキニイリ。