3回
2018/02 訪問
もう、満点でいいです!
再訪である。
仙川のライオンキングことまめぞう先生の大絶賛のお店。
先生も近々にまた予約されたとのことなのでもしかすると
今日は近い席にいらっしゃるかも、とドキドキしていた。
虎刈りのパンチパーマがまめぞう先生のトレードマークと伺っていたのだが、
たしかにソフトパンチの方が美女とワインを楽しんでいらっしゃったので
もしかしたらその方だったかもしれない。
あまりの恐ろしさにワインを持つ手がガタガタ震えていたのである。
「ポンコさん、手が震えているよ、どうしたの?」
「う、うーん…」
「まあ、食べようよ」
僕たちは生ビールで乾杯するとポテトオムレツから食べ始める。
ポテトオムレツは適度な塩加減と
アリオリソースの酸味を帯びたニンニクの薫りがちょうど良いのである。
わざと余らせてアリオリソースにバゲットをつけてしまう。これが最高に美味い!
生ハムのコロッケも具にチーズが塗(まぶ)してあって、
生ハムからの塩気と溶け出した脂といい感じ。
「おっとこのお店のスペシャリテを忘れていた! あのぅ、すいません!」
「はい」と美人な女性スタッフさん。
「マ○ックマッシュルームの鉄板焼きをください」
「…(無視)…」
さすがである。
敢えて他人の話は凡打や超弩級のファウルボウルであれば、わざわざ拾う必要はない。
これはその好例である(笑)しかも現在非合法案件だし(爆)
僕は営業なのでむしろヘボ打球のほうをキャッチャーミットで拾うけどね。
まあこのお店はそんなお店ではなく檀上さんの小気味いい料理を味わうための
タパス屋さんなのである。
ワインはボルサオにする。味はまあ、いいか(笑)
相棒も白ワイン派ということでそっちにするようだ。
「このマヨがいいな」と相棒。
「ニンニクの薫りがほのかに薫るでしょ?」
「ホントだ!」
「アリオリソースっていうみたいよ、スペインの家庭ではね」
相棒はバゲットにアリオリソースを付けて食べるのがいいみたい。
今回の相棒はお客なのである。この近辺が職場で僕もそのほうが直帰しやすいということで
ここに連れてきたのである。このお店は気に入った模様。
実は4月でこのお客の担当が
僕から替わってしまうのでそれも告げていたのである。
「残念だね、せっかくあれこれ話すようになったのにね」
「ありがとうございます、新担当が盛り上げてくれますよ(笑)」
「ポンコさんみたいにざっくばらんに話せるひとがいいね、懐事情とかね(笑)」
「ある程度、新担当もそういうの訊くと思いますよ」
「そうだといいね~、そういう営業、わかる?」
「超弩級の凡打を打たない営業ってこと?」
「ノーコメント(笑)」
たしかに分かる(笑)
そんな今日、僕の心を虜にしたのはポテトサラダ アンチョビ風味。
個人的にはど真ん中に突き刺さるものだった。
この料理に使っているのはアリオリソースかな。
アンチョビも風味付けだけで、アンチョビが入っている訳でもない。
どっしりとオイリーな感じのポテトサラダ。
飲ませるための、パンを食べさせるための適度な塩気と
オイリーな感じなのに重くないのが秀逸。
豚耳の鉄板焼きも美味しかったけど、今日はポテトサラダに軍配が上がる。
塩加減がいい。過ぎる感じがないけど、ある程度は入っているんだよね。
イカのフリットもたまんない(笑)
そこに添えられたアリオリソース。衣がふんわりしている。
このお店は、ホント一品一品がすごい。
個性を持ちながらそのお店を形づくる檀上イズムのようなものを持っている。
なんであれ、一品食べるとティオ・ダンジョウだなと思う。
そんなチームっていいなと思う。
僕にはそんなチームを作るのはムリだと思うし、
チーム作りよりも売り上げを作る方が先だと思う。
チームって上がどうのこうのもあるけど、
それ以前に仕事にモチベーション(=愛)を持っていないと無理だ。
自分が扱っているモノへの愛着や執念。
注文獲って来いという上司の言葉をパワハラと思うようじゃ、そもそも論として無理だ。
そして、そのチームに僕は4月から行くことになった。
もう戦慄しかないのである。。
ポンコ。
2018/03/22 更新
2017/12 訪問
抜群のコスパと味の変化球が小気味いい!!
