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昼の点数:4.4
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¥1,000~¥1,999 / 1人
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料理・味 3.4
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|サービス 4.4
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|雰囲気 4.6
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|CP 3.8
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|酒・ドリンク -
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[ 料理・味3.4
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| サービス4.4
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| 雰囲気4.6
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| CP3.8
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| 酒・ドリンク- ]
柳新地のほまれ寿し
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外観
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外観
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にぎり寿司
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にぎり寿司
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カフェー様式の建造物
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カフェー様式の建造物
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双子鮨
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千住大門商店街振興組合
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柳町仲通り電灯会(旧柳新地大門付近)
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2016/09/03 更新
足立区千住柳町。東武伊勢崎線の北千住駅より、かつて遊郭のあった千住柳町を目指して、北西の方角へと歩いていく。日光街道を越えて、さらに進むこと大正通りにぶつかると、その通り沿いは千住柳町の東端。「柳」という字は花柳界を表わし、引いては中国で遊女などがいる 地域を「柳港花街」や「花街柳港」と称したという。今では往時の艶やかな遊里の面影はすっかり影を潜めてしまったのだろうか。
大正通りに形成される商店街を北上し、千住双葉小学校前の交差点を左折する。とりあえず千住柳町の町をぐるっと一周回ってみようと試みる。その左折する道には千住ニコニコ商店会という寂れつつある商店街。ニコニコとの楽しげなネーミングとは裏腹に、道行く人々の表情も、景気情勢を反映してかどこか曇りがち。その商店街の切れ目から隅田川方面へと南下していくが、これといった飲食店は未だ見つからず。しかも鳩の街や玉の井のような目を見張るべき建造物や痕跡もなく、私の気持ちも沈みがち。
すると前方には商店が軒を連ねる通りが見えてきた。この道沿いは千住大門商店街振興組合という名の商店街。街路灯には「おおもん」とのプレートが飾られている。そう、おおもんとは遊郭の入り口を示した言葉。この界隈がまさに遊郭・赤線時代の賑わいをいまもかろうじて残すのだろうか。ふとわき道を見やると、赤線当時の建造物と思わしき家屋を発見。近づいてみると、私にはそれと判別しにくい微妙な佇まい。もと来た道を戻ろうとしたそのとき、バルコニーや庇に丸みを帯びたカフェー様式の白い家屋が視界に入る。かつて『散歩の達人』のような街歩きの雑誌で目にした形状と合致する。東日本大震災の影響か、一部レンガがくずれているものの、今でも住人が住んでいるのか、建物自体にまるで生命が宿っているかのようだ。
しばらく堪能した後に、千住大門商店街に戻ってさらに北千住駅方面に進むと、右手には錆びたトタン張りに囲まれた双子鮨なる古色蒼然たる寿司屋。これは自分にとってレビューしがいのありそうな店と一瞬心が躍ったが、入り口左手には外観をバックに芸能人の記念撮影の写真が貼られていた。とんねるずのバラエティ番組コーナー、きたなシュランでどうやら取り上げられたようだ。その事実を知った途端に、私の興味はゴム風船から空気を抜いたように一気に萎んでしまった。
