『少年ラグビーコラム② 【愛情相撲】』高知ラガーくすくすさんの日記

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高知ラガーくすくす 『ゆる〜い感じのレストランガイド』

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高知ラガーくすくす (50代後半・男性・高知県) 認証済

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少年は荒れていた。
周りと上手くコミュニケイトできないことに。
チームメイトと同じようなプレーができないことに。
そして その思いを上手く人に伝えられないもどかしさに 
焦り 苛立ち 憤り 制御しきれない感情を爆発させていた。


前年、息子が在籍する1・2年生チームの指導をお手伝いしていた私は
息子の進級とともに3.4年生チームのヘッドコーチを任されることになった。

彼に出会ったのはその時だ。 最初の印象は小学4年生の手のつけられない暴れん坊。
注意をしても、褒めても、なだめても、すかしても どうにもならない。
腹が立てば大声を出し、チームメイトにボールをぶつけ 挙句グランドを飛び出してしまう。

しかし、そんなときでも私は彼を追いかけない。
何故なら彼にはグランドの外で待ってくれている人がいるのだ。

グランドを飛び出すたびに、母親は 彼をギュッと抱きしめる。
そして諭すようにゆっくりと語りかける。
それで気持ちが鎮まれば練習に戻り
それでも鎮まらないときには相撲をとった。

なんどでも なんどでも 繰り返し 繰り返し相撲をとった。 
笑いかけながら 声をかけながら 母親は彼と相撲をとった。
群を抜いて大きな体の4年生の力を受け止めるのは相当しんどかっただろう。
しかし もがいている彼に愛情の治療を施す「愛情相撲」は彼の気持ちが鎮まるまで終わらなかった。

ある練習のとき ふて腐れて安全無視のプレーをした彼のことを、私はどうしても許せず
胸ぐらをつかみ上げ 声を荒げた。
大の大人が小学4年生に対してあるまじき行為なのだが・・・

コラッ!  お前は なにをしゆうがなっ!

瞬間グランド全体が凍りつく。 それは他の学年の練習もすべて止めるほどの大きな怒鳴り声だ。
もし彼がこれで辞めるなら、私も責任を取って辞めようと思ったほどの出来事だった。

しかし彼は辞めることなく、これをきっかけに少しづつ私との接し方が変わっていった。
練習で叱られてもすねることが減った、そして練習以外で彼から話しかけてくることが増えた。
互いに笑って話すことが少しづつ増えていった。
そして小学5年・6年と進むにつれ 穏やかになっていく彼が母親と相撲をとる回数は少しづつ減っていった。

私は決して大喝の効果があったと言いたい訳ではない。
鉾を納めるタイミングを無意識のうちに探していた彼には、いいきっかけにはなったのだろうが
やはり大きかったのは母の愛だ。 「母の愛は海よりも深し」なのだ。

そして中学部に進んだ彼は一切きれない好青年になった。
あの頃の彼とは見違えるように朗らかで前向きになった。
そんな穏やかな彼の周りには 学年の上下を問わず人が集まるようになり
ラグビーも真面目に取り組んだ結果 県の代表に選ばれるほどに成長した。


高校生になった今 彼は花園最有力校で毎日必死になって楕円球を追いかけている。
さあ つぼみの時期は終わった。
母親が文字通り体当たりで注いだ愛情は
彼にとって 水となり、土となり、栄養となって花を咲かそうとしている。

できるなら憧れの聖地で大輪の花を咲かせて欲しい。
きっとその日も 偉大な母はグランドの外で君を見守っているだろうから。

コーチラガーくすくす
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