コッキンポンコさんが投稿した山の茶屋(東京/国会議事堂前)の口コミ詳細

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コッキンポンコ (50代前半・男性・東京都) 認証済

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山の茶屋溜池山王、赤坂見附、永田町/うなぎ

1

  • 夜の点数:4.6

      • 料理・味 4.6
      • |サービス 3.8
      • |雰囲気 5.0
      • |CP -
      • |酒・ドリンク -
1回目

2019/09 訪問

  • 夜の点数:4.6

    • [ 料理・味4.6
    • | サービス3.8
    • | 雰囲気5.0
    • | CP-
    • | 酒・ドリンク-

自分を生きていく。

「ポンちゃん、2人で話せない?」

そう、お客に言われた僕は9月のとある木曜日に約束を入れた。
するとここを予約したんだと言われる。
そのお客は僕の友達でもあるし、僕が見込んだ芸術家でもあるし、
僕は関係ないけどバイでもある(笑)
彼は陶芸をしながらインスタレーションを作っているのだが、
仕方なく家業を継いでいるのである。

僕たちはほぼ15年くらい前に営業先で出会った。
いつしか一緒にご飯を食べるようになり、色んなことを話すようになった。
テレビのあらゆるニュース情報からガセネタ系まで話し、
頭の中にある小さな辺境地について話したり、
夢に見たX(エックス)型のアーチについて話したりした。

彼の創る作品を見ていると作品自体が彼の肉体の一部分のような気がして、
彼の放たれた魂が宿るような、情念を感じさせた。
しかし、そのあり方というのか立ち位置というのか
とても危ういところに立っているような気がしていた。そして、
その彼が一年ほど前に「死にたい」と口走るようになった。

久しぶりに会う彼は目が落ちくぼみ頬がかさかさで
顔色が土のような色をしていたのだ。

「どうしたのさ?」

だが僕には答えが分かっていた。
彼にとって合わない家業が容赦なく彼の精神を蝕んでいたのだった。
それほどまでに自由に生きていくことがかなわない家なのだ。
とにかく僕にできることは彼の話を聞くことしかない。
洗いざらいこの場でぶちまけてもらうことにした。
晩秋の午後、間延びした夕陽が差し込む喫茶店で。

彼はさめざめと泣いていた。
手を震わせ、何かに逃れるように周りをみた。

「もうどうしようもないんだ。幸福感もない空間で生きていくのが辛いんだよ」

家業を継いだ彼の心には複雑に絡み合った感情が渦巻いていて
その鎖を解かない限り、前に進めそうになかった。
そう、父親との相克が今も彼を苦しめているのだ。

彼の父はまだ存命で僕もよく知っているその筋では知らない人がいないくらいの有名人。
人情に厚く僕も何度も彼の父の厚情に泣かされたものだった。僕にとっては恩人だ。
だが、彼にとってはその父は子供のころから抑圧の象徴でしかなかったようだ。
彼が小学校の頃に作った粘土細工を「変だ!」と庭に放り捨てられたり、
詩のような作文を破り捨てられて、何度も書き直させられたりしたのだそうだ。

「僕には初めてだよね、そういう話をしてくれたのは」
「うん、そうだね」
「なんで今そのことが出てくるんだろう?」
「やっぱりやりたくない家業のことがあるからかな」

だからこそ、この話は真正面から受け止めようと思った。
いまようやく父親の呪縛から解き放たれようとしているのかもしれない。
弱々しく立ちながら彼は懸命に愛すべき父を受け入れようとしているのではないかと思った。
矛盾した話だが、彼はこういう父を愛している、だからこそ呪縛を受容しないといけないのだ。
息子に掛けられたその期待とその愛情を。

家や人によってその愛情の注ぎ方は千差万別だろう。
彼の場合は父とのパーソナリティの相違もあって、それは重圧になってしまったのである。
うさぎの子供を谷底に突き落として、「上がってこーい!」と怒鳴っても
複雑骨折している身にしてみれば「こっちはライオンじゃねえっつーの!」と言える、ものでもない。

