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夜の点数:4.2
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¥2,000~¥2,999 / 1人
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料理・味 4.2
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|サービス 3.4
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|雰囲気 3.8
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|CP 3.8
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|酒・ドリンク -
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[ 料理・味4.2
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| サービス3.4
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| 雰囲気3.8
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| CP3.8
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| 酒・ドリンク- ]
噛めば鰻の泉沸く
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外観
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外観
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うな重の上
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配膳窓
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2011/06/05 更新
台東区竜泉3丁目。小雨がぱらつく週末。土手通りの大村にて中華そばを食べた後、私は錦糸町へ向かうルートを模索していた。南西の方角に、新吉原遊郭跡地の横をすり抜け、竜泉バス停から錦糸町行きのバスに乗ることを思い立つ。日暮里から浅草、そして錦糸町をつなぐ都営のバス路線は、かつて私が墨田区本所に住んでいた時に何度か利用したことのある路線。ここからバス停まで徒歩20分足らずか。雨足が強くなりだしたアスファルトの道を、とぼとぼと歩いていくと、ようやく国際通りにぶつかった。竜泉のバス停まで、あとはここからまっすぐ南に下るだけ。
竜泉2丁目の信号を超えて、しばらく歩くと、食ベログでもアクセス急増中の、角萬竜泉店が見えてきた。こちらの(冷やし)肉なん蕎麦は、蕎麦界のラーメン二郎ともう言うべき異形の大盛り蕎麦。太い平打ち麺に、茹でた豚肉と細切り葱がてんこ盛り。数年前に、偶然食べ歩きをしている人のブログで角萬という蕎麦屋をはじめて知り、その当時自宅から近かった向島店に行った事がある。こちらの竜泉店は未訪問だが、向島店とは違って茹で置きした麺を使うため、提供時間も早いといううわさは本当なのだろうか。
私が通り過ぎる瞬間も、すれ違いざまにカップルが入店したので、それなりに繁盛していそうだ。そしてバス停位置の目印となるパチンコ店が、みとや竜泉店。上野や錦糸町等、都内で多店舗展開するパチンコパーラー。この竜泉店の目の前に、錦糸町行きのバス停が設置されている。
ようやくたどり着き、バスが来るのを待っていると、みとやの隣に鰻屋を発見。こちらの竜泉大和田という店、みとやのパチンコ店舗とスロット店舗の間に挟まれた目を引く立地。おそらく日本がバブル景気に沸いたころには、立ち退き交渉で札束を積まれたかもしれない。
竜泉のバス停自体、乗り降りが今回初めてとはいえ、今までここに鰻屋があったとは、完全に見落としていた。この大和田という屋号、新橋や人形町で見かけたことがあり、その系列なのだろうか。かつて新橋の大和田で、一度ご馳走になったことがあるけれど、正直それほど強い印象は残っていない。念のため、食ベログでチェックしてみると、なんと店舗自体未登録。この界隈、浅草から少し離れているとはいえ、鰻屋の激戦区に間違いない。食ベログに登録されている台東区の鰻屋はあらかた投稿者がいるにもかかわらず、まさにこの場所はエアポケットというべきか。しかも角萬からも近いのに、有名店が大好きなミーハーな人たちは一心不乱、目的完遂以外興味はないのだろう。できる限り近日中の訪問を内に秘めて、錦糸町行きのバスへと乗り込んだ。
週が明けて、平日の仕事帰り。半ば強引に定時で仕事を切り上げた私は、地下鉄で浅草に向かう。浅草からは、日暮里行きのバスに乗り込めば、10数分だ。実は大和田のある竜泉3丁目という場所、強いていうなら入谷駅か三ノ輪駅が最寄りなのかもしれないが、いずれにせよ決して地の利がいいとは言えない。日本一のソープランド街、吉原からも徒歩圏内。実際に日暮里駅から、錦糸町行きのバスに乗ったときにも、この竜泉で派手な出で立ちの若い女性が降車するのを目撃したこと、一度や二度ではない。
