8回
2023/11 訪問
笑顔以外になりようがない
久しぶりにこの店に帰ってきた。
ただいまと言って引き戸を開けたい気分だ。
料理会のお誘いを受け3年ぶりの訪問。
高知から単身、車を飛ばしてきた私を
800gの伊勢海老をふんだんに使った
海老味噌香る茶碗蒸しが優しく出迎えてくれた。
お椀はえがにのしんじょう。
関東ではどうまん蟹
徳島ではどてほりと言うらしい
その濃厚な味と香りの蟹がフワリとしんじょうに閉じ込められている。
10日寝かした220キロを超える大間の鮪。
色の変わった外側から大きく切り出すと芯は鮮やかな桜色。
驚いたのはそれを辛み大根と合わせて出されたこと。
意識は自然、辛み大根の中の鮪に向かい
舌先の宝探しを始める。
見つけた先の鮪は滑らかな絹の舌触り
この店で食べたやま幸鮪の中で過去一旨い鮪。
咀嚼と共に渾然一体辛み大根鮪
邪道と呼ばれるのを知りながら
あえてのチャレンジが功を奏す形だ。
徳島の肉厚しいたけ天恵菇(てんけいこ)は白甘鯛と合わせ
シャキリと歯応えを残した小松菜は絶品な白あえ餡を添えられ
そしてひとつ一つがキラリと光る漬物の野菜たち。
大将の野菜の味をそのままに愉しんで貰いたいとの
無言のメッセージがそれぞれの皿から伝わってくる。
合鴨農法で飼われた合鴨を
先ずは半田素麺の煮麺でいただき、
仕上げに炭火で焼かれた鴨をごはんに乗せていただく。
柔らかいだけの鴨じゃ味わえない野生味に近い風味。
それがタレを纏って出てきたら
もう悶絶。
これを食べた私は笑顔以外の表情になりようがない。
2023/11/21 更新
2020/11 訪問
揺るぎないほど ☆ かま田
『揺るぎないほど』
ラグビースクールのコーチ仲間達と
大会に合わせて徳島遠征。
香りのいいポン酢に浸る白子は
口に入ってもまだ健気にキリリと姿勢を保っているのに
歯が触ると途端に蕩けて極上の液体に変わる。
これは堪らないや。
呼応するように
ツレが我慢できずに日本酒を頼む。
分かる分かる。
その気持ちは痛いほど分かりますよと
お酒の種類毎に選べるお猪口を私もすかさず選ぶ。
やま幸から仕入れるマグロの今夜のラインナップは
1週間寝かせた竜飛と1日前の若い戸井の食べ比べ。
脇をかためる魚の質の良さが
鮪の引き立て役で終わらない旨さがある。
出色は鰆か。
キメの細かい脂が炙りの香りと相まって
主役の座を虎視眈々。
いやいや鯖も決して引けは取らない。
そんな事を言い出したら鮪には欠かせない山葵だって
負けていない。
爽やかな香りが鼻から抜けて
ホンモノの良さを存分に愉しませてくれる。
お楽しみのお椀はワタリガニ。
バランスのいい出汁に溶け
ひと箸毎にワタリガニの香りを残して
味を高めていく。
締めはリクエストのノドグロごはん。
今まで食べた炊き込みごはんで一番好きと
仲間内に告白しておいた代物だ。
2杯目は出汁茶漬けで。
久しぶりの訪問に大将との掛け合いと笑いが止まらない。
食は綺麗にお茶漬けで締まった筈なのに
その空気感から
昔を懐かしんで
カツサンド。
あの頃のまんまのタルタルと鰻のタレがかかかったカツサンドを頬張りながら
揺るぎないほど
何を食べても旨い今夜の料理を思い返すと
なんだか感慨深い。
2020/11/25 更新
2019/04 訪問
進化の確認作業 ☆ かま田
『進化の確認作業』
かま田さんが開く食事会。
東京、大阪、高知から
この店のファンは距離に糸目をつけない。
注目の中出てきたひと皿目
鯛の白子を炙り、その上に蒸し鮑を乗せ
そら豆の擦りおろしでまとめて穂紫蘇の香りを添えている。
息を飲むのではない安心する美味しさ。
わざわざ車を飛ばして来た私に
今夜の食事は外さないよと囁くような料理。
ひと口で安堵が私を包み込む。
車海老のしんじょう椀は
解ける柔さが椀の中で開き車海老が存在を示し
キャビアが弾ける。
甘鯛のお造りは松かさ揚げとお出汁のジュレを纏い一層華やかさを増す。
吉野川 一番取れのすじ青のりは太刀魚の龍眼巻きを絡めとりながら徳島の春の爽やかさを届けてくれる。
桜の葉に包まれるのは穴子とアオリイカのお寿司。
口溶けの良い阿波牛は木の芽しゃぶしゃぶされると
穏やかながら存在感のある和食になっていく。
鯛のレアカツは玉味噌のベシャメルで。
これは食べ慣れた鯛にはじめましてと挨拶したくなる面白さ。
蕨、山芋、うるいのお浸しが来たら
真打ちノドグロごはんの登場だ。
これは揺るぎない実力者。
穏やかな味付けのご飯にノドグロが圧倒的な旨味を添える。
最後はノドグロごはんのお茶漬けで締め。
甘味は目の前で包み込み
大福の温かさと苺の冷たさ
口の中で甘味と2つの温度がないまぜになるのが楽しいいちご大福。
タイヤメーカーの基準に照らしてみると
素材の質、技術、味付けの良さ、独創性を備えており
遠回りしてでも訪れる価値のある素晴らしい料理。
この店が出来て5年目。
確かな進化を遂げてまたひとつ高みに登った事を知った夜。
今夜のレギュラーではない食材と構成に心底感嘆し