それから本当にいろんな話をした。

眠れない日があったらその翌日に行って話を訊いた。
よく眠れるマッサージがあると訊いて、そこに一緒に行った。
その次の日に「全然眠れないじゃないか!」と癇癪も起こされた。
男によくある更年期の話もした。
鼻で笑いながら、やっぱりそういうことがあるのか、とまじめに訊いていた。
カウンセリングを勧めたり、家業の人間関係を洗って信用できそうな人を呼んで
彼を助けてあげてほしいと話した。「暖簾を畳むより、そのほうがいいだろう」と。

そんなことを繰り返していくうちに年が明け、春が来た。
全快じゃないけど、少しは眠れるようになったし、顔色も良くなった。
前ほど袋小路に入っている感覚はなくなっていったようだ。
こちらもなんだそんなものかと思ったが彼が良くなっているのなら
それ以上に嬉しいことはなかった。

「あれから少しは父の話をまともに訊けるようになったと思う」
「そうなんだ?」
「訳のわからない憎しみのような気持ちが解れたんですよ、」
「どうして?」
「もう年も取っている父に抵抗しても仕方がないし家業を畳んでも仕方がないって、それに」
「それに?」
「多少の味方もいることがわかったしね」
「とりあえず細々とやっていくつもりなんだね?」
「うん、そうしながら好きなことに向き合っていくようにする」
「遠回りしたね」
「ホントに遠回りしたよ(笑)」


そういう経緯があって、この「山の茶屋」に二人で来ている。
赤坂日枝神社の森に雨を含んだ湿った風が通り抜ける。
敷石を踏みながら玉砂利のこすれる音を聞く。
忘れたころに鳴り響く、鹿威し(ししおどし)。

玄関先に女将さんが出迎えてくれる。
二階に昇って、襖を開けて和室に案内される。
静かな空間。六畳一間のようでもある。
大きなテーブルが部屋の真ん中に鎮座していてテーブル越しに相対する。

薄い硝子の窓を開けようとするとカラカラという開閉音とともに硝子が震える。
窓の外には喧騒のない日枝の森が拡がり、足元を照らす明かりが闇を浮き上がらせる。

「いらっしゃいませ」

女将さんが挨拶と先付を置きにやってくる。

骨せんべい胡麻豆腐
楽しみな夕餉。骨せんべいが食欲をそそる。カリカリと頭蓋に響く音の軽やかさ。
まるでウナギの骨だ(笑) カリカリコリコリと香ばしさに泣けてくる。

次に肝焼き三本
苦さを想定しながらタレの香ばしくもかぐわしい薫りが鼻腔を席巻。
だれない旨さ。内臓なのに脂肪をたっぷりと纏った、野性味あふれる一皿。
これは文句なしに旨い。こんなに肝が獲れるのだろうか?

さらにくりからの白焼き
鰻の野性というか獣性というか、生きものを食べているという感じを受ける。
塩でふっくらと焼き上げた白焼き。こんなにも生きものの匂いがしているのに
前歯が触れたか触れないかで崩れ落ちる、柔らかさ。
これほどに柔和なのに匂いたつ剛性がある。舌でからめとる脂。
鼻について離れない鰻の焼けた匂い。

うざくもやってきた。
獣の匂いがする酢の物。酢に負けない味の弾力。存在感。

揚げ進上
これは海老のすり身を揚げた揚げ進上。
噛みしめるごとに海老の香ばしさが鼻腔を駆け抜ける。

そして、赤だし、お新香、ご飯、鰻の蒲焼

これが主役。御櫃をあけるとご飯があって各自で盛りつける。僕は大盛り。
そして鰻の蒲焼。たれのいい匂い。蒸して焼かれた鰻の妙味。
大きい蒲焼が二枚。僕は日本酒でも飲みながら一枚を食べたいが、それは今回はやめておこう(笑)

食べ終わるか終わらないうちに彼が黙るから「どうしたの?」と訊く。

「あのね、こんなつまらない家業なんだけどひとつだけよかったと思うことがあるんだ」
「なにさね」
「あのね…」と涙ぐんでしまう。
「どうしたんだい?」
「ポンコさんに会えたこと…それに尽きる…それが何よりも財産」
彼はそういうと泣き崩れてしまった。僕も「やめてよ」と言いながらもらい泣き。

静かな山の茶屋で大の男が泣いているなんて。

ポンコ。


2019/10/09 更新

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