この竜泉バス停で降り立つと、斜め前方には大和田の店頭にある換気口から煙が上がるのが見える。店の正面左側は焼き場になっているようで、擦りガラス越しに主人の鰻を焼いている姿。国際通りの横断歩道を渡って近づいていくと、従業員だろう20代後半ぐらいの乳幼児を抱えた娘とその親父さんらしき二人が、外に出てきた。娘はエプロン姿で親父は白い和食衣。一瞬で店の人間だとわかる。時間は18時半頃、まさか営業前ということはないだろうと思いつつも、食事は大丈夫ですかと娘に声をかける。「はい、どうぞ」とにっこり笑顔で迎え入れてくれた。
店に入ると、奥のテーブル席に座って新聞を読んでいたおかみさんが慌てて立ち上がる。店内はテーブル席が2卓のみ。思った以上に狭い。すぐ左手の半分のスペースが焼き場のため、それなりに場所をとられてしまうのだろうか。そして仕切られた壁には配膳窓が取り付けられていた。入り口近くのテーブル席に腰掛けて、置かれていたメニュー立てを眺める。うな丼はなくて、うな重は並(2000円)と上(2300円)の2種類。シンプルでわかりやすい価格設定。ただ、価格差が300円だけなので、ここは迷わず、上ときも吸い(200円)を頼む。他には、親子重やとり重、単品料理で刺し身や焼き鳥もあった。
おかみさんが、すかさずお茶の入った湯のみと紙のおしぼりを持ってきてくれる。おしぼりはタオル生地に拘ってくれなければ、と残念に思いつつ、もしかして先ほど焼いていた鰻をさっと出してくるのではないのかとも不安が募る。出来上がる間ぐるっと店内を見渡すと、壁には店主の趣味なのか観光地のスナップ写真が何枚も貼られていた。そして土地柄なのか、吾妻橋の台東区側たもと近くから、ほぼ定点で撮影し続けた東京スカイツリー。今では観光客やアマチュアカメラマンの人気撮影スポットになっている。
私の正面、出入り口近くの壁には黒光りしたガスボンベとアサヒビールのプラスチックケース。外観に比べて、あまりに庶民的過ぎる店の雰囲気に、私の心の天気図は梅雨前線真っ只中というべきか。配膳窓の薄曇りのガラス越しには、藍色の作務衣姿のご主人が鰻を焼いている。先ほど外に出てきた親父とは別人のようだ。年は近そうだが、関係性がいまいちわからず。すると電話が鳴り出して、おかみさんがひとしきり話したあとに、焼き場の主人に注文を通した。どうやら出前の注文のようで、本来出前の需要が高いのだろうか。
用を足したくなって、靴を脱ぎ板の間に一段上がって右手トイレに向かう。突き当たりからは階段になっており、もしかして二階は座敷の部屋で、大人数対応なのかもしれない。トイレの向かい側の奥は住居スペースのようで、孫娘の泣き叫ぶ声と家族の笑い声が襖を通して聞こえてくる。用を足したあとテーブル席にて待つことしばし、おかみさんが飲食スペースに降りてきた。「お待ちどうさまです」との声がかかる。手元の腕時計を眺めると、注文から20分ほど。少なくとも割きの過程は済んでいるということなのか。
配膳窓を開けて、赤いお重がまず置かれて、その後に肝吸いとお新香が続く。ではまずお重の蓋を開けてと、ひとりごちつつ開けた途端、ぶわっと鰻の香気を含んだ湯気が顔を覆う。思った以上に大振りな切り身が2切れお目見えだ。照り色は濃いめで色艶もよく、食欲をそそりそうではないか。そして、肝吸いのお椀の蓋も開ける。こちらは仄かなゆずの香りが鼻腔をくすぐる。もしかしたら、これはかなり期待できるかもしれないとの直感がはたらく。
それでは早速うな重からと、割り箸で鰻の頭に近い身を貫いて、下のご飯へと深く差し込んだ瞬間、「ブシュッ」と小さく空気が抜けたような音。今まで鰻を食べてきてはじめて聞くような音だ。鰻の皮も比較的さっくりと切り分けられて、一口大にご飯と鰻をいっぺんに口へと運ぶ。鰻の身は表面こんがりと中はふわっと柔らかく、鰻の蒲焼という調理法とおいしさに改めて覚醒したかのようだ。そして肝心のたれは、甘みが抑えられて少ししょっぱめ。ただし、さほど気になるほどではない、好みの味付け。
すくなくともこれまで私が食ベログで書き連ねてきた鰻とは、次元が異なるようだ。しばし美味しさの余韻に浸りつつ、どんどん食べ進んでいくと、新たな男性一人客がご来店。手始めに、ぬる燗とつまみに肝煮を頼んでいる。そういえば、メニューには肝焼きが載っていなかったが、定番メニューなだけに、少しだけ気になるところ。うな重と一緒に頼んだ肝吸いは、えのき茸が入ったやや辛めな味付け。こちらは好みが分かれるかもしれない。
それにしてもこちらの鰻店、この場所でしかも食ベログに今まで店舗登録さえされてこなかったのは、ある意味奇跡的とは大げさだろうか。もちろん新規登録の手間が面倒くさくて見送られた可能性も否定できない。ただし唯一残念なのは、待っている間に半分以上飲んでいたお茶を注ぎ足したり、取り替えてくれなかったこと。うな重をテーブルに置くとき以外にも、私の側を通り過ぎたとことはあったのだから気づいてほしかった。
残ったお茶を飲み終えて、店名の入った箸袋を何気なく目にすると、電話番号の下四桁にるびが振られているのに気づく。2951(フクコイ)との文字に、思わずふっと顔がほころぶ。このうな重を食べると福をもたらすのか、お店にとって福をもたらすことを願うのか、どちらなのだろうか。
帰り際、おかみさんに、「こちらの大和田というお店は、どこかの系列店なのですか?」と尋ねてみる。「いえ、うちはここひとつだけなんですよ。なんでも他にも同じ名前の店がいくつかあるようですね。」との、驚くべき事実。「ええ、新橋とか人形町にもありますよ」、「そうなんですか。もしかしてそちらのほうからいらしたんですか?」との問いに、「いえ、仕事終わりにこちらに立ち寄ったんです」とお茶を濁す。最後に、「(お世辞ではなく)またきます」と伝えて店を出る。かくして私のお気に入りリストにこちらの店が加わった。