次もこんなメニューで食べたいな。の呟きに
人数が集まって事前に仰って頂いてたら
やらせていただきます。と愛嬌のある笑顔で大将は微笑む。
受け入れる懐の深さもこの店の魅力のひとつだ。
2019/04/24 更新
2017/04 訪問
丸味の椀 ☆ かま田
『定点観測』
予約した夜に店主からのコールバック
「くすくすさん 今回は椀で勝負させて下さい」
オープンからたった2年で食べログ徳島県で2位に駆け上がったお店。
店主の意気込みと自信が伺えて俄然楽しみが増す。
オープンの頃の椀は直線的。
尖った旨さに偏りを感じる、これから高みを目指す椀だった。
1年経った頃 水を変え、鰹節の部位にこだわり
俄然お出汁のバランスが良くなった。
渾身の椀の完成形だ。
そして昨日。
謎かけで出された真丈は蛤。
蛤真丈のお吸い物。
口に入れるとフワリと溶けるそれは淡雪の食感。
口に含んでは溶けていくイヤミのない旨味と香り。
出汁は蛤の旨味に逃げずに一番出汁で勝負する骨太さもいい。
一箸ごとに蛤の滋味が溶け出して
おつゆに味を足していく。
椀の中で旨味の上昇曲線を描きながら
最後のひとくちをすする。
あぁ これは 丸味の椀だ。
尖らない気負わない
しみじみ旨い丸味の椀。
時々でいい
これからも
変化を見届けたくなる椀だ。
〜かま田〜
2017/04/08 更新
2016/08 訪問
渾身の椀 ☆ かま田
【2016.8.27】
『渾身の椀』
店主は自ら湧き水を汲みに行き
血あいを避けた鰹節を手掻きして出汁をひく
それはこの店の料理への情熱を代弁するような
渾身の椀だった。
繊細で綺麗な出汁。
8月の終わり
椀だねは秋刀魚の真丈
これがムースのように柔らかく
箸を入れる度に旨味がフワリと溶け出して一口ごとに出汁が旨さを増していく。
1年前に食べたときよりも確実に旨い椀に仕上がっていた。
秋刀魚の土鍋ご飯もほろ苦さと旨味がせめぎあう秀逸な1品。
毎朝市場に仕入れに通う
志の高い若い大将が日々研鑽しているお店。
ここは将来徳島を代表するお店になるだろう。
【2015.1】
『高みの椀』
昨年10月にオープンしたお店は連日盛況だ。
愛されている。
いや それだけでは言葉が足りないかもしれない。
この店の店主の料理に対する真摯な姿勢に
不乱に打ち込む清々しさに
気取らない人柄に
もてなしの心に
そして その結果たる料理に
一度来た客はつい惚れ
二度三度と重ねるうちに愛してしまうのだ。
かく言う私もそのくちだ。
コースの椀ものは秀逸。
目指す高みが出汁に出ている。
アラカルトは驚くほどリーズナブル。
この値段で大丈夫?と余計な心配をしてしまうほど。
儲けたいよりも食べてもらいたいが伝わってくる。
以下はこの日頂いたアラカルト。
長崎の生本鮪の中トロ。
今期一番の牡蛎フライ。
倒れそうなほど旨い鴨のほうば味噌。
宮城の日本酒 伯楽星も料理を邪魔しないスッキリさ。
味噌で誤魔化さないなめろう茶漬け。
鰻の蒲焼きのタレで仕上げるカツサンド。
これは客のリクエストで産まれた1品だ。
味見してくださいと出てきた
佐那河内のこいまろ豆腐の白和えは
驚くほどクリーミー。
かま田の大将の情熱と比例した料理は
最後の〆まで熱かった。
ごちそうさま。
2016/08/30 更新
オープンキッチンの向こうで大将が体重を乗せてぐいぐいと何かを潰している。
先ず出てきた一皿目
銀杏餅だ。
添えられているのは徳島の至宝
天恵菇(特大椎茸)のお浸しにイチジクの天ぷら。
そんな季節感のある料理から
2年ぶりに参加したかま田さんの食事会がスタートした。
続く一手はカウンターの客をあっと驚かす。
阿波牛を炭火で焼いていたのは
皆んながチラ見で知っていた
でもそれがお椀で出てくるなんて
誰ひとり想像していなかったよ
遊び心の牛炭火焼きの沢煮。
徳島県民達が口を揃えて感嘆の声を漏らしたのが
ぼうぜのバルサミコソース。
軽い酢締めにもバルサミコ酢を使っている。
地元でチンチンにキツく締められるのが常の親しみのある安価な魚は
この店の厨房で品のある上質な魚に生まれ変わっていた。
刮目の一品は秋刀魚だった。
焼き茄子と秋刀魚のワタを合わせてソースに敷き
炭火で焼いた秋刀魚を乗せる。
焼き茄子の香りとワタの苦味が渾然一体。
主役になり脇役になり
秋刀魚を引き立て盛り立てる
酒を引く逸品。
松茸は繊維の数だけ丁寧に割かれ
どうまん蟹は春巻きに巻かれ
本鮪は大根に包まれる。
さて今日の締めの一品は
チャーシューの代わりに甘鯛を干して炙った具材を乗せた香味油に一切頼らない和のラーメン。
そこら辺で流行っているなんちゃって鯛出汁ラーメンとはもちろん別物だ。
なんだろう。
大将の真摯な姿勢に
試行錯誤や苦悩が垣間見え
その工夫一つひとつが今後のこの店の元を作るんだろうなと想像するとどの料理も愛おしい。
振り返ると
最初から最後まで愉しむと言うよりは
応援者の目線で食べきってしまった自分がいる。
大将を見てると自然と応援したくなる。
この店はそんな店だ。
かま田さん
ごちそうさま。