テレビや雑誌に取り上げられたことを店側がアピールしたい気持ちはわからないでもない。ただし、それに伴う集客効果は一体どれだけあるのか。芸能人のサイン色紙も同様、店頭や店内にあたり構わずペタペタと貼られた店ではしゃぐのは大方一見客の類で、決してその後の再訪は期待できないだろう。食後感が悪ければ、かえってマイナスの印象をも与えかねない。実際にとんねるずの番組で取り上げられた店を、何件か放映前に訪れ食事をしたことがあるが、わざわざテレビで面白おかしく取り上げられる価値がどれほどのものといえるのか。所詮能なし犬の遠吠えかもしれないが。
結局入店をあっさり諦めた私は、千住大門商店街の終わりを示すアーチをくぐり抜けると、思わず仰け反りそうなほど驚愕な店に遭遇する。ペンキがすっかり剥げて、鈍く光る亜鉛鉄板の看板には、店名がかつて書かれた痕跡の残る一軒の寿司屋。色あせた暖簾には國太寿しとの文字。先ほどの双子鮨に勝るとも劣らない、周囲を威圧する存在感に思わず気圧される。もしかしたら、赤線当時から営み続けているかもしれないと直感がはたらく。
時間は13時少し前。事前情報なく銀座の鮨屋に飛び込むがごとく、入るにはかなり勇気のいる店構えと雰囲気だが、覚悟を決めて引き戸を開ける。すると正面がカウンター席、左手が小上がりになる店内。左端の椅子に座って、小上がりの座敷に足を投げ出しながらテレビを観ていたご主人が、少し驚いた表情でこちらに振り向いた。暖簾がかかっていたにもかかわらず、めったに客が入ってこないのだろうか。
正面やや右側の椅子に腰掛けて周囲を見回すも、特にメニューも見当たらず。つけ場に戻ったご主人、ラーメンの鬼と呼ばれてテレビに出演多数のラーメン店主に髪型がよく似ている。少々とまどいつつ、何かランチのメニューはありますかと尋ねてみる。うちは大体1000円から一通り握りますとのこと。それでは1000円の握りをお願いしますと注文した。飲みものはお茶でよろしいですか?との問いにうなずくと、湯呑に続いて寿司下駄を私の目の前に置く。ガリを乗せて、続くはなんとふちがピンクのかまぼこ2切れ。回らない寿司屋の経験が少ない私にとっても、意表をつく始まり。
かまぼこは厚みがないせいか、次第にへなへなと左に倒れかかりそうに。その後続いて行くのは、海老、ほたての貝柱、玉子。ご主人の手元を注視していると、一生懸命握っているものの、何だか手つきがおぼつかないのは気のせいか。小上がりにて流れていたテレビからは東日本大震災関連のニュースが流れている。「依然として地震は収まらないですね」とご主人から声がかかる。
一見とっつきにくそうに見えるも、話してみると案外気さくだ。その後の流れは、これも意表をつく明太子の軍艦巻き、いかと続く。味は決して悪くないが、寿司の未体験ワールドに休まる暇もない。そしてとどめは、冷蔵庫からまぐろのさくを取り出し握るは、マグロの赤身。ほたての貝柱と同様、切り身の真ん中を開いて供された。そして鉄火巻きを3カン。「以上で1000円分の握りです」、とご主人は締めくくった。
寿司をつまみつつ、他愛もない世間話に興じながら、「こちらの店はいつから商売を始めたのですか?」と核心をつく質問をご主人にぶつける。「あちらの写真をご覧ください」と指さすその先は、私の右側壁の上部にかかる額に入った3枚の写真。店の前で並んだ家族の集合写真、全景を表わす外観の写真、店頭を左手にして隅田川方面に向かった商店街の通りを写したいずれもモノクロの写真。
ご主人によれば、こちらの寿司屋は昭和33年の開業。家族の集合写真はその開業当時で、父親らしき男性に抱きかかえられているのが、当時弱冠5歳だったご主人とのこと。なるほどこれらの写真は、開業間もない記念写真ということなのか。そして店の正面に、道路を跨ぐように設置されたアーチには、3枚のパネルが掛けられている。「このパネルのおもてには何と書かれているかわかりますか?」との問い。柳・新・地の3文字が書かれていたという。つまりこの店の前が、柳新地の大門。そして廓は北の方角へと連なっていた。
まさに柳新地の入り口に構えていた寿司屋。その事実に驚嘆するとともに、偶然とはいえその当時の生き証人に出会えたことへの興奮は冷め止まず。その柳新地、第二次世界大戦の終戦後に、進駐軍向けの慰安施設に指定され、アメリカ兵もよく遊びにきていたという。そのため、この付近に住む高齢者のなかには、片言ながらも英語が話せる人も少なからずいるとのこと。
興に乗ってきたご主人から、「この店の前の柵は何だと思いますか?」との質問。現在もほぼ同じ姿を保っている引き戸の前には、1メートルほどの高さの木柵が設置されている。もちろんわからない旨、教えを乞うと、自転車の前輪部分を柵の間に突っ込んで停めるための駐輪スペース。いまでは決して見ることができない光景。当時は、自動車を所有する家庭も少なく自転車利用が主流だったのだろう。その後も、千住柳町の幼少時代の思い出話に花も咲き、食事後も30分ほどお茶だけで過ごすことに。移ろいゆくこの街の趨勢を、変わらぬ店内の設えにてしばし堪能する。
会話も途切れ気味になってきたことから、お会計をし終えて、日差しの眩しい外に出る。店の横の街路灯には、柳町仲通り電灯会と書かれていた。この柳新地のメインストリートも一応商店会が形成されているようだが、商店もほとんど存在せず往時の栄華は影も形もない。かろうじで踏みとどまるこちらの寿司屋の陰影に、再び光が差し込むことはあるのだろうか。