ここしばらく能登への訪問で色々な海藻類を買ったり食したりする事が多い。
そこでしか買えない物があるから。
海に囲まれたこの国では、各地で様々な種類の海藻が口にされてきた。
或る時は生で、ある時は干し、またある時は手間をかけ処理をし、乾かし、
極上の出汁を取る為に。
日本人にとっては遺伝子レベルで根付いているこの食材、ただ余りにも日常的
であるが故、普段はあまり注意を払われない傾向にあるが、決してあだや
おろそかにしてはならぬ物であると思う。
良い物を口にすればはっきりとその違いが判るし、出汁を取った時の旨味も
明らかに変わる。
ワカメの味噌汁でも、中々気に入るレベルのワカメが見つからないので、
最近は東北のある海藻店の物を、近くで物産展がある度に購入している。
生わかめ、めかぶ、茎わかめなどを購入しているが、その清冽な磯の香り、
歯応え、上品な旨味、やはり良い物は違うのである。
前回購入の折、生の昆布、所謂出汁昆布ではなく塩気の付いた生の昆布が
あったので、珍しさもあり購入してみた。見ただけでは昆布と認識さえ
出来ない位澄んだ緑色である。
塩抜きをして、結んでおでんの具にしてみた。あまり煮込んではいけないとの
事だった。
元々各種昆布巻きやおでんの具である昆布巻きなどは苦手な範疇の食材で
あり、又本当に美味いと感じたものも殆どなかった(唯一祇園らく山さんの
”穴子の昆布巻き”は美味いと思ったが)のだが、口にしてみてその質の高さに
驚いた。
何とまあ上品な磯の香り、澄んだ旨味、そして口当たり。
今まで口にしてきた具材の昆布とは明らかに一線を画す。おでんの出汁に
うっすらその香りが移るので、つゆ自体が一段も二段も調子の高い物になる。
家でこんなに美味いおでんが喰えるとは。東北の海藻も恐るべし、である。
このように、一口に海藻とは言っても地方によって傾向も味わいも異なり
面白い。
ニューいらごさんの利業が再開されず最近訪れていない渥美半島だが、こちら
で入手出来る地物のワカメは綺麗な緑色の薄いタイプではなく、もっと
ゴツゴツとして歯応えの強い野趣あふれる物である。が、味わいに独特の
濃さがありこれも又美味いものだ。
山口の方からたまに入手していた乾燥わかめは、より柔らかくでツルンとした
歯応えの緑映える物だったが、爽やかな磯の香りが素晴らしかった。
ワカメ一つ取っても、この小さな国でこれだけの違いがあるのだ。
いわんや魚、野菜においておや、である。
自分が知らないだけで、こうした各地の優れた食材というのはまだまだある
のだろう。海外に行かなくなって久しいが、まだまだ掘り起こさなくては
いけない食材がこの国にはある。
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