個人的に崇拝している仙川のライオンキングこと、
まめぞう先生が絶賛のお店。
ちなみに駅が地下に潜ってからは初めて調布に降り立つので
出た途端に方向感覚を失ってしまう(笑)
先に入った二人のおじさんたちはもうビールを片手に
店の料理に舌鼓を打っているというLINEが来ている。
私はこのお店の店主とも知り合いでもなく、
こちらの経緯も知らないので
まめぞう先生のレビューをご参考にしていただきたいが、
元は恵比寿にお店を出されていたそうだ。
何というか調布という町の立地としては知る人ぞ知る感じでいいけどな。
でも、これからは何艘もの船を漕いで遠くからくるベロガーたちもいるんだろうな。
そうなったら山奥で出店してほしいなと思う(笑)
バスや電車で30分程度で行ける(帰れる)というくらいが
僕にとっては良い条件の一つだ。仙川や調布あたりには良いお店も数多くあるし。
店の前ではカリグラフィーのような文字で
「メゾン◆ティオダンジョウ◆バー」と描いてある。割に気圧される(笑)
それに分厚い扉。ジェームスボンドでもぶち破れまい(笑)
扉は重厚だが、中に入るとアットホームな感じ。入った途端、いいお店だと思う。
第一印象、それは重要だと思う。人の話も八十八夜、百聞は一見にしかず。
もうビールを飲んで、2品ほど頼んでいやがるオジサン二人(笑)
さて僕も始めるとしよう。
ビールを頼んで乾杯して、
「ポテトオムレツ」
「生ハムコロッケ」
「マッシュルームの鉄板焼き」
「小エビのガーリックソテー(アヒージョ)」
を一気に頼む。
「ポテトオムレツ」にはアリオリソース(カタルーニャのマヨネーズ)が沿えてあって
これが美味しい! 優しい角のない味! バゲットにものせてつけてムシャムシャ。
「生ハムコロッケ」もなかの生地にチーズが練り込んであってワインが進む逸品!
生ハムからの脂も溶けて沁み込んでいるんでしょうね。薫り、半端ないです!
「マッシュルームの鉄板焼き」はマストアイテム! このお店のスペシャリテ。
こぼさずお皿に持っていくことが先決です。でも、おっさん二人こぼしてたね(笑)
一生うまい汁を吸えない連中なんだろうな(笑)一応、説教しました。
「小エビのガーリックソテー(アヒージョ)」もいいですね。
変に手長海老とか入れて味噌の風味を、なんてものよりもいいですね。
海老もそうだけど、この時期きのこのアヒージョもあったらいいなぁなんて思ったりも。
女性の店員さんお綺麗な方です。
オジサンの片割れがちょいちょい会話をぶっこんできますが、その度に無視されます(笑)
そのきれいな店員さんに白ワインを頼みます。
「どういったものがお好みですか?」と訊かれるけど、そのときの僕には
冷えた美味しい白ワインが飲みたいという希望しかなかったので、
ここは4800円のボトルを入れることに。
おっさんはこういうときに金にものを言わせます(笑)
一口飲んで美味しい!と思って女性の店員さんに色々訊いてみる。
普通には手に入らないこと、どうしても飲みたければお店に来てくださいと言われる。
銘柄をやっぱり失念。どうもダメだな(笑)
お店でしか手に入らないワインって結構あるんだよな。
そういや甲州ワインですごいのがあったな。あれ何だったっけ?
ワインもバカスカ飲みながら
「生ハム盛り合わせ」
「ナツメグのベーコン巻焼き」
「豚耳の鉄板焼き」
と3品同時に頼みます。
「生ハム盛り」は熟成がどれくらいかわからないけど、脂の美味しさがいい。
「ナツメグのベーコン巻焼き」もワインに合う感じで、アクセントのナツメグがいい。
「豚耳の鉄板焼き」はすごく良かったな。
豚耳の軟骨の部分をニンニクとオリーブオイルで炒めたものだけど耳の部分に残る脂が美味しい!
豚の塩漬け肉をカリッカリに炒めたような何とも言えない味わい。
バゲットは何個食べただろう?
とにかくオイルの美味しさが際立っていて、料理ごとに違ったオイルに変身する。
毎回驚かされる。まるでナックルボールをそのまま顔面にぶつけられる感じ?
