「味覚は人によって異なる」ことは人口に膾炙されている。
「美味しいとは何か」を色々調べていたところ、ある論文に行き着いた。
非常に面白かったので、サマリーだけご紹介したい。
お時間のある方は、ぜひ原文を閲覧されるといいのではないでしょうか。
<論文名>
伏木亨(2013) 「『おいしさ』のしくみー人間の嗜好の構造と食文化ー」 『Vesta』 Vol.89(2013年Winter) pp.6-10. 味の素食の文化センター
<Summary>
おいしさ(palatability)と嗜好(liking)は別物である。
前者は、料理を食べて互換や食体験を総動員して味わう現場の感覚である。
後者は、食べる前から決まっている。
また、筆者は「おいしさ」は料理の中にあるのではなく、食べた人の脳の中にあるものだと定義している。
だからこそ、味覚は千差万別となりうるのである。
「おいしい」という単語が含まれた過去の学術論文は優に千編を超えるそうだ。
論文の表題から分析を行うと、4種に大別できる。
1)動物の生理状態に影響を受けるというもの
「空腹は最高の調味料」という言葉が証左するよう、生理的な欠乏を補うものはすべて「おいしい」のである。
また、「おいしさ」は時代の変化とともに、変容する。
たとえば、戦後の食糧窮乏期には甘い味が最もおいしかったのである。
それは、甘い味が、エネルギーが得られる味覚だからである。
裏を返せば、飽食の現代においては、甘さは必ずしも最高のおいしさではなくなったともいえよう。
2)砂糖や油脂には常習性があるという報酬行動に着目した論文
糖や油脂には人をやみつきにさせる力がある。
1)で示唆した生理的なおいしさは、必須のおいしさであるが、
当該項目のやみつきのおいしさは、快楽を求めるおいしさであるといえよう。
3)食べなれたものや幼いころ体験した味わいは大人の嗜好に影響を与える
食の文化としてのおいしさ、つまり、食べなれたものはおいしいが、
食べなれないものには違和感があるということである。(例:納豆)
食習慣がおいしさの判断に大きな影響を与える。
換言するならば、食べなれた食物に安心感を与えるのである。
その手掛かりとなるのは主に口から鼻に抜ける風味、すなわち匂いである。
匂いの記憶は正確であり、経年劣化がない。
4)多様な情報(例:ミシュラン)の影響を論じる研究
最後のおいしさは、情報である。
情報による先入観は大きな影響を与える。実験では、中身が同じものでも、パッケージと中身の形を変えるだけで、
おいしさの評価が変わるそうだ。
また、教わって学ぶことも情報のおいしさの1つである。
(例:赤ワインのおいしさは渋みのバランスである、ワサビの辛さがおいしい)
<総括>
我々の脳が感じる「おいしさ」は、これらのパラメーターに照らし合わせて評価した結果を統合したことになる。
どのパラメーターを重視するかは人によって異なる。