自転車にのるクラリモンドよ
目をつぶれ
自転車にのるクラリモンドの
肩にのる白い記憶よ
目をつぶれ
クラリモンドの肩のうえの
記憶のなかのクラリモンドよ
目をつぶれ
目をつぶれ
シャワのような
記憶のなかの
赤とみどりの
とんぼがえり
顔には耳が
手には指が
町には記憶が
ママレードには愛が
そうして目をつぶった
ものがたりがはじまった
自転車にのるクラリモンドの
自転車のうえのクラリモンド
幸福なクラリモンドの
幸福のなかのクラリモンド
そうして目をつぶった
ものがたりがはじまった
町には空が
空にはリボンが
リボンの下には
クラリモンドが
~石原吉郎「自転車に乗ったクラリモンド」
石原吉郎の詩である。
暗喩に満ち、暗い示唆に富んだ詩である。
あるレビュアー様の日記を読みながら、
ふと、言葉として口をついてでたのはこの詩編であった。
クラリモンドは・・・この世のものであってこの世のものではない、
作者の石原吉郎のなかで生き続ける分身のようなもの。
隠そうとする過去とにじみ出てくる真実の相克から変形し、
もはや人の形さえしていない。
もう、笑うことのできないほど醜く閉じられた目と口は、
開けば、ぽっかりと空いた空洞でしかない。
手から目が、顔から腕が突き出している。
彼女が、彼が、自転車に乗って滑稽な道化師のように背後からやってくる。
ふとした辻の曲がり角や物陰に潜んでいる。明確な目的をもって。
20代に読んでいた詩の一遍である。。
僕はひり付くようなざらざらとした世界で
追憶のような日暮れを待っていた。
日暮れを待ちながら、僕は雑踏にまぎれてクラリモンドの追跡をかわそうと
一人ざらざらと靴底にまとわりつくような砂利を蹴り上げて歩く。
虹の橋、涙の川、手ぐすねをひいて僕を待つ言葉に旋律を奏でるクラリモンド
さらに忘却の泥沼に血のような華を咲かせるクラリモンド
雨上がりの空の下を駆け抜けていく美しいクラリモンド、ド、
今、でこ、そ、怖、くはな、いぞ、とク、ク、ラリ、モンド
い、いつか、バッ、ティ、ングセンターで出会いが、しらに、
コイ、ンをい、れてバッ、ターボックスに立つクラリモンド、
オ、マエ、を愛、し、ながら、憎、んでしま、うオレゆるせ、
クラリモンドよ。