やはり〆はまめぞう先生も絶賛の「パエリア」を頼みましょう。
「パエリア」初心者の僕たちには「ミックスパエリア」がいいでしょうと言うことで。
30分くらいかかると訊いてはいたけれどオジサンたちの会話は留まることを知らず。
あっという間に来てしまいました(笑)
「ミックスパエリア」はお米の芯が少し残るくらいに炊き上げて
エビやアサリなどの魚介が入ってダシの気配を凄く感じる料理だ。
こんなに美味しいパエリアは食べたことがない。
仕上げのしぼったレモンの薫りも相まって
まだ生涯行ったこともない地中海の風さえ感じてしまう体たらく(笑)
ナポリを見て死ねというが、いわば、
ダンジョウを食べて死ねというセリフもあってもいい。
それに一皿600円からという値段設定はお店の意気込みさえも感じてしまう。
恵比寿ならこうはいかなかったであろう。
しばらくは隠れ家的なお店であってほしいと思うが、
予約の電話が鳴り続くダンジョウなのであった。
ポンコ。
最初は門構えにビビる(笑)
ポテトオムレツ
生ハムのコロッケ
4800円のボトルのワイン
マッシュルームの鉄板焼き! マストだ!
小エビのアヒージョ
4800円のボトル 名前を訊いたのだけど忘れてしまった。普通のお店じゃ買えないとのことだった。。
イベリコ豚の生ハム
生ハムを巻いたナツメグの実 なかなか美味しい
豚耳の鉄板焼き これが個人的には驚愕の美味しさだった!
ミックスパエリア 3人前
取り分けられたパエリア
最後に赤を。。
2017/12/04 更新
やはり料理の安定感は群を抜いている。
本当に素晴らしいティオ・ダンジョウ。
この日は会社の同僚アリシアと食事。
アリシアは50代の女性で旦那は僕のマブダチだ。
このあと狂女フアナもびっくりな黒い服を着てアリシアはやってくる。
別にこの日は不倫関係を清算するとかそういうことではなく、
会社内の愚痴とこれからの展望を相談するために場を設けたのである。
僕は若い奴らの情報や企画部署の人間関係などを仕入れ、
彼女は営業部の体制や人事的な地雷の有無などを仕入れる予定。
たまに社内で話が通じる人間を社内に作っておいて、いろいろと情報交換はやっておくべきだ。
うちの場合はオーナー家があって、その筋が経営陣に入っているので僕らにこれ以上の出世はない。
であれば猶更今後のあらゆる人間の情報を得ておいて間違いはない。
このあと長い老後をどうやって切り抜けていくのか、それは大事である。
「お店がどこにあるのかわからない」というLINEがアリシアからくる。
何を言っているのだ?存在しない場所などあるわけがないだろう?
ティオ・ダンジョウが存在しないパラレルワールドがあるというのか?
そんなことがあってたまるかっての。
アリシアとは19時に店で待ち合わせていたが調布駅を降りてから迷っているらしい。
恐らく駅からちょっと離れた住宅街にこんなお店があるわけがないと思い込んでいる。
彼女の限界はそういうところだ。勝機はそういうところに転がっているのに。
僕だって数年前に初めて来たときに、
彼女と同じようにこんな住宅地に「ティオ・ダンジョウ」があるなんて思えなかった。
だが、僕はルビコン川のような車道を渡り、この店にたどり着いたのだ。
その川を越えていけ、アリシア。
今はまだ人生を語る時機ではない。だから、超えてゆけそこを。
僕はアリシアからのLINEを無視して飲み物と食べ物を頼んだ。
たしかボルサオではないハウスワインの白とオリーブの盛り合わせ。
店は火曜日ながら盛況でカウンターもテーブルも満席。
これも食べログのレビューのせいなのか、僕にとっては迷惑な話だ(笑)
さきにワインが来る。なんか思ったものと違ったけど、これはこれで美味しい。
アリシアが来るまでに酔っぱらてしまわないようにチビリチビリと嗜む。
しばらくすると「オリーブの盛り合わせ」がやってくる。
黒オリーブやいろいろ種類の違ったオリーブが盛り合わせてある。
酢漬けの玉ねぎと刻んだイタリアンパセリがいい仕事をする。
ひとつつまんで食べてみるけど次の料理が楽しみになる前菜。
僕は前のレビューで書いたことだけれど、
このお店「ティオ・ダンジョウ」は檀上さんが作っている料理で成り立っている。
なあに当たり前か(笑)
言うなれば、
チーム「ティオ・ダンジョウ」はどの料理が抜けても「ティオ・ダンジョウ」ではなくなる。
そのひとつひとつの料理の重要性、それがワン・フォー・オール、オール・フォー・ワンだ。
これはまるで武田二十四将のように組み合わせることでひとつのチームが出来上がる。
そういう料理の在り方を感じさせる。
それは「オリーブの盛り合わせ」「生ハムの盛り合わせ」などから始まって、
あらゆるタパスは「チーム・ダンジョウ」に収れんされるのである。
そこにはもちろん「パエリア」も含まれる。
ほんとに「宇宙」とか「世界観」とかそういう言葉が出てきそうな佇まいというか、
本当に「ある種の世界を創る」男なんだな、と思う、檀上さんは!
たかが、酒を飲ませるための料理ではない。
それは「ポテトサラダ アンチョビ風味」を食べてもわかる。
ちょっとぉ、なんでLINEにでないのよー!
ふと見るとアリシアが黒い服を着て、汗ばんで仁王立ちしている。
ワインを嗜んでいた僕をにらみつけている。
まるで喪服を纏った狂女フアナのようだ。はあはあと肩で息をしている。〇い。。
いや、あくまで女性なのでそれ以上は言えない(笑)
「待ってたよ、アリシア。そこに座ったらどうだい?」
僕は上座を示して、彼女を促した。彼女は周囲の目を気にしてか促されるままに座った。
一応、女性に対しては紳士的でなければならない。メニューを彼女に向けて開いて見せた。
「まずはビールかな。オリーブは美味しいよ。今日は暑かったよね?」
「暑いなんてもんじゃないわよ、ビールに氷を入れてほしいくらい」
「ここのビールはキンキンに冷えているからさ」
「じゃあ、ビールにするわー、それとトマトの冷製スープ、生ハムコロッケ、かな」
「んじゃ、僕もポテサラかな」
アリシアはまだ肩で息をしている。
再三のLINEを無視した僕への怒りと5月の気温の高さと
年齢に逆行するように走ってきたことへの高揚感とがない交ぜになっている。
なんだかゴリラの親分みたいに思えてくるけれど、ビールをごきゅごきゅと飲み干すと
「アンタと一緒のやつ」と白ワインを注文した。
すぐやってくる「ポテトサラダ アンチョビ風味」。
これを一口つまんだアリシアは「うんまいっ!」と目をむいた。
「でしょ? これは前菜としても最高なのよ! バゲットに付けてもいいし」
「これは酒飲みのためのポテトサラダよね?」
確かにその通りだ。
アンチョビーの塩気と和えているポテトには自家製のアリオリソースなのか、予定調和のなかにいない逸品。
オイリーな感じなのだが重くない。これは持って帰りたい!
それと写真にはないけれど「小エビのアヒージョ」も頼んだ。
これもオイルを食べるコンセプトでオリーブオイルのエグ味もブロッコリーや玉ねぎがまろやかにしてくれる。
そう、それと「生ハムのコロッケ」も頼んだ。
生ハムの切り落としが入って一個300円なのだが、
揚げた熱でハムの脂が溶けてジャガイモの種にじんわり染み込んでいる。
それに下味にパルメザンチーズが入っているのか、牛の脂のハーモニーを感じる。
これはたまらない。2個ずつでもよかったかな。
アリシアはチコリを注文する。
「もう、このお店は罪よねぇ、全部料理を頼みたいくらいだわ!」
「僕だって、まだ全部は食べていないんだ、今日それを実行してもいいくらい」
「ん-、おなかペコペコだけど、全部は無理かなー、ハーフサイズにしてくれるならいいかも?」
ああ、忘れていたが「トマトの冷製プースー」は前菜としてはとっても良かった。
僕では頼まない料理だっただろう。メニューを見ても目には入っていなかった。
生のトマトをミキサーにかけて生クリームと合わせたのだろう。トマトは湯むきしたのだろう。
とても手が込んでいる。バル料理なのだが、この手の加え方がダンジョウのやり方。
丁寧でいて、手を抜かない、決してその手を離さない。
「ねえ、アタシがこの会社に入った時のこと覚えてる?」
「ああ、企画部のなかで妬みで昼食に誘ってもらえなかったりしたよね」
「そうそう、そんなこともあったっけ。女性のなかだとそういうことあるのよね」
「ヘッドハンティングだったからね。訊いてたよ、俺さ、おたくの旦那と仲良かったから、よく声かけたよね」
「そうだったね、あーあ」
深くため息をつく。最近、話の中で昔のことが増えたな。バカやってた、粋がっていた時代の。
そう、昔のことが懐かしいんだよな。そして楽しい。人は年齢によって変わる。年齢には年齢相応の話がある。
若いころはそんなことがこっぱずかしいものだと思い込んでいた。
今、その年齢になってみると良くわかる。未来よりも過去の栄光にすがりたいのだ。
30代初めに評価されたことでは、50に手が届こうとする今の僕たちでは評価されない。
マネジメントだとか、社内政治とか、売り上げの管理だとかそういうものが窮屈で重荷に思える。
「部長職らしく」などと上役から抽象的なことを言われると「じゃあ、どうすればいいんだよ」と言いたくなる。
責任の取り方ということか。責任ならとうに取っているじゃないか、すでに減給という形式で。
美しいことは美しい人に任せておけばいい。
猛きことは猛き人々にまかせておけばいい。
それは一番の贅沢というものだ。
「ボトル入れようよ」とアリシア。
「なんにする?」
「アンタが飲んでいるやつでいいよ」
「そうだ、この間旦那と話をしてたらさ、昔話に花が咲いちゃってさ、情けないよね、ホント」
「そうなんだ、うちの奴話せるのがアンタしかいないって言ってた」
「年齢つながりで?」
「それだけでもないみたい、昔助けられたって言ってた」
「そんなことあったけ? 覚えがないんだけど」
アリシアの旦那とももう20年来の付き合いになってしまった。
僕は旦那のすぐ下の部下とも話をすることがある。
そいつは「社内にいたくない」と言っていた。だから直行直帰を繰り返しているとも。
アリシアの旦那は社内で上役につかまってあれやこれやと毎晩遅くまで社にいるのだとか。
アラフィフの中間管理職は楽しくはない。それは酒で憂さ晴らしをするというもの。
「料理のほう、ラストオーダーになります」とキュートな女性給仕が声を掛けに来てくれる。
「そろそろ〆を考えたいわね、どれどれ」
「それじゃ、豚耳の鉄板焼きをもらえます」
「パエリアってどんだけ時間かかるの?」
「30分ほどでしょうか」
「ねえ、アンタどっちがいい? ミックスとイカ墨と」
「初心者ならミックスじゃない、でもなんだっていいんだよ、アリが食べたいものを食べようよ」
「じゃあ、イカ墨のパエリアで行くわ」
「お時間30分ほどいただきます」
店内は段々と客が少なくなってくる。だけどニンニクとオリーブオイルの薫りは店内を駆け巡っている。
今日も最高のタパスだった。これから2品やってくるんだけど。
しばらくしてやってきたのは「豚耳の鉄板焼き」。
豚の耳は軟骨にコラーゲンがたっぷりで豚足に近いものかもしれない。
沖縄のミミガーみたいなものを想像するかもしれないが、軽く期待を裏切ってくるのがダンジョウ流。
茹で上げた豚耳を鷹の爪とニンニクとオリーブで炒める。
塩味は茹でたときに付けるのかわからないがきゅんと塩が利いていて
コラーゲンたっぷりの豚耳をニンニクと鷹の爪を纏ったオリーブオイルがコーティングしている。
この塩がきゅんと利いているというのがポイントで、ただ塩辛いのとは違うのだ。
隠し味はなんだろう? 酢? レモン汁? 塩味を際立たせるのは酸味だと思うのでそうかなと思うけど。
食感はなかなかない感じで軟骨を噛むと「ゴリュン!」という音がする。
アリシアが恐る恐る豚耳を食べ進む。
「なんかすごいわよ、これ」
「僕は大好きだけどね」
こんなことをしていると30分なんてすぐで、「イカ墨のパエリア」がやってくる。
パエリアの鍋にこんがりと広がる漆黒の海。ダイオウイカが我が物顔で泳ぎ、鯨と格闘する。
大航海時代の猛者たちがパエリアの黒い海を疾走(はし)りゆく。
貝がまるで海峡を渡る蝶のように飛び交い、まだ見えぬ新大陸に思いを馳せる。
力強い航跡。香辛料。貿易風。希望の光。
すばらしい! なんという物語性なのだ! このパエリアの海の豊穣に酔いそうだ。
僕は写真を何枚も撮った。この暴れだしそうな鼓動は何だ!?
何をそれほどに待ち望んでいたのだろう?
「それでは取り分けてまいります」
取り分けた皿には黒光りするイカ墨のパエリア。
そこにアリオリソースをつけてもよい。
一口食べれば、これはつまみとして相当なクオリティをもった、
ワインへのポテンシャルをもったタパスであることがわかる。
美味い。
ただそれだけ。
アリシアよ、眼前に大陸が見えるか。
それでは道を外れて海賊にでもなるか。
僕たちの戦い方をこのイカ墨のパエリアに見るような気がする。
すっかり僕は船にのった気分になる。
僕たちの、僕たちによる、僕たちのための、僕たち世代の戦い方。
唐突だけれど、感得したことをここに記しておきたくなった。
コッキンポンコ。